キミに笑顔をもう一度(8)
「で、結局のところ何か解ったの?」
張本人を探しに行きながら、巫子はかすみにそう訊ねた。
「今回の事件の張本人は、苛めにあって亡くなった女の子の怨霊だと思われます。
事件の発覚した時期から少し前にそんな事件があったそうです。
そしてその苛めたのが『長谷川花子』と言う名前の女の子を中心としたグループ」
かすみはそう言って巫子を見る。
「え、そんな事いつ……もしかして、あのメールの内容ですか?」
「そう。あのメールは、さやかからのメールです。
彼女が調べたことなので、まず間違いないでしょう」
かすみがそう言うと、巫子が同意するように頷いた。
零はさやかって誰だろうと疑問に思うが、今は聞いている場合ではないと思い黙っていた。
「各地で居なくなっているのは、『長谷川花子』もしくは『長谷川』の苗字、『花子』の名前の女の子ばかりだそうです」
「つまり、苛められて亡くなった女の子が復讐のために、この世界に引きずり込んでいるということ?」
「でも、それならなんで部長が引きずり込まれたのですか?」
命例がそれぞれ疑問に思っていることを口にする。
かすみは前髪を引っ張りながら考えるように首を傾げる。
ただし、実際は何も考えていない」
「失礼ですね。ちゃんと考えていますよ」
こりゃ失礼。
「誰と話してるんですか?」
零が疑問に思ってかすみに訊ねる。
「復讐したいとは思っているでしょうけど、生前の性格からこういうやり方はしないと思います。
後者に対する答えになるか解りませんが、苛めた長谷川花子は部長に似た背格好だそうです」
かすみは零の質問は無視して、その前の二つの質問に答えた。
「確かに部長は苛め……」
「なんだって?」
零が何か言おうとしたが、巫子に睨まれ口ごもってしまう。
「たぶん、他……ここですね」
言葉を途切らせて立ち止まるかすみ。
横を見ると上り階段が突然現れたように、視界に入ってきた。
「永遠と続く廊下だと思ったが違ったのか」
巫子はそう言って身構え始める。その手にはいつの間にか用意していたお札が握られている。
「正体を現しなさい!」
巫子はそう言ってお札を投げると、階段の上でピタっと止まった。
と同時にもの凄い悲鳴が響き渡り、思わず耳をふさいでしまう三人。
そして目の前に現れたのは、黒くて大きな蠢くものだった。
その姿はゲーム等に出てくるようなブロブに似た姿をしており、
その中心には逆さまになった女の子の顔があった。
白目を向き、大きな口を開けて狂気に堕ちたような顔をしている。
その口からは声にならない声が漏れている。
とても悍ましく、聞いているものを狂わせるような奇妙な鳴き声。
零はその場に蹲って、逃げ出したい衝動に必死に耐えていた。
逃げ出せば楽になることは解っているが、ここで逃げ出すと永久に出られなくなると思ったからだ。
「あれが張本人でしょう。周りの黒いものは……」
「ああ。たぶん、音楽室の時と同じように沢山の怨霊が彼女に取りついているのだろう。
あの悲鳴は他の怨霊に取り込まれ逃げられないことへの悲鳴なのか」
「帰りたいんだと思います。家族の元へ」
零が突然、そんなことを言う。
「大好きなお父さんとお母さんの元へ帰りたい。
彼女の悲鳴はそう聞こえます」
いまだに耳を押さえている零だが、その言葉は確信をもっているようだった。
「それなら、助けてやるのが我が部の決まりだ」
「まずは、周りの怨霊を何とかしないといけませんね」
かすみはそう言うと本を取り出して呪文を唱え始めた。
「じゃあ、私は……」
新たにお札を取り出して、怨霊に向かって投げ飛ばした。
お札は空中で人型となり、次々と怨霊に切りかかっていく。
さすがは式神使いといったところか。
「あわわわっ、こっちに攻撃を仕掛けてきますよ」
何もできない零は、ただひたすら逃げ惑うだけだった。
「なんか全然怨霊が減っていないな」
「では、奥の手を使いましょう」
かすみはそういうと、背中から棒のようなものを取り出した。
「はい、奥の手です」
「まごの手だろ! ギャグをやってる場合じゃないだろ!」
「ぐふっ、あははは」
ツボにハマった零が笑い出す。
その間も、怨霊の攻撃は続き巫子は避けながら攻撃を仕掛けている。
「さて、ウケたところで本当の奥の手を」
かすみはそう言うと、零を見つめる。
見つめられた零は意味が解らず、目をパチクリとさせていた。
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