2章 みずきの来訪


「だからね、ざっと筋を説明するとこういうことなんです。とあるところに心優

しいが貧乏な姉妹がいた、と」

「…それは姉か妹のどっちかが心優しいのか?」

「両方心優しいんです。なんでもいいけどさっきからいちいち話の腰を折らない

でくださいね。時間があるならきっちりお話したいところをざっと話そうと努力

してみてるんですから」

「悪かったな。それで」

「それで、妹の方は元々病弱だったんです」

「なんで心優しいのに病弱なんだ?」

「心優しい=神様の祝福を受けている=健康である、って考えるのはやめた方が良

いですよ。とにかく、妹は病弱でしかも貧乏だったから姉の稼ぎじゃ医者にも見

せられなかったんですよ。妹は最近容態がどんどん悪くなってましてね、姉はと

うとうなけなしのお金でワイン一本買って」

「飲んだくれて妹を捨てて出ていったか?」

「なんで良い子にお口チャックができないんでしょうねあなたは。今日は特にひ

どい」

「メノトロームが止まりかけてるんでね。おとなしく人の話を聞く気分じゃない

んだ。昨日あたりにアポ取っといてくれたらまだましな対応ができただろうと思

うが」

「…ええ、とにかく続きを。姉は手に入れたワインを酒好きと言われている水の

神に供えて、妹の病気回復をお祈りしたんですよ」

「他力本願は良くないと思うが」

「断じてもうあなたのいらないこと言いの相手はしませんからね。それで、姉妹

に負けず劣らず心優しい水の神は妹を一時預かりにして治療してるんです」

「それはご苦労なことだ」

「でしょう。あなたがまともな相槌打ってくれて非常に嬉しいですよ。ご苦労つ

いでなんですけどね、どうにもその妹の病気が難しくって、水の神は匙を投げか

けてるんです。困ったことに薬がどいつもこいつも効かないんですね。生まれつ

きの虚弱体質って難しいんですよ」

「…話が見えないんだが」

「ええ、もうちょっとですからおとなしくね。それで、最後に残ったのは転地療

法なんです。どうにもこうにも地上の空気は汚れてますから、お空高いところに

ある風の神の城にしばらく置いてもらおうと。ただ、気難しい小難しい性格の風

の神が承諾してくれるかどうかが問題で。困っちゃいました、水の神は」

「まったくもって関係ないな」

「ああ、でもね。風の神にもきっちり関係あるんですよこれ。…このあいだ来た

とき僕が持ってきたワイン美味しかったでしょう」

「ああ、あれはなかなか絶品だったな。無銘だというのが信じられないぐらいだ

った……!?」

「はい、そういうことです。水の神は問題の姉から貰ったワインを風の神といっ

しょに飲んじゃったんですね。これ、連帯責任ってことになりますよね」

「いや違う」

「どこが」

「どこがって、お前の理屈は間違っている」

「いいえ。全然。それでね、そのかわいそうな妹は既に風の神のお城の前に来て

るんですよね。門を開けてあげなきゃ、それはもう神様失格だと思いません?」

「嫌だ。俺は他人を家にあげたくない」

「ああ、いけないもうこんな時間だ。時間がないって始めに断りましたよね、僕。

大丈夫です、あなたがちいさな女の子をむざむざ殺す様な非道に徹しきれないこ

とはよくわかってますから」

「待て、おい。みずき!」

「失礼します、かざみさん。ああ、お預かりいただく子の名前はすずめ。かわい

らしい名前ですよね。僕達と違って普通の人間ですから、ちゃんと三食食べさせ

てあげてくださいね。それでは、ごきげんよう」


 本当に出て行きやがった、とかざみは言い捨てて、寝台から体を起こした。人

が休んでいるところに、いきなり『思考』に割りこんで好き勝手をまくしたてた

挙句、厄介者を残していったみずき。頭が痛かった。

 枕元でメノトロームが喘いでいる。錆びついているのに止まらない、不思議な

メノトローム。かざみの心臓。

 かざみは深く息を吐いて頭の中の難しいものを全て追い出すと、門を開けに行

った。すずめだかなんとかいう少女を中に入れてやらなければならなかった。

                                                   


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