すべてのはじまり(5)



「今の私では前鬼や後鬼を使うことはできない……」
「私が使える魔法もこの本にある初歩的な魔法ですので、強力な魔法は使うことができません」
本来なら原因を突き止め対処にあたるのだが、
今回は原因を突き止めるための調査段階で襲われたため対処方法が無い。
今まで多くて数体といった霊しか相手にしてきていない。
今回のような多数の霊を相手にするには準備不足としか言いようがない。
だが、このままでは授業はもとより学園生活にも影響が出てしまう。
しかも、攻撃的な霊なので生徒が襲われる可能性がある。
早急に何か手を打って、原因を取り除くしかない。
それに魔法で扉を閉じてはいるが、いつまで持つかわからない。
今できることで、最大限の結果を出すしかない。いや、出さなければならない。
「あ、あの……」
思考の袋小路に陥ってしまった二人に、零が話し掛けてくる。
零は二人が考え込んでいる間に別のことを考えていた。
そして出た結論は、この場から去ること。
霊媒体質というだけで、何もできない自分がいても何も役に立たない。
先ほどの二人の話では、自分のせいで余計なものまで呼び寄せてしまっている。
役立たずどころか、邪魔をして足を引っ張っている。
だからこそ、この場にいないほうがいいのではないかと考えたのだ。
そのことを二人に話すと、意外な反応が返ってきた。
「さっき話をしていたときに、なぜ気づかなかったんだ?」
かすみに対してではなく、自分に対しての言葉。
どうして気づかなかったのだと、自分のうかつさに呆れてしまう。
「確かにあれなら有効な手段ではありますけど……」
巫子の考えを悟ったかすみが、彼女がやろうとしていることを止めようとする。
「初めての試みだけど、ほかに打つ手は無い」
不安はあるが、最善の方法であると自信をもって話す巫子。その目から強い決意が感じ取れる。
その目を見たかすみは、小さく溜息をつく。確かに現状では、それしか方法は見つからない。
それに巫子がリスクを犯してまでやろうとしているのではないということは、
長い付き合いからわかりきったことである。
ただ、副部長としての立場から、一応止めたに過ぎない。
やるのであれば、自分は巫子のサポートを全力でやるだけのこと。
すべてが上手くいくように、そして巫子が大事に至らないように。
「話が見えてこないんですけど……」
すっかり蚊帳の外にされてしまった零が、二人の話に割り込んでくる。
なんだかよくわからないが、何かよからぬことが起こりそうな気がしてならない。
零は意外と勘が良いようだ。だが、勘が良いからといって事態を避けれるとは限らない。
零の言葉に反応した二人は、零のほうを見ると零が怯えるような笑みを浮かべた。
後日、零はこのときのことをこう語った。
『あの笑みを見たとき、生きた心地がしなかった』と。
もちろん、それを聞いた二人から酷い仕打ちを受けたのは言うまでも無い。
口は災いのもとである。



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