闇に潜むもの(2)
「という噂を聞いてきたんですけど」
零は先ほど聞いた浅葉の話を巫子たちに聞かせる。
珍しく黙って聞いている二人は、零の話を聞き終わると顔を見合わせた。
「実はゼロが買い物に行っている間に、我が部の顧問から連絡を受けてその噂を聞いたんだ。
職員室でも問題になっているようで、不審者の可能性もあるから生徒を早く帰すように通達があった」
「ということは、今日はこれで終わりですか?」
早く帰れると嬉しそうにする零。もちろんそんなことは口にしないが、顔に出ていた。
「なんだか嬉しそうですね。そんなに早く帰りたいのですか?」
「う、嬉しそうだなんて……」
慌てて口元を隠す零。その行動が雄弁に語っている。
「残念だが、早く帰ることは出来ない。
顧問はこの件について調べるようにと言っている」
「どういう……こと……?」
「つまり、この事件はオカルトの類と言うこと……。
先生はそう思っていらっしゃるようです」
「どうだろうな? 確信はしていないと思うが……。
あの男のことだ、他に何か隠しているだろうな」
かすみは不機嫌そうな顔をしてそう呟く。
顧問の先生と以前に何かあったのだろうか?
「あの男って……先生に対してそんな風に……」
そう口にしてみるが、そもそも顧問の先生を見たことがないし顧問が誰なのかも知らない零。
かすみがあんな顔をするのだから、怖い先生なのかと思ってしまう。
「あの男で十分だ。面倒なことばかり押し付ける先生など、な」
「面倒なこと?」
「気にするな。それより、許可は貰ってある。
今夜はここに泊まることになるぞ」
零の疑問には答えず、巫子は今日学園に泊ることを零に告げた。
「そんな、勝手に……。
お母さんが許可してくれるわけないですよ」
「それなら問題ありませんよ。顧問の先生が許可を貰ってくれたそうです」
かすみはそう言ってにっこりとほほ笑む。
「でも、着替えが無いし……」
「大丈夫ですよ。こんなこともあろうかと、用意してありますよ」
そう言ってかすみは零に袋を渡す。
そこには零のサイズにピッタリの下着が用意してあった。
「な、なんで僕のサイズを……」
零の疑問にかすみは微笑むだけで答えない。
「……かすみ、恐ろしい子」
そんな様子を見ていた巫子はぼそっと呟いた。
「ちなみに私はお泊りセットを用意してあります」
「いつも用意してあるのですか?」
かすみの言葉に首を傾げて訊ねる零。
「もちろんです。そもそも幽霊の類は夜に出ることが多いので、夜の活動の準備は怠ってはいけません」
そう言って常識ですよと、準備を怠っている零をたしなめた。
「どこの常識ですか!」
「そうですね……三丁目あたりでしょうか?」
「意味が解りません」
かすみのとぼけた言葉に怒っているような呆れているような声で呟く零。
「さてと、夕食の買い出しにでも行くか」
二人のやり取りを黙って聞いていた巫子は、話が一段落ついたところでそう言って立ち上がる。
大きく伸びをすると買い出しに行く準備を始めた。
「どこに買いに行こうか」
「食べに行くという手もありますよ」
「それもありだな。よしっ、夕飯は奢ってやるぞ。ゼロ」
「本当ですか? って、ゼロじゃありません。零です」
そんなことを言いながら、三人は部室を出ていくのだった。
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