すべてのはじまり(10)



「あの姿は……」
巫子が驚きの声を上げる。
「部長、あの人物が誰なのかご存知なんですか?」
「うちの神社にある書物に、描かれていた人物とそっくり。
 たしか倭健命。古事記や日本書紀に出てくる人物。
 倭健命は複数の大和の英雄を具現化した架空の人物とされていて、実在の人物だと思われていなかった。
 で、私が見たのは、その複数の英雄のうちの一人とされる倭健命。
 書物によると、その倭健命は魔物や悪霊などを退治していた人物で、各地の悪霊や魔物を退治していた。
 倭健命の東征云々の話はここから来ている可能性があるらしい。
 神から与えられたという神剣と神術と呼ばれる特殊な術を使って戦っていたそうよ」
巫女はそう言って、零の方を見る。
かすみも同じように零の方に視線を送る。
そこには剣を鞘に収めた偉丈夫が、零を見下ろしている。
『我が名は倭健命。本来の名はすでに忘れたが、みながそう呼んでいる』
「!」
思考が割り込んでくる感覚に戸惑う三人。
しばし、呆然としてしまう。
「今のは…声なのでしょうか?」
最初に口を開いたのはかすみだった。
「今のは声というより、直接頭に響くような感じだった」
かすみの問いに、こめかみを押さえながら答える巫子。
「でも、昔の人なら言葉が違うのでは? 現代の言葉ではないはず……」
『それは声ではなく、意思を送っているからだ』
再び疑問を口にしたかすみの問いに、今度は倭健命が答える。
「つまり、こういうことね。倭健命が自分の意思を相手の脳に直接送り込む。
 イメージを相手に送るわけだから、言葉が違っていても理解できる。
 心話や遠話とは違うけど、似たようなものだと思う」
かすみに答えるというより、自分の言葉を確認するように巫子が答える。
「でも、これであの悪霊を退治することができるわ」
いつもの調子に戻った巫子は、かすみに不敵な笑みを送る。
「さっそく、交渉するわよ」


「う〜ん。召喚する人間違えたのは、やっぱり呪文のせいかな?
 『ス○ーナ スゴ○デス』ではなく、『チン○ラホイ』のほうが良かったかも」
「……根本的に違うと思います。かすみ先輩」



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