闇に潜むもの(3)



「三吉は安定した美味しさですね」
「そうだな。明石先輩も元気そうだったしな」
「明石先輩?」
「明石先輩はここの卒業生で生徒会会長で、部の発足に尽力してくれた人だ」
「三吉は明石先輩の実家なんですよ」
巫子の言葉にかすみが付け加える。
明石裕子。二期連続生徒会長を務めた女生徒で、楽しいこと、面白いことが好き。
生徒会主導で様々な行事を行い、現生徒会もその思いを引き継いでいくつかの行事を残している。
オカルト研究部を作る際にかすみが相談し、部が発足するまで色々と力を尽くしてくれた。
かすみとは古くからの知り合いらしいがどういう関係かは、巫子も知らない。
相変わらずかすみは謎が多い人物である。
「先輩と言えば、先日ちらっと耳にしたのですけど、学園の近くに蕎麦屋が出来たとか。その人は、
 『この近くに蕎麦屋が出来たんだって。え、どこかって? 学園の傍や。そばだけに』
 って妙な関西弁で話していました」
妙な関西弁と聞いて引き攣ったような笑顔を見せる。
二人ともあの人かと同じ人物を浮かべたからだ。
何でそんな笑みを浮かべているのか解らない零は、くだらないギャグにそういう表情を受けべているのかなと思う。
「さて、いったん部室に戻って準備をするぞ」
「準備?」
「廊下は電気が消えているから懐中電灯が必要だな。それと外を回るから寒さ対策も必要だ」
首を傾げている零にかすみがそう答える。
「というわけで、部室に戻るぞ」

この学園は中学校から大学まである学校法人のグループで、零たちが通うのはその高等部である。
中等部と大学部が併設されており、また高等部は数年前に建てられた新校舎で授業を受けている。
ちなみに旧校舎は実験棟になっており、高等部だけでなく中等部も理科の実験などで使用している。
新校舎の近くには特別校舎が併設されており、音楽室や美術室、各部室などに使用されている。
特別校舎は高等部だけでなく、大学部も使用している。
新校舎の四階は三年生が使用しており、三階は二年生が、二階は職員室や保健室などが、一階は一年生の教室がある。
現在、零たちが見回りをしているのは、新校舎の四階である。
部室で準備を終えた三人は、懐中電灯とビデオカメラを手にした巫子を先頭に、お守りを持った零が真ん中、最後尾をかすみが歩いていた。
巫子はビデオに収めて証拠として提出するためにビデオ撮影をしているのだが、零はどこかのテレビ番組に投稿するつもりではと疑っている。
もちろん、そんなことを口にはしないが。
かすみはいつものように本を持ち歩いていた。
「夜の校舎ってなんか怖いですね」
零はそう言ってぎこちない笑顔を見せる。
「人気がありませんし、廊下は電灯がついていなくてくらいですからね。
 普段と違う雰囲気が不気味に感じるのかも知れませんね」
「私は校舎なら暗くても平気だな。さすがに外は危ない人間が多いから気を付けないといけないが。
 よく言われるが幽霊よりも生きている人間の方が怖い」
巫子はそう言いながらカメラで辺りを撮り続けている。
今のところ変なものは映っていない。
「ゼロがそんなに怖がるなら、何か仕込んでおけば良かったかな」
「やめてくださ、ひゃあ!」
突然悲鳴を上げる零。急に悲鳴を上げるなと怒る巫子。
「仕込まなくてもこうすれば驚かせることが出来ますよ」
そう言って笑い出したかすみの手は、零の肩の上に乗っていた。
どうやら、零を脅すために零の肩を掴んだようだ。
「もう、驚かせないでください」
頬を膨らませるようにして怒る零。
そんな零に今度は巫子が耳元でぼそっと囁き驚かせる。
うひゃあと飛びのき驚く零は、泣き出しそうな顔をする。
「もう、やめてくださいってば」
「男のくせにだらしないぞ」
巫子はそう言って零の背中を叩く。
零は男でも怖いのは怖いですとぶつぶつと呟いていた。


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