キミに笑顔をもう一度(3)



トイレに入ると早速霊視するかすみ。
霊視と言っても霊気に反応するお札をかざしているだけなのだが。
トイレを見渡すようにお札をかざしていく。
だがお札はピンと立ったまま何も反応を示さなかった。
「毎回思うがダウジングのようだな」
「もしかしてビームを出して霊視するとでも思っているのでしょうか。
 外○照○霊波光線! なんてしませんので」
「古いな、お前いくつだよ」
そんな会話をしながらも調べ続けるかすみ。
結局何も反応を示すことはなく、霊の存在は確認できなかった。
「おかしいですね。何も反応しないということはないと思うのですが」
かすみが首を傾げて呟く。確かに入る前には微かな霊気を感じたのだが、今は全く感じることはできない。
物音もしていたのにその気配すら感じられないでいた。
「それならこうするしかないだろう」
巫子がそう言うと花子さんを呼び出す仕草をする。
キックキックキックトントントン、キックキックキックトントントン……。
爪先で三回、踵で三回床を蹴る。そして大きく息を吸うと巫子は大声で花子を呼んだ。
「はーなーこーさーん、あーそーびーまーしょー」
あまりの大声に耳を押さえるかすみ。そんなに大声を出さなくてもとブツブツ言っている。
廊下では驚いた零が物音をたてている。
しかし何の反応もなく、霊気も感じることができなかった。
巫子はそのまま窓際のドアの前まで進むとおもむろに叩き始めた。
「花子さーん、遊びに来たよ。遊ぼうよ」

ドンドン、ドドンドンドン、ドドドドン!!

何故か癇に障るように叩く巫子。何を考えているのかわからない。
たぶん、本人もわかっていない可能性がある。
何度か叩いていると突然ドアが!! ……ということはなく巫子は飽きたのか諦めたのか、たぶん前者だとは思うが、叩くのをやめてかすみの方に向き直った。
「出てこないわね。他に……」
そこまで行った時、巫子は言葉を無くした。
噂のトイレのドアは開かなかったが、隣の用具室のドアが突然開いたからだ。
「なっ……」
開いたドアから黒い霧のようなものが突然噴き出し、巫子の体を包み込んでしまった。
かすみは身動きができなず、その様子を見ているしかなかった。
黒い霧は巫子を包み込むと用具室の方へと戻っていきドアが閉まってしまう。
そして黒い霧の居なくなった場所には、先ほどまでいたはずの巫子の姿が無かった。
かすみの目の前から巫子の姿が消えてしまっていた。
それはあまりにも一瞬すぎてかすみにも何が起きたのかわからなかった。
「零君!!」
はっとして零に呼び掛けると、かすみは用具室の前に立った。

少し前に遡る。
廊下で一人取り残された零は、ビクビクしながらも言われた通り誰も来ないように見張っていた。
もし誰かが間違えてはいって花子さんに誘拐されたら(零は花子さんが誘拐していると思っている)大変なことになる。
「それにしてもなんで花子さんは誘拐なんかしているんだろう?」
静寂と日が落ちたことで怖さが増した廊下に一人でいるのが怖くなった零。
独り言を言って気分を紛らわせていた。
とその時、いつも感じる左手の痺れが突如襲ってきた。霊障が起きると必ず起こるあの痺れが。
これが起きるとたいていの場合、霊に憑依されそうになる。
今までになんどかあった出来事なので、零はドキッとして辺りを見回す。
だがそれらしい霊気を感じることはできなかった。あの独特の嫌な雰囲気を。
とその時、中からかすみの呼ぶ声が聞こえた。
今までに聞いたことも無いような声色である。何かあったのかもしれない。
零は慌てて入り口のドアを開けた 「な、なんですか!!」
慌てた声で零がドアを開けて中に入ってくる。
かすみの声からただならぬ雰囲気を感じ取り、緊張した面持ちである。
「部長が攫われたわ」
それはとても冷静な声だった。
あまりにも冷静で零には何を言っているのか一瞬理解できなかった。そして……。

「ええええええええぇぇぇぇっっっ!!!」

零の声がトイレの中に響き渡った。


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