すべてのはじまり(13)



深呼吸して気持ちを落ち着かせた零は、再び呪文を唱えようと口を開いた。
「零クン」
だが呪文を唱えようとした瞬間、目の前に見知った女性が突然現れた。
「お姉ちゃん!」
零は驚きの表情でそう口にした。
「どうしてお姉ちゃんがここに……」
零はゆっくりと目の前の女性に向かって歩いていく。
その足取りは何かにとり憑かれているかのようだった。
女性は優しげな笑みを浮かべてそんな零を迎えようとする。
「ダメ! ゼロ!」
巫子が零を静止させようと声を荒げるが、その言葉は間に合わず零は女性の前に立っていた。
「キィシャアアッ!!」
零がそばに来ると女性の顔は豹変し零の知る女性の顔から、
醜悪で異形な憎悪に満ちた顔になり零に襲い掛かった。
「秋田さん!!」
零が捕まりかけた直前、かすみが飛び込み零の体を押し倒した。
幽霊の手は中を舞い、その隙をつかれて巫子の式神に襲われた。
「ギィイイイッ!!」
幽霊は悲鳴を上げ、堪らず後ずさる。
「かすみ……さん」
正気に戻った零が自分の上にいるかすみに驚きながら気遣わしげに声をかけた。
「私は大丈夫です。それより早く呪文を唱えてください」
かすみは微笑みながらそう言うと、静かに零の上から離れていった。
かすみが離れたことで改めてかすみの温もりを感じ、顔を赤くする零。
それを悟られないように顔を伏せ、音楽室の中央に足早に移動して立った。
精神を集中し、かすみに渡された紙に書かれてある通りに呪文を唱え始める。
すると四隅に貼っておいたお札が光り始めた。
「ガアアァァァッ!!」
澱んだ空気が綺麗になるかのように、禍々しい空気が浄化されていく。
と同時に幽霊が悲鳴に似た断末魔とも言える声を上げ消えていく。
その間も零は呪文を唱え続ける。
やがて呪文が完成するころには、幽霊は跡形もなく消えていた。
「やったあ!」
幽霊が消え、零が喜びに声を上げる。
「まだよ!」
油断している零に巫子が警戒の声をかける。
巫子の指摘どおり突然ラップ音が鳴り響き、机や椅子がガタガタと小刻みに動き出す。
零は驚きながらも緊張した面持ちで警戒を強め始める。
ラップ音は何かを叩くような音に変わり、床も徐々に揺れ始めた。
それはさながら地震のように激しく揺れ、零たちは立っているのがやっとだった。
「かすみ!あそこに!」
巫子が先程まで幽霊がいた場所を指差すと、そこには黒い霧のようなものが集まっていた。
それは徐々に集合し丸い塊のようなものになっていった。
「な、なんですか……」
零が問いかけるが誰も答えることは出来ない。
やがて黒い塊は大きくなっていき、段々と人型を取っていく。
「ゼロ! 下がって!」
ただならぬ雰囲気に巫子は零にそう言うと、臨戦態勢を整えた。



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