すべてのはじまり(4)



アズウェルの書と書かれたその本を、読み上げていくかすみ。
歌うように奏でられる詠唱は、聞きほれてしまうほど美しかった。
かすみを中心にマナが集まり膨れ上がっていく。
マナに触れた低級霊は次々に吹き飛ばされ、消し飛んでいく。
部屋全体にマナが満ち溢れると、先ほどまでの禍々しい気配が消えてなくなった。
「もって10分です。急いでこの部屋から出て、対策を練り直してから戻ってきましょう」
かすみはそう言って、ドアを目指して歩き出す。
巫子は零に肩を貸して後を追いかける。
ドアを開け外に出ると、空気が軽くなる。
巫子と零が外に出ると、かすみはドアを閉め再び本を開いた。
先ほどのように歌うように詠唱を始める。
「閉錠」
呪文の詠唱が終わり、ドアに魔力が付与される。
「これで、しばらくは大丈夫です。霊が外に出ることはないでしょう」
かすみはそう言って、ニッコリと微笑む。
「じゃ、ここから離れるわよ」
巫子はそう言って、零を連れてその場を離れる。かすみもその後を追いかけていった。
階段を降り、空き教室に入り込む。そこで息を整える三人。
「あれはなんだったんですか?」
最初に口を開いたのは零だった。
「わかりません。あのようなものがこの学園にいるなんて……」
「たぶんあれは、昔この校舎が火事にあったときに焼け死んだ生徒だと思うわ。
 ただ、怨念が相当なものだから、1体や2体といった生易しい数ではないわね。
 まさに、怨念の集合体」
零の疑問に答えたのは、巫子だった。さすがにオカルト部長だけあって、そういうことには詳しいようだ。
「でも、いままでおもてに出てこなかったのに、急に出てきたのはなぜでしょう?」
「詳しい理由はわからないけど、零がいることも原因の一つね」
「僕ですか?」
急に名前を言われて驚く零。僕に何の関係がという顔をしている。
「零は私の見る限り、霊媒体質ね。過去に幽霊に取り付かれたりしたことはなかった?」
巫子に言われて思い出そうと、首をかしげる零。
しばらくして、あっと声をあげる。
「小さい頃、幽霊に取り付かれて知り合いに除零してもらったことがあります」
たしか、何度か除零してもらった記憶があると、そのときのことを思い出す零。
「やっぱり。零は幽霊をひきつける力があるのよ」
「それで眠っていた怨念が、表に出てきたというわけなのですね」
かすみの言葉に頷く巫子。当の本人は、嫌そうな顔をしている。
「でも、何で今ごろ出てきたのでしょう?
 授業で何度も音楽室を使っているので、もっと早く現れてもおかしくないと思います」
ふと思い出したように、疑問を口にするかすみ。零も、うんうんと頷いている。
「それがわからないのよね。他にも原因があるとは思うのだけど……」
右手の親指のツメを噛んで考え込む巫子。彼女が考え事をするときの癖である。
「原因ですか……」
かすみも、本を弄ぶようにして考え始める。
そんな二人とは対象に、自分のことで頭がいっぱいの零。
自分が霊媒体質で幽霊に取り付かれやすいと知り、混乱していたからだ。
「まあ、考えても原因はわからないから、今は目の前のことを片付けるとしよう」
「そうですね。このままでは、音楽室が使用できませんから」
悩んでいる零をよそに、二人は次の対策を考え始めた。



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