映画に関するエッセイ

不定期ですが、成瀬映画や映画全般について気のついたことを書いてみます。

2017
2017.9.9 成瀬監督の遊び心
2017.8.24 石井輝男監督が語る成瀬演出について
2017.8.14 成瀬映画にも出演していたゴジラ俳優・中島春雄さん
2017.5.19 『浮雲』には終のエンドマークが無い点について
2017.4.28 映画監督・成瀬巳喜男 初期傑作選(神保町シアター)
2017.4.19 成瀬映画での人物の配置と動き
2017.3.5 貴重な上映『浦島太郎の後裔』
2017.3.1 原節子と成瀬監督の笑顔写真
2017.2.26 成瀬映画とオリジナルシナリオ
2017.2.9 成瀬映画『くちづけ』でのエピソード紹介
2017.2.5 映画『それから』再見
2017.1.21 ミステリー映画とサスペンス映画
2016
2016.12.27 映画『女の中にいる他人』について
2016.12.13 『ヒッチコック/トリュフォー』
2016.12.9 成瀬映画ベスト69!
2016.11.30 今年観た日本映画の個人的な順位
2016.11.10(一部記述追加)2016.11.4 『七人の侍』4K版を鑑賞
2016.10.18 書籍「東京映画地図」を読んで
2016.10.3 市川崑監督『結婚行進曲』(1951 東宝)
2016.9.18 渋谷実監督『青銅の基督』観賞
2016.9.3 映画監督・脚本家の松山善三さんがお亡くなりになりました
2016.8.29 『真田風雲録』について
2016.8.11 夏が印象的な成瀬映画 
2016.7.24 『シン・ゴジラ』のロケ地
2016.7.12 市川崑記念室
2016.6.16 訃報 白川由美さんがお亡くなりになりました
2016.6.8 新文芸坐で『鰯雲』再見 
2016.5.26 成瀬映画に登場するお金の話
2016.5.19 鎌倉市川喜多映画記念館「映画女優 原節子」
2016.5.13 祝 新文芸坐での成瀬映画特集上映
2016.4.28 橋本忍脚本の3本を観て
2016.4.3  成瀬映画の笠智衆
2016.3.17 出目昌伸監督がお亡くなりになりました
2016.1.27 原節子主演『慕情の人』『愛情の決算』
2016.1.9 「文藝春秋」の原節子さん追悼文について
 2015
2015.11.28 原節子さんサイン入りポートレート
2015.11.24 市川崑監督生誕100年
2015.11.17 山田太一劇場(日本映画専門チャンネル)について
2015.10.24 成瀬映画の不明ロケ地について
2015.10.12 書籍「小津安二郎に憑かれた男」について
2015.9.29 雑誌への寄稿について
2015.9.13 セブンシネマ倶楽部 「成瀬巳喜男監督の撮影現場」
2015.8.22 生誕110年 映画俳優志村喬
2015.8.8 シナリオ『都会の子』(第1稿)を読んで
2015.8.5 『秋立ちぬ』ロケーション場所HPの紹介
2015.8.2 訃報 俳優の加藤武さんがお亡くなりになりました
2015.7.14 日本映画専門チャンネル「森繁対談」
2015.7.08 川島雄三特集に行きました
2015.6.22 小津映画『淑女は何を忘れたか』(1937)について
2015.6.15 映画『海街diary』
2015.6.6 映画本での気になる言い方について
2015.6.2 訃報 俳優の小泉博さんがお亡くなりになりました
2015.5.28 成瀬映画と俳優
2015.5.20 映画『海街diary』メイキング番組について
2015.4.21 原節子特集に乾杯
2015.4.16 印象深いシーン、ショット
2015.3.14 東宝スタジオ展(世田谷美術館)を観てきました
2015.2.11 東宝スタジオ展(世田谷美術館)
2015.1.22 生誕110年パート2
2015.1.18 祝 ! 成瀬巳喜男監督生誕110年
2014
2014.12.23 川本三郎著「成瀬巳喜男 映画の面影」
2014.12.11 千葉泰樹監督の映画は面白い
2014.12.5  成瀬映画の自由さ
2014.11.15 フィルムセンターでの特集上映 監督千葉泰樹
2014.11.1 石田朝也監督『無知の知』について
9.27 成瀬映画を観る方法
9.19 新文芸座で『コタンの口笛』を観ました
9.16 成瀬映画のキャスティング
9.8 成瀬映画特集がスタート
8.23 『小早川家の秋』のワンシーン
8.17 祝 ! 9月の新文芸座の成瀬監督特集上映
8.6 『三船敏郎』
6.15 『映画本の感想』
5.11 『川島映画 鑑賞記』
5.9 『初めて観た映画 東宝怪獣映画』
4.23 『ウォルト・ディズニーの約束』
4.19 祝 ! 5月の成瀬映画と川島映画の上映
4.16 ビリー・ワイルダー
2.23 最近観た日本映画について
1.12 女優・淡路恵子さんが1月11日にお亡くなりになりました
2013
12.31 大瀧詠一さんがお亡くなりになりました
11.19 小津映画『東京暮色』を再見して気づいたマニアックな発見
11.16 雑誌BRUTUS(ブルータス)の最新号「特集 小津の入り口」は面白い
11.5 『女優と詩人』(1935)のラスト、男性の声の謎
8.27 訃報 成瀬映画のチーフ助監督もつとめたテレビディレクター・プロデューサーの梶田興治さんが、 8日18日にお亡くなりになりました
8.5 「夏」の映画
7.30 成瀬映画「娘・妻・母」について
6.30 生誕110年 映画監督 清水宏(フィルムセンター特集)
6.17 横山道代(旧芸名・現=横山通乃)さんトークショー
6.7 木下恵介生誕100年記念映画「はじまりのみち」を観て
4.28 最近観た日本映画について
4.16  訃報名優・三國連太郎さんが4日14日にお亡くなりになりました
4.13 木下恵介作品を観て
2.27 銀座シネパトスのラスト上映も成瀬作品
1.20 成瀬監督に関する記述の紹介
2012
12.29 「今井正映画読本」を読んで
7.10 訃報名女優・山田五十鈴さんが7日9日にお亡くなりになりました
5.31 新藤兼人監督について
5.6 小津安二郎監督のカラー作品について
4.25 日本映画専門チャンネルハイビジョンで甦る日の当たらない名作
2.22 訃報名女優・淡島千景さんが2月16日にお亡くなりになりました
2.2 訃報石田勝心(いしだかつむね)監督が本日2月2日お亡くなりになりました
1.8 山本薩夫監督「にっぽん泥棒物語」を観て
2011
12.18 「妻として女として」回想シーンの編集の素晴らしさ
12.15 成瀬映画の女優 作品別 美しさ+色っぽさ 私的ベスト15
11.4 「コタンの口笛」を再見して発見したこと
5.29 小津演出と成瀬演出の違いを思う台詞
5.5 「浮雲」のロケーションについて
1.20 「映画のタイトルについて」
2010
12.31 成瀬映画を代表する女優・高峰秀子さんがお亡くなりになりました 
9.18 名優・小林桂樹さんがお亡くなりになりました
5.5 ヒッチコック作品と成瀬作品の共通点?
1.13 「浮雲」を久しぶりに観ての感想
2009
10.22 女優・南田洋子さんについて
4.15 映画のラストシーンについて
2008
9.27 成瀬映画の屋外シーン「人物の振り返り」について
6.27 これぞ成瀬映画 「驟雨」(しゅうう)
6.19 「成瀬映画のアクションつなぎと場面転換」
6.15 「成瀬映画の語り口と噂話」
2.14 「市川崑監督について」
2007
7.14  「祝 成瀬巳喜男劇場」
6.28  「祝 川島雄三特集」
4.30 「小道具の使い方」


NEW 2017.9.9 成瀬監督の遊び心

 成瀬映画の魅力については、本HPでも数多く記述しているので詳細は省略しますが、
これまでの成瀬論であまり語られていないと感じるのが、成瀬監督のユーモアセンスです。
 一般的に代表作と言われている『浮雲』の暗くて重い印象もあり、「ヤルセナキオ」という
渾名で紹介されることが多いのですが、成瀬映画を1本1本観ていくとこの渾名は明らかに
間違っていると気付かれると思います。

 作品にもよりますが、成瀬映画には「くすくす」と笑ってしまうようなユーモラスなシーンが実に多い。
といっても「あざとく笑わせよう」というのは皆無で、日常生活の中にある自然な笑いを上品に表現しているのが魅力です。
 
 これは成瀬監督だけでなく、小津監督にも共通します。
親友でありライバルでもあった二人の監督は東京生まれであり、作品の中のユーモラスな映像表現や
台詞に「落語」のセンスを感じます。私が長年の落語ファンということもありますが。

 私が成瀬映画の中でも『驟雨』や『流れる』などが特に好きな理由の一つは、随所にユーモラスなシーンが
あることと言えます。

 最近、1955年のオムニバス映画『くちづけ』の中の成瀬監督演出の第三話『女同士』の中に
成瀬監督の遊び心に溢れたユーモラスな場面を発見しました。
 原作は石坂洋次郎の短編で、脚本は松山善三。
 
 『女同士』はラストの展開も含めて、映画自体がユーモラスな雰囲気に満ちていて私はとても好きな映画です。
ストーリーは開業医の夫婦(上原謙、高峰秀子)と住込みの看護婦(中村メイコ)、
看護婦と結婚することになる近所の八百屋のあんちゃん(小林桂樹)のほんのささいな出来事
を描いた夫婦ものです。
 偶然に中村メイコの日記を読んでしまった高峰秀子。
そこには夫の上原謙への恋愛感情が書かれていて高峰秀子は少し慌てます。
夫への気持ちをそらすには中村メイコを結婚させようと考え、中村メイコに惚れているらしい
八百屋のあんちゃん=小林桂樹と一緒にさせようと画策します。その画策は見事成功するのですが・・・

 上原謙と中村メイコが往診の際に小林桂樹の八百屋の前を歩いているシーン。
小林桂樹は中村メイコに話しかけ、二人は立ち止まって会話をします。
前を歩いていた上原謙を気にしてすぐに歩き出す中村メイコ。
それを見ていた八百屋のじいさん(小林桂樹の父親)は「女の子の尻ばかり追っかけているんじゃない」
と声をかけます。
 このじいさんですが、よく見ると小林桂樹が老け役メイクの扮装をしています。一人二役。
この台詞だけの2-3秒の出演なので、気付くことは難しいと思います。
これが誰のアイデアだったのかは不明ですが、おそらく「観客にわかるかな?」といった成瀬監督の遊び心でしょうね。
さすがにこのような遊び心の演出は成瀬映画でもこれだけのように思います。

 三話オムニバス『くちづけ』はDVD化されていないのですが、以前日本映画専門チャンネル「成瀬巳喜男劇場」で
数回放送されたので、その時の録画をお持ちの方は是非確認してみてください。

トップページへ戻る


NEW 2017.8.24 石井輝男監督が語る成瀬演出について

 石井輝男監督が新東宝時代の成瀬映画『銀座化粧』(1951)、『おかあさん』(1952)のチーフ助監督であったことは有名です。
成瀬映画の作風とは対極にあるような石井監督の映画ですが、いろいろなインタビューを読むと「成瀬先生」と呼んで師と仰いでいたようです。
 その石井監督がフランス人のインタビューを受けて成瀬監督(一部清水宏監督についても)について語っている12分くらいの貴重な動画が
ユーチューブにアップされています。
 石井輝男では出てこないのですが、teruo ishiiと検索すると「Interview with Teruo Ishii」(2004)
Bernard Eisenschitz video interviewという動画が観れます。


 このユーチューブ動画の中で語っている石井監督による成瀬演出でとても興味深いエピソードを紹介します。
石井監督の肉声は上記ユーチューブで検索を。

 『おかあさん』の前半、肺を病んで寝ている三島雅夫の横に、職人仲間の加東大介が座って会話をするシーン。
加東大介は「入院しなよ」とすすめますが、三島雅夫はそれを拒みます。

 このシーンのテストの時に、成瀬監督が「加東さん、タバコでも吸ってみますかね」と言ったそうです。
加東大介も「わかりました」と答え、タバコを出してマッチで火をつけようとしたその時、
成瀬監督が一言、「加東さん、吸えますか?」 
それを聞いて加東大介は一瞬ドキッとした表情をした後、「すみません」と謝ったとのこと。

 実際の映画でも、二人の会話が続いた後、加東大介は上着からタバコを取り出し手に持っている時に
布団に伏せっている三島雅夫がゴホゴホと小さく咳をします。それを見て加東大介はタバコをしまいます。

 これはとても成瀬監督らしいエピソードかなと。
もし現代の監督が同様のことをやったら、俳優から文句がくるかもしれません。
「監督がそうしろと言ったんじゃないですか」と言いそう。

 成瀬組のキャスト、スタッフはひそかに成瀬監督のことを「いじわるじいさん」と呼んでいたそうです。
私は成瀬映画の常連の、亡くなられた小林桂樹さんからも直接聞いたことがあります。

 この『おかあさん』での演出エピソードは、正に「いじわるじいさん」という感じで、微笑ましい。
文句も言わずに「なるほど」と感じて頭を下げた加東大介の「大人の対応」もとてもいいです。

 現代はビジネスの世界でも映画でもテレビでも「相手にわかりやすい説明」至上主義のように
感じることがあります。
 その点、成瀬映画というのは「説明的な演出や会話」が少なく、相手の心理を深く読み取るスキルが
試されているのかもしれません。成瀬映画だけでなく小津映画にも通じると思いますが。

 なおそのユーチューブの番組の英語での説明には、『晩菊』という記述があるのですが、
これは明らかに『おかあさん』の間違いでしょうね。

トップページへ戻る


NEW 2017.8.14 成瀬映画にも出演していたゴジラ俳優・中島春雄さん

 『ゴジラ』のスーツアクターとして有名な中島春雄さんが8月7日に88歳でお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。
中島さんは『ゴジラ』特集のドキュメンタリー番組などには必ずといっていいほどインタビューに答えられていましたので
お顔はよく拝見していました。
東宝の俳優さんでしたので、『ゴジラ』等の怪獣・特撮映画以外の映画にも脇役で出演されていて、
有名なのは『七人の侍』の野武士役(斥候の三人の一人で宮口精二に斬られる)で、これは特集番組のいくつかでも紹介されていました。
 インターネットのウィキペディアの出演作品を見ると、特撮映画以外の様々な東宝の映画にも脇役で出演されていますが
成瀬映画『娘・妻・母』(食堂のコック)と『乱れる』(商店主)とあり、どこに出ていたかまったく知らなかったので録画ブルーレイで調べてみました。
 映画の冒頭のクレジットタイトルにも出ていません。

 『娘・妻・母』はラストの近くで、団令子と太刀川寛の勤める会社の食堂のシーン。
社員食堂で二人が会話をして並んでいるところに料理の皿を差し出すコックの役で出ているのを確認しました。出演時間は1秒から2秒くらい。
 『乱れる』では、前半、スーパーマーケットの進出で商売不振を悩み自殺してしまう食料品店の主人(柳谷寛)の家を見舞うシーン。
近所の商店主仲間である加山雄三、十朱久雄、佐田豊と一緒に、画面の一番左側にいるのが中島さんでした。
このシーンは、柳谷寛の妻(中北千枝子)が泣きながら個人商店の経営が成り立たないことを訴えます。
 重いシーンではありますが、東宝の人気シリーズであった若大将の加山雄三さんと、『ゴジラ』等の怪獣映画に着ぐるみの中で演技をしていた
ゴジラ俳優である中島春雄さんが、成瀬映画の中で数秒のショットではありますが共演していたとは!。
 私も今回までまったく気付きませんでした。
 この2作品はレンタルDVDもあるので興味のある方は確認してみてください。
 
 本HPにも何度も書いた有名な話ですが、中島さんが着ぐるみに入って演技をした第一作目の『ゴジラ』のドラマ部門
の撮影=玉井正夫、美術=中古智、照明=石井長四郎は、当時の成瀬映画(『浮雲」他)のメインスタッフです。

トップページへ戻る


NEW 2017.5.19 『浮雲』には終のエンドマークが無い点について

 昨年アップされた動画ですが、昨年の東京国際映画祭で『浮雲』4Kデジタルリマスター版の上映を記念したトークショー。
映画監督・呉美保さんと評論家・川本三郎さんのお二人が『浮雲』について語っています。
 内容は下記URLの動画を観ていただければと思いますが、お二人のトークの最後の方で『浮雲』には通常の映画にある「終」「完』
というエンドマークが無いことが語られています。映画を観た方はご存知でしょう。
確かにエンドマークは無く、林芙美子の有名な「花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき」の文字が出て終わります。
映画としてはあまり例のない不思議な終わり方です。
 
 このことについてお二人のトークショーでは語られていないエピソードがあるので紹介します。
東京・世田谷文学館で2005年に開催された「生誕100年 映画監督・成瀬巳喜男展」資料集(非売品)
のP13-P20に、「成瀬さんの思い出」という対談が掲載されています。
成瀬映画8本の助監督を務め、私は生前、個人的にとても親しくしていただいた石田勝心監督と編集の武田うめさん
お二人の対談です。
いろいろと興味深い内容が語られていますが、ここで『浮雲』のエンドマークについての面白いエピソードを
紹介しています。

武田うめさんの話を以下一部要約すると

・撮影所で『浮雲』の完成試写が終わると、藤本真澄プロデューサーが控え室に入ってきて
 「巳喜ちゃん、この映画はどうなってんだい?エンドマークがないじゃないか。この映画は終わらないのかい、まだ
 続くのかい」とおっしゃったんです。

・先生(注:成瀬監督)としては万感の思いで~(略)~ゆき子と富岡との愛の印をね、そのタイトル(注:上記「花の命~」)
 で表されたんです。

・そうしましたらね、もう顔をプーっと膨らましまして、「うめちゃん、すぐ現像場へ行って、ラストシーンを
 全部切ってらっしゃい!この映画は封切りしなくてもいいです。早く行きなさい!」

・~(略)~そうしたら藤本さんが、「悪かった。僕はね、気がつかなかった。あっ、そうだったのか、気がつかなかった、
 悪かった」

・~(略)~大体成瀬さんと言うのはそういうところで誰にも何にもおっしゃらないから、流石の藤本さんもおわかりに
 ならなかったんですね。その成瀬さんの心意気が。

 このエピソードを読むと、撮影現場では大声をあげたりすることがほとんどなかった物静かな成瀬監督も、
 気に入らないことがある時には激しく感情をぶつける方なんだとわかります。
 江戸っ子の成瀬監督なので(小津監督にも似たような資質があると思いますが)、
 まるで落語に出てくる腕に自信のある職人のような雰囲気です。

 呉さんと川本さんのトークショーの中にもう一つ、ロケ地の伊香保の階段のことが語られています。
富岡(森雅之)とおせい(岡田茉莉子)、富岡とゆき子(高峰秀子)が温泉に行くときに使う階段
が撮影所に作ったオープンセット(美術:中古智)であることについてです。
 これは「成瀬巳喜男の設計」(中古智/蓮實重彦著:筑摩書房)の中にも書かれていますが
映画を観ればわかるように、伊香保の実景も出てきますし、ロケ地のスチール写真を見ると
獅子舞のシーンは、伊香保の有名な階段のところで撮影していることは間違いないので
正確には伊香保でのロケーションと、オープンセットの階段の2つを合わせているということになります。
「成瀬巳喜男の設計」での中古美術監督の話によると、富岡とおせい、富岡とゆき子の有名な風呂のシーンは、
伊香保ではなく伊豆の湯ヶ島の温泉で撮影されているようです。
 伊香保には行ったのだけれど、成瀬監督のイメージにあった風呂が無かったということなんでしょうね。

*YouTube『浮雲』4Kデジタルリマスター版の上映を記念したトークショー動画(約25分)


トップページへ戻る


NEW 2017.4.28 映画監督・成瀬巳喜男 初期傑作選(神保町シアター)

 トップページで紹介していますが、明日4/29から5/12まで神保町シアターで初期作品10本が上映されます。
小津映画と異なり成瀬映画はDVD化されているものが少ないので、未見の人には貴重な機会です。
初期作品のいくつかはユーチューブにもアップされていますが、やはりスクリーンの方が感動が深いです。
 10作品は作品評やロケ地紹介でも触れていますが、いくつかの作品の見どころを短く以下に。
順番はおススメ順

・『旅役者』: 
  愛称「アーノネのオッサン」の喜劇役者・高勢実乗が、コメディタッチの演技を一切せず
  座長を真面目に演じているのがとてもいい。これも成瀬演出だ。余韻を残して終わるラストが本当に素晴らしい。
  清水宏監督得意の「ほのぼの映画」の雰囲気もある。
  書籍「市川崑の映画たち」(市川崑/森遊机著 ワイズ出版)のP388には、市川監督自身の
  言葉として、『旅役者』のタイトル、スタッフ、キャストの文字は、自分が書かせてもらい
  自信作だと話している。味のある独特の字体で、映画ののどかな雰囲気にピッタリである。

・『妻よ薔薇のやうに』:
  冒頭の丸の内のOL・千葉早智子のモガ(モダンガール)ぶりが凄い。特にネクタイと帽子。
  中盤、原っぱの横の道で円タクを止めるシーン。当時の新作洋画であるフランク・キャプラ『或る夜の出来事』
  に登場するヒッチハイクシーンのパロディである。ロケ地ページに紹介しているが、あの原っぱは東京・青山である!

・『女人哀愁』:
  冒頭、見合結婚前の入江たか子にいとこ・佐伯秀男から電話がある。
  その後、入江の見合い相手の北沢彪と妹・沢蘭子のシーンに移り、
  入江と佐伯が日比谷公園を歩いて会話するシーンとなる。
  編集のテンポの良さと、会話の中の「軽薄」という言葉をシニカルに表現した演出の上手さ。

・『鶴八鶴次郎』:
  成瀬映画の芸道ものを代表する傑作。長谷川一夫、山田五十鈴コンビは息もぴったり。
  箱根・芦ノ湖の夕暮れシーンの長谷川、山田の動きのショット展開と光のコントラストの表現の美しさに唸る!

・『歌行燈』:
  『鶴八鶴次郎』と並ぶ成瀬芸道ものの傑作。
  早朝の森、朝靄の中での舞の稽古(花柳章太郎、山田五十鈴)の幻想的なシーンが印象的。
  キャメラワークが凄い。

・『噂の娘』:
  中盤、千葉早智子の見合いの後、千葉、妹・梅園龍子、叔父・藤原釜足の3人が歩き、立ち止まって会話をする橋。
  今は無い深川の一木橋、丸太橋。貴重な映像だ。
  藤原が兄・御橋公に電話して話す。「今の若い人(姪の千葉、梅園)のやることはスピードがあってわからないですよ」
  まるで現代劇に出てきそうな台詞。とても昭和10年の映画の台詞とは思えない!

その他、『生さぬ仲』『限りなき舗道』『サーカス五人組』『乙女ごころ三人姉妹』は作品評を参照。


トップページへ戻る


NEW 2017.4.19 成瀬映画での人物の配置と動き

 私が最初に成瀬映画を観たのはテレビ放送された『めし』で、確か1987~88年頃だったと記憶しているので
成瀬映画を観始めてかれこれ30年くらいになります。
 それだけ長く観続けてきた私が今成瀬映画で最も魅力に感じるのが、「人物の配置と動き」です。
 
 例えば、昨日NHKBSプレミアムで放送された『山の音』。
私は以前日本映画専門チャンネルで放送されたニュープリント版の録画DVDを
保有しているので久しぶりに(何回目覚えてないほど観ていますが)DVDで観ました。

 ラストの新宿御苑での義父・山村聰と嫁・原節子の屋外シーン。
電話で原節子から呼び出された山村聰が画面の奥から手前に向かって歩いてくる。
ベンチに座っている原節子。
挨拶をかわして、成瀬映画によくある台詞「少し歩こうか」を山村聰が言って
二人は並んでゆっくりと歩き出します。
 フランス式整形庭園のプラタナスの並木道で、ここは現在も映画当時の雰囲気が味わえます。

 会話をしながらしばらく歩くと二人は立ち止まり、山村聰はベンチに腰掛け、
「菊子(=原節子)も座らないか」と声をかけます。
 原節子はうなづいてベンチに向かってゆっくりと歩きますが、ベンチの手前で
立ち止まりベンチには座りません。
 小津映画だと間違いなくベンチに座り、そこで二人の会話のカット(ショット)バックがあるところです。
 
 二人の会話は、原節子が夫の上原謙と別れるというシリアスな内容で、原節子は涙を見せます。
 立っている原節子とベンチに座っている山村聰の会話の後、立ち上がった山村聰が原節子に
近寄り、ゆっくりと歩きながら原節子に話をします。
 山村聰がベンチから立ち上がるところは見せず、それは原節子の視線で表現されます。
 山村聰は再びベンチに座り、最後は原節子が泣き崩れるようにして、ベンチに半身になって座ります。
この原節子のベンチへ座り込む角度も絶妙です。

 その後、二人はまた歩き出し、有名な「ビスタ」についての会話で終わります。

 これを実際の映画で緻密に組み立てられたショット展開で観ていくと、
二人の配置、左右への微妙な動きなどが実にスリリングに感じられます。
二人の動きとベンチの使い方も職人技としか言いようがありません。

 会話の内容は少し深刻だとしても、二人の人物が昼間の公園で会話をしているだけの平凡な場面が
何故これほどスリリングに感じられるのか? これが成瀬演出の魅力の秘密のような気がします。
 これは屋外シーンに限らず、室内シーンでも同様です。

 現代の日本映画と比べるのは酷ですが、
成瀬映画のように人物の配置と動きのリズムだけでもうっとりとさせてくれるような
映画は皆無です。

 それにしてもこの場面での原節子は本当に美しい。

トップページへ戻る


NEW 2017.3.5 貴重な上映『浦島太郎の後裔』

 トップページに情報を掲載済みですが、「ラピュタ阿佐ヶ谷」の「松山善三-高峰秀子特集」の中で
本日3/5から3/7まで12:40から成瀬映画『浦島太郎の後裔』(1946 東宝 白黒 83分)が上映されます。
 この映画については本HPの作品評にも書きましたが、成瀬映画の中で最大の異色作と言っていいでしょう。
さらに言い換えれば「成瀬映画ファン」から「成瀬映画マニア」になるのに必須の作品ではないかと!!
 
 もちろんDVD化(ビデオ化)はされたことがなく、今後もまず無いでしょう。
私は以前「日本映画専門チャンネル」で放送された成瀬巳喜男劇場の中で観て、録画DVDも保有しています。
昨年5月-6月の新文芸坐での31作品の成瀬特集でも上映されることはなく、
めったに観ることのできない貴重な作品であることは間違いないです。

 戦後まもない時期の民主主義を啓蒙した風刺劇ですが、一般的な成瀬映画のイメージとはかけ離れています。
現在午前十時の映画祭で上映されている『浮雲』(これも成瀬映画の作風からは代表作ではなく異色作なのですが)
と本作をもし続けて観れば、とても同じ監督の作品とは思えないでしょう。

 本作は成瀬監督の低迷期(確かに戦後の数年は低迷期かと)の中の失敗作の一本というのが一般的な評価で、
基本的には私もそう思います。

 ただ本作にもいくつか魅力があります。

・何といっても、準主役の20歳~21歳くらいの高峰秀子が美しいこと。本当に綺麗です!
・雑誌記者役・高峰秀子の上司の女編集長には名優の杉村春子。その他菅井一郎、宮口精二、中村伸郎といった
 名脇役が出演しています。
・いわゆる「ポピュリズム
を風刺している本作ですが、昨今の政治の世界を彷彿とさせ、
 現代にも通ずるテーマ性もあるかと。
・屋外のロケーションシーンもあり、焼け跡状態の昭和21年の東京の風景も貴重です。

 それにしても、主役の藤田進の奇妙な叫び声は、何度観ても(聴いても)苦笑してしまいます。
とにかく不気味な叫び声で。

 成瀬映画の中で、登場人物の声(または唄)に苦笑してしまうのは、本作の藤田進と
『桃中軒雲右衛門』(1936 PCL)の浪曲名人・雲右衛門役の月形龍之介の浪花節が
双璧です。

トップページへ戻る


NEW 2017.3.1 原節子と成瀬監督の笑顔写真

 昨日、書店で見かけた別冊宝島「日本の女優100人」という本。
原節子のパートを見ていたら、とても珍しい写真がありました。
私は、成瀬映画関連の写真はかなり見ていますし、また成瀬映画のスチール写真や
撮影合間のいわゆるオフショット写真なども結構多く持っているのですが、
この本に掲載された原節子と成瀬監督の写真は初めて見るものでした。

 写真は、クレジットによると『娘・妻・母』(1960)の撮影前のリハーサル時。
左から原節子、子役の松岡高史(映画では長男役・森雅之と妻・高峰秀子の息子)、
そして右側に成瀬監督が。
 台詞の練習のようで、当時の大きなオープンリールのテープレコーダーも
写っています。
 この写真の原節子は、小津映画によく見られるはにかんだような笑顔ではなく、
本当に口を開けて大笑いしています。そして成瀬監督も笑顔で。
 実に珍しく、かつとてもいい写真です。
 子役が一緒のリハーサルのリラックスした雰囲気が伝わってくるような。
 写真から推察すると、おそらく子役の男の子が何か可愛らしいことでも言ったのでしょう。
2/15に発売されたばかりの本(本体880円+税)なので大きな書店の映画コーナーに並んでいると思います。

 高峰秀子のパートにも、『娘・妻・母』撮影時の写真や撮影所で高峰秀子と成瀬監督が談笑している
写真(これも初めて見ました)がありました。

 成瀬監督は「ヤルセナキオ」という渾名のように、厳しい表情をしている写真
が多いような印象がありますが、実は撮影時のリハーサルやプライベートなどの写真
では笑顔の写真もたくさんあります。
 私も何枚か持っているのですが、成瀬監督の笑顔の表情は何とも言えない優しさに満ちていて、
「ヤルセナキオ」という渾名がいかに間違っているかがわかります。
 これはもちろん写真だけの話ではなく、成瀬映画の中に多い上品なユーモアやラストに少し希望を
感じさせる成瀬映画の特徴から言えることです。
 その点で、ほとんど笑える所が無い『浮雲』は日本映画を代表する名作の1本ではありますが、
数多い成瀬映画の中では代表作ではなく実は異色作なんですね。
 現存している69本の成瀬映画をすべて観ている者としてそう断言できます。

 それにしても本に掲載されている写真の原節子と成瀬監督がなんで笑っているのか気になります。

トップページへ戻る


NEW 2017.2.26 成瀬映画とオリジナルシナリオ

 現在BS日本映画専門チャンネルで放送されている「山田太一劇場」。
私はこの2年ほど山田太一さんの書かれたシナリオのテレビドラマにかなりはまっています。
若い頃からあまりテレビドラマを観る習慣がなかったので、現在放送されている『想い出づくり』も初めて観るドラマです。
2話くらいでどうしても早く先が知りたく、近所の図書館にあったシナリオ本を借りて一気に読んでしまったのですが
放送も毎回楽しみにしています。傑作ドラマです。
 山田太一さんは、いろいろなインタビューで「ある時期から原作ものではなくオリジナルシナリオにこだわって書いている」
と語っています。
 「最近の日本映画やテレビドラマは、「マンガ」「小説」の原作ものが多くてオリジナルシナリオがあまりに少ないのでは」
とも指摘されていました。

 もうすぐ開催のアカデミー賞でも「脚本賞」と「脚色賞」に分かれています。
今年のアカデミー賞最有力候補の『LA LA LAND(ラ・ラ・ランド)』も監督のデイミアン・チャゼルによる
オリジナルシナリオです。私は公開初日の2/24に観てきましたが、脚本も含めて素晴らしい映画でした。

 そこで、「成瀬映画におけるオリジナルシナリオはどんなものがあるか?」と興味を持ちました。
とりあえず戦後1945年から1967年『乱れ雲』(遺作)までを調べてみました。
 以下がオリジナルシナリオの成瀬映画です。タイトルと脚本家名を記述します。

・『浦島太郎の後裔』(1946) 八木隆一郎
・『俺もお前も』(1946) 成瀬巳喜男
・『春の目ざめ』(1947) 八住利雄、成瀬巳喜男
・『四つの恋の物語(第二話「別れも愉し」)(1947) 小国英雄
・『白い野獣』(1950)  西亀元貞、成瀬巳喜男
・『おかあさん』(1952) 水木洋子 *全国の小学生から募集した綴方集「あかあさん」が元
・『夫婦』(1953)  水木洋子、井手俊郎
・『妻の心』(1956) 井手俊郎
・『女が階段を上る時』(1960) 菊島隆三
・『娘・妻・母』(1960) 井手俊郎、松山善三
・『夜の流れ』(1960) 井手俊郎、松山善三 *川島雄三との共同監督
・『秋立ちぬ』(1960) 笠原良三
・『妻として女として』(1961) 井手俊郎、松山善三
・『女の座』(1962) 井手俊郎、松山善三
・『女の歴史』(1963) 笠原良三
・『乱れる』(1964) 松山善三
・『ひき逃げ』(1966)松山善三
・『乱れ雲』(1967) 山田信夫

とりあえず戦後編は以上で、41作品のうちオリジナルシナリオは18作品となります。

 成瀬映画というと一般的には林芙美子、川端康成、室生犀星、石坂洋次郎などの原作もの、
いわゆる「文芸映画」が多いという認識ですが、意外にもオリジナル・シナリオの作品も結構
多いことがわかります。
 特に1960年代。オリジナルシナリオは10作品あり、原作のある作品は『放浪記』(1962)(原作=林芙美子、脚色=水木洋子)と
先日NHKBSでドラマ化された『女の中にいる他人』(1966)(原作=エドワード・アタイヤ、脚色=井手俊郎)の2作品のみです。
 1960年代の成瀬映画は、正にオリジナルシナリオの時期と言えます。
特に、井手俊郎、松山善三、笠原良三などの脚本家の貢献が大です。
 もちろん原作ものでもオリジナルでも、それを素材にいい映画が作られればいいわけですが、
私はシナリオを読むのが趣味の一つなので、やはりオリジナルシナリオの方に魅かれてしまいます。

 山田太一さんは、松竹の助監督時代に、主に木下恵介監督の助監督をされていたので
エッセーやインタビューでは、木下監督、そして小津監督、黒澤監督などについての
コメントが多く、私も大部分は読んでいると思うのですが、成瀬監督に対する評価をあまり読んだことがありません。
 確かテレビ番組で『浮雲』についてだけは「凄い映画だ」とコメントしていたように記憶しています。

 山田太一さんの書かれたテレビドラマの作風からすると、成瀬映画はお好きだと勝手に推察するのですが。

トップページへ戻る


NEW 2017.2.9 成瀬映画『くちづけ』でのエピソード紹介

 テレビ朝日で放送されている長寿番組「徹子の部屋」の2/6の「昭和の大スター特集」に高峰秀子がVTRで登場していました。
私は録画して後で見たのですが、VTRを見た後にスタジオで想い出話をする、黒柳徹子さんとゲストの中村メイコさんのお二人が語る
高峰秀子の話の中で、中村メイコさんがまさかの成瀬映画に関する面白いエピソードを話していたので簡単に紹介します。
私も初めて聴く話でした。
 
 中村メイコさんは
・『愉しき哉人生』(1944)
・『くちづけ オムニバスの第三話・女同士』(1955)
と2本の成瀬映画に出演されていますが、
『くちづけ』では医師の上原謙、その妻・高峰秀子、看護婦の中村メイコの役柄で共演しています。
30分くらいの小品です。

 スタジオでは、黒柳さんが「高峰秀子さんがおもしろい方だった」と話した後
メイコさんは次のような話をしました。

・私は上原謙さんと高峰秀子さんと以前撮影でご一緒したことがある
・成瀬さんという名監督の映画で、怖い監督さんなんだけど
・成瀬監督が「上原君、なんかさまにならないんで、しゃがんでいこう。
 上原君、しゃがんでくれたまえ」と演出をされた
・それを聞いた高峰さんは、小さい声で私の耳元で
 「次は、しゃがみ上原、しゃがみ上原」とおっしゃって
・東宝は世田谷にあって小田急線があるのでみんな駅のアナウンスに耳慣れていた

 成瀬監督の撮影現場は、小津監督と同じように物音ひとつしない静けさだったので
とても緊張したと出演した俳優やスタッフの多くの方が証言されていますが、
さすが、高峰秀子!と感心しました。そしてこの語呂あわせはなかなかのものです。
 小田急線の駅をご存知の方には言うまでもないですが、
小田急線には「代々木上原」と「相模大野」という駅があります。
 ちなみに『浮雲』の冒頭で森雅之の家を訪ねる高峰秀子のシーンでは
表札の住所が「代々木上原」になっています。

 三話オムニバス(第一話・くちづけ=筧正典監督、第二話・霧の中の少女=鈴木英夫監督)の『くちづけ』は、
三話ともほのぼのとした軽いタッチのラブコメディで私はとても好きな映画です。
 特に、第三話・女同士は、成瀬監督が肩の力を抜いて楽しそうに演出している感じが伝わってきます。
残念ながら未DVD化です。

トップページへ戻る


NEW 2017.2.5 映画『それから』再見

 先日、久しぶりにDVDで森田芳光監督『それから』(1985年 東映)を観ました。
原作は夏目漱石、脚本は筒井ともみ。キャストは松田優作、藤谷美和子、小林薫、草笛光子、中村嘉津雄、笠智衆など。
 1985年のキネマ旬報ベストワンの名作です。

 本作はもちろん「文芸映画」ですが、「恋愛映画」といってもいいでしょう。
恋愛映画の名作としては成瀬映画にも『浮雲』『乱れる』『乱れ雲』等があります。
また、最近の日本映画でもマンガ原作で若手の俳優が起用されるものには「恋愛映画」が
多いようです。

 私は本作を封切当時に観てその時もとても感動したのですが、今回改めてDVDで観て、
当時の感動がよみがえってきました。
 私にとっては数多い日本映画の「恋愛映画」の中ではナンバーワンかもしれません。

 感情移入してしまう要素はたくさんあるのですが、まずはあのテーマ曲。
これも日本映画の音楽の中ではベスト3に入るくらいの名曲ではないかと。
音楽は梅林茂。

 主人公 長井代助役の松田優作はもちろん素敵だし、兄役・中村嘉津雄(マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』
でも後半に僧侶の役で出ていました)、義姉・草笛光子、代助の親友で三千代(藤谷美和子)の夫・平岡役の小林薫、そして
代助の父親役の笠智衆など、芸達者な豪華キャストです。
『沈黙-サイレンス-』の演技が評価されているイッセー尾形も代助の友人役で出ています。若い!
 1985年の作品でも、現在の日本映画の俳優とはやはり重みが違います。

 何といっても素晴らしいのは三千代役の藤谷美和子です。
テレビの青春ものやTVCMでコミカルな役どころの多かった藤谷美和子が、本作で見せる憂いを含んだ表情と仕草は
封切当時も驚きましたが、30年以上経った今観ても新鮮でした。撮影当時、彼女はまだ22歳くらいのはずです。

 松田優作が親友の妻である藤谷美和子に愛を打ち明けるシーンは、表は雨が降っている中、
和室の真ん中に百合の花が置かれ、正確に何分かわかりませんが、5分以上はあるワンシーンワンカット
の名場面です。
 これは原作でも最も緊迫感溢れる場面なのですが、本作で藤谷美和子が最後に静かに、しかし力強く
放つ「仕様がない。覚悟を極めましょう」の台詞。今回も観ていてぞくぞくとしました。
成瀬映画「恋愛もの」における高峰秀子や司葉子の台詞のような感じを受けました。
 二人の演技、森田監督の演出、撮影、照明などのスタッフワークが見事に融合した名シーンです。

 前半、父親役の笠智衆と松田優作が二人で会話するシーン。
少しローアングル気味に、いわば小津調に撮影しているように感じたのですが
これは私の錯覚かもしれません。森田監督ならいかにもやりそうですが。

 私はどんな映画でも「説明的」だったり「くどい」展開のラストシーンは嫌いなのですが、
本作は風の中を歩いていく松田優作の姿、それも意図的にだと思いますが帽子をかぶらせて
松田優作の表情が見えないように撮影されていて、とても洒落た演出だと感心しました。
 
 森田芳光監督は後年、リメイク版『椿三十郎』のような駄作もいくつかあるのですが、
私は代表作『家族ゲーム』よりも『それから』が森田芳光監督の最高傑作だと再認識しました。

 未見の方には絶対におすすめします。TSUTAYA等でレンタル可能です。
どこかで上映されたらまたスクリーンで観てみたいと思います。

 洋画の恋愛ものでは年代的に『小さな恋のメロディ』(1971 イギリス映画)と『個人教授』(1968 フランス映画)
の2本が何といっても想い出深い作品なのです。

トップページへ戻る


NEW 2017.1.21 ミステリー映画とサスペンス映画

 ミステリーとサスペンスの違いは何か?これはネット検索するといくつか出てきますが、
私はこれまであまり意識しないで使用していました。
 考えるきっかけは昨年12月に映画『ヒッチコック/トリュフォー』を観たからです。
正確な言葉は忘れましたが、ヒッチコックは自分の映画の特徴は「サスペンス」と強調していたように思います。

 ネットに書かれていることも参考にして自分なりに解釈すると、
・ミステリーは「謎解き」であり、謎(例えば犯人)は最後にわかる。
・サスペンスは「不安定感」であり、観客は状況(例えば犯人)を知っていて、それを知らない登場人物の行動に
 はらはらドキドキする。

 そう考えると、謎解きが中心となるミステリー映画は洋画、邦画とも数多くあります。
市川崑監督の金田一耕助シリーズなどは正にミステリー映画の典型です。
全編サスペンス映画は、それほど多くないように思います。やはり代表はヒッチコック映画でしょう。
ルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』もサスペンス映画の傑作だと思います。社長殺しの犯人は最初に観客に知らされます。
 邦画だと松本清張原作、橋本忍脚本、堀川弘通監督『黒い画集 あるサラリーマンの証言』もサスペンス映画の傑作です。
 ただしサスペンスというのは映画の中のあるシーンの演出の一つとも考えられるので、ミステリー映画はもちろん、
アクション映画や恋愛映画にも、サスペンスシーンは多い。

 ヒッチコック映画はサスペンスの要素に溢れているのですが、ぱっと思い浮かぶのは
・『裏窓』:グレイス・ケリーが殺人容疑者のアパートの部屋に忍び込んで、そこに容疑者のレイモンド・バー
      が帰って来るシーン
・『海外特派員』:主人公の記者のジョエル・マクリ―が、私立探偵のエドマンド・グウェン(記者を殺す命令を下されている)
         に無理矢理ロンドンの大聖堂に連れていかれ、展望台から落とされようとするシーン
 などです。他にも沢山ありますが。
         
 サスペンスシーンが多く入ってる映画は、例えば『大脱走』などの脱走もの、『オーシャンズ11』『ミニミニ大作戦』
『トプカピ』のような強奪もの、それからスパイものなどが挙げられます。
 最近の映画では、ロバート・ゼメキス監督『ザ・ウォーク』が映像的にハラハラさせられました。
 ヒッチコック映画にも多いですが、高所というのはそれだけでサスペンス効果満点です。

 さて成瀬映画に話を移すと、『女の中にいる他人』は正にサスペンス映画でしょう。
心理サスペンスと言われているようですが。
 成瀬映画は、小津映画と比較すると幅広いジャンルがあるのですが、基本的には家庭劇が
多いのは今更言うまでもありません。
 しかし、成瀬監督は日常生活の描写の中に、サスペンスを感じさせる演出が多いように感じます。

 いくつか例を挙げれば
・『妻の心』:散歩の途中で雨宿りをしている公園の休憩所での高峰秀子と三船敏郎。
       成瀬監督の最も得意とする視線の交錯の演出。
       独身の三船が人妻の高峰に告白してしまうのかと観客はドキドキする。
・『女の中にいる他人』:葬儀場の待合室での草笛光子がちらちらと小林桂樹に投げかける視線。
・『めし』:クラス会から帰って来た原節子が、ちゃぶ台の上に乗っている2つの紅茶のカップを見る
・『乱れる』:清水から山形までの列車の中の義姉・高峰秀子と加山雄三が時間経緯で少しずつ近づいていく
 など

 成瀬映画のサスペンスシーンは、やはり男女の恋愛心理に関連したものが多いですが、
多くの作品に登場する「交通事故での死亡が電話で知らされる」のもサスペンスを感じます。

 成瀬監督には『女の中にいる他人』以外でもう一本くらいサスペンス映画を撮ってほしかったと
思います。

トップページへ戻る


NEW 2016.12.27 映画『女の中にいる他人』について


 トップページに紹介しているように、来年1/8(日)から、NHKBSプレミアムにて
ドラマ『女の中にいる他人』が放送されます。全7回。
 本HPを始めてから随分と経ちますが、成瀬映画に関連したテレビドラマというのは今回が
初めてだと思います。私は未見ですが、昔は『乱れ雲』は何回かテレビドラマになったようです。
 映画の新珠三千代の役は瀬戸朝香。私は彼女は映画『とらばいゆ』での演技が大好きでしたので
その点はいいキャスティングだなと。クールな感じも本作にあっているかと。

 成瀬映画『女の中にいる他人』を久しぶりに観ました。
本作は、これまでスクリーンやDVD等で10回くらいは観ていると思いますが、
私の中では観るたびに評価が高まっていく1本です。
 少し前に書いたマイ成瀬映画ベスト69では第6位です。

 作品評も書いていますが、今回気になった点をいくつか。

*冒頭、小林桂樹がビールのジョッキを飲んでいて、外から三橋達也が見つけて入って来る、喫茶店のような店。
 後で、鎌倉の二人の行きつけの「並木」というバーに、三橋達也の妻・若林映子のアパートでの事故
 の電話があった時に、三橋達也は「そのアパートは赤坂・丹後町とか。確かさっき君と会った店も丹後町だった」
 といった内容を話します。
 疑問なのは、何故小林桂樹が事故(実際は殺人事件)の起きた場所の近くでビールを飲んでいたのか。
 普通は事件現場から離れた場所を選ぶと思うのですが。

*現代の映画やドラマと違うのは、当時の黒電話が頻繁に登場すること。
 電話がかかってくるたびに、小林桂樹がドキッとしたりする表情も何回かあります。
 成瀬映画では電話がかかってくると、「交通事故など不幸な事件を知らせる」ことが
 実に多いのですが、本作で電話が鳴る回数は一番多いかもしれません。

*ノイローゼ気味になった小林桂樹が静養に出かけた温泉地。
 その後、妻の新珠三千代も合流し、トンネルでの告白のシーンに至ります。
 この温泉地は、本HPロケ地写真でも紹介していますが、福島県の「会津 芦ノ牧(あしのまき)温泉」です。
 このロケ地を知ったのは、書籍「成瀬巳喜男の設計」(中古智/蓮實重彦 筑摩書房)のP260で本作の美術監督の
 中古さんが場所について語っていたのを読んだからです。この本にはロケハンしている成瀬監督やスタッフの写真
 も掲載されています。
 日本にいくつ温泉地があるかは知りませんが、この温泉地は全国的にそれほどメジャーな温泉地ではないです。
 よくぞ本作の雰囲気にあったひなびた温泉地を発見したものと感心します。
 私が行ったのは15年くらい前の冬でしたので、雪が多くて歩くのも大変でした。映画と同じ夏の時期にまた行きたいものです。
 本作で小林桂樹は鎌倉の家に住んでいます。
 映画は場面転換であっという間に別の場所に行けますが、リアルにもし実際に行く場合のことを考えてみると。
 便利な「乗り換え案内」で鎌倉→芦ノ牧温泉で検索してみると、
 鎌倉→戸塚→東京→(新幹線)郡山→(磐越西線)会津若松→(会津鉄道)芦ノ牧
 で4時間37分(乗車3時間36分)です。東京から郡山は新幹線なので1時間18分で着きますが、
 撮影当時の1965-66年はもちろん東北新幹線はありませんので、+2時間くらいかかったのではないかと。
 現在でもかなり時間がかかります。
 ただし、あの告白するトンネルは、やはり本HPのロケ写真に掲載済みの東京・奥多摩「御岳」にあるトンネルです。
 おそらく現存しているかと。
 現在の映画やテレビドラマで、ロケ地として温泉地やホテル・旅館が出る場合には、タイアップの意味からも
 まず全景を映し、そこに「・・・・温泉」とクレジットがでるのが普通ですが、
 本作では温泉地のモノクロ写真が映り、それを見ている小林桂樹の姿、そこは温泉の脱衣所と徐々に
 わかっていくのですが、成瀬監督の演出は渋くていいですね。

*前半のシーンは「雨」が多く、少し憂鬱な気分になるのも効果を上げています。
 そして映像。映画はよく光と影と言われますが、本作のモノクロスタンダードは1ショットごとに
 光と影が鮮明に迫ってきます。複数の人物の置き方、部屋の中の移動など構図や動きも細かいところまで
 考え抜かれていて本当に素晴らしい。
 撮影監督・福沢康道、照明・石井長四郎という名スタッフの仕事でもあります。

*本作は小林桂樹、新珠三千代、三橋達也、若林映子などみんないいのですが、
 特に若林映子の友人役・草笛光子の演技が光ります。
 火葬場での、草笛光子と新珠三千代、小林桂樹との視線の交錯のシーンは、これぞ成瀬演出
 といってよい名シーンでしょう。正に「心理サスペンス」!

 テレビドラマの公式HPを見ると、映画の登場人物+@のようなのでどんな展開になるか楽しみです。


トップページへ戻る


NEW 2016.12.13 『ヒッチコック/トリュフォー』

 映画ファンの間で話題になっている『ヒッチコック/トリュフォー』を観てきました。
ヒッチコック映画は、サイレント時代のものはほとんど観たことがなく、
トーキー以降の作品は数えたら24作品くらいしか観てません。それでも多い方かもしれませんが。

 一応ヒッチコック映画のファンですので、ヒッチコックとトリュフォーの肉声による
インタビューのやり取りと現代の10人の監督が語るヒッチコック映画の内容をとても
興味深く観ました。

 映画を観ながら考えたことは、成瀬映画のことです。
本エッセイの2010.5.5にも書いているのですが、新たに少しまとめてみます。

 要はヒッチコック映画と成瀬映画には共通点が多いのではないか?という点。

以下その理由を。

(1)人物の視線のやり取りが重要
   前述のエッセイにも書きましたが、成瀬映画の最大の特徴の一つは「人物の視線の交錯」
  にありますが、ヒッチコック映画も人物の視線を多用し、心理効果を上げるポイントの一つ
  になっていると思います。

(2)サイレント映画
   二人ともサイレント映画を数多く撮っている点。
  この二人の監督に限りませんが、サイレント映画からスタートした
  映画監督は、何よりも「映像」で何かを表現することを重視しているように感じます。
  もちろん小津監督も。要は説明的な台詞を排除しているかと。

(3)皮肉っぽいユーモア感覚
   英国人であるヒッチコックは、いわゆる英国人特有のシニカルさを兼ね備えていて
  それが多少ブラックユーモアのような形で映画に出てきます。
  確か晩年の『フレンジー』だったと記憶していますが、警部が帰宅してその日あった
  絞殺事件の話をしている夕食の時間、奥さんがそんなことはお構いなしに、鶏料理を
  食べていて、骨のパキっという音を聞いて警部が食欲を無くすシーンがあったかと。
   成瀬監督にも、江戸っ子独特の「シャイな」部分なのでしょうが
  ブラックユーモアに近いシーンを入れることがあります。
   成瀬映画の中で、題材的にも最もヒッチコック映画に近い『女の中にいる他人』では
  突然、男が女を絞殺するシーンが登場しますが、それは田代(小林桂樹)の母(長岡輝子)が
  見ていたテレビドラマのワンシーンであることがわかります。田代の起こした事件と関連しているわけなので
  観客は一瞬ドキッとし、「なあんだ」という展開に。
   両監督とも俳優たちと少し距離を置いて、客観的で冷徹な視線で演出していたのではないか。
  ヒッチコックが『山羊座のもとで』撮影時に、演技に神経質になっていたイングリッド・バーグマン
  に言ったという「イングリッド、たかが映画じゃないか」という有名な言葉と、
  高峰秀子が『あらくれ』の撮影前に、成瀬監督に演技プランのようなことを相談した時に
  「撮っているうちに終わっちゃうでしょう」と言ったという言葉は、どこか共通しているように思えます。

(4)美しい女優たち
   『ヒッチコック/トリュフォー』を観て、あらためてヒッチコック映画には美しい女優たちが
  多いとため息をつきました。
   イングリッド・バーグマン、グレイス・ケリー、キム・ノヴァック、エヴァ・マリー・セイント、
  ジャネット・リーなど。
   もちろん成瀬映画にも、千葉早智子、山田五十鈴、原節子、高峰秀子、杉葉子、香川京子、草笛光子、
  司葉子、星由里子など。
   成瀬巳喜男が女性映画の巨匠であることは当然として、ヒッチコックも女性の演出が上手いと再認識しました。

(5)職人
   『ヒッチコック/トリュフォー』の中で、どの監督だったかがヒッチコックは映画の職人だと。
  ヒッチコックの映画のテクニックは多く研究されていますが、実は成瀬監督も正に職人的な映画テクニック
  を駆使したことは研究者の私が断言します。

  二人の監督がまったく似ていないところ、それは言うまでもなく「体形」です!

『ヒッチコック/トリュフォー』の公式サイト

トップページへ戻る


NEW 2016.12.9 成瀬映画ベスト69!

 12月は映画に限らず、1年間の順位を決める企画が多いです。
そんな中突然「2016年12月の時点の個人的な好みで成瀬映画の全作品に順位をつけてみよう」
と思い立ったわけです。

 成瀬映画の中には、最初に観たときあまり印象が良くなかったものが、何回か観ているうちに
「傑作だ」と感じる作品がいくつかあります。例えば『おかあさん』は最初に銀座・並木座で観たときは
あまりいいとは思わなかったのですが、今や成瀬映画を代表する1本だと思ってます。

 本HPの作品評は1930年代ベストといった形で年代別に分けて記述していますが、
69本、つまり現在観ることが可能な現存する69本の作品=(私が観ている成瀬映画)に順位付けするのは初めての試みです。
 作品については本HPの作品評を参照してもらうとして、とりあえずタイトルのみで並べてみます。

1位~10位
(1)『驟雨』(しゅうう)
(2)『流れる』(DVD)
(3)『乱れる』(DVD)
(4)『秋立ちぬ』
(5)『山の音』(DVD)
(6)『女の中にいる他人』(DVD)
(7)『まごころ』
(8)『おかあさん』(DVD)
(9)『めし』(DVD)
(10)『娘・妻・母』(DVD)

 1位の『驟雨』と2位の『流れる』については今後も変わらないと断言できるかと。
偶然ですが、両作品とも『浮雲』の翌年の1956(昭和31)年の作品。
 映画としてのクオリティの高さや豪華な女優達の演技から言えば『流れる』がベスト1だと思いますが。
とにかく私は『驟雨』が最も成瀬監督らしい作風であり、成瀬映画の最高傑作だとこれからも主張していきます。
同時に原節子、香川京子、佐野周二、小林桂樹が最高の演技をしている映画でもあります。
名人の落語家の語り口を聴いているような、抑え目で上質なユーモア溢れる台詞や表情を引き出した
成瀬演出の粋と言えます。脚本は水木洋子。
冒頭の叔母=原節子と新婚旅行で夫と喧嘩して帰京した姪=香川京子とのやり取りは、
何度観てもくすくすと笑ってしまい幸福な気持ちで一杯になります。
 このことは以前成瀬監督の関係者の会で数回お会いした香川京子さんご本人にも伝えました。
香川さんご自身も『驟雨』は大好きな映画ですとインタビューなどで語られています。
 亡くなられた小林桂樹さんとは一度だけお会いして1時間くらい横に座ってお話をさせて
いただく機会がありましたが、その時も『驟雨』での小林さんの演技がいかに素敵かを
熱く語ってしまったことを覚えています。
 『驟雨』は以前ビデオ化はされましたが、残念ながらDVD化はされていません。
成瀬映画特集や原節子特集ではわりかし上映されます。
 日本映画専門チャンネルでは以前何回か放送されました。

11位~20位
(11)『乱れ雲』(DVD)
(12)「夫婦』
(13)『晩菊』
(14)『旅役者』
(15)『女の座』
(16)『鰯雲』
(17)『浮雲』(DVD)
(18)『鶴八鶴次郎』
(19)『妻よ薔薇のやうに』(DVD)
(20)『女が階段を上る時』

 『浮雲』は17位でした!

21位~30位
(21)『妻の心』
(22)『くちづけ』(オムニバス 第三話・女同士)
(23)『秀子の車掌さん』
(24)『歌行燈』
(25)『妻』
(26)『はたらく一家』
(27)『石中先生行状記』
(28)『女人哀愁』
(29)『女の歴史』
(30)『放浪記』(DVD)

31位~40位
(31)『あにいもうと』(DVD)
(32)『稲妻』(DVD)
(33)『お国と五平』
(34)『妻として女として』
(35)『噂の娘』
(36)『コタンの口笛』
(37)『浦島太郎の後裔』
(38)『夜の流れ』(川島雄三との共同監督)
(39)『杏っ子』
(40)『あらくれ』

41位~50位
(41)『銀座化粧』(DVD)
(42)『腰弁頑張れ』
(43)『女優と詩人』
(44)『なつかしの顔』
(45)『舞姫』
(46)『芝居道』
(47)『乙女ごころ三人姉妹』
(48)『春の目ざめ』
(49)『三十三間堂通し矢物語』
(50)『禍福(前篇・後篇)』

51位~60位
(51)『愉しき哉人生』
(52)『サーカス五人組』
(53)『ひき逃げ』
(54)『生さぬ仲』
(55)『限りなき舗道』
(56)『母は死なず』
(57)『朝の並木路』
(58)『君と別れて』
(59)『夜ごとの夢』
(60)『薔薇合戦』

61位~69位
(61)『俺もお前も』
(62)『上海の月』(部分的に現存)
(63)『怒りの街』
(64)『雪崩』(黒澤明助監督:成瀬映画はこれ1本)
(65)『勝利の日まで』(部分的に現存)
(66)『桃中軒雲右衛門』
(67)『君と行く路』
(68)『白い野獣』
(69)『四つの恋の物語』(オムニバス 第二話・別れも愉し)

 30位から60位くらいまでは明快な理由があるわけではなく、
作品リストを見ながら、作品を思い出しつつ順位付けした次第。
順位を付けながら成瀬映画に関する個人的な記憶力テストになりました。

 61位以降はどれも×なのですが、とにかく観ていてつらかったのは
個人的にワースト1の『四つの恋の物語』(オムニバス 第二話・別れも愉し)と
ワースト2の『白い野獣』そしてワースト3の『君と行く路』です。
 『四つの恋の物語』は第一話・初恋(豊田四郎監督、黒澤明脚本)、
第三話・恋はやさし(山本嘉次郎監督)、第四話・恋のサーカス(衣笠貞之助監督)
と他の3つはなかなかいいので、第二話のダメさが際立ちます。
 まあ戦後まもない1947(昭和22)年の作品ということで(『白い野獣』は1950(昭和25)年)
低迷期の真っ只中にいたという感じですね。
 私は1951(昭和26)年の『めし』で復活したという論は不正確だと考えていて、
前の年1950(昭和25)年の『石中先生行状記』はかなりいい出来だと思ってます。

 久しぶりに成瀬映画について考えたので疲れました!

トップページへ戻る


NEW 2016.11.30 今年観た日本映画の個人的な順位

 今年もあと1か月の時期になりました。年を重ねてくると1年経つのが本当に早く感じられて!

 今年観た日本映画の個人的な順位を挙げてみます。
新作の日本映画は一応個人的に厳選して観ているので、数は少ないのですが
現時点での私のベスト3を挙げると

1.『湯を沸かすほどの熱い愛』(監督・脚本 中野量太)
2.『この世界の片隅に』(監督・脚本 片渕須直 アニメーション映画)
3.『シン・ゴジラ』(監督・特技監督 樋口真嗣、脚本・編集・総監督 庵野秀明)

 3本とも現在も上映中で、世間の評価も高い。

 『湯を沸かすほどの熱い愛』は第41回報知映画賞で作品、主演女優(宮沢りえ)、助演女優(杉咲花)、
新人(中野量太監督)の4つの賞を受賞しました。今後も各映画賞で賞を取るでしょうね。
キャスト陣の演技もですが、何といっても中野監督オリジナルの脚本が素晴らしい。
また、ダメ男を演じたオダキリジョーがいい。後半はなかなか頼れるカッコいい男になっていくのです。
 
 私はアニメーション映画が苦手なので、有名な作品もほとんど観ていないのですが、
今年は大ヒットした『君の名は。』も一応観に行き、『この世界の片隅に』とあわせて
1年間に2本のアニメーション映画を観たのは過去に記憶がありません。
 同様にファンタジー(実写映画でも)も大の苦手なので、
その点で『君の名は。』は確かに映像はとても綺麗で見やすいのですが、
個人的にまったく感情移入できず、「やっぱりアニメ映画は観るべきではなかった」と反省した次第。、
ところがその後もう1本だけチャレンジしてみた『この世界の片隅に』は◎でした。
これまで観た数少ないアニメーション映画の中で最も感動した作品です。
戦時下の広島・呉の街での日常生活が淡々と描かれる前半は成瀬映画に通ずる要素もあるかと。
後半の空襲シーンは、アニメ映画とは思えないほどのリアルな臨場感があり
なかでも音響効果は迫力満点で、これは映画館でないと体感できないでしょうね。

 次に私の専門分野(笑)である旧作の日本映画。

 名画座等の映画館で観た旧作では、映画館、DVD、テレビ放送も含めて
これ以外にもいろいろと観ていますが個人的なベスト5ということで。

1.『真田風雲録』(1963 東映 加藤泰監督)
2.『青銅の基督』(1955年 松竹京都 渋谷実監督)
3.『悪の紋章』(1964年 東宝 堀川弘通監督)
4.『七人の侍 4Kデジタルリマスター版』(1954年  東宝 黒澤明監督)
5.『慕情の人』(1961 東宝 丸山誠治監督)

 これらの感想はすでに本エッセイに書きましたので省略します。
3の『悪の紋章』は日本映画専門チャンネル(有料放送)の
「蔵出し名画座」の1本として、12/3をはじめ計5回放送されます。

・日本映画専門チャンネル 12月蔵出し名画座 『悪の紋章』

トップページへ戻る


NEW 2016.11.4 『七人の侍』4K版を観賞

 成瀬監督と黒澤監督の作風は対極ですが、東宝の先輩・後輩として非常に親しかったそうです。そこで黒澤映画の話題を。

 名画を毎日1本上映する「午前十時の映画祭7」で上映された『七人の侍』4K版(10/8-11/4)を観てきました。
成瀬映画(現存する69本)と同様に黒澤映画全30本も観ていますので、『七人の侍』もこれまでスクリーンで3-4回、
テレビ放送やDVD等でも5-6回は観ています。
 今回の4K版の映像と音声が凄いというネット等の評判が気になり、久しぶりに大画面で観てきました。

 映像のクリアーさも凄いのですが、私が一番驚いたのは音声のクリアーさです。
『七人の侍』はこれまで音が悪い(一部の台詞は聴き取れない)という欠点が指摘されていましたが
この4K版でその点は解消されていました。
何を言っているかよくわからないと言われていた菊千代(三船敏郎)の台詞もはっきりと聴こえました。
 それでも左ト全の台詞だけは一部正確には聴き取れず、逆に凄いと思った次第。
 

 一番驚いたのは、久蔵(宮口精二)が浪人と八角堂の前の原っぱで決斗するシーン。
過去に観たときは、まったく音がしない緊張感漂うシーンと思っていたのですが
4K版では、かすかに「物売りの声」が聴こえました。これは4K版+スクリーン上映ならではでしょう。
それ以外にも、風や雨の音、旗がたなびく音、鳥や虫の声などもより臨場感を持って聴こえました。
 映像では、勝四郎(木村功)と志乃(津島恵子)の花が咲き乱れる山中でのラブシーンがとても綺麗でした。

 私が観た東宝シネマズ日本橋は220席くらいの中規模サイズでしたが、朝10時の回にもかかわらず
ほぼ満席でした。
 黒澤映画の中では、『七人の侍』と『赤ひげ』の2本は、両方とも3時間半くらいの長さで
途中休憩があるという共通点がありますが、映画が終わった後に一部の観客から拍手が起こるのも
共通しています。今回も拍手が起こっていました。
 
 来年の2/25-3/24には『浮雲』の4K版が上映予定になっています。
『浮雲』もこれまで何回観ているかわかりませんが、4K版での高峰秀子と森雅之は是非観たい!

映画祭HP


NEW 2016.11.10 一部記述追加

 『七人の侍』の俳優たちの成瀬映画出演が気になり調べてみましたので追加します。

一番多いのは何といっても
加東大介。何と18本の成瀬映画に出演してます。
(おかあさん、晩菊、浮雲、驟雨、妻の心、流れる、あらくれ、杏っ子、鰯雲、女が階段を上る時、
 娘・妻・母、秋立ちぬ、女の座、放浪記、女の歴史、女の中にいる他人、ひき逃げ、乱れ雲)

続いて、
志村喬が6本(1本は川島雄三との共同監督の『夜の流れ』)
(芝居道、春の目ざめ、怒りの街、あらくれ、コタンの口笛、夜の流れ)

木村功は3本。『杏っ子』と『鰯雲』は準主役。
(怒りの街、杏っ子、鰯雲)

宮口精二も3本。成瀬映画の中で最大の異色作である『浦島太郎の後裔』の代議士役での出演が渋いです。
(浦島太郎の後裔、流れる、あらくれ)

千秋実は2本。(妻の心、杏っ子)

稲葉義男も2本。(女の中にいる他人、ひき逃げ)

最後に
三船敏郎も2本の成瀬映画に出演しています。(石中先生行状記、妻の心)

三話オムニバス『石中先生行状記」の第三話「干草ぐるまの巻」での岩手の純朴な田舎の青年役の三船敏郎もなかなか魅力的なのですが
特に『七人の侍』の演技と対極にあるのが『妻の心』での地方銀行(ロケ舞台は群馬県・桐生市)の銀行員役。
小林桂樹の妻役の高峰秀子と若い頃にお互い好意を持っていた役柄で、高峰の女学校時代の友人の杉葉子の兄役。
本HPに何度も書いていますが、私は黒澤映画以外の三船敏郎では、何といっても一番好きなのがこの映画の三船敏郎です。
優しくて頼りがいのある、実直な銀行員のスーツ姿の三船敏郎はダンディでかっこいい。
もちろん成瀬監督の演出が素晴らしいということにもなります。
高峰秀子と散策の途中に雨に降られ、雨宿りに立ち寄る公園内の休憩所のような場所での
目線だけのやり取りのシーンは、成瀬映画における雨シーンの中でも屈指の名シーンです。
『妻の心』は未DVDなので残念。
黒澤映画の三船敏郎しか知らない方には、今後上映や放送があったら絶対にオススメ。

上記七人の俳優以外では、農民・万造役の
藤原釜足
15本+3本に出ています。3本は成瀬監督原作の『化粧雪』(石田民三監督)、『そよ風父と共に』(山本薩夫監督)と
成瀬監督製作(共同:藤本真澄)で成瀬監督も1本を監督している『くちづけ』の二話「霧の中の少女」(鈴木英夫監督)。
また、松竹からPCLに移籍したばかりの成瀬監督の昭和10年の5本にすべて出演しているのも凄い。
藤原釜足は一般的には黒澤映画の常連と認識されていますが、実は成瀬映画の常連でもあるのです。前述の加東大介も同様。
脇役が大半ですが、『秀子の車掌さん』と『旅役者』は準主役といってよいでしょう。
(乙女こごろ三人姉妹、女優と詩人、妻よ薔薇のやうに、サーカス五人組、噂の娘、桃中軒雲右衛門、君と行く路、
 鶴八鶴次郎、旅役者、秀子の車掌さん、石中先生行状記・第二話「仲たがいの巻」、お国と五平、夫婦、秋立ちぬ、
 女の歴史)

『七人の侍』出演の女優では島崎雪子は1本、『めし』に出ていますね。
個人的には津島恵子は成瀬映画に出てほしかったなと思っています。

トップページへ戻る


NEW 2016.10.18 書籍「東京映画地図」を読んで

 キネマ旬報にイラストと文章で連載されていたものをまとめた書籍・キネマ旬報ムック「東京映画地図」(宮崎祐治著 キネマ旬報社)を読みました。
私が未見の作品もかなりあり、まとめて読むとなかなか興味深かったのですが、とりあえず関係のある「成瀬映画」のロケ地について
検証しました。

 私の場合は映画の画面写真等を基に、直接現地へ行って写真撮影しているので、明らかにロケ地と特定できることが多いです。
成瀬映画のロケ地について明らかに間違っている記述が2か所ありましたので以下本HPとして訂正しておきます。

(1)P163  渋谷区②代々木 『娘・妻・母』(ラストに三益愛子と笠智衆が孫を連れて散歩する)
   ×代々木大山公園  →  〇赤松公園(世田谷区赤堤)
   
   また同ページの記述「邸宅はこの辺りの設定」というのも間違い。
   映画のラスト近くに、坂西あき(三益愛子)宛に老人ホームからの封筒が届く。
   それを三益愛子の長男・森雅之の妻の高峰秀子が手に取って見る。
   そこには宛先が「世田谷区北沢町(+番地:省略)」と書かれている。
   封筒がアップ画面となるのではっきりと読み取れる。従って邸宅の設定は代々木ではありません
 
(2)P203 荒川区  『女の歴史』(宝田明の出征シーン) ×日暮里駅 → 〇諏方神社(荒川区西日暮里:西日暮里駅に面した高台)

   ここは本HP管理者の小学生時代の遊び場だったので、『娘・妻・母』を初めて観たときにすぐわかりました。
   余談ですが、日暮里に住んでいた昭和の名人落語家・大看板である古今亭志ん生師匠が、よくこの神社で崖の下を通る電車を見ながら
   稽古していたそうです。

(1)(2)とも本HPの成瀬映画ロケ地写真ページに掲載済みなので下記のページリンクを参照願います。(10.19各ページに画面写真を追加しました)

 
 タイトルとは関係ないですが、成瀬映画『女の中にいる他人』が来年の1月からNHKBSプレミアムで、
現代ドラマとしてリメイクされるとのこと。
毎週日曜日22:00から7回。新珠三千代の演じた役は瀬戸朝香。詳細は下記URL参照。

NHKドラマ(BSプレミアム)HP

(1)『娘・妻・母』ロケ地写真ページ

(2)『女の歴史』ロケ地写真ページ

トップページへ戻る


NEW 2016.10.3 市川崑監督『結婚行進曲』(1951 東宝)

 日本映画専門チャンネルで特集放送中の「市川崑劇場」で、10月は『結婚行進曲』(1951)と『ラッキーさん』(1952)が放送されます。

 本HPの中で何度も書いていますが、私は市川崑監督の昭和20年代の東宝時代の、都会的なお洒落なラブコメディ作品が大好きで、
『結婚行進曲』のその幕開けといった作品です。脚本は多くの成瀬映画にも関わった井手俊郎、和田夏十、市川崑。
キャストは上原謙、杉葉子、山根寿子、伊豆肇、沢村貞子など。
 
 本作の特徴は何といっても、聞き取れないほどのスピーディな台詞の応酬。
これは市川監督が日本語のゆったりリズムを一度壊してみたかったという理由で、
俳優たちに「とにかく早くしゃべって」と演出したとのこと(「市川崑の映画たち」(市川崑・森遊机)ワイズ出版)より)
今年大ヒットして現在も上映が続いている『シン・ゴジラ』も早口の台詞が特徴ですが、本作も負けてないです。

 中でもいわゆるマシンガントークの凄いのは、若い営業レディ・カナ子さん役の杉葉子。
今から15年くらい前に、米国在住で日本に帰国された杉葉子さんとお会いして少し話をする機会がありましたが
その時に本作の話をしたところ、「台詞を言う時は横でスタッフがストップウォッチを持っていたのを覚えています」
とのエピソードを話してくれました。
 本作の杉葉子は、綺麗で長身のスタイルの良さも魅力的です。

 上司の中原専務役・上原謙と部下の杉葉子が一緒に映画を観るシーン。そこで観ているのはなんと同年の成瀬映画『めし』です。
二人とも『めし』に出演しているわけですが、
映画館で映っていたのは確か上原謙と原節子の夫婦が東京の食堂でビールを飲むシーンだったかと記憶しています。
 『めし』も『結婚行進曲』も脚本に井手俊郎が関わっていて、プロデューサーが藤本真澄だったので実現できたのでしょうね。
さすがに成瀬監督には『めし』のワンシーンの引用について藤本プロデューサーから一言あったとは思いますが、
その時に成瀬監督はどんな反応したのか興味があります。

 東宝サラリーマンものの原型ともいえる『ラッキーさん』もとても面白い。
小林桂樹がはりきりサラリーマンを演じていて、この映画にも杉葉子が出ています。

 昭和30(1955)年に日活に移籍するまでの約3年間の東宝時代の市川映画はどれも好きなのですが、
『愛人』(1953)、『天晴一番手柄・青春銭形平次』(1953)の2本と今回の『結婚行進曲』の3本が
特に好きな市川作品です。
 後年の『東京オリンピック』(1965)と『幸福』(1981)をあわせた5作品が、
私にとっての市川崑ベスト5です。
 
 来月の11月も同時期の『若い人』(1952)、『足にさわった女』(1952)が放送予定になって
いるので、『愛人』『青春銭形平次』も放送されることと期待しています。

日本映画専門チャンネル 「市川崑劇場」

トップページへ戻る


NEW 2016.9.18 渋谷実監督『青銅の基督』観賞

 現在上映中のラピュタ阿佐ヶ谷・モーニングショー(朝10:30から1回上映)「香川京子特集」の1本の
『青銅の基督』(1955年 松竹京都 渋谷実監督)を観てきました。長興善郎原作、斎藤良輔脚本。
 徳川初期の長崎を舞台にしたキリシタン迫害を描いた時代劇の大作です。渋谷実監督の初の時代劇。
 上映は昨日9/17まで。残念ながら未DVD化です。

 成瀬映画をはじめこれまで数多く観ている香川京子さんの出演作の中で、
特に観たかった未見の1本をやっと観ることが出来ました。
ネット等の情報を読むと昭和30年の封切当時はあまり評価されなかったようですが、傑作です。
 昔の日本映画は本当に隠れた名作がたくさんあると再認識した次第。

 黄金時代の日本映画ですので、出演俳優も豪華です。
キリシタン信仰の娘・モニカ役に香川京子、モニカに求婚している恋人で鋳物師の萩原裕佐役に岡田英次。
成瀬映画『おかあさん』コンビです。モニカの弟・吉三郎役が石浜朗。いまさらですが香川京子の可憐な美しさに圧倒されます。
 ポルトガルから来た宣教師で、奉行所の拷問に耐えられず奉行のスパイに転向したキリシトファ・フェレラ役に滝沢修。
そして、長崎の遊女・君香役に山田五十鈴。本作の山田五十鈴はかなり色っぽいです。翌年が成瀬映画『流れる』。
 その他、三井弘次、信欣三、堺駿二、野添ひとみ、山形勲など。

 キリシタン弾圧の時に使用されたことで有名な「踏み絵」。
紙に描かれたキリスト像がぼろぼろになってしまったことから、「踏み絵」に使用することを明かさずに
奉行の息のかかった孫四郎(信欣三)を通して青銅の鋳物を裕佐(岡田英次)に依頼します。
 裕佐はキリシタンではないのですが、恋人・モニカに見せたいと精魂込めて素晴らしい出来の青銅の基督象を
完成させます。
 
 隠れて信仰をしていたキリシタンたちは結局奉行所に捕まり、最後は裕佐の作った踏み絵の基督像で転向させようと
しますが、モニカをはじめ全員が踏み絵の基督象を手にもって接吻するという行為に出て磔にされ火をかけられます。
 この巨大な処刑場は、愛知県瀬戸市にあった鉱山にセットを建てたロケーションとのことですが、
その広さに圧倒されます。当時の日本映画の勢いを感じさせます。

 全体に悲劇的な映画ですが、タイトルにある青銅の基督を作った裕佐は、キリシタンではないのに
「信仰心の無い者がこれほど見事な基督像を作れるはずからない」という滅茶苦茶な理由で死罪を
言い渡され、処刑所で逃げ惑う際に奉行所の役人に槍を一突きされ絶命します。そんな馬鹿な!
磔状態のままそれを見てしまうモニカ・香川京子の悲しい表情が印象的でした。
 
 本作は、有名な遠藤周作原作の「沈黙」と少し関連しています。
本作で滝沢修が演じたポルトガル人のフェレラ役は実在した人物で、「沈黙」ではクリストヴァン・フェレイラの名前で登場しています。
「沈黙」は篠田正浩監督が1971年に映画『沈黙 SILENCE』を作っていますが、その映画では丹波哲郎が演じています。
原作は読んでいますが、この映画は未見です。
「沈黙」は最近マーティン・スコセッシ監督がハリウッドで映画化し、来年2017年に日本で公開されるようです。
タイトルは『Silence』(邦題は『沈黙-サイレンス-』)。
フェレイラ役は、リーアム・ニーソン(『シンドラーのリスト』『スター・ウォーズ/エピソード1』など)
がクレジットされています。

『青銅の基督』にも多少キリシタン弾圧に関連した拷問シーンが描かれますが、モノクロ画面の松竹映画なので
それほど残虐な表現はないです。
ラストの処刑所のシーンの集団の十字架の磔シーンは迫力がありますが、目を背けるという感じではありません。
 ハリウッド版「沈黙」は遠藤文学のファンとして楽しみな映画なのですが、カラー映画であり、スコセッシ監督は暴力シーンで有名なので
「キリシタンの拷問はリアルに描くのだろう」と思うとバイオレンスシーンが大の苦手な私としては気が重いです。
 日本からは窪塚洋介、浅野忠信、小松菜奈、イッセー尾形、塚本晋也、加瀬亮などが出演しているようです。

 映画『青銅の基督』に戻ると、検索結果としてあるブログに当時のロケーションの貴重な写真が掲載されているのを見つけました。
香川京子、山田五十鈴(二人とも若くて綺麗!)の貴重な写真も。ロケ地は愛知県瀬戸市の陣屋粘土鉱山と記述されています。
写真を見てもかなり大規模なロケーションだったことがわかります。

 「瀬戸ノベルティ文化保存研究会・瀬戸ノベルティ倶楽部」ブログ

トップページへ戻る


NEW 2016.9.3 映画監督・脚本家の松山善三さんがお亡くなりになりました

 映画監督・脚本家そして故・高峰秀子の夫であった松山善三さんが8月27日に老衰のため死去されました。91歳。
成瀬巳喜男監督作品の脚本としては、
・『娘・妻・母』(1960)(井手俊郎共同脚本)
・『夜の流れ』(1960) 共同監督・川島雄三(井手俊郎共同脚本)
・『妻として女として』(1961)(井手俊郎共同脚本)
・『女の座』(1962)(井手俊郎共同脚本)
・『乱れる』(1964)*オリジナルシナリオ(TVドラマ『しぐれ』)
・『ひき逃げ』(1966)*オリジナルシナリオ
と井手俊郎との共同脚本も含めて6作品の脚本を手がけています。

 この中ではやはりオリジナルシナリオの『乱れる』が代表作でしょうし、数多くの成瀬映画の中でも傑作の1本です。
個人的には『娘・妻・母』『女の座』の2本もとても好きな映画です。シナリオの貢献も大きいでしょう。

 今回ネット検索で改めて調べてみると、成瀬映画以外にも数多くの作品の脚本を書かれています。
映画監督作品は数本しか観ておらず、私にとっては松山善三さんは名脚本家というイメージが強いです。
私が観ているものの中で好きな映画としては
・『接吻泥棒』(川島雄三監督 1960)
・『好人好日』(渋谷実監督 1961)
・『二人の息子』(千葉泰樹監督 1961)
・『左利きの狙撃者 東京湾』(野村芳太郎監督 1962 )(多賀祥介共同脚本)
・『最後の審判』(堀川弘通監督 1965)(池田一朗共同脚本)
・『沈丁花』(千葉泰樹監督 1966)
等が挙げられます。
新聞の訃報記事等にはほとんど取り上げられていない作品ですが、どれもオススメです。

 上記をみてもジャンルとしてはホームドラマ、コメディ、ミステリーと幅広いことがわかります。
スタートは松竹の助監督で、木下恵介監督に師事されたので、同じ木下門下の先輩監督・小林正樹監督の
作品の脚本も多いです。代表作は『人間の条件(第一部~第六部)』でしょう。

 成瀬映画に関わった脚本家では、松山善三さんが亡くなられた今、ご存命なのは橋本忍さん一人ではないかと思います。


 ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


NEW 2016.8.29 『真田風雲録』について


 成瀬映画とは関係がないのですが、今年の5月にラピュタ阿佐ヶ谷で観た、
加藤泰監督の時代劇『真田風雲録』について。
 加藤泰監督が山中貞雄監督の甥っ子なのは有名ですが、PCL時代の成瀬監督と山中監督は
親しかったそうです。
 
 この作品は1963年(昭和38年)の東映京都の作品で、原作は福田善之、脚色は福田善之、小野竜之助、神波史男。
主演は猿飛佐助役の中村錦之助。真田十勇士として渡辺美佐子(霧隠才蔵役、色っぽい!)、ジェリー藤尾、常田富士男、
ミッキーカーチス、米倉斉加年など。そして、頼りない感じの真田幸村役に千秋実。
 
 以前テレビで放送されたのを観た記憶がありましたが、今回初めてスクリーンでちゃんと観て
(カラープリント状態も綺麗でした)「なんて面白い時代劇か」と驚いた次第で。

 私は東映の任侠映画が苦手なので、加藤泰監督の作品もあまり好みではないのですが
本作は重苦しい加藤泰作品のイメージとはまったく違う、ミュージカル調でなんでもありの
ぶっ飛んだ時代劇です。
 市川崑監督の『天晴一番手柄 青春銭形平次』(1953 東宝)も相当無茶苦茶なギャグ満載の時代劇
なのですが、本作は個人的にそれに並ぶ面白い時代劇でした。
 両作とも未見の方にはおすすめです。

 基本的なストーリーは「大坂冬の陣」「大坂夏の陣」での戦いなのですが、
ロカビリー調の唄が入ったり、現代的な台詞やスタイリッシュなカメラワークなど
ともかく「かなりふざけた」映画ですが、観終わると何とも言えない哀しみが残る、
そんな映画です。

 私が特に好きなシーンをいくつか挙げると
 
 ・真田幸村と十勇士が、大坂城に向かって唄いながら行進するシーン。
  林光作曲のデキシーランドジャズ調の音楽が流れ「♪てんでかっこよく死にてえな♪」といった
  歌詞も最高。照れながら頭を下げて歩く千秋実の幸村も何とも言えず魅力的だ。
  本作の最高の見どころがこの行進シーンだろう。
 
 ・夜、猿飛佐助(中村錦之助)率いる十勇士が、大坂城を包囲している徳川方へ仕掛ける奇襲シーン。
  佐助の忍術で徳川方が崩れると、突然画面に黒装束の忍者集団が現れる。
  徳川方の服部半蔵(顔が隠れているので映画ではよくわからないが平幹二朗)とその手下が佐助たちに
  迫って来る。この時の忍者隊のリズミカルな足のステップはまるで『ウエストサイドストーリー』だ。
  とてもカッコイイ!ネットにある映画のキャストクレジットには徳川方忍者隊=江口音也バレエ団とある。
  大坂城の屋根等で行われる佐助と半蔵の闘いも見どころだ。

 ・秀頼の妻の千姫。演じるのは当時のアイドルで大人気だった本間千代子。
  私が6歳か7歳の頃にテレビ放送していた忍者アニメ『風のフジ丸』の最後に
  「忍術千一夜」という名前だったかのコーナーがあり、忍者の方に手裏剣の種類などを質問したりする
  お姉さんがこの本間千代子だったので見覚えがあった。
  本作での千姫役の本間千代子の<能天気なお姫様>の演技のインパクトは凄い。
  本間千代子登場シーンはすべていいのだが、その中でも夜間、大坂城の中で
  ロカビリー調の音楽で踊りまくる祝宴の際に、西洋風の白いドレスに身をつつみ
  お立ち台風の舞台に上がって、ピンクの羽扇子を振って踊る本間千代子には圧倒される。
  ほとんどバブル時代の「ジュリアナ東京」だ!
  その後に、千姫の姑の淀君(花柳小菊)が登場し、「こんな歌舞音曲はだめです」
  といって聖歌隊のようなコーラスを唄わせるシーンは笑わせてくれる。
  
 ・ラスト近く、大坂夏の陣で亡くなる幸村の死に方のあまりのかっこ悪さは、
  行進の時の歌詞と真逆のシニカルさ。

  先日、フィルムセンターでの上映(加藤泰特集)や4-5日前にはwowowでも1回放送され、10月には東映からDVDが発売されるようです。
 NHK大河ドラマ『真田丸』人気の影響でしょうね。

トップページへ戻る


NEW 2016.8.11 夏が印象的な成瀬映画


 毎日酷暑が続いています。夏と成瀬映画について。

 夏が印象的に描かれた日本映画はたくさんありますが、
戦後の小津映画のほとんどの季節が夏なのも有名な話です。
(例外は冬の季節が強調された『東京暮色』)

 小津映画と比較すると、成瀬映画は年代記のような時間的に長い物語もあり、
春夏秋冬の季節感を目立たないように自然に描写しているように思えます。

 その中で夏の季節を印象的に描いた成瀬映画をいくつか紹介します。

 最初に挙げられるのが『まごころ』(1939)。
山梨県・甲府でロケーションした67分の小品です。
仲良しの二人の女の子(悦ちゃん、加藤照子)が水着を着て川遊びをするシーンが特に好きです。
余談ですが、あの川は甲府市の中心を流れる「荒川」でほぼ間違いありません。(本HPロケ地紹介参照)
数年前の日本映画で甲府ロケの『もらとりあむタマ子』(山下敦弘監督)の中で
ヒロインの前田敦子が橋の上で携帯電話で話をするシーンがありますが、その川は「荒川」だと思います。

 旅回りの一座を描いた『旅役者』(1940)。
冒頭、芝居の宣伝のために道を練り歩くシーンの座長の高瀬実乗(通称:あのねのオッサン)
がハンカチで何度を汗をぬぐう描写、役者たちが滞在している旅館の二階で、窓を開けっぱなしにして
横になっているシーン。馬の脚を受け持つ藤原鶏太(釜足)と柳谷寛が「かき氷」を食べるシーンなど。
成瀬映画の中で最も「暑さ」を強調している1本。

 17歳の高峰秀子がバスガイドを演じた『秀子の車掌さん』(1941)。
甲府の少し手前の甲州街道近辺でロケーションをしている。
この映画でも、コンビのバス運転手の藤原鶏太(釜足)がかき氷を食べるシーン。
威張ったバス会社の社長(勝見廉太郎)がやはり社長室でかき氷にラムネをかけて
食べているシーンと2つの「かき氷」シーンが印象的。

 信州・松本でロケーションをしている『春の目ざめ』(1947)。
デビュー間もない女学生役の久我美子が出ている。
女学生の友達と一緒に男子高校生たちとピクニックに行く山。
男子高校生たちが川遊びをしているシーン。ラストにも夏の信州・野尻湖が登場します。

 青森県・津軽あたりのロケーションと思われる三話「オムニバス」の『石中先生行状記』(1950)。
三話とも季節は夏ですが、成瀬映画に初めて出演した三船敏郎の第三話・干草ぐるまの巻が最も夏を感じさせます。
 口下手で真面目な田舎の青年・三船敏郎が、偶然知り合った明るい少女・若山セツ子と一緒に出かける
山の神社(?)の夏祭りのシーンが特に印象深い。
 作品評にも書きましたが、この第三話のラストは、成瀬映画の中で最も幸福感に満ちたシーンだと思います。

 これ以外には、これまで本HPでも沢山触れている『秋立ちぬ』(1960)も、スイカやカブトムシといった小道具、
多摩川での夏木陽介の泳ぎシーンなど、成瀬映画で夏を描いた代表的な1本と言えます。

 その他、『山の音』(1954)の冒頭の鎌倉の道、まだ明るい夏の夕方をゆっくりと歩く
山村聰と原節子の後姿にかかる木漏れ日。
 『稲妻』(1952)の下町の2階でバスガイドの末娘・高峰秀子が母や姉・兄たちと
食事をするシーン。
 『あにいもうと』(1953)で京マチ子と久我美子が日傘を差して歩くシーン。
 『女の中にいる他人』(1966)で、小林桂樹が避暑に訪れる福島県の「芦ノ牧温泉」の風景
やラスト近くの鎌倉の花火大会 などが印象に残っています。

トップページへ戻る


NEW 2016.7.24 『シン・ゴジラ』のロケ地

 7/29から公開されるゴジラ映画の最新作『シン・ゴジラ』の公式ホームページにある予告編映像を観ました。
私は1960年代の東宝のゴジラ、ラドン、モスラ、キングギドラなどの怪獣映画を夢中になって観た世代なので、
いい年をした大人になってもゴジラ映画は気になってしまいます。
 現在スカパー「日本映画専門チャンネル」で放送されているハイビジョン放送で『ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』『モスラ対ゴジラ』などを
また観てしまいました。子供の頃から何度観たか覚えていないくらいですが。
先日亡くなられた白川由美さんの追悼で『ラドン』もハイビジョンで放送してくれないかなと思います。

 フルCGで作られたという新作のゴジラは、何と100m以上あるそうで(1954年の『ゴジラ』は確か50mだったかと)、
予告編映像もなかなかの迫力で、これは映画館の大スクリーンで観たいと思わせます。

 さて『シン・ゴジラ』に登場するロケ地について。
最初に登場するのは鎌倉の稲村ケ崎のようですが、ここは成瀬映画『女の中にいる他人』のラストシーンの海岸ですね。
 それからゴジラに対して自衛隊が攻撃を行うシーンのうちの1箇所は、東京・多摩川の「丸子橋」ですね。
予告編映像には「丸子橋」や「浅間神社」の見晴台がはっきりと映っています。
ここは川島雄三監督の映画の中で最も成瀬調と言われている(東宝移籍初の作品。出演は原節子、森雅之、久我美子、香川京子、中北千枝子など)
『女であること』の森雅之、原節子夫婦の家のある場所で、映画の中に多摩川にかかる(対岸は神奈川県川崎市)「丸子橋」や
「浅間神社」などが登場します。川島映画では『花影』にも有島一郎が住む家としてこの場所が登場しています。
 本HPのロケ地紹介に以前撮影した写真を掲載しているので参考にしてください。

 これは有名な話ですが、第一作の『ゴジラ』の特撮以外の本編スタッフとして、撮影=玉井正夫、美術=中古智、照明=石井長四郎
という、当時の成瀬組スタッフが関わっています。公開年からすると『浮雲』は『ゴジラ』の後のようです。

 今回の制作スタッフが川島映画や成瀬映画のことを念頭に置いたとは思えませんが、なかなか渋いロケーション場所を
ゴジラ登場シーンに選んだものです。

『シン・ゴジラ』公式HP

トップページへ戻る


NEW 2016.7.12 市川崑記念室

 前から一度行きたいと思っていた東京・渋谷区南平台にある「市川崑記念室」へ先日行ってきました。
南平台の市川崑監督のお住まいのあった場所で、建て替えの際に1室を記念室として昨年2015年にオープン。

 映画監督に関する資料を常時観ることができる記念室は珍しく、その点でも貴重です。
ちなみに小津監督に関する資料や遺品を展示した記念室は、東京・江東区の図書館の一室にありますが、
成瀬監督に関する同様のものは無いのが残念です。

 展示物は作品関連と愛用品関連の大きく2つに分けられていました。
作品のポスター、監督の絵コンテが書き込まれたシナリオ(『東京オリンピック』など)、関連資料の展示。
愛用の机、南平台の邸宅の部屋の写真などが展示されています。
記念室自体はそれほど大きくありませんが展示物は市川崑ファンには興味深いものばかりです。

 記念室の方の説明で、今や市川崑監督の代表作の1本といっていい『黒い十人の女』の冒頭の
坂道と空き地の夜のシーン(山本富士子や岸恵子などが次々と集まって来る)のロケーションは
記念室のある南平台の市川邸跡だとの話を聞きました。
山本富士子と岸恵子が屋外のシャワーの水を浴びさせられる空き地に家を建てられたそうです。
 このロケーション情報は初めて知りました。


市川崑記念室HP

トップページへ戻る


NEW 2016.6.16 訃報 白川由美さんがお亡くなりになりました

 すでに報道でご存知のことと思いますが、女優の白川由美さんが6/14に心不全でお亡くなりになりました。79歳。

 成瀬映画では『乱れる』、そして成瀬監督・川島監督の共同監督『夜の流れ』にも出演されています。

 私は成瀬監督関係者の会で、これまで3-4回はお会いして一緒に食事したことがありますので一応面識はありました。

 一つ面白いエピソードがあって、たしか7-8年前ですがその成瀬監督の会で白川さんが
「私は実は成瀬先生の作品には出たことがない」と突然発言されました。
私がすかさず「『乱れる』に出演されていますよ」と声をかけたのですが、
それでもまだ納得しなかったので白川さんのテーブルの横に行き、初対面でしたので名前を名乗り、
私の著書の『成瀬巳喜男を観る』(ワイズ出版)の作品紹介欄もお見せしながら
「白川さんは孝子という役で出られています。『乱れる』はDVDも出ているので是非確かめてみてください」
と伝えました。
その時は一応納得されたのですが、その後実際にご覧になったかはわかりません。

 大女優なのにとてもざっくばらんな方で、昔の日本映画の話をするのが楽しかったです。
 
 白川さんが出演されている川島監督の『特急にっぽん』は以前スカパーで放送した録画DVDを保有していたのですが、
白川さんが是非観たいとおっしゃったのでご自宅に郵送したところ早速お礼の電話を頂戴し、最近では昨年の冬にも別件でお電話いただきました。
とても元気そうなお声でしたので今回の突然の訃報には驚きました。近々またお会いできると思っていたので本当に残念です。

 私が印象に残っている白川さんの出演作はたくさんありますが、上記の3本の他では
『ラドン』
『美女と液体人間』
『電送人間』
『小早川家の秋」
『地方記者』
『慕情の人』(今年の前述エッセイ参照、共演原節子)
『春らんまん』
などが主なところです。

 テレビドラマはそれほど観ていませんが大人気だった「家政婦のミタ」は最近DVDで観ました。

 最近のテレビドラマ等の優しい母親役も素敵でしたが、若い頃の色気のある表情や仕草と細身のスタイルの良さが素晴らしいです。

 ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


NEW 2016.6.8 新文芸坐で『鰯雲』再見

 6/2に新文芸坐での成瀬映画特集が終わりました。
私は今回は『腰弁頑張れ』と『鰯雲』の2本を観てきました。
 
 『鰯雲』はこれまでスクリーンやスカパー録画のDVDなどで10回くらい観ていますが
久しぶりに大画面で観て、あまり有名ではない作品ですが、傑作の1本だと再認識しました。
 今回の上映は約60年前の映画とは思えないほどプリント状態が良く、色もとても綺麗でした。
昔の映画はプリント状態によって作品の印象が異なってしまうので、綺麗な状態で観られるのは本当に嬉しいことです。

 『鰯雲』は舞台となった本厚木、厚木周辺、木村功と淡島千景がバスで出かける山里の「半原(はんばら)」、
そして登戸近辺の多摩川のボート乗り場など、本HPのロケ地撮影に出向いたこともあり、風景を観るのも興味一杯でした。
 「半原」は10年くらい前に行きましたが、映画の当時とあまり変わっていなかったように記憶しています。

 何度も同じ映画を観ると、これまで気づかなかった詳細な部分に気付くことがあります。
今回は太刀川洋一と水野久美が出かける厚木の映画館。
その看板にはビリー・ワイルダー監督の『翼よ! あれが巴里の灯だ!』とありました。

 映画はもちろんDVD等でなく映画館で観た方がいいに決まっていますが今回特に感じたのは音の違い。
画面の大きさの魅力はもちろんですが、台詞や生活音が大きくクリアーに聞えるのがいいなと感じた次第。
 特に『鰯雲』はかなり複雑な家庭の話が複数出てくるのと、農家の本家、分家など東京で生まれ育った私には
少し理解が難しい関係性の説明が出てくるのですが、台詞が聞き取りやすいのでこれまでよくわからなかった点も
だいぶ理解できました・
 
 成瀬映画に特有の技法、「目線送り」「場面転換の冴え」「多様なアクションつなぎのテクニック」
などに加えて、今回の「鰯雲』に限らず、最近成瀬映画を観て感じるのは
・人物の動かし方と位置関係
の上手さです。
 
 『鰯雲』でも例えば、妹・淡島千景と兄・中村雁治郎の二人が、淡島の家の庭で
小林桂樹の結婚式の話(これもほとんど金銭の話)に関した台詞を言いながら
お互いに少しずつ移動したり、足を止めたり、その二人の位置関係の構図など、
なかなか理論的には言えませんが、とにかく観ていて自然で気持ちのいい映像なのです。
 この辺は少し演劇的な演出と言えるのかもしれません。
 室内シーンでの人物の動かし方に、相手の動きを視線で表現する「目線送り」
が加わると、成瀬ファンとしてはそれだけでたまりません。

 結論として、成瀬映画は、演出が多彩で、職人技の上手さがあり、そして脇役に至るまでの名優たちの演技、
スタッフワークの素晴らしさ、当時のロケーションへの興味などの要素によって何度観ても飽きないのです。

トップページへ戻る


NEW 2016.5.26 成瀬映画に登場するお金の話


 成瀬映画には「お金」の話が必ずと言っていいほど出てきます。
これを最初に指摘されたのは川本三郎さんでしょう。
私も20年くらい前にNHKのEテレで放送された成瀬特集の番組の中での、
川本さんの話で知りました。
 
 その後、成瀬映画を1本ずつ観ていくと確かに「お金」に関する台詞が
多いと感じましたが、ある時もう一つの特徴に気づきました。

 それは「具体的な金額」の台詞が多い点です。

 このことは2005年の拙著『成瀬巳喜男を観る』(ワイズ出版)の中の
「お金にまつわるエピソード」でも指摘しました。

 例えば、『妻よ薔薇のやうに』(1935)では千葉早智子が恋人の大川平八郎に対して
「私の月給は45円だ」と伝えるシーンがあり、初期の段階から具体額の台詞が
登場しています。

 私の手元に本日(5/26)新文芸坐で上映される『鰯雲』のポケットサイズのシナリオがあります。
これは当時この映画の助監督に付かれた故・石田勝心監督から生前いただいたものなのですが
表紙には「東宝シナリオ選集」、裏表紙には東宝株式会社(非売品)とあります。
 おそらく封切当時の宣伝用に作られたものでしょうね。
 脚本は橋本忍です。

 『鰯雲』の冒頭は、新聞記者の大川(木村功)が農家の八重(淡島千景)に
農家の暮らしについて取材をしているシーンなのですが、ここでも
具体的な金銭についての台詞が飛び交っています。
 
 シナリオから一部抜粋すると

大川「五反の六俵平均で、三十俵・・・・・・一升が七十円で一斗が七百円で、
   一俵が二千八百円・・・・・・三十俵で八万四千円・・・・・・
   合計米麦で二十五万二千円ですね」
八重「そういう計算にはならないですよ。麦は裏作ですからね。~」
 
 といった会話が続いていきます。
 ちなみにシナリオには八重(34)、大川(33)と年齢設定が書かれています。

 さらに映画の後半、農家の実家を出て整備士学校に通って一人暮らししたいと言う順三(大塚国夫)
に対して、兄の初治(小林桂樹)と信次(太刀川洋一)が話を聞くシーン。

信次「下宿代が月六千円乃至七千円で・・・・・・年に八万円・・・
   月謝が千円で一万二千円その他の雑費が月二千円で二万四千円・・・・・・
   〆めて、ざっと・・・・・・」
  最低十二万と書かれた手帳の数字。みんな、黙りこんでしまう。
  間-。
初治「田圃でも売るより他には手はねえな」

 ここで今回新たに出てきた疑問について。

橋本忍はこのような金銭の具体額を、シナリオ作成時にリアリティの面で
必要と思って書いたのか、それとも成瀬作品ということで成瀬監督の意向を
察して書いたのか?

これは橋本忍だけでなく、成瀬映画の脚本を多く執筆している
水木洋子、田中澄江、井手俊郎、笠原良三、松山善三にも言えるのですが。

 成瀬監督はシナリオを丹念に読んで、「この台詞は(説明的だから)いらないね」
といった調子でどんどん削るのが習性であったことは高峰秀子をはじめとした
キャストやスタッフが証言しています。
 逆に言うと「具体的な金額」の台詞はそのままにしていたということになります。

 成瀬映画のシナリオライターはどの方も日本映画の黄金時代を支えた超一流の方たち
なので、シナリオ執筆時にその時代のリアリティを表現する一つの要素として
具体的な金額を出したと考えるのが普通ですが、もしかしたら成瀬監督の
作風も少し頭に入れて書かれたのか、または成瀬監督から事前に要請があったのか
と想像するのも愉しいです。

 私は久しぶりに『鰯雲』を本日夕方の回に観に行こうと思ってます。
カラー作品なので色が退色していないことを祈りつつ。

 そういえば『鰯雲』には、毒蝮三太夫が当時の芸名・石井伊吉の名前で
ちょい役で出ています。
 小林桂樹と農家の青年団の慰安旅行の相談をするシーンの若い農家の青年役が彼です。
 
 また、映画では木村功と淡島千景が江の島近くの海岸を散策するシーンがありますが、
シナリオでは横浜の外人墓地のシーンになっています。

トップページへ戻る


NEW 2016.5.19 鎌倉市川喜多映画記念館「映画女優 原節子」
 
 先日天気のいい日に鎌倉へ足を運び、鶴岡八幡宮近くの鎌倉市川喜多映画記念館で開催中の
「映画女優 原節子」に行ってきました。7月10日まで。

 モノクロのポートレート写真、映画ポスター、使用台本(『めし』他)、表紙を飾った東宝カレンダーなどが
展示されていて、原節子ファンにはなかなか楽しめる展示でした。
 特に東宝カレンダーの原節子は初めて観たので興味深かったです。
 当時の映画ポスターやカレンダーは独特の色なのでインパクトがあります。
そしてポスターに書かれた惹句、今でいう宣伝コピーも文学的な言葉に満ちていて
よく読むと面白いのですが、文章を作り過ぎていて意味不明な表現も。

 映画ポスターは小津映画、成瀬映画や『青い山脈』、最後の出演作『忠臣蔵』に加えて
唯一の川島映画『女であること』など。会場やイベント等の詳細は下記HP参照。

HP

 新文芸坐の成瀬映画特集ですが、私は初日の夕方の『腰弁頑張れ』の弁士付き上映
に行きました。10数年前に初めて観たのはフィルムセンターでしたが、その時はサイレント
のままでしたので、弁士付き+音楽での上映はかなり印象が異なるものでした。
 弁士の語りはOKなのですが、一緒に付けられたクラシック音楽は画面にあまりあって
いなかったという印象です。
 それにしても新作の映画館は、本当に人が入っていないように思えるのですが
新文芸座はいつも人が多くて驚きます。今回の上映会でも8割くらいは入っていたかと。
土日祝はおそらく相当混むのを覚悟した方がよいです。
 私も期間中にもう1回くらいは行きたいと思ってます。

トップページへ戻る


NEW 2016.5.13 祝 新文芸坐での成瀬映画特集上映

 トップページに告知済みですが、来週5/16(月)~6/2(木)<5/27-5/20除く>まで池袋「新文芸坐」での
「成瀬巳喜男 静かなる、永遠の輝き」という特集上映で計31本の成瀬映画が上映されます。
 PDFのチラシのブルーを基調としたデザインも素敵ですが、監督プロフィールに「1950年生まれ」
とあります。これはもちろん1905年の間違いですね(笑)。

 先日の神保町シアターでの杉村春子特集でも、成瀬映画上映の日は満席だったそうで
成瀬映画は名画座で特に人気が高いようです。今回も混むのでしょう。

 本HPにすでに何度も書いていますが、私が最初に成瀬映画を観たのは1988年か1989年頃、
テレビで放送されていた『めし』を観たのが最初でした。
 その後、当時あった銀座並木座や旧文芸座(地下)などの名画座やフィルムセンター等での上映、
スカパー日本映画専門チャンネルやBS等での放送、ビデオなどで1本1本観ていき、
最初に成瀬映画を観てから今年で約28年くらい、今に至るまで成瀬映画の個人的な研究を続け、
そして成瀬映画ファンを続けています。

 私の「いい映画、好きな映画」の定義は、「何度観ても面白い、そして観るたびに発見がある」
なのですが、成瀬映画がいまだに飽きない理由はその定義そのもの。
 成瀬映画以外では、小津映画(特に後期のカラー作品)や川島雄三映画も同様です。

 黒澤映画(これまでさんざん観てきましたので)や溝口映画などは、現在観直してみたいという
気持ちがほとんどありません。またいつか観たくなる気持ちが芽生えるのかもしれませんが。

 成瀬映画の魅力の要素は数多いのですが、現存する全69作品を観ている私としては

・視線(目線)により相手の動きを感じさせる演出方法(通称:視線(目線)送り)
・場面転換等で多用される「アクションつなぎ(ネット検索すると説明あり)」の多様な演出方法
 →小津映画でも「アクションつなぎ」が多用されていますが、同じ場所での一人の人物という
  オーソドックスなものが多い。それに比較すると成瀬映画のアクションつなぎの多様さに
  驚かされます。ただし成瀬演出は目立たず、控えめなことが特徴なので、同じ映画を何回か
  観ないと気づかないことが多いのですが。
・室内、屋外での人物の配置と動きのリズム。これは映画を観て感じるしかありません
 
 などが、何度観ても発見がある要素です。

 今年一度「成瀬映画と小津映画」という2時間くらいのパソコンを使用した講義を
したことがあるのですが、そのテキスト作成時に発見したことがあります。
 それは『山の音』のラストの新宿御苑での山村聰と原節子のシーン。
 ベンチに座っている山村聰と立っている原節子。
山村聰の方に視線を投げている原節子が視線を下に向けます。
その後視線を上げると、次のショットでは山村聰が正面に立っている。
という成瀬監督の典型的な「視線(目線)送り」演出なのですが、これまで
ほとんど気付きませんでしたので新鮮に感じました。
またこの時の原節子の表情が素晴らしく綺麗で。
 『山の音』には同様のショット展開が、会社の事務所での山村聰と杉葉子の
会話シーンにもあり、それは拙著『成瀬巳喜男を観る』(ワイズ出版)の中でも
紹介しています。

 今回の特集上映の作品の中で私がまた観たいと思う好きなシーンやショットを一部挙げれば、
・『鶴八鶴次郎』 箱根・芦ノ湖湖畔での長谷川一夫と山田五十鈴の会話シーンでの人物配置と動きの美しさ
・『驟雨』 原節子と新婚旅行帰りの姪・香川京子との会話シーン
・『妻として女として』 高峰秀子、淡島千景と複数の人物のモノローグで展開していく斬新な回想シーンと
  回想シーンから現在シーンへの場面転換の見事な演出
・『妻の心』 雨の公園の休憩所での高峰秀子と三船敏郎との視線の交錯によるスリリングな無言の会話シーン
・『女の歴史』 ラスト前、雨の坂道での高峰秀子と星由里子の人物配置と動きの美しさ
など。

 ともかく成瀬映画は映像表現や場面転換等を注意して観ていくと、気付かなかった新たな
面が発見できます。それを面白いと思うかどうかは個人の感覚に委ねられますが。
 題材は地味ですが、成瀬演出は深くて興味がつきないのです。

トップページへ戻る


NEW 2016.4.28 橋本忍脚本の3本を観て

 池袋「新文芸坐」で4/17-4/28まで上映された「脚本家・橋本忍 執念の世界」の中で
未見だった3本を観ました。
『悪の紋章』(1964 東宝 堀川弘通監督)
『七つの弾丸』(1959 東映 村山新治監督)
『最後の切札』(1960 松竹 野村芳太郎監督)
です。

 日本映画・・・本といった書籍にはまず紹介されることのないレアな作品で、
私も今回の特集で初めて観たわけですが、3本とも極めて面白い佳作でした。
 ラストまで先が読めないストーリー展開と練り上げられた台詞がさすがに橋本シナリオですし、
各監督の演出、スタッフワーク、そして主役だけでなく脇役に至るまで豪華な俳優陣と、
当時の日本映画の底力を感じさせるものでした。

 今回の3本は「クライム・サスペンス」というか「フィルム・ノワール」というか、
いずれにしても犯罪がからんだサスペンスものなので、シニカルな終わり方があまり
心地よいものではなかったのですが、それは仕方がないことで。
 私はどちらかというとハッピーエンドものが好みなのですが。

 『悪の紋章』は罠にはめられ刑務所に送られた元刑事の山崎努が、罠にはめた
企業と関係した者たちに徹底的な復讐をするという話で、今回の特集の「執念の世界」そのものでした。
 東宝映画で佐田啓二を観るのも新鮮でしたし、謎の女役・新珠三千代が行う
ロケーション地・山口県「秋吉台」での「怖いシーン」が印象的でした。
 『七つの弾丸』は当時の東京・新橋のロケーションが多用されたドキュメンタリータッチな作品で、
銀行強盗を計画して実行する三國連太郎と、その際に被害者となる
交番勤務の巡査、銀行員、タクシー運転者(伊藤雄之助)3人の物語が交互に描かれていく
構成が見事でした。
三國連太郎は「追い詰められた犯罪者」の役柄。歯車が狂っていき、悪い状況に追い詰められていく男を演じる
三國連太郎は素晴らしいです。名作『飢餓海峡』の演技とも通じるものかと。
ラストには成瀬映画『秋立ちぬ』に登場する豊洲地域のロケーションも登場。
今回発見した渋い、隠れた佳作の1本でした。
 『最後の切札』は、小津映画等でのイメージとは180度違う、佐田啓二の詐欺行為の悪役ぶりが
際立つ映画。佐田啓二ってこんなに魅力的な俳優だったんだと再認識しました。
 新興宗教の世界が主な舞台になっていて、その雰囲気のリアルな演出も良かったです。

 今回の3本はどれもプリント状態が良く、『悪の紋章』『七つの弾丸』のモノクロ(シネスコ)、
『最後の切札』のカラー(シネスコ)の綺麗な映像も堪能しました。
 今回のような、一般的には知られていない、そして未DVD化でテレビ放送もほとんどされない
当時のプログラムピクチャーのクオリティの高さにあらためて驚かされました。
 もちろんそこには橋本忍のような名脚本家の関与があるのですが。

トップページへ戻る


NEW 2016.4.3 成瀬映画の笠智衆

 成瀬映画には、キネマ旬報や毎日映画コンクールといった映画賞のベストテンに入った名作・傑作が
数多くありますが、そういう賞とは無縁だった、いわゆるプログラム・ピクチャーにも多数の傑作があります。
 私が成瀬映画の中で、繰り返し観るのは実はそういった賞とは無縁だったプログラム・ピクチャーだったりします。
以前日本映画専門チャンネルの放送等で録画したブルーレイやDVDを保有していますので。

 その中で特に好きな1本が『女の座』(1962 東宝)です。
これまでスクリーンでの上映も含めて20回くらい観ているかもしれません。
非常によくできたホームドラマですが、残念ながら未DVD化です。
 私は『娘・妻・母』(1960 東宝)と合わせて「大家族もの」と名付けています。

 トップページに紹介していますが、東京・神保町シアターで現在特集上映中の「生誕110年 女優 杉村春子」
の中で、最終週の4/16(土)~4/22(金)に、成瀬映画『流れる』(DVDあり)『鰯雲』『娘・妻・母』(DVDあり)
とともに上映されます。成瀬ファンで未見の方には是非オススメです。
 
 特集は杉村春子で、もちろん成瀬映画そして小津映画常連の杉村春子は素晴らしいのですが、
ここではあまり語られることのない共演者の名優・笠智衆について書きます。

 笠智衆=小津映画というのが一般的な映画ファンの認識です。
最近、文藝春秋「文春ムック」から発売された『スターの肖像』(\1250+税という書籍)
の中にも第四章「日本のおじいさん 笠智衆」がありますが、
ほとんどが小津映画に関する記述で成瀬映画の笠智衆はまったく登場していなかったかと。
遠藤周作との対談は山田太一ドラマの話なども入っていて面白いのですが。
 
 個人的には、もちろん小津映画での演技も好きですが、何といっても一番だと思っているのは
『手をつなぐ子等』(1948  稲垣浩監督 大映)の知恵遅れの子供をサポートする学校教師(映画では訓導)役です。
他にも同じ稲垣監督の『嵐』(1956 東宝)での妻に先立たれて子育てをする大学教授役、
そして成瀬監督他のオムニバス映画『くちづけ』(1955 東宝)の第一話「くちづけ」(筧正典監督)での
大学教授など。笠智衆は温厚な教師役がとても似合います。
 教師役ではないですが川島雄三デビュー作の『還って来た男』(1944 松竹)や清水宏監督『簪』(1941)などの
笠智衆もとてもいい。木下恵介作品にも数多く出演しています。
 
 さて本題の成瀬映画ですが、笠智衆は『女の座』も合わせて4本に出演しています。
作品は
・『夜ごとの夢』(1933 松竹蒲田)
・『限りなき舗道』(1934 松竹蒲田)
・『娘・妻・母』(1960 東宝)(公園で近所の子供を預かってあやしている老人役)
・『女の座』(1962 東宝)

松竹時代のサイレント2作品には、配役のクレジットがされていないので、
2作ともウィキペディアにも載っていません。
本当のちょい役ですが、やはりあの特徴的な顔なので出演しているのはすぐわかります。
 『夜ごとの夢』はラスト近くに、盗みを働いた斎藤達雄を捜査している警官役(下記写真1)、
『限りなき舗道』は、主役で銀座の喫茶店のウェイトレス役の忍節子を、映画女優にスカウトする
撮影所の社員役として、冒頭の銀座の喫茶店の客、電車道(下北沢あたりではないか)で忍節子に
声をかけて名刺(自由ヶ丘撮影所 千葉幸彦という文字がアップになる)を渡す2つのシーンに登場します。(写真2、3)
 『夜ごとの夢』は2-3秒映るだけですが、『限りなき報道』では台詞もあり、
ストーリー展開的にも重要な役なので、何故配役にクレジットされていないか不思議です。
ちなみに『限りなく舗道』には渋谷実、山本薩夫の二人が助監督としてクレジットされています。

成瀬映画で最も出番が多く重要な役が、個人商店を営む石川家の父親・金次郎役の『女の座』です。
この映画には高峰秀子、杉村春子をはじめ、三益愛子、淡路恵子、草笛光子、司葉子、星由里子、団令子、
小林桂樹、三橋達也、宝田明、加東大介、夏木陽介、大沢健三郎などの成瀬組キャストが勢ぞろいという感じですが、
その中で笠智衆は成瀬映画においては珍しい配役でしょう。
 同年に笠智衆が出演している小津の遺作『秋刀魚の味』がありますが、データをみると『女の座』の封切の方が早いようです。

 この映画は井手俊郎、松山善三によるオリジナル脚本で、ゆったりと観られるホームドラマですが
成瀬演出はとても洗練されていて、実は成瀬映画をかなり観ている上級者向けの映画だと思います。
 特に、ショットとショット、シーンとシーンの場面転換の切れ味、室内での人物の配置と動かし方、
そして成瀬演出の最大の特徴である「視線送り」など、
何度観ても新たな発見があって、成瀬演出の上手さは円熟期といってもよいでしょう。
 また全体に漂うユーモラスな雰囲気、特に何気ない普通の台詞の言い回し、台詞の間や
人物の表情で表現する可笑しさは、江戸落語の名人の語り口のようで心地よい。
 笑わそうというあざとさが全く無いのです。そして格調高い品位も感じます。
 笠智衆の登場シーンでは、高峰の夫の三回忌での食事シーンで、いろいろなところに
話が飛んだ後に「話を戻そうじゃないか」という台詞。それから和室で義理の息子・三橋達也
と将棋を指していて、王手とした後に、慌てて三橋が笠の駒を戻したと後に言う
「君は ちょっとずるいねぇ」と言う台詞。笠智衆の言い回しに何度観ても微笑んでしまいます。

 この映画は笠智衆、杉村春子が夫婦役ですが、二人が出ているということだけでなく
少し小津の『東京物語』に共通する要素があります。
 自分勝手な息子・娘たちよりもずっと親切で優しい、亡くなった息子の嫁・高峰秀子は
原節子の役でしょうし、高峰のことをかばう心優しい義妹・司葉子は、香川京子の役に近い。

 『女の座』は成瀬ファンそして笠智衆ファン必見の映画です。


写真1 『夜ごとの夢』


写真2『限りなき舗道』


写真3『限りなき舗道』


トップページへ戻る


NEW 2016.3.27 出目昌伸監督がお亡くなりになりました

 東宝出身の出目昌伸監督がお亡くなりになりました。
私は出目監督の作品を語れるほど観ていませんが、以前「日本映画専門チャンネル」で放送されていた
『俺たちの荒野』(1969)は秀作だと思いました。
 
 出目監督というとやはり黒澤監督の助監督時代のエピソードをインタビューで読んだり、観たりしています。
私が黒澤作品で一番好きな『赤ひげ』や『天国と地獄』の話はやはりとても興味深いものでした。

 出目監督とは一度だけお会いし会話をしたことがあります。
東宝に同期入社の石田勝心監督の葬儀の後に、10人くらいで喫茶店に入りました。司葉子さんもいらっしゃいました。
私はたまたま出目監督の前の席に座ったのですが、私のことは石田監督から聞かれていたようで、
「私は成瀬さんには1本も付いたことがないんですよ。1本でいいので成瀬さんに付きたかったんだよね」
と私に語りかけてくれました。
 その後は、黒澤監督の話や音楽の話などをした記憶があります。

 それにしても黒澤組のイメージの強い出目監督が、成瀬監督への憧れの気持ちを
持たれていたことは、成瀬ファン・研究家としてとても嬉しかった。
 同期の石田監督へのオマージュもあったのでしょう。

 ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


NEW 2016.1.27 原節子主演『慕情の人』『愛情の決算』

 新文芸坐で上映されている原節子特集の中で、どうしても観たかった未見の映画2本を観てきました。
『慕情の人』(1961 丸山誠治監督 東宝)と『愛情の決算』(1956 佐分利信監督 東宝)です。

 これまでビデオ化、DVD化されたことがなく、上映や放送の機会も少ないレア映画でしたので
平日にもかかわらず新文芸坐は年配の方中心に結構混んでいました。
 
 『慕情の人』は、未亡人の原節子、その義妹・白川由美、原節子の亡くなった夫の親友で
原節子が経営しているスポーツ用品店の番頭役の三橋達也の三角関係を延々と描いた恋愛映画。
 ストーリーは極めて平凡ですが、やはり当時の映画のロケーションや美術セットの良さ
で、カラー、シネマスコープのプリント状態も良く、96分を飽きさせない映画でした。
 音楽が成瀬映画スタッフの斉藤一郎で、また丸山誠治監督も意図してかどうかはわかりませんが
成瀬調の「人物の目線送り」を多用していて、成瀬映画の雰囲気のある映画でした。

 この時点で原節子は41歳。映画ではほとんど和服姿で大人の色気はありますが
顔のアップになるとやはり美貌に衰えを感じました。あくまで個人的な感想ですが。
 言いたいことをずけずけ言って、深刻ないたずらを繰り返す情緒不安定な感じの義妹の白川由美は
若くて綺麗なのですが、映画の中では三橋達也は最終的に原節子を選びます。
 原節子が経営しているスポーツ用品店(スキーの板などが映る)は、当時の日比谷有楽座、東京宝塚劇場
(現在も高層ビルに建て替えられて同じ場所にある)の手前にあったビル(名前思い出せず)の地下に
あるという設定で、地下街の店はセットでしょうが、ビルの地下街への入り口と前の道は
何度も登場します。その後の1990年代くらいまではそれほど大きく変わっていなかったので
日比谷映画街の風景はとても懐かしかったです。

 もう1本の『愛情の決算』。
佐分利信監督で本人も出演。三船敏郎、小林桂樹、八千草薫などの魅力的な俳優が出ています。
 戦争未亡人になった原は、夫の隊長であった佐分利と再婚するが、同じ隊にいた新聞記者の
三船敏郎と相思相愛になり・・・といったストーリー。
 
 この映画の36歳の原節子は、素晴らしく綺麗です。『慕情の人』の5年前の映画なのですが
2本続けてみるとその違いに驚きました。
 原節子と三船敏郎の共演は、黒澤明監督『白痴」や千葉泰樹監督『東京の恋人』くらいしか
知らないのですが、本作の二人は文字通り美男美女のカップルで、夜の道を二人が歩いている
シーンなどは観ていてうっとりするような美しさでした。
 佐分利信は監督の立場を優先したのでしょうが、本作の佐分利信は頑固で、生活力も無く
碁にしか興味のない極めてつまらない夫を演じています。
 こんなに魅力のない役の佐分利信は珍しいかもしれません。
 
 それと比べて何といっても魅力的なのは三船敏郎です。よく三船敏郎は黒澤映画以外はあまり
ぱっとしないなどと言う意見も目にしますが、大反対です。
 成瀬映画『妻の心』の銀行員役の三船敏郎も魅力的ですが、本作の新聞記者役の三船敏郎
も素晴らしくいいです。少しシャイで正義感にあふれた好人物を淡々と演じていて好感がもてます。
黒澤映画の熱演の三船敏郎ももちろん魅力的ですが、市井の会社員役の三船敏郎もそれに負けない魅力があります。
 
 井手俊郎脚本の本作は編集がよくないと思いました。短い説明的なシーンやショットが数多く挿入されて
観客の集中力がとぎれることが多い。映画としてのリズム感が悪いのです。
 やはり成瀬映画や川島映画は、編集のリズムが流麗で素敵だということを再認識しました。
 
 1/25のNHK「クローズアップ現代」(杉葉子さんのインタビューなど)や今発売のキネマ旬報(2016年2月上旬号)
などでも特集がされていてまだまだ原節子の話題は続きそうです。

 写真=新文芸坐ロビーにあった映画ポスター写真


   

トップページへ戻る


NEW 2016.1.9 「文藝春秋」の原節子さん追悼文について

 現在発売されている「文藝春秋」2月号のP332-P340に
「追悼 叔母・原節子と裕次郎の奇縁 一族を養ったスター女優の知られざる秘話」
という文章が掲載されています。
 書かれたのは甥の映画監督の木下亮さん。原節子さんのお姉さんの息子さんです。
 私は早速雑誌を買って読みましたが、とても素晴らしい感動的な追悼文でした。

 私は木下亮監督とは、成瀬監督の関連の会で面識があり、また私が成瀬監督と同じように
敬愛している川島雄三監督のお弟子さん(『接吻泥棒』『特急にっぽん』『箱根山』『イチかバチか』
の助監督)ですので、川島監督についてお話や手紙のやり取りをしたことが何度かあります。
成瀬映画では『女が階段を上る時』の助監督です。
 木下監督は東宝で『男嫌い』(1964)と『肉体の学校』(1965)などを監督されています。
また、テレビでは『太陽にほえろ!』を数多く演出しています。
『男嫌い』は以前神保町シアターで観ましたが、とてもモダンなセンスの都会的なコメディ
で私はとても気に入りました。親しかった故石田勝心監督がこの映画の助監督でもありました。
 この映画の出演者の故淡路恵子さんが晩年テレビ番組などで、自分の出演作の中で
好きな映画として必ず『男嫌い』を挙げていました。
残念ながら未DVD化です(ビデオ化は確かされていたかと)

 私は木下監督が原節子さんの甥っ子さんであることはもちろん知っていましたが、
そのことは最低限の礼儀として一切触れることはありませんでした。
 ご本人からも語られることは一切ありませんでしたので、正直今回の追悼文には驚きがありました。
木下監督のお母様も原節子さんが亡くなられた9/5の5日後の9/10に106歳で亡くなられたとのことで、
木下監督にはあらためてお悔やみ申し上げます。

 内容は是非雑誌を手に取ってご一読いただければ。特に、原節子さんファンは必読かと。
「昌江叔母さんが~」から始まる冒頭の文章から、叔母さんへの愛情と感謝の気持ちが伝わってきます。
また、甥っ子さんでしか知りえない貴重なエピソードも数多く紹介されています。
最後の結びの言葉もジーンときました。

 トップページで紹介した新文芸坐の原節子さん特集には未見の作品を中心に
何本か足を運ぶ予定です。



トップページへ戻る


NEW 2015.11.28 原節子さんサイン入りポートレート

 9/5に95歳で亡くなられた原節子さん(ご冥福をお祈りいたします)を追悼して、
おそらく10代から20代前半の頃と思われる原さんの直筆サイン入りのポートレートを掲載します。

 このポートレートは、本HPを通じて知り合った管理者の知人所有のもので、もちろん原さんご本人のサインです。
知人の方からは本HPでの掲載を許可していただきました。詳細については公表せずとのことなので写真のみの掲載です。

(写真)知人宅の額縁の中に保管されている直筆サイン入りポートレート


 私は本HPに何度も書いているように成瀬映画における原節子さんが圧倒的に好きで、
新聞報道等であふれている小津映画における原節子さんはあまり好みではありません。
小津映画自体はもちろん大好きなのですが。
 あの「頭のてっぺんから話すような」台詞の言い回し、硬い表情に違和感を覚えています。
それと比べて、成瀬映画における原節子さんは、台詞、表情とも<自然でリラックスしている>ように
感じて、観ていてまったく違和感がありません。
役柄がほとんど倦怠期の妻といった役なのにもその理由はあるでしょうが。
 香川京子さん、司葉子さん、宝田明さん、仲代達矢さんなどの共演者の方たちが
「ビールを飲んで、タバコも吸って、麻雀もお好きな<姉御肌>の方だった」
といったことを話されていますが、その感じは成瀬映画の原さんの方が近いでしょう。
成瀬映画の中で『山の音』だけは、少し小津映画での演技に近いのですが。

 小津映画における原さんで好きなのは、『東京暮色』の孝子役。
妹・明子役の有馬稲子さんと2階の部屋で話すシーン。
風邪気味で寝ている有馬さんに長話をすると
明子「お姉さん-」
孝子「なに?」
明子「少し静かに寝かしといて-」
孝子「そう、眠い?じゃ少し寝た方がいいわ。寒くないわね?
   用があったら呼んで-」
この妹の世話をてきぱきとこなす優しい姉の感じは、成瀬映画の原さんの匂いがして好きです。
もう1本は『小早川家の秋』の秋子役。
義妹の紀子役の司葉子さんとのやり取りでも、同じように優しい義姉の雰囲気が漂い、
テンポのいい二人の会話の調子も素敵です。

そして私が好きな原さんは昭和15年頃の東宝映画です。
以前スカパー日本映画専門チャンネルで「原節子特集」があり
その中で特に好きだった1本が、『姉妹の約束』(1940=昭和15年 山本薩夫監督)。
 この映画では当時20歳の原さんが、三姉妹の次女を生き生きと演じています。

 冒頭、高台にある家に帰宅する途中の坂道に、坂の上でボール遊びをしている
子供たちのボールがころがってきます。
それを拾って「いくわよー」と肩を回して投げる原さん(せっちゃん)。
前に本エッセイでも書きましたが、その笑顔が少し長澤まさみに似ているかと。
以下録画DVDの画面写真を。
三人の姉妹の写真は、長女役の花井蘭子、三女役の若原春江。

この頃の作品では『兄の花嫁』(1941=昭和16年 島津保次郎監督)の原さんも綺麗です。
兄の高田稔と結婚して義姉となった山田五十鈴との共演。
『東京暮色』では母と娘でしたが。

原節子さんの追悼特集が名画座やフィルムセンターなどで企画されるのではと期待していますが、
上記の2本や成瀬映画4本の他

・『若き日の歓び』(1943 佐藤武監督)→映画雑誌の編集者。新人記者=高峰秀子の教育係
・『東京の恋人』(1952 千葉泰樹監督)→共演は三船敏郎
・『女因と共に』(1956 久松静児監督)→刑務所の保安課長役というレアさ
・『女であること』(1958 川島雄三監督)→夫は森雅之、共演は久我美子、香川京子。
・『女ごころ』(1959 丸山誠治監督)→夫は森雅之、夫の浮気相手は団令子

私が未見の映画では
・『東京の女性』(1939 伏水修監督)
・『愛情の決算』(1956 佐分利信監督)
・『兄とその妹』(1956 松林宗恵監督)

を上映(または放送)していただけるようにリクエストします!

『姉妹の約束』(1940=昭和15年 山本薩夫監督)の冒頭のショット。
20歳の原節子さん。可愛くて綺麗!

 

 

トップページへ戻る


NEW 2015.11.24 市川崑監督生誕100年

 今年は市川崑監督生誕100年(1915年11月20日生まれ)ということで、特集上映、書籍そして市川崑記念室の開室(2015年11月20日~)
と盛り上がっています。
 特集上映はトップページに紹介した12月の新文芸坐の他、来年1/16-2/11まで角川シネマ新宿(大映作品中心)など。
書籍は「市川崑と『犬神家の一族』」(春日太一著 新潮新書)や「完本 市川崑の映画たち(市川崑/森遊机 洋泉社)」。

 私は成瀬監督、川島監督に次いで市川崑監督のファンですので、フィルモグラフィで数えてみると57本観ています。

 市川崑監督の数多くの作品の中で好きなものは人によって様々でしょう、なにしろ市川崑監督は文芸、コメディ、ミステリー、ドキュメンタリー
などいろいろな作風の映画があります。

 ある監督の好きな作品というのは、その時々に少し変わったりするものですが、
現段階で私の選ぶ市川崑監督のベスト10は
1.『幸福』(DVD)
2.『愛人』
3.『東京オリンピック』(DVD)
4.『天晴れ一番手柄・青春銭形平次』
5.『こころ』(DVD)
6.『破壊』(DVD)
7.『結婚行進曲』
8.『古都』(DVD)
9.『悪魔の手毬唄』(DVD)
10.『足にさわった女』
です。

 かなりマニアックなチョイスかもしれませんが、
私は大映時代の作品よりも、1950年代・東宝時代のテンポが良く、ソフィスティケートされたコメディタッチの映画がとにかく好きで、
これ以外にも『ラッキーさん』『女性に関する十二章』『恋人』(新東宝)そしてもちろん『プーサン』も気に入っています。
大映時代では京マチ子主演の『穴』は少し東宝時代の雰囲気があります。
 しかし、何といっても水谷豊、永島敏行、中原理恵が出演の『幸福』がベスト1です。
『幸福』については本エッセイにも何度か書いているので省略します。

 ベスト3本の『幸福』『愛人』『東京オリンピック』は12月の新文芸坐で上映されます。
『愛人』は成瀬組の玉井正夫撮影監督なので、屋外シーンの木漏れ日の影などは
成瀬映画と共通するものがあります。未DVD(ビデオ化も無し)なので未見の方には一番のおすすめです。
過去の市川崑監督関連の本で、和田誠さんが『愛人』の魅力を語られています。
 本当に綺麗で可愛い有馬稲子、岡田茉莉子の二人、若き三国連太郎の美男子ぶりを
観るだけでも楽しめます。
 『古都』を初めて観たのは4-5年前とわりあい最近なのですが、山口百恵があまりに
素晴らしく、これもおすすめです。

 『青春銭形平次』、『結婚行進曲』、『足にさわった女』あたりはフィルムセンター以外
での上映はなかなか無いかもしれません。三本ともとても面白いのですが。

 日本映画専門チャンネルで放送開始した市川崑劇場での放送を期待したいです。

トップページへ戻る


NEW 2015.11.17 山田太一劇場(日本映画専門チャンネル)について


 現在日本映画専門チャンネルで放送されている「山田太一劇場」を毎週楽しみに観ています。
毎週土曜日の20:00からとその後再放送もあります。

 私は成瀬映画をはじめとした昔の日本映画を中心に観てきたので、テレビドラマはあまり観る機会も時間も
なかったのですが、ここ数年山田太一さんの原作や脚本のテレビドラマをかなり集中して観ています。
 DVDがなくまた放送されないものは図書館で山田太一シナリオ集を借りて読んだりも。
実は今年、山田太一さんの新刊記念のトークショー、サイン会に二回行ってしまいました。

 映画やドラマの楽しみ方は人それぞれでしょうが、私は成瀬映画や小津映画や川島映画を愛好しているので
「ストーリー展開」にあまり関心がなくなってきました。
 日本映画に限らず外国映画でも、ストーリーが面白い映画というのは1回観ると満足してしまい
観直すことがあまりない。これはストーリー重視の映画の宿命かと思います。

 監督の演出のテンポや映像。美術や撮影や音楽、そしてもちろん俳優の演技や台詞などの要素は
何度も同じ映画を観たくなるポイントです。少なくとも私にとっては。

 ところが山田太一シナリオのテレビドラマを観て、久しぶりにまずストーリーの面白さを堪能させられました。
「この登場人物はこの後どうなってしまうのだろう」とミステリー映画でもないのにドキドキしてしまう
のが山田シナリオではないかと。
 基本的には家庭ドラマですが、山田作品は意外なほど予想外の展開になるものが多い。
そしてやはり「台詞の素晴らしさ」に圧倒されます。山田太一さんは正に「言葉の魔術師」です。
 山田作品を何度も観たくなる理由はそこにあります。
 
 最近日本映画専門チャンネルで放送された作品でも『シャツの店』(NHK 1986)、『チロルの挽歌』(NHK 1992)
などは毎週「どうなるんだろう」という気持ちで観てしまいました。
 高倉健主演の『チロルの挽歌』(共演:大原麗子、杉浦直樹、河原崎長一郎など)は、
現在地上波やBS等でさかんに放送されている映画の高倉健よりもずっと魅力的だと感じました。
 無口で愛嬌の無い自分を変えようとする中年男(高倉健)の姿は、ドキュメンタリーを観ているような
感覚を覚えました。

 さて、今週の土曜日からいよいよ山田作品の最高傑作と評すかたも多い『早春スケッチブック』(1983 フジテレビ)
が始まります。私はこのドラマをDVDですべて観ていますが、本当に素晴らしい作品です。
 詳細は下記の日本映画専門チャンネルのHPを参照。

 山田太一シナリオのテレビドラマ(いくつか映画作品もありますが)は本当に数が多く、そして「ハズレ」が無く、
もちろん私が観ている(一部はシナリオを読んで)のは一部だけですが、上記の『早春スケッチブック』
よりも好きな、私の中では山田太一作品の第一位がわりと最近の『ありふれた奇跡』(2009 フジテレビ)です。
これは放送時に毎週観ました。主演は仲間由紀恵と加瀬亮の二人。
その後レンタルDVDも借りて全話観直しました。
『ありふれた奇跡』もそのうちに山田太一劇場で放送されるのではと期待していますが、
TSUTAYA等にレンタルDVDが置いてあると思われるので未見の方ですぐに観たい方にはおすすめです。

 先日、池袋の書店で行われたトークショー、サイン会では冒頭に小津映画の話をされて
いたのですが、山田太一さんから成瀬映画や川島映画についても話を聴きたいと思ってしまいました。

日本映画専門チャンネルHP 山田太一劇場


トップページへ戻る


NEW 2015.10.24 成瀬映画の不明ロケ地について

 最近、成瀬映画ロケ地についての情報提供が続いたので(感謝!)、
現時点でわからないロケ地についてまとめてみました。
 すべてではないのですが、成瀬映画の上映や過去にスカパー等で録画したブルーレイやDVDを観るたびに
「ここはどこのロケーションなんだろう」と疑問に思う場所です。
 なお、現在ロケ地紹介ページは文字フォントやレイアウトをできるだけ統一させるように
古いものから少しずつ変える作業をしています。

・『女優と詩人』    冒頭とラストに登場する電車とその前の原っぱ
・『妻よ薔薇のやうに』 千葉早智子が父親を訪ねる地方(千葉のナレーションだと信州らしい)
・『サーカス五人組』  楽団員が旅をする地方
・『鶴八鶴次郎』    長谷川一夫が流れていく地方(街道の脇に小川)
・『旅役者』      一座が公演する地方
・『なつかしの顔』   舞台となったロケ場所すべて
・『おかあさん』    香川京子と岡田英次が挨拶する電車の踏切(京浜急行沿線?)
・『夫婦』       上原謙と三國連太郎の勤める会社の場所
            上原謙、杉葉子が登場するラストの公園
(10年以上前に、杉葉子さんご本人にもお聞きしましたが覚えてないとのお答えでした)
・『妻』        出勤する上原謙の歩く道や踏切(世田谷?)
            上原の会社の場所
            上原謙と丹阿弥谷津子と子供が宿泊する大阪の旅館の前の道
・『山の音』      丹阿弥谷津子と角梨枝子の暮らす下宿(本郷?)
・『浮雲』       冒頭の森雅之の家のある場所、高峰秀子と二人で歩く場所
            森が高峰を訪ねる山形勲の家の前の道
            鹿児島市内
・『くちづけ・第三話女同士』 上原謙・高峰秀子の医院の場所
・『杏っ子』      雨の中、山村聰と香川京子が会話しながら上って行く坂
            ラスト、香川京子がゆっくりと下っていく坂道(上と同じ?)
・『妻として女として』 高峰秀子や淡路恵子がドライブで行く湖
            高峰が訪ねる森雅之の勤務大学
            高峰が待つ大沢健三郎の通う学校の前の道
・『女の座』      加東大介・三益愛子の経営するアパートの前の道(何度か出てくる)
            高峰秀子の亡夫の墓参りに出てくる墓地
・『放浪記』      東京で行商をする田中絹代と高峰秀子が歩く道
            高峰秀子が登る坂道(おそらく本郷)
・『女の歴史』     高峰秀子と息子、賀原夏子が疎開する地方(畑仕事のシーンなど)
・『女の中にいる他人』 三橋達也の設計事務所の前の道(三橋・草笛光子が歩く 横浜の港地域のどこか)
ざっと、こんなところでしょうか。

 以前も、10年間くらいどうしてもわからなかった『あにいもうと』に出てくる私鉄の駅が
わかったりしたので(ロケ地紹介ページ参照)上記のロケ地もいつかわかると期待しています。
 推測でも結構ですから「・・・・ではないか」とメールで情報提供いただけるとありがたいです。


トップページへ戻る


NEW 2015.10.12 書籍「小津安二郎に憑かれた男」について

 先日、フィルムセンターで行われた小津映画『小早川家の秋』の上映と
周防正行監督、種田陽平美術監督とのトークショーに行ってきました。

その時に周防さんと種田さんが紹介していた本がタイトルの本でした。
 正確には
「小津安二郎に憑かれた男」-美術監督・下河原友雄の生と死 永井健児著、1990フィルムアート社刊
 私は成瀬映画のファンになる前は大の小津映画ファンでしたので、小津監督関連の本も数多く保有しています。
しかしこの本はまったく読んだことがありませんでした。
 
 お二人のトークショーでの内容紹介がとても面白く、読んでみたいと思ったのですが、
今は絶版になっているようなので、図書館検索したところ近所の図書館にありました。
早速借りてきて一気に読みました。小津関連本の中でも相当面白く、興味深い本です。

 下河原友雄(1917-1978)は、大映~新東宝~大映と活躍した美術監督で
『宗方姉妹』(新東宝)、『浮草』(大映)、『小早川家の秋』(宝塚映画)
の3本の小津映画の美術監督をしています。
 新東宝を辞めて復帰した大映では、市川崑監督や増村保造監督などの多くの作品の美術監督として
活躍していきます。
 
著者の永井健児氏は下河原美術監督の弟子で、『宗方姉妹』では実際に美術助手に付いています。
映画の世界を離れた後は商業施設のデザイナーとして活躍されたとのこと。

 本は、1950年3月、永井氏(当時22歳)が師匠の下河原友雄美術監督(当時33歳)に呼ばれて、
旅館「茅ヶ崎館」へ出向くところから始まります。
 当時、新東宝の美術監督であった下河原氏が、初めて小津映画『宗方姉妹』の美術監督に起用され、
永井氏に手伝ってもらおうと電報で呼び出します。
 そこにいたのが、「茅ヶ崎館」でシナリオ執筆をしていた小津監督(当時46歳)と脚本家・野田高梧(当時56歳)で、
永井氏は紹介された後に一緒に食事と酒をご馳走になります。

 小津監督から「最近観たシャシンの感想」を聞かれ、永井氏は前年1949年の黒澤映画『野良犬』
の素晴らしさを、細かい演出部分に至るまで熱く語ります。
 その後で小津監督は永井氏(ボクという渾名がつけられている)に訊きます。
以下本文からの一部抜粋。

・小津監督「わたしのシャシンについてはどうかな。ボクみたいな若い人はどう思うのかな」
・永井氏「すいません。先生の作品、まだ拝見したことがないんです」
・小津監督「それは残念だなあ。いつか見る機会もあるだろうが、私の作品はダイナミックじゃあないんだが、
 それでもいいのかなあ」
・永井氏「ギラギラしていないってことですか」
・下河原氏「キラキラしてるってことだ。永井君なあ、去年のベストワンは先生の『晩春』で、
 二番目が『青い山脈』、『野良犬』は三番目なんだ。まだキミ位の年齢じゃあ理解しにくい
 大人の心情を描いているわけだが、あとでじっくり、見てみればわかるよ」
・小津監督「下ちゃん、いいんだよ。なかなか面白い青年で素直でいいや。おいボク、もっと飲めや」

 この「ギラギラ」という言葉は、この後も本文中によく出てきます。
「ギラギラ」と「キラキラ」という黒澤映画と小津映画の対比は上手い表現です。

 本はこの後、実際の『宗方姉妹』の撮影現場での詳細な記録や、美術助手・永井青年の
小津監督の頑固なこだわりへの反発(小道具の変更をめぐってミニストライキを決行)や、
下河原美術監督の家庭での女性問題も含んだプライベートな話題、
そして『浮草』『小早川家の秋』の撮影現場でのエピソードなどが語られます。

 小津監督の肉声が生き生きとして描かれている素晴らしい小津本でした。


トップページへ戻る


NEW 2015.9.29 雑誌への寄稿について

 先日、ある雑誌の編集部から本HP経由でメールが届き、「おすすめの成瀬映画3本」についての原稿依頼でした。
快諾して寄稿しました。

 雑誌は若者向けの「東京グラフィティ」(㈱グラフィティ)。
9/23発売・10月号の104ページの
・その道に詳しい人に聞く「まずは、この映画を観ろ!!」
 25年来のファンに聞く成瀬巳喜男作品BEST3
です。
 個人的には「観ろ」ではなく「観てほしい」なのですが、そういうタイトルのページなので。

 また3本の作品はDVD化されていて手軽に観ることができるものをとの編集者からの要請でしたので
DVD化の中から選びました。私の一番好きな、かつDVD化されていない(以前ビデオ化はされている)
『驟雨』はタイトルだけ出しました。

 管理者の私は本名、写真入りで登場しています(笑)

 是非ご一読いただければ。

 
「東京グラフィティ」


トップページへ戻る


NEW 2015.9.13 セブンシネマ倶楽部 「成瀬巳喜男監督の撮影現場」

 トップページに記載した東京・池袋で9/3に開催されたセブンシネマ倶楽部「成瀬巳喜男監督の撮影現場」
に行ってきました。
 成瀬映画には『女の歴史』『乱れる』『女の中にいる他人』の3本で助監督に付かれた小谷承靖監督
と『犬猫』(2004)で日本映画監督協会新人賞を受賞され、その後『人のセックスを笑うな』(2008)、
『ニシノユキヒコの恋と冒険』(2014)などの作品を発表されている井口奈己監督のお二人と、
ナビゲーターが女優・脚本家の近衛はなさんでした。
 
 当日は映画『乱れる』の魅力や当時の撮影現場の話などが中心でしたが、これはセブンシネマ倶楽部の
HPで「Coming Soon」となっているのでそれを待ちましょう。
 また、当日は小谷監督からちょこっと紹介されてしまいました。当日会場にいらした方、失礼しました(笑)
 
 私の前の席には、東宝の女優さんだった田村奈己さん(当時は田村まゆみ)が座っていらして、
同じく小谷監督からご紹介されていました。
 会が終わった時に少しお話しさせていただきましたが、成瀬映画には『女が階段を上る時』の
ワンシーンだけに出演されているとのことで、私が「銀座のホステス役ですか?」と訊ねると
「よく覚えていないがホステスではなかったと思います」との答えでした。
 帰宅してDVDで調べて観たところ、森雅之の銀行に高峰秀子が訪ねてくるシーンでそこに入って来る
森の部下(秘書?)銀行員役で出演されていました。

 当日、近衛はなさんが紹介していた英国映画協会の『乱れる』評ですが、
私の知人が和訳してくれたものの一部でした。(注)は和文のみです。
 ここに全文を記します。短い文章ですが実に的確に、正確に『乱れる』の魅力を語っています。
続いて10本の英訳もあわせて掲載します。

Yearning (1964)『乱れる』(思慕)

 成瀬の最も素晴らしい成果の一つ。映画史上でも特筆される、息を呑むようなラストショットに言及しなければ、『乱れる』について語ることは難しい。
しかし、ラストショットに触れてしまうと、この作品をまだ観ていない人が、胸がつまるような、この作品を味わうことを損なうことになる。
 『乱れる』は今回(英国映画協会が)選んだ成瀬作品の10本に含まれていると言えば十分であろうし、彼の作品の中でも最上部に位置づけられる。 
新しく出来たスーパーマーケットのために地方都市の個人商店が経営難に陥るという、成瀬流の同時代の世相観察を盛り込んだ話が、程なく、
激しいメロドラマに彩られた愛の葛藤に発展する。

 しっかりした三幕仕立ての話は高揚し、恋人になるはずの二人は田舎に逃避する。女は逃れようとし、男は追いかける。
二人が結ばれるかと思われたのも束の間、まつわりつく過去が女を引き留め、そして、情け容赦ない運命の残酷さが待っている。

(注)邦題の『乱れる』というタイトルは義理の弟から愛を打ち明けられた嫂(=兄嫁)の心の乱れに焦点を当てて取っているが、
   英国で付けられた題は、嫂に対する義弟の心情に力点を置いて
Yearning(思慕)としている。

One of Naruse’s most stunning achievements. It’s difficult to talk about Yearning without discussing its breathtaking final shot, one of the greatest in all cinema.
Yet to do so risks ruining its heart-wrenching power for the uninitiated. Suffice to say that as essential titles go, this sits at the top of the pile.
What begins as a typically Narusian examination of contemporary fiscal woes – a new supermarket threatens to put local shops out of business
– soon develops into a romantic tug-of-war steeped in exquisite melodrama.
A robust, three-act structure soars as the would-be lovers flee to the countryside
– she to escape, he in pursuit – a fleeting glimpse of a chance at love hounded by the past and the inexorable cruelty of fate

・生誕110(2015)BFIが選んだ成瀬映画10(10 essential films)

Every night Dreams(1933)  『夜ごとの夢』
Wife ! Be like a Rose !(1935) 『妻よ薔薇のやうに』
Late Chrysanthemums(1954)『晩菊』
Floating Clouds(1955)  『浮雲』
Sudden Rain(1956)   『驟雨』
Flowing(1956)  『流れる』
When a Woman Ascends the Stairs(1960) 『女が階段を上る時』 
Autumn Has Already Started(1960) 『秋立ちぬ』
Yearning(1964) 『乱れる』
Scattered Clouds(1967) 『乱れ雲』

当日のトークショーで『乱れる』が素晴らしい映画であることを再認識して、これまで何度観たかわかりませんが
もう一度観てみたいと思わせるトークショーでした。

 当日嬉しかったのは、井口奈己監督、近衛はなさんのお二人の女性が、成瀬映画で特に好きなのが『驟雨』と話されていたこと。
本HPでも何度も書いていますが、私の考えでは、成瀬映画の中で作品として最も完成度の高いのは『流れる』ですが、
最も好きな映画でありかつ一番成瀬監督らしい映画は『驟雨』です。
 トップページにリンクしたセブンシネマ倶楽部の前回の香川京子さん・川本三郎さんのトークショーのレポートでも
香川さんがご自身が出演された成瀬映画の中で『驟雨』が特にお好きだと話されています。
やっぱ、成瀬映画は『驟雨』だ。と改めて感じ入ったのでした。
BFIの10本の中に選定されているのも素晴らしいことです。
 
 そういえば、今年発表された、はっぴいえんどの未発表曲が『驟雨の街』(詞=松本隆、曲=細野晴臣)
というタイトルで、松本隆さんは以前雑誌「東京人」の対談で成瀬映画、小津映画のファンと話されていたので
もしかしたら成瀬映画からヒントを得たのかなと勝手に想像しています。

 トークショーの後に近くの居酒屋で小谷監督、井口監督など数人の方と飲んで談笑しました。
とても楽しいトークショーでした。

トップページへ戻る


NEW 2015.8.22 生誕110年 映画俳優 志村喬

 今年は成瀬監督の生誕110年(一昨日の8/20が誕生日)ですが、日本映画の名優・志村喬も1905年生まれの生誕110年です。
東京・京橋「フィルムセンター」で8/18より「生誕110年 映画俳優 志村喬」という展示イベントが始まりました。(12/23まで)

「生誕110年 映画俳優 志村喬」HP

 志村喬というとどうしても黒澤映画のイメージが強いのですが、戦前から晩年まで生涯に400本近い映画に出演しているとのことで
他の監督の作品にも多数出演しています。

 成瀬映画にも6本(そのうち1本は川島雄三との共同監督の『夜の流れ』)に出演しています。
・『芝居道』(1944)
・『春の目ざめ』(1947)
・『怒りの街』(1950)
・『あらくれ』(1957)
・『コタンの口笛』(1959)
・『夜の流れ』(1960)*川島雄三監督との共同監督
 成瀬映画ではそれほど印象の強い役柄はないように思います。

 三船敏郎の場合は2本の成瀬映画『石中先生行状記』(1949)、『妻の心』(1956)が
両方ともとても印象に残る役柄で、特に『妻の心』での地方都市(群馬県桐生市)の
誠実そうな銀行員役は、黒澤映画には見られない新たな魅力を醸し出していました。

 志村喬が出演している映画は黒澤映画も含めて数多く観ていますが、
黒澤映画、成瀬映画以外で私が特に好きな作品は
・『丘は花ざかり』(1952 千葉泰樹監督)
・『ゴジラ』(1954 本多猪四郎監督)
・『次郎長三国志 第8部』(1954 マキノ雅弘監督)
・『男ありて』(1955 丸山誠治監督)
・『三十六人の乗客』(1957 杉江敏男監督)
・『点と線』(1958 小林恒夫監督)
・『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964 本多猪四郎監督) 
・『怪談』(1965 小林正樹監督)
などです。

 現在日本映画専門チャンネルで放送されている山田太一脚本の
『男たちの旅路』シリーズ(NHK)の「シルバーシート」という回を最近観たばかりです。

 12月まで開催されているので時間を見つけて見に行きます。


トップページへ戻る


NEW 2015.8.8 シナリオ『都会の子』(第1稿)を読んで

 トップページにリンクを貼った「麻布田能久」様のHPロケーション紹介の展開が素晴らしく、
私が保有している『都会の子』のシナリオ(第1稿)をあらためて読みました。『秋立ちぬ』になる前のタイトル。
 笠原良三のオリジナルシナリオです。第1稿なので完成シナリオとは違うと思います。
また具体的なロケ場所はほとんど記述されていません。晴海埠頭や勝鬨橋などは書かれていますが。

 ほとんどは映画『秋立ちぬ』と同じで、細かい台詞もそのままなのですが
『秋立ちぬ』撮影の段階で省略、変更されたらしい箇所がいくつかありました。
 これは成瀬監督の考えでそうされたのでしょう。封切時期に間に合わせるということも理由の一つかと。

 以下は省略または変更された箇所について

・順子(一木双葉)が踊りの師匠の家で稽古をつけてもらっているシーンがいくつかありますが、
 映画には出てきません。

・秀男(大沢健三郎)の台詞は、標準語で書かれています。映画では信州(上田に住んでいたとの設定)の言葉。

・映画では築地・青果市場のシーンも省略されています

・ハイヤーに乗って晴海埠頭に行く秀男と順子。
 映画では二人はその後豊洲の線路を歩き、東京湾で水遊びをしますが、シナリオにはそのシーンはありません。
 変わりに「埋立地の別の一隅」で別の子供たち7-8人がドッジボールをしていて、
 そこに入れてもらい二人は一緒にドッジボールをします。
 また、映画で足を怪我する秀男ですが、シナリオでは怪我はしていません。
 二人が土管に腰掛けて会話するシーンがあり、そこでは順子が「あさってデパートのホールで踊りの
 おさらい会(娘道成寺を踊ると)があるので、三時までにデパートの屋上にカブトムシを持ってきてよ」
 との内容の台詞があります。デパートは映画に出てくる「銀座松坂屋」でしょう。

・デパートの屋上で、踊りの衣装を着て待っている順子。カブトムシを入れた小箱を片手に道を急ぐ秀男
 が交互に描かれています。
 映画では、怪我をした片足を引きずりながら順子の家(三島旅館)へ急ぐ秀男の姿が描かれています。
 そして引っ越ししてしまった順子は一切登場しません。
 
・シナリオでは、この後のラストシーンの展開が衝撃的です。
 デパートの屋上で待つ順子にカブトムシを届けようと道を急いでいる秀男は
 ダンプカーにひかれます。
 デパートの屋上で待っている順子は、母の直代(藤間紫)から「あんたの舞台よ、早く来て」
 と言われて屋上からおさらい会の会場へ向かいます。
 救急車がサイレンを鳴らしながら走り過ぎていく。
 停まっているいるダンプカーと黒山の人だかり。
 その群衆をよそに茂子(乙羽信子)が打ちひしがれたように、うつむきながら横丁へ曲がっていく
 と書かれています。
 映画では、デパートの屋上で一人佇む秀男の表情で終わりますので随分と違います。
 最後に順子と茂子が登場するシナリオになっていますが、映画の展開のほうが
 秀男の寂しさがひしひしと感じられ良いと思います。

トップページへ戻る


NEW 2015.8.5 『秋立ちぬ』ロケーション場所HPの紹介

 トップページに紹介しましたが、主に東宝映画の都内のロケーション場所紹介をされているHP「麻布田能久」さん
(もちろん若大将映画からですね)が現在、『秋立ちぬ』のロケーションマップと写真をストーリー順に展開しています。
 それから『夜の流れ』のロケ地の一部はすでに公開中です。
 
 田能久さんHPの方でも多少紹介されていますが、田能久の田沼久太郎さん(若大将映画の有島一郎の役:と一応書いておきます 笑)から
メールをいただき、その趣旨と本成瀬HPの『秋立ちぬ』ロケーションを一部リンクさせてほしいとのことでした
ので快諾しました。
 実は、まだアップされていないのですが、銀座界隈のロケ地で私がこれまでどうしてもわからなかった場所(4箇所)
を今回田沼さんから教えていただき、私も先日その場所に実際に行って確認し、写真を撮ってきました。

 田沼さんがストーリー順にアップしているので、その場所(4箇所)はアップされ次第、私の方も『秋立ちぬ』のロケ地追加
として掲載したいと考えています。
 例の大瀧さんと川本さんの「東京人」(特集 映画の中の東京 2009年11月号)の「映画カラオケのすすめ」
(『銀座化粧』『秋立ちぬ』ロケ地紹介特集)でも、はっきりとした場所が示されていないロケ地なので、
私も正直「ちゃんと書いてほしいな」とストレスがありました。
 今回田沼さんから連絡いただいて、長年わからなかった数か所のロケ場所が判明し、もやもやが吹き飛んだ気がします。
 もちろん『秋立ちぬ』以外の成瀬映画ではまだロケ場所の不明なものも多数あるのですが。

 今回教えていただいた田沼さんに感謝いたします。


トップページへ戻る


NEW 2015.8.2 訃報 俳優の加藤武さんがお亡くなりになりました

 マスコミ報道にあるように、俳優の加藤武さんが7月31日にお亡くなりになりました。86歳。
市川崑監督『金田一』シリーズのコミカルな刑事役、黒澤映画、川島映画など数多くの映画そして
テレビドラマ、文学座での演劇など。落語に造詣も深かった。

 成瀬映画にも『放浪記』と『ひき逃げ』の2本に出演されています。
川島映画では『貸間あり』『青べか物語』などが代表作でしょうか。
そして『幕末太陽傳』『赤坂の姉妹より 夜の肌』の
江戸っ子らしい、テンポのいいナレーションも味わいがありました。

 黒澤映画では『悪い奴ほどよく眠る』と『天国と地獄』の2本での演技が特に好きでした。

 その他の映画では『黒部の太陽』、『仁義なき戦い』シリーズ、『日本の一番長い日』
『白い巨塔』『豚と軍艦』などが印象に残っています。

 日本映画では名脇役のお一人でした。ご冥福をお祈りいたします。
 
報道によると、スポーツジムのサウナで倒れられて、
その後搬送先の病院で亡くなられたそうです。
連日の猛暑の中、86歳の高齢者にサウナはかなり危険かと思います。

トップページへ戻る


NEW 2015.7.14 日本映画専門チャンネル「森繁対談」

 現在、日本映画専門チャンネルで毎日放送されている番組「森繁対談・日曜日のお客様」。
1982年に放送されていたテレビ番組(30分のトークショー)のようですが、私は当時観た記憶がありません。

 これまで高倉健、勝新太郎や、作家の井上靖、遠藤周作などの回を録画して観ましたが、
昨日7/13の回(第9回)では高峰秀子、松山善三がゲストでした。

 予想していなかったのですが、冒頭高峰秀子が成瀬監督の話題を出しました。
「私は成瀬監督の映画に多く出演させてもらったが、ほとんど会話したことがない」
 その対比として木下監督とはいろいろな話をした。

 すると森繁久弥が「そうですか」と言った後、「私は成瀬さんには使っていただいたことが
なかったけれどずいぶんと話はしました」。
 森繁久弥が成瀬監督について語るのを初めて観ましたので少し驚きました。
 成瀬監督は「3か月くらい準備して撮った作品があまり評価されず、時間がなく急いで撮った作品が
賞をとったりするんだ」と森繁久弥に語ったそうです。

 高峰秀子が以前にインタビューで語っているのを読んだことがありますが
高峰秀子が『あらくれ』の撮影前に、「先生、この役はどのようにやったらいいでしょう」
といった相談をしたところ、成瀬監督は「撮っているうちに終わっちゃうでしょう」
のようなことを言われたそうで、高峰秀子が面白く語っていました。

 夫の松山善三が語る、師匠の木下恵介監督と黒澤明監督の自然の描き方の違いの話や
木下監督のパリのレストランでのエピソードもなかなか面白く、
これまで観た中では一番興味深い回でした。

 この回は8/19(水)のお昼12:40-13:10で再放送されます。


日本映画専門チャンネルHP「森繁対談」


トップページへ戻る


NEW 2015.7.8 川島雄三特集に行きました

 池袋の新文芸坐で7/1-7/7に上映された川島雄三特集に行ってきました。
といっても今回私が観たのは『赤坂の姉妹より 夜の肌』(東京映画 1960)1本だけ。
私が成瀬巳喜男監督の次に好きなのが川島雄三監督です。


 55年前のカラー作品なので、プリント状態が気になっていたのですが、
素晴らしく綺麗なプリントで、カラーも退色しておらず、新作の映画を観ているような
感じでした。川島雄三で検索したツイッターの書き込みをみると、作品によっては
プリント状態が悪く、途中で少し中断してしまうようなこともあったようなので
その点ではラッキーでした。

 本作はスカパーの日本映画専門チャンネルで以前放送された録画DVDを持っていて
それは何度も観ていたのですが、スクリーンで観るのは今回が初めてでした。
今回の川島特集の中で唯一スクリーンで観たことのない作品だったので観に行ったわけです。

 今回改めて、スクリーンで映画を観る、そして古い名作を綺麗なプリントで観ることの
素晴らしさを感じました。

 台詞の細かい点が聞き取れたり、実内の小道具などがよく見えたりします。
そして今回は何といっても次女・秋江役の新珠三千代の和服姿の美しさに魅了されました。
特に綺麗なカラープリントだったので着物の柄がより鮮明に見えました。

 加藤武のナレーションによる赤坂の紹介がところどころに入り、これは『銀座二十四帖」(1955 日活)
の森繁久彌のナレーションとほぼ同じ形です。
 料亭の多い当時の赤坂の落ち着いた街並み(オリンピック前)の映像も貴重です。

 またどこかで上映または放送される機会があるかもしれませんが、
『赤坂の姉妹より 夜の肌』はおすすめの川島映画の1本です。
タイトルがまるで「にっかつロマンポルノ」作品のようですが、
文芸映画、風俗映画の名作です。

トップページへ戻る


NEW 2015.6.22 小津映画『淑女は何を忘れたか』(1937)について

 成瀬映画は現存する69本をすべて観ているのですが、小津映画は戦後の作品『長屋紳士録』(1947)から
『秋刀魚の味』(1962)は観ていますが、戦前、戦中の作品は未見の作品が結構あります。
未見の作品はすべて松竹蒲田時代のサイレント映画です。
 以前スカパーで放送されて録画していた小津映画のトーキー2作目『淑女は何を忘れたか』(1937 松竹大船)を
初めて観ました。これが素晴らしい傑作でした。

 大学教授・斎藤達雄と栗島すみ子の夫婦のところ(麹町あたりの邸宅)に、大阪から斎藤の姪っ子の桑野通子
が遊びに来ていろいろと騒動を起こすといったストーリーです。
 偶然ですが、大阪の長屋に東京から姪っ子がやって来るという成瀬映画『めし』に近い設定です。

 本作は当時の小津監督が影響を受けたというエルンスト・ルビッチ監督、「ルビッチタッチ」の
映画と言われています。
私はルビッチの映画を数本しか観ていませんが
都会的でソフィスティケートされた雰囲気のコメディがそう言われる理由でしょう。
 
 ドクトルこと斎藤達雄は、しっかりものの妻・栗島すみ子に頭が上らず、
「叔父様、しっかりしなさい」と姪っ子の桑野通子にはっぱをかけられます。
 
 スタイルのいい桑野通子のモガぶりがともかく魅力的です。珍しく大阪弁の台詞を言いますが
あまり違和感はありません。

 当時の栗島すみ子出演作は成瀬映画『夜ごとの夢』(1933)1本しか観ていませんが、
これはサイレント映画だったので、本作で当時の声、台詞の言い回しを初めて聞きました。
後年の『流れる』(1956)とほとんど変わっていない印象でした。

 栗島すみ子、その女友達の飯田蝶子、吉川満子の3人の金持ち奥様たちが
座ってお茶を飲みながら夫への不満を述べるシーンが何回か登場します。
 これは晩年の小津映画『彼岸花』(1958)、『秋日和』(1960)に登場する
佐分利信、中村伸郎、北竜二の中年おやじトリオの女版のようで可笑しかったです。
特に飯田蝶子の「ばか」「かば」というくだらない言い回しが、
小津調のすこし不自然なリズミカルな言い回しで笑えます。

 当時としてはモダンな洋間が出てくるので、小津映画には珍しく
斎藤、栗島、桑野の3人が、室内で立ったまま会話をするシーンもあります。
室内で立ったまま会話をさせるのは成瀬調なのですが。

 使用されている音楽もハワイアンのような音楽で、そのモダンさにびっくりしました。
斎藤が桑野を連れていくバーでは、英語の文字(不明だが誰かの格言)を横移動で映したり
桑野の台詞にも野球用語が英語で登場したりととにかくお洒落でモダンな作風の映画です。

 これまで観ていた戦前、戦中の小津映画では、『生れてはみたけれど』(1932)、
『非常線の女』(1933)、『戸田家の兄弟』(1941)あたりが好きでしたが、
本作『淑女は何を忘れたか』がこの当時では一番好きな作品になりました。

トップページへ戻る


NEW 2015.6.15 映画『海街diary』

 本エッセイでも紹介した映画『海街diary』が6/13から公開されたので早速観てきました。
是枝監督作品を観たのは初めてです。
映画の感想を言えば、個人的にとても好きな映画であり、傑作です。

 ストーリーその他は新聞や雑誌の映画評でも紹介されていましたし、
公式HPやインターネットでも数多いので省略して、ポイントのみを書きます。

・この映画で最も気に入ったのは、「回想シーンが無い」こと。
 四姉妹の父親が亡くなり、その葬儀から物語は始まりますが、
 父親は画面にまったく登場しません。父親との思い出は四姉妹をはじめとする
 登場人物の台詞でしか語られません。
 徹底しているのは父親の顔写真すら出てこないこと。もしかしたら葬儀の時の遺影
 で若干見えていたのかもしれませんが、少なくとも観客にはっきりと示されることはないです。
 観客の想像力にまかせるという、昔の日本映画の監督たちが自然に行っていた手法を
 受け継いでいるといっていいでしょう。
 そして、「回想シーンが無い」という点は、極めて小津映画に近い。
 私の知る限り、戦後の小津映画(これは全部観ています)に回想シーンは無いと記憶していますし、
 戦前、戦中で観ている小津映画にも回想シーンは無かったです。
 是枝監督は本作の脚本も手がけていますので、回想シーンが無いのは監督の意図でしょう。

・母親代わりのしっかりものの長女・幸=綾瀬はるか、
 酒と男に弱い次女・佳乃=長澤まさみ、
 冷静でマイペースの三女・千佳=夏帆、
 そして三姉妹とは腹違いで、心に傷を負っている中学生の四女・すず=広瀬すず。
 この四姉妹のキャラクターが動作、表情、台詞などで繊細に丁寧に描かれています。
 映像では、綾瀬はるかの横顔のショットは、評論家の誰かが書いていたように、確かに
 小津映画の原節子のショットを彷彿とさせるところがあります。
 本作での綾瀬はるかは凛としていてとても綺麗です。
 私は、男兄弟の家に育ったので、姉妹のやり取りを現実的には知りませんが、
 本作では家の中でだらっとして寝転んでいる長澤まさみ、夏帆の姿がとても
 リアリティがあったように感じます。
 そのような女性の描き方は、小津調ではなく成瀬調と言えます。
 長澤まさみが早口で言う台詞(男のような言葉遣い)は、ともかく面白い。私は劇場で笑ってしまいました。
 これはこれからご覧になる方は是非注意していただければ。

・映像的なことを言えば、四姉妹が暮らす鎌倉の旧家の庭の方から縁側や和室を
 撮ったショットは成瀬調です。小津映画にはまず出てこないアングルで。

 本作を私は高く評価しますが、いくつか気になった点を

*抒情的な音楽もとてもいいのですが、テーマ曲の旋律が少し
 マーラーの交響曲第5番の第4楽章「アダージェット」に似ているかなと。
 言うまでもなく映画『ベニスに死す』の中で繰り返し流れる美しい曲です。
これは人それぞれの感じ方ですが、音楽好きとしてはそのように感じました。

*成瀬映画や小津映画と比較してはいけないと思いますが、メイキングのインタビュー
 でも是枝監督の二人の監督に対する意識は強いので、あえて書きます。
 本作で少し物足りないのは、「場面転換でのテンポ感の不足」です。
 あるシーンが終わると、次のシーンが突然続き、「余韻」のようなものが
 欠けている。
 少なくとも成瀬映画や小津映画、それから川島映画などを観たときに
 感じる、場面転換のテンポ感はありません。
 一つ一つのシーンが「ぶつ切り」のように展開している。
 クレジットによると編集も是枝監督自身がされているようです。
 私は本HPにも書いているように成瀬映画の場面転換の素晴らしさに
 魅了されている者なので、特にそのように感じるのかもしれません。
 
 少し気になる点も書きましたが、本作は成瀬映画、小津映画ファンの方は
 おそらく好きになる映画だと思います。
 ほとんど観る気の起きない新作の洋画、邦画の中で(劇場での15分くらいの予告で観たい映画が1本も無い!)
 観ても損のない映画であることは断言できます。
 
 そして、鎌倉の「極楽寺」に久しぶりに行きたくなる。しらすトーストを食べたくなる、
 梅酒が飲みたくなる映画でもあります。

トップページへ戻る


NEW 2015.6.6 映画本での気になる言い方について

 昨年も本エッセイで同様の話を書いたのですが、続編的に少し詳しく書いてみます。 

最近読んだある映画本の中に気になる言い方がありました。気になるというより「違和感」です。
それは
「・・・・しなければならない」という<上から目線>的な表現です。
 
 私も成瀬本を出していて、あまり他の映画本に対して批判的なコメントはしたくないので、
具体的な著書と著者名は控えます。
しかしながら以前からこれだけは「違和感」、さらに言えば「強い反感」を持っていました。
映画本というのは正確ではありません。成瀬本や小津本と限定します。

 もしかしたら私も『成瀬巳喜男を観る』や本HPの中にそのような言い方を書いているかもと
若干不安になりますが、思い起こしても書いた記憶がありません。本HPにあればすぐに削除します。

 このような言い方が登場するのは、映画の中のあるシーンやショットの解釈についてであることが多い。
つまり、このシーンやショットはこのような(もっと深い)解釈をするべきなのだ
といった論旨です。「・・・・を見落としてはなるまい」など。

 著者が映画自体や、あるショットやシーンに対してどのような解釈を披露してもそれは自由です。
またその解釈に「そういう見方もあるんだ」と共感することもあります。
ただし、上記のような言い方に対しては読者の立場から「大きなお世話だ」と反発したくなります。

 それが成瀬本であれば、成瀬研究家・ファンの一人としてその反発心は最大限に達します。
 
 何故か?

 それは、成瀬映画には「・・・・・しなければならない」や「・・・・・でなくてはならない」
といったメッセージが皆無だからです。
 
 成瀬映画にはそういう押し付けがましい要素がありません。それが魅力の一つです。
夫婦ものでも夫の立場、妻の立場を実にバランス良く描いてくれます。
子供が主人公の『まごころ』『コタンの口笛』『秋立ちぬ』などでも同様です。
子供の立場、大人の立場を実に繊細にリアルに描いています。
そして登場人物の誰に対しても成瀬監督の優しい視線を感じます。

 成瀬映画の中の最大の異色作の1本『浦島太郎の後裔』だけは敗戦直後でもあり
「民主主義」啓発のような要素が多少見られますが、それほど強烈なものではありません。

 小津映画には少し「お説教」的な台詞があったりしますが、それもその後登場人物が打ち消したりして
実に気分がいい展開を見せてくれます。

 成瀬映画や小津映画は「押し付けがましさ」「上から目線」がほとんどない、実に自由な雰囲気の映画なのです。
清水宏監督(人間的には威張った人だったようですが!)や川島雄三監督の作品も同様でしょう。
偶然ですが全員松竹出身です。

トップページへ戻る


NEW 2015.6.2 訃報 俳優の小泉博さんがお亡くなりになりました

 マスコミ報道にあるように、俳優の小泉博さんが5月31日にお亡くなりになりました。88歳。
端正な顔立ちと上品な雰囲気が魅力的な俳優さんで、私はとても好きでした。

 最初に成瀬映画。『晩菊』と『娘・妻・母』の2本に出演しています。それ以外は無かったかと。
『晩菊』では細川ちか子の一人息子で最後に転勤で北海道に旅立っていきます。
『娘・妻・母』では、杉村春子の一人息子役でかつ草笛光子の夫。姑と嫁の葛藤に巻き込まれる気の弱そうな男の役でした。

 小泉博といえば私の世代ではやはり東宝の怪獣映画です。
『ゴジラの逆襲』『モスラ』『モスラ対ゴジラ』そして最も印象的なのは『三大怪獣 地球最大の決戦』で谷に落ちた隕石から
キングギドラの形に変身していくのを最初に見たのが探検隊の隊長・学者役の小泉博です。
台詞は「おい、何か形になっていくぞ」でしたね。確か。

 それから東宝のマキノ雅弘監督『次郎長三国志』9部作での色男・追分三五郎役です。石松役の森繁との掛け合いが最高。
追分三五郎を演じる小泉博の男の色気は、市川雷蔵に匹敵するくらいのものでした。

サスペンスものの傑作『三十六人の乗客』(1957 杉江敏男監督)では私用で犯人のひそんでいるスキーバスに乗った
若い刑事を好演しています。バスガイドが扇千景。

そしてもう一本。3-4年前に日本映画専門チャンネルの川本三郎さんセレクション番組で放送された
『結婚の夜』(1959 東宝)。監督は成瀬組の筧正典監督。
デパートの時計売り場に勤めるモテ男の小泉博。時計の修理に来て知り合った女子大生役の安西郷子
との恋愛ドラマかと思ったらラストの15分で突然スリラーになるというとても怖くて面白い映画でした。再放送を望む。

 これらの映画以外にも数多くの映画(主に東宝)に出演されています。テレビドラマも多数です。
もちろんフジテレビの「クイズグランプリ」もよく見ていました。

 ご冥福をお祈りいたします。


日本映画専門チャンネル 『娘・妻・母』6月放送スケジュール


トップページへ戻る


NEW 2015.5.28 成瀬映画と俳優

 現在、日本映画専門チャンネルで何度目かの黒澤映画特集を放送していて、松竹で撮った『白痴』の前半のパーティシーンに
まだ無名の頃の岸恵子が着物姿で映っていました。
このことは情報としては知っていたのですが、実際に画面で確認したのは初めてだったので興味深かったです。
黒澤映画に岸恵子が映っていることと、同じ画面で岸恵子と原節子が共演しているのも何だか面白く。

 成瀬映画には日本を代表する女優、男優が数多く出演していますが、もちろん出ていない女優、男優もいます。
東宝の監督だったので五社協定の制約もあったでしょうし、何よりも俳優のキャスティングは当然ながら
成瀬監督の好みにも左右されたと推察します。

 女優でいえば個人的に「成瀬映画に出演していたらどんな役柄で、どんな感じだったのか」と興味があるのは
若尾文子、山本富士子、津島恵子、岸恵子、月丘夢路、北原三枝、南田洋子、芦川いづみ、越路吹雪などです。

 男優では何といっても佐分利信です。成瀬監督が松竹を離れた後だと思いますが、いわゆる松竹の三人の美男の三羽烏・
上原謙、佐野周二、佐分利信のうち、佐分利信だけが成瀬映画に出ていないのは不思議です。
 小津映画などで松竹映画の印象が強いのですが、増村保造監督『氾濫』(1959)や
市川崑監督『あなたと私の合言葉 さようなら、今日は』(1959)など大映作品にも出ています。
東宝でも『黒帯三国志(1956 谷口千吉監督)』や自身が監督、出演した『愛情の決算』(1956)などもあります。
 状況としては成瀬映画に出演することも十分可能だったはずです。
 成瀬映画に頻繁に登場する「甲斐性の無い、ダメ男」を演じるのに佐分利信は適役ではなかったということなのか。
これは想像するしかありません。
 成瀬映画には男優もかなり数多く出演していますが、出ていない男優の中で私が一番「出ていたらどうだったか」
と思うのは、大映の市川雷蔵です。それから東宝関連では「社長シリーズ」の加東大介、小林桂樹は成瀬映画の
常連であったのに、森繁久彌、三木のり平、フランキー堺などが成瀬映画に1本も出ていないのは少し残念のような
気がします。
 余談ですがこれを書いていて、そういえば川島雄三監督の映画には小林桂樹は出演していないなと気づきました。
監督と俳優の相性や時代によるタイミングなどを考えるのは映画ファンの楽しみでしょう。

トップページへ戻る


NEW 2015.5.20 映画『海街diary』メイキング番組について

 前評判が高く、私も観に行こうと思っているのが是枝裕和監督『海街diary』です。
綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという四姉妹のキャストも魅力的です。
 
 昨夜、BS日本映画専門チャンネルでそのメイキング番組-映画「海街Diary」が生まれるまで-が放送されていたので
録画して観ました。

 この映画は現在カンヌ映画祭にも出品されていて、海外では鎌倉を舞台にした家族の映画ということで
「小津映画」の影響が指摘されているそうです。

 以前確かNHKのインタビュー番組で是枝監督が「私は成瀬が好きなんです」と話していたのを記憶しています。
そんなことを考えながら漠然とメイキング番組を観ていたら、冒頭の撮影の場面で成瀬監督の話題が出てきて、
そのあと『めし』の画面写真が連続して登場したので驚きました。

 姉妹の住む鎌倉の古い家の和室のシーンです。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆の三人。
カメラポジションが決まってカメラを除く是枝監督が、丸いテーブルを動かして
三人の座る位置を少し変えたいと言います。
試行錯誤してカメラポジションが決まった時に、スタッフに対して
「これでこの映画は今ね小津から成瀬に変わってしまった」と話します。
 そのあと、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆に対して
「少しひねることによって生活感がより出てくる。成瀬巳喜男という監督がいて
 僕は(小津より)そっちの方が好きなんだけども、小津から成瀬に変えてみました」。
 それを聴いて笑う綾瀬、長澤、夏帆。
 この後、是枝監督が成瀬映画の室内での人物の「斜め」ポジションについて語り、
その題材として前述の『めし』の画面写真が連続して出てきます。
 室内での人物の動きの多さが、成瀬映画と小津映画の違いであることはわかっていたのですが、
「斜めに座らせる」という点はそれほど意識していなかったので新鮮な発見でした。
 成瀬映画の屋外シーンの斜めポジションも有名です。

 マンガ大賞2013を受賞した吉田秋生の人気コミックの映画化ですが、番組の最後の方で
是枝監督は、同じ四姉妹の向田邦子脚本の名作ドラマ『阿修羅のごとく』を意識した
と話しています。
 ストーリーも舞台もまったく異なりますが、無理矢理に成瀬映画にあてはめると
全員が父親の違う三姉妹の『稲妻』あたりでしょうか。

 マニアックな見方ですが、この映画を観に行って小津調と成瀬調の要素を
探すのも面白いと思います。

 なお、日本映画専門チャンネルは有料チャンネルですが、昨夜5/19のメイキング番組は
加入していない方も観られる無料放送でした。
これからも何度も放送されるので、無料放送かどうかはチャンネルに確認してみて
ください。

 成瀬映画ファンは必見のメイキング番組です。

・映画「海街diary」が生まれるまで 紹介HP(日本映画専門チャンネル)

・「海街diary」公式HP

トップページへ戻る


NEW 2015.4.21 原節子特集に乾杯

 トップページで紹介していますが、4/25から大阪で原節子特集上映があります。
成瀬映画、小津映画の原節子に関しては、本HPでもいろいろと書きましたので
それ以外の監督の作品について。

 原節子の映画は、10年ほど前に日本映画専門チャンネルで「原節子特集」があり(素晴らしい企画!)
その時の録画DVDを数多く持っています。

今回の上映作品の中で、私が未見でいちばん観たいのは
佐分利信監督の『愛情の決算』(1956 東宝)。
三船敏郎も出演していて、かつ監督佐分利信。ビデオもDVDもないので観る機会が
なかったです。スカパーでの放送も私が知る限り無かったかと。
成瀬映画『驟雨』の次の作品です。

観ている映画でおすすめは、川島雄三監督の中で最も成瀬調の雰囲気が漂う
『女であること』(1958 東京映画)
森雅之の妻役の原節子ですが、この映画の人妻・原節子はなかなか色っぽい。
香川京子、久我美子とともに唯一の川島映画出演作で貴重です。

同じく夫が森雅之で、なんと森が妻の原節子をさしおいて、若い団令子と
浮気をするという『女ごころ』(1959 丸山誠治監督 東宝)も好きな映画です。

木下恵介の映画でマイベスト3に入るのが『お嬢さん乾杯』(1949 松竹)です。
この映画の没落した貴族の令嬢役の原節子も綺麗ですし演技も素晴らしい。
この映画の佐野周二と原節子は、後年の『驟雨』につながるような錯覚に
陥ってしまいます。

これも以前スカパーで放送されて観た『女囚と共に』(1956 久松静児監督 東京映画)では、
なんと女子刑務所の保安課長役で、田中絹代、久我美子、香川京子、淡路恵子
など共演の女優陣も豪華です。

原節子というと一般的には『青い山脈』、小津映画、そして一部成瀬映画なのですが、
実は様々な役を演じている女優さんだとわかります。

今回の特集で一つ残念なのは、前述のスカパーの特集で放送された
『姉妹の約束』(1940 山本薩夫監督 東宝)
『兄の花嫁』(1941 島津保次郎監督 東宝)
の2本が上映作品に入っていないことです。

当時、20歳~21歳の原節子は、ともかく綺麗でかつチャーミングです。
『兄の花嫁』は若き山田五十鈴が義姉を演じていて、この二人の演技が
とても素敵です。冒頭、東京の兄の結婚式に出席する原節子のモガの洋装
はとても21歳とは思えない大人の雰囲気が漂っています。
後年の小津映画『東京暮色』(1957 松竹)では、対立する母と長女になるかと
思うと感慨深い。
これは私の個人的な印象なのですが、『姉妹の約束』の冒頭で
ころがってきた野球のボールを子供に投げ返す時のくったくのない笑顔は、
誰に似ているかというと、意外なことに長澤まさみ。
彼女の笑顔に少し似ていると感じました。彼女も笑顔がとても魅力的です。
もしスカパーの録画で持っている方がいたら是非注意して観ていただければ。

日本映画で好きな女優は数多くいるのですが、一番好きなのは原節子かも
しれません。美しさはもちろんですが、演技も素晴らしいと思うのです。

トップページへ戻る


NEW 2015.4.16 印象深いシーン、ショット

木下恵介監督の母親とのエピソードを描いた『はじまりのみち』(原恵一監督)が
BSで放送されていましたので再見しました。封切時にも観ていて私は結構好きな映画です。
観ながら考えたことが「映画の中の印象深いシーン、ショット」について。

未見の方に『はじまりのみち』の中で最も印象的な、心に残ったシーン、さらに言えば一つのショット
は何かと言われれば、多くの方が加瀬亮演じる木下恵介が母親役の田中裕子の顔を水をぬらした手ぬぐい
で顔の泥を拭いてあげる、それに続いて櫛で髪を整えるシーンを挙げるのではないかと思います。
または『二十四の瞳』を連想させる宮崎あおい演じる学校の先生と子供たちの姿を、加瀬亮が手でフレーム
を作って見るショットを挙げる方もいるかもしれません。それ以外もあるでしょう。

映画に限らず、趣味でもビジネス関連の話でも「短く、正確に、わかりやすく」
人に伝わるように話すのは最も難しいことですが、
映画に関してもワンシーン、ワンショットを選んで、それだけで映画の感想を語るのは
かなり難しい。

未見の方に説明するということは置いといて、
ある1本の映画について個人的に最も印象的なシーンやショットを選んでみるのはなかなか面白い作業です。

例えば、黒澤明監督『天国と地獄』。
黒澤映画の中でマイベスト3の1本なので好きな場面は数多くあるのですが、
その中で一つのショットを挙げれば、
「こだま」の酒匂川鉄橋のシーンの中で刑事の木村功がカメラのシャッターを押す、数秒のショット。
何故かわかりませんが、このショットを観るといつもぞくぞくします。

成瀬映画ではどうか。

『浮雲』であれば当然高峰秀子なのですが、
私は伊香保温泉での加東大介の家での正月のコタツのシーンで、
お酒をすすめる岡田茉莉子と森雅之との目線のやり取りの複数のショットが最も印象深い。
あの二人の目線は本当に凄い。

私が最も好きな成瀬映画『驟雨』では、
香川京子の姪が新婚旅行の夫の行動に対する愚痴を叔母の原節子に涙ながらにぶつけるシーン。
香川京子の「(書いた日本地図を)きゅうりか?と言われた」といって泣く台詞の後に、
原節子が笑いをこらえて「ずいぶんひどい」と言うショット。
『驟雨』ですぐ浮かぶショットはこの時の原節子の表情。
原節子が本当に上手い女優だと感じる瞬間です。
大阪での原節子特集で是非観てください。

『鶴八鶴次郎』ではシーンですが、長谷川一夫と山田五十鈴の芦ノ湖湖畔でのシーン。
二人の人物の配置、立つ、座る、振り返るタイミング、夕暮れの光の顔へのかかり具合など
成瀬映画の中で最も美しい屋外シーンではないかと。

しかし成瀬映画は、目線のやり取り、場面転換の冴えなどに魅力があるので
一つのシーンやショットを切り取るのはなかなか難しいです。
やはり1本ずつ観ていくのがいいようで。

トップページへ戻る


NEW 2015.3.14 東宝スタジオ展(世田谷美術館)を観てきました

「東宝スタジオ展」を観てきました。
「ゴジラ」と「七人の侍」が中心だと思っていましたが
P・C・L時代から現在の東宝まで、年代別にかなり幅広い
貴重な資料が数多く展示されていてかなり見ごたえのある展覧会です。

成瀬監督の使用台本『乱れ雲』や『浮雲』の美術セットデザイン画(中古智美術監督)、
『鶴八鶴次郎』の美術セットデザイン画(久保一雄美術監督)などの展示もあり、
成瀬映画ファンもかなり楽しめます。
中には成瀬監督が松竹を辞めた時の辞令(解雇通知?)という珍しい展示物も

最も興味深かかったのは、山中貞雄監督の関連の展示の中に
中国戦線で亡くなる直前に書かれたノートに書かれた「遺書」
があったこと。
「最後に、先輩友人諸氏に一言 よい映画をこさえて下さい」
の直筆文字を初めて見て感動しました。とても素直な字なので読み取れます。
山中貞雄監督ファンも必見です。

今日は、美術監督・竹中和雄さんのトークショーがあり
美術のセカンド助手だった竹中さんの『七人の侍』の時の美術の
現場の話を約1時間半聴きました。
竹中さんは80歳を超えた高齢にも関わらず、声もしっかりとしていて
すごくお元気でした。
『七人の侍』の製作秘話については、これまでいろんな本を読んだり
以前NHKBSで放送された製作のドキュメンタリーなども見ていたので
私に関してはほとんど知っている内容でしたが、なんといっても
その現場にいらした方の肉声は本当に貴重な体験でした。
以前一度お会いしたことがあるのと、成瀬組スタッフの家族と一緒に
いたので、始まる前と終了後に少しお話させていただきました。
というより一つ質問しました。
竹中さんは『七人の侍』の後に、成瀬映画『浮雲』の美術助手に
付かれたのですが、その前に成瀬映画『夫婦』にも美術助手として
付かれています。
そこで、ラストの公園のロケ場所について聞いてみたのですが
さすがに「覚えていない」とのお答えでした。

再度美術館のHPを下記に記しますので、是非会期中に足を運ばれることを
おすすめします。

世田谷美術館HP 「東宝スタジオ展」


NEW 2015.2.11 東宝スタジオ展(世田谷美術館)

東京の世田谷美術館で、2月21日から4月19日まで「東宝スタジオ展 映画=創造の現場」が開催されます。
中心は『ゴジラ』『七人の侍』の映画美術関連の展示のようですが、成瀬監督関連の展示もあるそうです。

関連企画のトークショーの中で、成瀬監督関連では
・3/8(日)14:00-15:30 小谷承靖氏(映画監督)
 →『女の歴史』『乱れる』『女の中にいる他人』の助監督
・3/14(土)14:00-15:30  竹中和雄氏(映画美術監督)
 →『夫婦』『浮雲』、そして『七人の侍』の美術助手。
  『浮雲』では中古智美術監督の助手
があります。
整理券配布などがありますので詳細は下記の美術館HPを参照してください。


世田谷美術館HP 「東宝スタジオ展」


トップページへ戻る


NEW 2015.1.22 生誕110年パート2

引き続き、生誕110年に関することを書きます。

成瀬監督に限らずどの映画監督でも、または映画以外の分野でも共通することですが、
映画監督について紹介風に語る時は「代表作」が中心になることが多い。

映画監督であれば、失敗した作品も含めて様々なジャンルの作品が
あるのが普通ですが、代表作の作風にあてはめて語るパターンがほとんどです。
マスコミでの紹介がその典型でしょう。

例えば、私がここ2-3年集中的に観た木下惠介監督の映画ですが、
代表作『二十四の瞳』のイメージだけで観ると、かなり驚かされる
映画が多かった。
シリアス系として『永遠の人』『女の園』『日本の悲劇』『笛吹川』『死闘の伝説』など
コメディ系として『お嬢さん乾杯』『風前の灯』『今年の恋』など
これ以外にも様々な作風の映画があります。
『二十四の瞳』は木下映画の一面でしかないと痛感しました。

言うまでもなく、成瀬監督、成瀬映画と言えば代表作として必ず出されるのが『浮雲』です。
もちろん『浮雲』は成瀬演出だけでなく、脚本、撮影、美術、照明、そして
主役の森雅之、高峰秀子の演技などのすべてが素晴らしい映画ですが、
私は本HPでも繰り返し書いているように現存している69本の成瀬映画の中でも
『浮雲』はいわゆる成瀬スタンダードの映画ではなく、かなりの異色作です。
その理由として
・ユーモアの要素が極めて薄い
 →笑いの感覚は人によって異なるが、『浮雲』にはくすっと笑える要素が皆無
・終わりが悲劇的で救いがない
この2点を挙げます。

成瀬映画では、主に女性たちの辛い状況の中にも、日常生活の中で起こる
ちょっとしたユーモアを演出表現や台詞で差し込むことが多い。
そしてラストは、雨があがり少し薄日が差してきた という感じで
終わる映画が多数です。
成瀬映画を多く観ている方なら納得されると思います。

そして今やもう一本の代表作となりつつある『おかあさん』。
これは最近の著書でも大きく取り上げている川本三郎さんの
影響が大きいでしょう。
私も15年くらい前に川本さんの本でその魅力を知りました。
『おかあさん』も素晴らしい映画であり、私も大好きな映画ですし
これは成瀬スタンダードを代表する一本かと思いますが、
「路地裏にひっそりと暮らす庶民のつましい生活を淡々と描く」
といった作風のイメージだけが定着してしまうように思います。

生誕100年の時もこの2本を含め、『めし』『稲妻』『流れる』『乱れる』など
いくつかの代表作を中心に語られていたと感じます。

今年もまた生誕100年と同じパターン(一種のコピペ)が繰り返されるのであれば
がっかりです。

せっかくの生誕110年、成瀬監督の別の面に光を当ててほしいと願っています。
私も微力ながら本HPを中心に活動していきます。

例えば
・地方を舞台にした映画
 『まごころ』『旅役者』『秀子の車掌さん』『春の目ざめ』『石中先生行状記』『妻の心』
 『コタンの口笛』『鰯雲』など
・子供を中心にした映画
 『まごころ』『なつかしの顔』『コタンの口笛』『秋立ちぬ』
・芸道もの
 『桃中軒雲右衛門』『鶴八鶴次郎』『歌行燈』『芝居道』
・時代劇
 『三十三間堂通し矢物語』『お国と五平』
・超異色作
 『浦島太郎の後裔』『上海の月』=一部分しか現存せず

トップページへ戻る


NEW 2015.1.18 祝! 成瀬巳喜男監督生誕110年

今年2015年は成瀬巳喜男監督生誕110年の記念年です。

展覧会(世田谷文学館)、特集上映(フィルムセンター他)、
そしてDVDや書籍や雑誌の特集など、2005年の生誕100年
には多少の盛り上がりを見せました。

私自身、著書『成瀬巳喜男を観る』:ワイズ出版と
編集協力させていただいた女優の写真中心の『成瀬巳喜男と映画の中の女優たち』(ぴあ)
に関わりました。
本HPもあるFMラジオで紹介されました。

生誕100年と比較すると生誕110年は少し地味かもしれませんが、
これをきっかけにして少しでも成瀬監督のことが紹介され、
また新たなファンが増えることを願っています。

生誕110年といえば一昨年の2013年が小津安二郎監督の生誕110年(+没50年)でした。
NHKBSなどのテレビでいくつか特集番組が放送されたり、
本エッセイでも紹介した雑誌「ブルータス」の特集号、
松竹のホームページ、『東京物語』のデジタルリマスターなど
いくつかありました。

成瀬監督の生誕110年関連の企画については、私はまだ情報をつかんで
いませんが(ご存知の方がいたらメールで是非教えていただきたく)、
フィルムセンターや東京の名画座(新文芸坐、神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷など)
での特集上映や、
以前「成瀬巳喜男劇場」という素晴らしい特集があったスカパーの「日本映画専門チャンネル」や
NHKBSなどでの放送があるのではと期待しています。

小津映画はサイレント時代のものも含めてすべて(現存しないものを除く)がDVD化されています。
作品数がそれほど多くないことと、松竹が力を入れているということでしょう。
それと比較して成瀬映画のDVD化は圧倒的に数が少ないです。

前回紹介した川本さんの本でも、中に登場する『秋立ちぬ』『鰯雲』
『驟雨』『晩菊』『まごころ』『妻』『夫婦』『あらくれ』『女の座』
『妻よ薔薇のやうに』『噂の娘』などはDVD化されていないので
(一部は以前会員制「キネマ倶楽部』のビデオ化はされたことあり)
未見の方が観たいと思っても特集上映かテレビ放送を待つしかありません。

川本さんの本の中で数多く登場する『おかあさん』『銀座化粧』は
以前廉価版が発売されていましたが、今も買えるのでしょうか。不明です。
→『おかあさん』は今月「日本映画専門チャンネル」で何回か放送されています。

また、インターネット時代の現在、松竹時代(サイレント映画)~PCL時代~戦中の東宝
のいくつかの映画はユーチューブなどにアップされています。
それでご覧になった方もいらっしゃるでしょう。

おそらく多くの方がそうでしょうが、私がフィルムセンターや名画座での
特集上映で観るべき優先順位として挙げる要素は
(1)未見のもの
(2)DVDが出ていないもの
(3)作品の評価が高いもの
です。

その点では、現時点で15-6作品くらいしかDVD化されていない
成瀬映画の特集上映は、人気を集めて観客も多く入ることが推察できます。
実際に過去の特集上映でも未DVD化の成瀬映画の時は結構混んでいます。
その意味でもフィルムセンターや名画座は、是非今年の特集上映を企画して
ほしいと思います。

私も本HPの内容も一部取り入れた文章をまとめ始めましたので
出せるかわかりませんが、前回の本とは別の内容の成瀬本を
今年中にもう1冊出せればと思っています。

小津監督生誕110年の公式サイト(松竹)

トップページへ戻る


NEW 2014.12.23 川本三郎著「成瀬巳喜男 映画の面影」

川本三郎さんの成瀬本「成瀬巳喜男 映画の面影」(新潮選書:新潮社 税別\1,200)
が発売されたので早速読んでみました。
雑誌「新潮45」に1年近く連載されていたものをまとめたもので、私は連載時に半分くらいは読んでいました。

川本さんは数多くの映画関連の著書の中で、これまでも成瀬映画については多く書かれていますので、
私は部分的にはほとんど読んでいますが、成瀬映画について1冊にまとめたものは初めてかと思います。

私自身、成瀬映画に興味を持ち始めた25年くらい前から、川本さんが書かれた本(含むインタビュー本)
や雑誌で書かれたものをずいぶんと読ませていただきましたので、川本ファンの一人です。
映画だけでなく、エッセイなどもかなり読んでいます。
15年くらい前と記憶していますが、一度新宿の「朝日カルチャーセンター」で川本さんの日本映画に関する
講演会があり、その時に著書にサインしていただき、その時に成瀬監督ファンであることと本ホームページ
(作成してまもなかった時期)の事もお話しました。

さて今回の著書ですが、私はとても共感を持って読了しました。
川本さんの成瀬映画論は、ともかくわかりやすく、これから成瀬映画を観ようと
考えている方にとっては、最適な入門書だと思います。
私が苦手な、難解な単語が連なる、読む気の失せる映画評論書の要素は皆無です。
「成瀬映画がいかに素晴らしいか」をわかりやすく伝える語り口に魅了されます。

・「貧乏」(ただし悲惨ではなく妙に明るいのが特徴)
・「お金」
・「路地」
・「自活する女たち」(自立ではなく自活と強調されている)
・「戦争未亡人」
・「甲斐性の無い男たち」
・「子供」
・「ユーモア」
などの川本さんの視点のテーマを
『銀座化粧』『めし』『おかあさん』『稲妻』「あにいもうと』『晩菊』『山の音』『浮雲』『流れる』
『鰯雲』『秋立ちぬ』『乱れる』『女の中にいる他人』などの、主に1950年代~1960年代の
成瀬映画の代表作のストーリーや出演俳優の説明を兼ねながら紹介しています。
1940年代では私が大好きな傑作『まごころ』が随所に登場します。

原作の背景、映画との違いや
「銀幕の東京」(中公新書)にもあったロケーション情報、その土地の歴史(例えば『流れる』の舞台の柳橋)など、
それから当時の庶民の生活を「卓袱台」「縁側」「ミシン」など映画に登場する美術セットとの関連や
ご自身の少年時代の思い出もあわせてわかりやすく記述されています。

写真はそれほど多くないのですが、P103の『浮雲』撮影前に原作者・林芙美子の墓参をしている写真
(森雅之と高峰秀子が花を持ち、後ろに成瀬監督、藤本プロデューサー、
林芙美子の夫の手塚緑敏が立って二人を眺めている)は貴重な写真ではないかと。

P172には、私が親しくしていただいた故石田勝心監督(『杏っ子』~『乱れ雲』の時期に成瀬映画8本の助監督)
の遺稿集「成瀬巳喜男・海面の波 海底の波~助監督の観た師匠の映画」(私家版 平成25年)について
一言触れていただいています。
この遺稿集は石田監督が私にパソコンメールで送っていただいた原稿をまとめたもので、石田監督夫人からのご依頼
で私が中心になって編集し、石田監督が生前インタビューを受けた川本さんにも送らせていただいたものです。

一つ残念なのは、連載時のタイトル「静かなスタンダード-成瀬巳喜男論」が変わってしまったこと。
このタイトルの方が素敵だし、成瀬映画の特徴を表現しているように個人的には思います。
どういう経緯でタイトルが変わったかはわかりませんが。

本の帯には宣伝コピーとして
・黒澤よりも、小津よりも-。
 世界は「成瀬(ナルセ)」をいま、発見する!
とあり、成瀬監督を世界一の映画監督と信じている私にとっても
「いいぞいいぞ」と声援を送りたいのですが、
残念ながら、世界の前にまず「日本人」に成瀬監督を発見してもらいたい。

昔の日本映画ファンやある程度年配の方たちは別として、一般的には成瀬巳喜男という監督は
本当に知られていないと愕然とすることが多々あります。
本ホームページも少しは成瀬映画ファンを増やすのに貢献してきたと自負していますが、
黒澤監督、小津監督と比べると、一般的な知名度は低いのが現実です。

来年の生誕110年の記念イヤーに向けて、今回の川本さんの本が
成瀬映画を観たことのない方たちの成瀬映画を観るきっかけになればいいと願っています。

内容的にはほとんどかぶりませんので、成瀬映画の映像や編集テクニックなどをわかりやすく説明し、
写真も数多い私の著書『成瀬巳喜男を観る』(2005年 ワイズ出版 \1,400税別)も是非ご一読ください(笑)。

トップページへ戻る


NEW 2014.12.11 千葉泰樹監督の映画は面白い

連日盛況のフィルムセンターの特集上映「映画監督 千葉泰樹」ですが、
昨日やっと1本だけ観てきました。
『団地 七つの大罪』(1964 宝塚映画)。
団地を舞台にした七話オムニバスの千葉泰樹と筧正典の共同監督作品でした。
→次回は12/21(日)の17:00からの上映。

フィルムセンターHP

あまり期待しないで観に行ったのですが、実に面白い映画でした。
東宝系の映画には珍しく「艶笑喜劇」というのか、内容が少しエロチックでしたが、
七話オムニバスのつなぎ方もスムーズで、気に入りました。

フィルムセンターでの上映ですので、50年前のカラー映画でしたが
とても綺麗なプリントで、出演している女優たちの美しさが際立ちました。
大きなスクリーンに映し出される女優の綺麗さ+色っぽさは圧倒的です。
現代の日本映画ではまず不可能ではないかと。

司葉子、浜美枝、団令子、草笛光子そして八千草薫が次々と登場します。
男優も小林桂樹、高島忠夫、加東大介、三橋達也、児玉清、藤木悠、益田喜頓
と東宝映画でおなじみの芸達者たちが、主に夫役で出ています。

懐かしいところでは、丁寧な言葉遣いの女の子役で、当時明治マーブルチョコレート
のCMで人気子役だった、上原ゆかりが出ています。私はほとんど同世代なので
彼女のことはよく覚えています。

私がこれまで観ている千葉映画は、10本くらいのものですが、
駄作だと思った映画は1本もありません。
どの映画も水準以上の佳作ばかりだと思います。

同じ東宝ということで成瀬映画に出ている俳優やスタッフ(中古美術監督は特に千葉映画が多い)
が共通していることもあるのでしょうが、一瞬成瀬映画を観ているような錯覚に陥ることもあります。
『めし』はもともと千葉監督が撮ることになっていたが千葉監督が病気になり、
成瀬監督となったのも有名な話です。

千葉映画は確かに面白く、演出も自然で、職人技という感じなのですが、
成瀬監督の「目線」や小津監督「ローアングル」といった映像や演出の特徴
を見つけることが難しいようです。
千葉泰樹研究をしている方がいらっしゃるか不明ですが、千葉映画の特徴って
何なんでしょうね。
もっともそんな映像や演出の特徴などを意識しないで観て面白いのですが。

以前あった「キネマ倶楽部」のビデオには、いくつか千葉泰樹監督作品がありましたが、
DVDになっている映画はほとんど無いのではないかと。
スカパーの日本映画専門チャンネルでは、最近も『河のほとりで』(1962 東宝)
が放送されていましたが、もう少しDVD化されれば観る方が増えるのではないかと
残念です。というか私自身がもっと千葉映画を観てみたい。

貴重な上映機会なのであと2-3本は足を運びたいと考えています。

トップページへ戻る


 NEW 2014.12.5 成瀬映画の自由さ

成瀬映画の魅力には数多くの要素があり、本HPでもいろいろと紹介していますが、
実は、成瀬映画の持っている最も重要で基本的な要素は
観客に何かを押し付けることがまったくない自由な雰囲気」ではないかと
最近感じるようになりました。

「観客に押し付ける」とは、
・演出やストーリー展開、人物の台詞などを通して観客にある思想、モラル、考え方などを押し付ける
を意味しています。
これは映画監督と脚本家の関与が大きいと思われます。

別の言葉で言えば「説教がましい」とも言えますが、
実際にそのような作風の映画も過去から現在まで数多くあります。
特に、何かを称賛する、何かを告発するといった明確な意図を持った映画
(例えば一部の社会派映画)などはそういう傾向になりやすいでしょう。
これは日本映画に限ったことではありません。
もちろんそれがすべて悪いことだとも思ってはいません。
感動的ないい映画も沢山あります。
あくまで成瀬映画の比較としての感想です。

成瀬監督の控えめな性格からくるものなのでしょうが、
ともかく成瀬映画を観ると、観客に押し付けるといった感じがほとんど
無いことに気づきます。
今風の言葉で言えば「上から目線」が皆無であるかと。

成瀬映画にも登場人物(夫婦、恋人、親子、親戚、上司・部下など)
が口論したり、一方的に意見を述べたりするシーンは多々あります。
それがなければドラマとして成立しないでしょう。
しかし、私個人はまったく「説教くささ」を感じません。
陳腐な表現ですが、「社会的に弱い者の視点に立って優しい目で見守っている」
そして最近は日本人から失われつつある「大人の持つ常識的な考えやモラルを崩さない」。
これらが成瀬監督の最も特徴的な姿勢であり、それが成瀬映画の自由さを
構築しているベースになっていると思うのです。

そこで気になるのが、成瀬映画に関する書籍、単独の評論や論文などの表現です。
具体的な記述は避けますが、私が読んだ成瀬映画に関する書籍や評論、論文
(すべてではないですがかなりの多くのものに目を通しています)の中に、
時たまそのような「上から目線」「押し付け」を感じさせる文章を見つけることがあります。
といってもこれも読み手各人の感覚に左右されるものなので、あくまで私がそのように
感じるだけなのかもしれません。

私自身も成瀬本を出していたり、本HPに作品評を中心にかなりの文章を
記述しているので、そのような表現をしていないか不安に思うところです。
少なくとも本HPでの記述は修正が可能なので、私自身がそう感じる箇所がもしあれば
気づいた時に修正したいと考えています。

成瀬映画についての評論や分析は、当然ながらそれ自体が研究者、ファン各人
のそれぞれの考え方、感じ方に基づいているので、自由に書いて良いわけですが、
文章表現に成瀬映画の持つ慎ましさ、優しさがあるとより共感を持たれると思います。


トップページへ戻る


 NEW 2014.11.15 フィルムセンターでの特集上映 映画監督千葉泰樹

来週の11月18日~12月27日、東京・京橋のフィルムセンターで
千葉泰樹監督の特集上映があります。

フィルムセンターHP

成瀬監督と同時代に主に東宝でたくさんの文芸映画や喜劇映画を作った
千葉泰樹監督の作品が57本(52プログラム)上映されます。

私が観ている千葉作品は、名画座で観たものやスカパーの各番組での放送
を録画したものなどで、計10本くらいかと思います。

成瀬監督や小津監督や川島監督のように、興味を持って映画作家としての特徴を
考えたことはないのですが、作品を観る限り、奇をてらったりせずに極めてオーソドックスな
安心して観られる良質な映画を作った監督という印象です。
成瀬監督にも通ずる「職人技」を持った映画監督かと。

私が観ている範囲の中ですが、下記にいくつか感想を。

最も好きなのは今回の特集でも上映される
『丘は花ざかり』(1952 東宝)です。
原作は石坂洋次郎、脚本は井手俊郎と水木洋子
木暮実千代、上原謙、杉葉子、池部良、志村喬、高杉早苗などの出演。
テンポもよく、恋愛を主体にした都会的な文芸映画の1本です。
作詞=西条八十、作曲=服部良一、唄=藤山一郎)の主題曲でも有名です。

この映画で何といっても見どころなのは、
映画の後半に登場する東京・浜松町にある「浜離宮」のシーンです。
「銀幕の東京」(川本三郎著、中公新書)の中の記述で知って、その後観たのですが、
夏の暑い日、出版社の会社員の池部良と杉葉子が昼休みに「浜離宮」の
東京湾に面した場所に腰掛けて涼んでいると、そこに杉葉子の叔父=志村喬と
その女友達(確かバーのママ)の高杉早苗が通りかかって二人に声をかけます。
会話が終わった後に、突然志村喬が池部良に向かって、「暑いなぁ、泳ごうか」と
言うと、池部良は「いいですねえ」とか言って同意します。
その後、二人はその場でパンツ(海水パンツではなく普通のパンツ!)一丁になって
なんとそこから東京湾に飛び込んで泳ぎだします。
杉葉子と高杉早苗は腰掛けたまま、泳ぐ二人を笑いながら見つめています。
画面を観ると、これは実際のロケーションに間違いない。
今だったら絶対に有り得ないでしょうが、この浜離宮でのロケシーンは驚きます。

残念ながら今回の上映にははいっていないですが、
『沈丁花』(1966 東宝)
原作=松山善三、脚本=松山善三、千葉泰樹。
出演は京マチ子、司葉子、星由里子、杉村春子など

『春らんまん』(1968 東宝)
原作=水木洋子、脚本=松木ひろし、井手俊郎。
出演は新珠三千代、宝田明、司葉子、星由里子、白川由美、森雅之など
の2本のホームドラマは、
本当に他愛のないストーリーが淡々と進むコメディタッチのホームドラマ
なのですが、とても面白く観ていて幸せな気分になるいい映画です。

今回上映される
『東京の恋人』(1952 東宝)
脚本=井手俊郎、吉田二三夫。
出演は、原節子、三船敏郎、杉葉子、清川虹子、森繁久弥、小林桂樹など
原節子が銀座の路地で似顔絵書きをする女性という珍しい役柄を演じています。
ダブルのスーツに帽子をかぶったダンディな三船敏郎も魅力的。
雑誌「東京人」の特集 映画の中の東京(2009年11月号)の表紙は
正にこの映画の二人の姿が映ってます。
バックは勝鬨橋ですが、この映画には開閉する勝鬨橋が登場するのも
東京のロケーションマニアとしてはたまりません。

同じく上映される
『羽織の大将』(1960 東宝)
脚本は笠原良三。
出演はフランキー堺、団令子、加東大介、桂小金治(先日亡くなりました)など。
フランキー堺を主演に、落語家を描いた人情味溢れる映画ですが、
古今亭志ん生や三遊亭円生と並んで昭和の名人の一人、八代目の桂文楽
が本人役で出演していて、高座の姿や宴会のシーンで有名な口癖の「べけんや」
を本人が台詞として言っているのも貴重です。落語ファンは必見の1本です。

代表作の1本である
『鬼火』(1956 東宝)
原作=吉屋信子、脚本=菊島隆三。
出演は加東大介、津島恵子、宮口精二、中村伸郎など
は、46分の短篇(当時ダイヤモンドシリーズの第一回作品)で
ストーリーはかなり悲劇的ですが、津島恵子の美しさが印象に残ります。

その他、観ている作品もありますが、主なところは以上です。
代表作の一つである加東大介主演の『大番』は未見なので
観たいと思っています。

トップページへ戻る


 NEW 2014.11.1 石田朝也監督『無知の知』について

本日11月1日より、東京・東中野の「ポレポレ東中野」で上映開始した
福島原発事故に関連したドキュメンタリー映画『無知の知』を初日の夕方18:30の回で
観てきました。

成瀬映画とは関係がないかと言えば、実はあります。

この『無知の知』の監督の石田朝也(いしだともや)氏は、2005年の成瀬監督生誕100年の時に
成瀬組のスタッフ、キャストにインタビューしたドキュメンタリー映画『成瀬己喜男・記憶の現場』
の監督です。
当時、新文芸坐で上映され、またNHKBS2(ハイビジョン前)でも
放送されたのでご覧になった、録画された方もいるでしょう。
多くのスタッフ、キャストにインタビューした貴重な映画であり、
成瀬映画の魅力を伝えた優れたドキュメンタリー映画です。
→来年の生誕110年の時に再上映、再放送を希望

約10年を経ての第2作目が『無知の知』です。
タイトルはソクラテスの有名な言葉からきているとのこと。
「私は何を知らないかを知っている。それは大変なことだ」といった
意味でしょう。

内容は公式HPを参照してもらえればと思いますが、
一言でいえば「とても面白く、かつ好感のもてる上質のドキュメンタリー映画」
でした。私はとても気に入りました。
押し付けがましくないという点で、成瀬映画の影響を受けていると
マニアックな評価を加えておきます。

実際に、原発事故をテーマにしたドキュメンタリー映画と書くと、
ある一つの考え(例えば「反原発」)にフォーカスされた
内容かと考えがちですが、
この映画にそういう雰囲気は感じられません。
つまり「告発」「批判」色の濃いドキュメンタリーではなく、
→有名なマイケル・ムーア監督の映画はそれが出すぎていて
 私はあまり好みません。
タイトルにあるように知らないことの多い素人・一般人の目線で
淡々と描かれていて、そこに好感を持ちました。

それから当然ですが、映像の迫力、インパクトがあります。
いくら大画面になったといっても、テレビ画面とはまったく違う迫力があります。
特に、福島の被災地の風景。
また、インタビューに登場する当時の内閣(民主党)の政治家も
テレビで見慣れた顔ですが、大写しのスクリーンで見ると新鮮に見えます。

実は、石田朝也監督からは、10年ほど前に一度本成瀬ページ
への感想のメールをいただいたことがあり、お会いしたことはなかったので
今日は上映後に石田監督が話し、観客からの質問に答えるというコーナー
があり、それが終わった後に声をかけて名刺交換をしました。
本HPも私のことも覚えていました。

成瀬映画ファンが、「成瀬ドキュメンタリーを撮った監督の2作目を見てみよう」
と思っていただいても、
逆に『無知の知』と石田監督のプロフィールを見て
成瀬監督に興味を持ってもらっても私としては大歓迎です。

ともかくとても上質なドキュメンタリー映画なので是非ご覧ください。


■『無知の知」公式HP

■ポレポレ東中野

トップページへ戻る


成瀬映画を観る方法 2014.9.27

「新文芸座」での成瀬映画特集は終わりましたが、今回の特集上映で
成瀬映画を観て、「未見の成瀬映画を観たい」と思われている方も
いらっしゃるでしょう。

どこかの名画座やフィルムセンターなどで特集上映されるのが、
大きなスクリーンで観られることも含めて一番いいのですが、
そうは頻繁に特集上映はないでしょう。
来年2015年は「生誕110年」なので、特集上映を企画している
ところもあるかもしれません。

テレビでは、以前スカパーの「日本映画専門チャンネル」で
「成瀬巳喜男劇場」という本当に素晴らしい企画があり、
私も多くの未見の成瀬映画をここで観てかつ録画しました。
今でもこの時に録画したブルーレイやDVDを大切に保有しています。

NHKBSプレミアムでも代表作はたまに放送されることがあります。
これも来年の生誕110年に期待できますし、積極的にメール等で
リクエストしてもいいかもしれません。

東宝から発売されている10本の成瀬映画のDVDは、
期間限定の廉価版(1本\2,500+税)が新たに発売されました。
(現段階では5本。11月にさらに5本)

成瀬映画とは関連ないですが、今回私の大好きな
『恋する女たち』(斉藤由貴主演、大森一樹監督)が廉価版で発売されていて、
このDVDはレンタル禁止だったのですが、
特典映像に大森一樹監督と斉藤由貴とのオーディオコメンタリーや
金沢のロケ映像番組がはいっていたので早速購入しました。

関連サイト

この10本のDVDは大きなレンタルチェーン店にはレンタル用として
置いてあるところもあります。
大映作品『稲妻』『あにいもうと』それに『おかあさん』『銀座化粧』
もDVD化されています。

You-Tubeにも戦前、戦中の作品が何本かアップされていて
観ることができます。

それ以外としてはやはり地元の図書館で資料検索してみる
ことをおすすめします。
多くの市町村などの図書館はネットでDVD、ビデオの在庫検索する
ことが可能です。

ビデオは以前、東宝が「日本映画傑作全集」という通販ビデオ
(レンタル禁止)を販売していて(現在はしていない)、
そこには戦前の成瀬映画も含めてざっと20本くらいの成瀬映画
が販売されていました。1本\9,800という高価なものでしたが。

図書館には上記の市販DVDの置いてあるところもあり、
多くは館内の「視聴覚コーナー」で観ることができます。
会員になればレンタル可能なところもあるでしょう。

たまたまですが、先日立ち寄った「清瀬市・駅前図書館」(西武池袋線「清瀬駅」下車)
には、上記の「日本映画傑作全集」のビデオが数多く揃えられていて
視聴覚コーナーで観ることが可能のようでした。
ネットで資料検索すると成瀬映画のDVD、ビデオは22件あり、
その中には
・『石中先生行状記』『歌行燈』『乙女ごころ三人姉妹』
 『三十三間堂・通し矢物語』『驟雨』『芝居道』
 『妻よ薔薇のやうに』『鶴八鶴次郎』『桃中軒雲右衛門』
 『秀子の車掌さん』
* 『夜ごとの夢』『薔薇合戦』(松竹)
などの未DVD化のビデオがあるようです。

それから、生誕100年の2005年に「成瀬巳喜男展」を開催した
東京の世田谷文学館には、ライブラリーに未DVD化の
成瀬映画が割と多く揃っていて、申し込めば館内の「視聴覚コーナー」
でヘッドホン付で観ることが可能です。
10年以上前ですが、私もどうしても観たい未見の成瀬映画を
ここで何本か視聴したことがあります。

トップページへ戻る


新文芸座で『コタンの口笛』を観ました 2014.9.19

「新文芸座」の成瀬映画特集で、昨夜(9/18)、『コタンの口笛』を観てきました。
18:40からの回でしたので、席もかなり埋まっていました。
『秋立ちぬ』との二本立てでしたが、『秋立ちぬ』は何度も観ているので
今回はパスしました。

『コタンの口笛』をスクリーンで観るのは、2回目か3回目でしたが、
作品評に書いたように、10年以上前にスクリーンで初めて観たときは、
色がピンク色に退色している最悪のプリント状態でした。

一番驚いたのが、今回のプリント状態の良さです。
1959年という55年前の映画と思えないほど、美しいカラーでした。
ニュープリントかどうかはわかりませんがニュープリントと同様の
状態でした。
昔の日本映画の名作を、綺麗なプリント状態で観られるのは、
幸せなことです。

そういう綺麗なプリントで観たので印象が違ったのかもですが、
今回スクリーンで改めて観て、素晴らしい映画だと再認識しました。
成瀬映画として異色作であることは間違いないのですが。

まずは音楽。
成瀬映画の中で、これほど音楽が効果的に使用されているのは
珍しいと思えるほど、随所に流れる伊福部昭作曲のテーマが
心を揺さぶります。

ロケーションは北海道の新千歳空港の近くの「千歳市」を中心に、
支笏湖、札幌などが出てきますが、ワイドスクリーン(東宝スコープ)
なので、北海道の雄大な美しい自然が体感できます。
札幌は一度ロケ写真を撮影したことがありますが、機会があれば
舞台となった千歳市と支笏湖へは一度行ってみたいものです。

映画の後半に、幸田良子と水野久美が、町中の橋で会話する
シーンがありますが、グーグルマップのストリートビューで見ると
千歳市内を流れる千歳川の橋がいくつかあり、映画のロケ場所
は特定できそうです。

森雅之、幸田良子、久保賢の川のほとりの住居のシーンが
多く出てきますが、室内での人物の動かし方や配置などが
絶妙で、これは他の成瀬映画にも共通しています。

記憶に無かったのですが、前半に一度だけ登場する、
森雅之が酔っ払った「飲み屋」の女将役で
成瀬映画常連の中北千枝子が出てきたときは
スクリーンを観ながら思わず微笑んでしまいました。

それにしても、久保賢を執拗に攻撃する中学の同級生の
彼(ネットでデータ検索すると「佐藤ゴン」役=山崎雅美?)
の憎らしさは凄まじく、それだけ演技が上手いということ
でしょう。
幸田良子をいじめる同級生の女子中学生たちも
同様です。

北海道が舞台だからでしょうが、様々な食べ物が「ご馳走」や「お土産」
として頻繁に登場していたのも印象的です。
森雅之が牛肉を買ってきたり、久保賢の親友の男の子が
「うちで採れたリンゴだよ」と持ってきたり。

全体的にハッピーではない重苦しい雰囲気の映画ですが、
ラストの姉・幸田良子、弟・久保賢の会話「大丈夫だよ」
が、少し希望を感じさせるもので、ここはやはり成瀬映画
だなと。

トップページへ戻る


成瀬映画のキャスティング 2014.9.16

私はまだ行ってないのですが、「新文芸座」の成瀬映画特集は結構
賑わっているようです。
私は18日の『コタンの口笛』の最終回に行く予定です。

ツィッターで「成瀬巳喜男」と検索してみると、
14日の香川京子さんのトークショーで、香川さんは
出演した成瀬作品の中で『驟雨』が一番好きとおっしゃったとか。

さて、私は録画して保有しているDVDで『流れる』『晩菊』『山の音』
あたりを久しぶりに観ました。何度観ても夢中で観てしまいます。

15日の『流れる』『晩菊』は傑作2本立てと言えますが、
もう一つ、芸者と元芸者の役の杉村春子の対照的な役柄が
興味深い。新文芸座で2本観られた方も気づかれたと思います。

『流れる』の芸者役は、男にもお金にもだらしない芸者で、
鬼子母神(賀原夏子),から借金の返済の催促をされます。
一方、『晩菊』の金貸しと不動産を営んでいる
しっかり者の元芸者役では、かつての仲間の望月優子や
沢村貞子に毎月貸したお金の集金に行きます。
隙の無いおばさんという感じの杉村春子もいいです。

9/19に上映の『ひき逃げ』では交通事故の加害者役の司葉子が、
9/20に上映の『乱れ雲』では、逆に交通事故の被害者(夫が交通事故で亡くなる)
を演じています。これもまさしく立場が真逆です。

今回の上映にはありませんが、戦前の『妻よ薔薇のやうに』(1935)では
丸の内のオフィスに勤めるOL役で、当時の典型的なモガファッション
(帽子とネクタイが凄い)で颯爽と歩く千葉早智子が、
翌年1936年の『朝(あした)の並木路』では、東京でカフェの女給をしている
友人を頼って、地方から東京に出てくる田舎娘役を同じ千葉早智子が
演じています。
『妻よ薔薇のやうに』とは対照的に、着物と和傘の地味なファッションで
丸の内をオノボリサン状態で歩いたりします。

これらはすべて成瀬監督の「女優にはいろいろな役を演じさせたい」という
演出家の気持ちと同時に「遊び心」があったと推察します。
結婚直前の千葉早智子へは特別な思いがあったのかもしれません。

三船敏郎の『石中先生行状記』と『妻の心』の異なった役柄も面白いです。

一方、原節子は、子供のいない倦怠期の夫婦の妻役が多く(『娘・妻・母』
は途中で未亡人になる)、上記の女優の配役と比較するとこれまた
面白い。高峰秀子が夫婦の妻役の場合は子供がいることが多いかなと。

トップページへ戻る


成瀬映画特集がスタート 2014.9.8

今日9/8より東京・池袋「新文芸座」で、成瀬映画特集が始まりました。
私もそうでしたが、未見の成瀬映画を観ることはとても楽しみでしょう。

しかし、成瀬映画というのは一度観ても全てを理解するのは難しい。
もちろん映画自体は難解ではなく、普通に観られるわけですが、
成瀬演出は、細部に見逃してしまうような仕掛け(演出術)がちりばめられていて、
1回観ただけではなかなか気づくことは難しいのです。

例えば、本HPのどこかにも書いた『杏っ子』の中盤の、
「新婚旅行の部屋」→「3年後の東京での住居の室内」の場面転換での
小道具の「布団つながり」は、『杏っ子』をスカパー録画のDVDで4-5回
観た時に、初めて気づいた成瀬演出でした。

成瀬映画といえば人物の「目線送り」が多用されていることが一番の特徴ですが、
『晩菊』だったか、すでに何度も観ていて、ストーリーも台詞もほぼ
知っているという状態のときに「ここで杉村春子が振り向くんだ」と個人的に驚いたこともありました。

成瀬映画では室内での単なる人物の振り返りが、重要な意味を持つこともあるのです。

成瀬演出は、映画の中に目立たないようにちりばめられていて、正に「職人技」と言えます。

今回上映される成瀬映画では、当然プリント状態の良いものと悪いものが
あると推察しますが、私が観に行こうと思っている作品はプリント状態が良いことを願っています。

来年は成瀬監督生誕110年です。


トップページへ戻る


『小早川家の秋』のワンシーン 2014.8.23

小津映画の中で、最近凄く好きになった映画が『小早川(こはやがわ)家の秋』(1961)です。
小津監督が東宝系の宝塚映画で撮った作品なので、森繁久弥、小林桂樹、新珠三千代、
宝田明、白川由美、藤木悠、団令子など、小津映画にはこれ1本の東宝の俳優も多数出ていて、
スタッフも撮影が黒澤組の中井朝一、照明が成瀬組の石井長四郎など、
松竹の小津映画とはどこか雰囲気が異なっていて、不思議な魅力がある小津映画です。

冒頭の森繁久弥、加東大介、原節子の登場する大阪のバーのシーンや
OLの司葉子と白川由美との会社のデスクでの会話シーンなどは
美術セット、カメラアングル、台詞の調子など正に小津調そのままなのですが、
1箇所、面白いシーンをみつけました。

それは中村鴈治郎が最近京都(祇園)によく出向いていることに対して、
昔の女に会いに行っていたと知った長女・新珠三千代が、
父親の鴈治郎との会話の中でそれをきつく言い放つシーンです。

鴈治郎が「今度のお母さんの法事を嵐山でやろうか。お母さんは嵐山が好きだったしな」
と話すところから、新珠の皮肉っぽくねちねちと話す攻撃が始まります。
(このときの新珠三千代の意地悪さは絶品です)
新珠に対して、父親の鴈治郎が怒り出すところで、新珠の夫役の小林桂樹が
止めにはいります。
小林「それなあ」
新珠「あんただまっといて」
小林「けどな」
新珠「だまっといて」

その後、新珠は風呂上りで座っている鴈治郎の方へ座ったまま向き合います。

鴈治郎「嵐山で法事するのがなんであかんのや」」に対して
新珠「ふん。どこの嵐山かわからへん」と返します。
(この「ふん」という新珠の表情が可愛らしくて最高!)
古典落語に出てくるようなフレーズの可笑しさです。

ここでの鴈治郎と新珠の父と娘の喧嘩は正に小津調です。

小津映画は、家族の日常を淡々と描いた静かな映画のイメージが
ありますが、実は、あることに対して、二人の人物が向き合って座ったまま
口論するところで激しいドラマになることが多い。
それも人の心の痛いところをぐいぐいと責めつけるようなしつこい感じがよくみられます。
少し例を挙げれば『戸田家の兄弟』で佐分利信が兄弟に
母親への労わりの気持ちが足りないのではないかと文句を言うシーン。
『東京暮色』で有馬稲子が母親の山田五十鈴に
「私の本当のお母さんは誰」などと毒づくシーンなど。
要は、「ここまで言わなくてもいいのに」と思うほど、徹底的に
ストレートに意見や思いを伝えるシーンが珍しくありません。

では成瀬映画はどうか。このシーンの小林桂樹の態度が正に成瀬調なんですね。
口論や争いを寸止めで避けるというか、物事の解決を先送りしようという態度といったらいいでしょうか。
『浮雲』でも、森雅之を攻めまくる高峰秀子に対して森雅之は「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
と、うまくかわしていきます。
だから「くされ縁」が続くともいえるのですが。

小津演出との比較で言えば「これぐらいはもっとはっきりと言えばいいのに」と思うようなシーンが多い。
まあそれも成瀬映画の魅力の一つです。

成瀬映画には人物の口論で決定的な亀裂がはいる
のは皆無とはいえませんが(『放浪記』の高峰秀子と宝田明など)数は少ないように思います。
説明的な台詞を削って、俳優の表情や目線でそれを語らせるという成瀬監督の名演出につながる手法でもあるのですが。

この演出の違いは、おそらく小津監督と成瀬監督の性格がそのまま表れているようで微笑ましい。

『小早川家の秋』のシーンに戻ると、
座って斜めに向き合ったまま口論する鴈治郎と新珠に対して、小林は立ったまま二人の口論を見ています。
成瀬映画では室内で立ったまま会話を続けることが多いのですが、
成瀬映画常連の小林桂樹ということもあってこれも成瀬調を感じてしまいます。

つまり、この室内の口論シーンは、演出面において小津映画の中に
一部だけ成瀬映画の要素が融合されているのではないか。

もちろんこれは私だけの勝手な感じ方です。
しかし成瀬映画、小津映画を愛する私としては新たな発見をしたように感じたわけです。

それにしても名作映画は、何度観ても新たな発見があります。

トップページへ戻る


祝 ! 9月の新文芸座の成瀬監督特集上映 2014.8.17

トップページに速報を掲載しましたが、9/8-9/20まで東京・池袋の新文芸座で成瀬監督特集(全26作品)があります。
DVD化されている作品ももちろんスクリーンで観るほうがいいのですが、
ここではなかなか観る機会の無い未DVD作品の何本かについて見所ポイントを短く書きます。

『驟雨』(しゅうう)
→すでに本HPの中で何度も書いていますが、
  私がこれまで観た69本(現存する成瀬作品すべて)の中で
  最も好きな映画であり、最も成瀬調と感じているのが
  『驟雨』です。個人的には成瀬映画の最高傑作、No1です。
  これまでスクリーン、録画DVDなどで20回くらいは観ているかと。
  何度観ても面白いのです。
  この映画の中で最も好きなシーン(シークエンス?)が、
  新婚旅行帰りの香川京子が叔母=原節子の家を訪ねて
  新婚旅行での夫との喧嘩を原節子に訴えるところ。
  香川京子の可愛らしさと、大人らしく受け止める原節子の
  台詞のやり取りが最高で、特に小津映画の演技とは
  異なる、原節子のナチュラルでユーモラスな演技は、
  本当に素晴らしい。必見です。昭和31年当時の小田急線
  「梅が丘」駅(木造のちっこい駅舎)の風景も貴重。

『くちづけ』
→3話オムニバスで、1話「くちづけ」(筧正典監督)、
 2話「霧の中の少女」(鈴木英夫監督)もなかなかいのですが、
 成瀬監督の3話「女同士」がやはり一番いいです。
 高峰秀子、上原謙、中村メイ子、小林桂樹など。
 開業医(上原)の妻役の高峰秀子の、不満げな、少しふてくされたような表情
 が随所に観られ、成瀬映画の中であまり語られることはないですが、
 『浮雲』の後に、力を抜いたような、これも最も成瀬調の映画の1本です。
 ラストにサービスカットがあるのでそれも楽しみに

『晩菊』
→こんな名作がDVDになっていないのは信じられないのですが。
  『流れる』でのだらしない芸者役とは対照的な、しっかりものの
  金貸しの元芸者の杉村春子の貫禄の演技、元同僚の芸者で
  愚痴ばっかり言っている望月優子、細川ちか子の演技も最高です。
  この映画を観たら、ロケ場所の本郷・菊坂散策を是非どうぞ。

『石中先生行状記』『妻の心』
→三船敏郎出演作。詳細は下記の「三船敏郎」内の記述参照。
  『石中先生行状記』3話のラストの三船敏郎と石中先生の
  やり取りは、成瀬映画の中で最も幸福感に満ちたもので、
  これを観ると「ヤルセナキオ」というよく使われるあだ名
  が、いかに不正確であるかがわかります。
  この映画に限らず、ラストに少し希望の予感を感じさせる
  成瀬映画のほうが圧倒的に多いのは間違いないです。

『夫婦』
→杉葉子の若妻ぶりがとにかく魅力的。成瀬・夫婦もの常連の
  上原謙は相変わらずの、頼りない男ぶり。
  上原謙の同僚で平凡な男を演じる若き三國連太郎にも注目。
  ラストに出てくる公園のロケ場所は未だに不明。
  杉葉子さんご本人に直接お聞きしたこともあるのですが、
  覚えていないとのお答えでした。
  なにしろ60年前の映画なのであの公園が今でもあるかはわかりません。
  おそらく世田谷の方だとは思うのですが。

『秋立ちぬ』
→雑誌「東京人」での故・大瀧詠一さんのロケ地検証記事
  の影響もあって、ネット等でもDVD化を望む意見の多い映画。
  この映画の評価は年々高まっているような気がします。
  私は20年くらい前に「並木座」で初めて観たときから
  成瀬映画の中でも名作の一つだと思ってました。
  ロケ場所では新富・銀座界隈の他、主人公の子供2人が
  歩く、晴海の線路のシーンに注目。
  同場所は現在は豊洲のショッピングセンター(映画館もある)
  になっています。
  この映画1本だけの出演と思われる、旅館の娘・順子ちゃん役の
  一木双葉は本当にキュートです。
  数多くの映画に出ている乙羽信子の唯一の成瀬映画でもあります。
  そして戦前からの成瀬映画常連の藤原釜足が八百屋の主人役。
  なんと同時上映された黒澤映画『悪い奴ほどよく眠る』にも重要な役で
  出演しています。組織の命令で汚職に関与した役人を熱演しています。
  一人の俳優の黒澤映画と成瀬映画での役柄の違いには唖然とします。

『コタンの口笛』
→『ゴジラ』60年で再評価されている伊福部昭作曲のテーマ曲が印象的。
  橋本忍脚本で北海道のアイヌ差別といった社会的なテーマであり、
  成瀬映画の中では異色作の一つです。
  全体的に重苦しいトーンで、成瀬映画の中での評価は低いですが、
  そんなに出来が悪いとは思いません。
  昼間の海岸で小石を投げる少年→夜の花火の映像、別海岸での
  花火大会で楽しんでいる少年の姉といった、小道具を使用した
  場面転換の切れ味はさすが成瀬演出です。

これ以外の作品も、もちろんすべておすすめです。
特に『杏っ子』『鰯雲』の上映はレアかもしれません。

私も何本かは観に行こうと思っています。


トップページへ戻る


『三船敏郎』 2014.8.6

8/6の今夜、20:00-21:00に、BSジャパンの「昭和は輝いていた」
というトーク番組で、「世界のスター 三船敏郎」が放送されます。

番組HP



三船敏郎といえば、やはり黒澤映画(東宝では稲垣浩作品も多い)となるので、
今夜の番組も話題は黒澤映画が中心かもしれません。

古い日本映画ファン以外にはあまり知られていませんが、
三船敏郎は黒澤映画以外にも、溝口健二、木下恵介両監督の作品に1本ずつ、
そして成瀬映画には2本出演しています。
さすがに小津映画には出演されていません。
宝塚映画で撮った『小早川家の秋』には東宝の男優、女優も
多く出演しているので、
もし小津映画に三船敏郎が出ていたらと想像するのも楽しいです。

溝口映画は、人によっては最高傑作と評価の高い『西鶴一代女』(1952)、
木下映画は、『婚約指輪(エンゲージ・リング)』(1950)。
この2本とも相手役は田中絹代です。

この2作品の三船敏郎の演技は、私はそれほど好きではありませんが
黒澤映画専属のようなイメージからすると溝口映画、木下映画に出ていた
ことは意外に感じられました。

さて本HPにも随所に書いていますが、成瀬映画における三船敏郎は
とても素晴らしいのです。

1本目の『石中先生行状記 第三話 干草ぐるまの巻』(1950)では
純情で素朴な田舎の青年役で、少しユーモラスな演技がなかなかいい。
フィルモグラフィを見ると、黒澤映画『野良犬』直後の作品ですが、
その役柄の違いが際立ちます。
成瀬監督が意図的にそのような役柄で起用したのでしょう。
この第三話のラストシーンの三船敏郎と石中先生の会話は
成瀬映画の中で最も幸福感に満ちていると思います。

2本目の『妻の心』(1956)。群馬県・桐生市を舞台にした
薬店の夫婦役の小林桂樹、高峰秀子主演のドラマですが、
三船敏郎は、高峰秀子の友人・杉葉子の兄の銀行員役で
登場します。

三船敏郎の数多い出演作の中で、銀行員役は他にあるのでしょうか。
おそらくこの作品だけではないかと。

ともかくスーツとネクタイ姿で、落ち着いた感じでにこやかに話す
銀行員・三船敏郎は渋くてかっこいいです。。
10年以上前ですが、今は無い東京の「三百人劇場」で
故・小林桂樹トークショーの時に小林さんがしきりに黒澤映画とは異なる、
『妻の心』での三船敏郎の静かで抑えた演技を評価していました。

何度も書きましたが、公園にある休憩所で、雨宿りをしている
高峰秀子と三船敏郎の二人が、何も台詞がないまま
目線を合わせたり、そらしたりしながら、心の中に秘めた
恋愛感情を表現する、成瀬監督の名演出が素晴らしい。
このシーンは成瀬映画の中でも名シーンの一つです。

そして成瀬映画の2作品での三船敏郎の最大の魅力は「笑顔」です。
本当にいい笑顔なんだな、これが。
残念ながらこの2作品とも未DVDなのですが。

さて、今夜の番組にはゲストとして俳優の夏木陽介さんが出演されます。
先日、年に1回の成瀬監督の関係の会でお会いして、10分くらい
いろいろとお話させていただきました。

夏木さんとは出演された成瀬映画『秋立ちぬ』と『女の座』
についての当時のエピソードをお聞きしたのですが、
やはり特撮映画世代としてはどうしても、夏木さんが刑事役で
出演された『三大怪獣・地球最大の決戦』(1964 本多猪四郎監督)
の話を聞かなくてはと、子供の時にリアルタイムで観たファンとして
その思いを熱く語ってしまいました。
あの映画での夏木さんはスマートで本当にかっこいいです。


トップページへ戻る


『映画本の感想』 2014.6.15

知人から薦められて、「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」
(春日太一著 文藝春秋)を読みました。

映画の製作関係者のエピソードは面白いものが多いですが
本書も面白い過激なエピソードが満載で、楽しく読みました。
著者の春日氏は取材から執筆まで約10年を費やしたそうです。
さすがに読み応えがありました。

過去に東映の時代劇などに関する何冊かの本を読んだことも
あったので、知っていた内容もありましたが、初めて知る内容も多かったです。

一番感じたのは「観ている東映の映画(京都及び東京撮影所とも)
がいかに少ないか」という点でした。

私は邦画では成瀬作品、川島作品、黒澤作品や特撮怪獣映画
や社長シリーズなど、前身のP・C・L時代の作品や、
系列の東京映画、宝塚映画なども含めて
圧倒的に東宝映画を多く観ています。

次に松竹、大映もかなり多くの映画を観ていると思います。

あまり観ていないのは日活(川島作品は全部観ていますが)
、新東宝そして一番少ないのが東映です。

東映の時代劇の全盛は世代ではなく、
また 60年代後半~70年代の任侠映画、実録ものも、
年代的にまだ小学生~中学生の頃なのであまりなじみがなく。

私は直接的なバイオレンス表現がとにかく苦手なので
任侠映画も実録ものも現在に至るまで好んで観た事はありません。
ずいぶん前にビデオで『仁義なき戦いシリーズ』5部作だけは
観たことがありますが、その後繰り返し観たことはないです。

数少ない東映映画体験ですが、それでも好きな作品はあります。
どれも名作と評価されている定番ではありますが
私の好きな東映作品ベスト5は
①『飢餓海峡』(内田吐夢監督)
②『十三人の刺客』(工藤栄一監督)
③『にっぽん泥棒物語』(山本薩夫監督)
④『大殺陣』(工藤栄一監督)
⑤『宮本武蔵 5部作』(内田吐夢監督)
その他
・『米』(今井正監督)
・『浪花の恋の物語』(内田吐夢監督)
・『五番町夕霧楼』(田坂具隆監督)
・『関の弥太っぺ』(山下耕作監督)
・『一心太助シリーズ』(沢島忠監督)
・『沓掛時次郎 遊侠一匹』(加藤泰監督)
などはお気に入りです。

1980年代以降~最近ですが、森田芳光作品でマイベスト5にはいる
『それから』『僕達急行 A列車で行こう』の2本も東映作品なんですね。


東映の前身の東横映画には1本だけ成瀬作品があります。
成瀬監督『不良少女』(1949)ですが(製作が東横映画、配給は松竹)
これは戦後の成瀬作品で唯一ネガ、プリントが無くなってしまっているそうで、
もちろん私も未見です。
どこかで見つかってほしいものです。


トップページへ戻る


『川島映画 鑑賞記』 2014.5.11

明日から、東京・池袋「新文芸座」において「川島雄三特集」が始まります。

プリント・ネガとも失われている『相惚れトコトン同志』(松竹 1952)を除いて
全50本の川島映画を観てきた私ですが、川島映画の鑑賞をどのようにしてきたか
過去の映画館やビデオ、放送の状況も含めて記憶をたどって書いてみます。

では、私が最初に観た川島映画は何か?

これがまったく思い出せません。
おそらく代表作の『幕末太陽傳』だと思うのですが、名画座、ビデオ、テレビで観たのか、まったく記憶にありません。

私が川島映画に興味を持ったのは1995年くらいからだったか。
当時は、川島映画に限らず成瀬映画などを観るには東京の名画座が一番便利でした。
・「銀座 並木座」
・「池袋 文芸座」
・「大井町 大井武蔵野館」
など。
また本来は劇場ですが
・「千石 三百人劇場」
そして、「京橋 フィルムセンターといったところです。

私が川島映画にはまったきっかけはよく覚えています。
1995年前後に、文芸座地下(旧文芸座は地下が邦画専門)で観た『貸間あり』でした。
不思議で猥雑な雰囲気の映画で、テンポがよくとにかく面白い映画だったので、
「未見の川島映画をもっと観たい」と思いました。

当時はまだビデオの時代ですが、
・松竹時代の数本
・日活時代の数本
・大映時代の数本
はビデオ化されていて、レンタルして借りた記憶があります。
・東宝、東京、宝塚時代の川島映画は、
レンタル禁止の通販ビデオ(1本\9000くらいした)に何本かがありました。
レンタルショップには置いてなかったので観ることはできませんでした。

その後私が集中して川島映画を多く観たのは
・2001年の「千石 三百人劇場」 川島雄三レトロスペクティブ
です。

このときはビデオ化、DVD化されていないものを中心に未見の川島映画、
特に松竹、東京映画、東宝のものを10本くらい観ました。
期間中は川島監督と親しかった西河克己監督他ゆかりの方たちのシンポジウムもありました。それも観ました。

契約したばかりのCS放送では
・日本映画専門チャンネル
 :1998年頃「24時間まるごと川島雄三」」(東京映画、東宝、宝塚映画が多かった)
・衛星劇場
 :2006年頃「若き日のKAWASHIMA」(ビデオ、DVD化されていない松竹映画)
・チャンネルNECO :日活映画の他東京映画、東宝なども放送
などが放送されていて、これは当時ビデオ録画、その後DVD録画しました。

日本映画専門チャンネルではここ数年の間に、

『箱根山』『赤坂の姉妹より 夜の肌』『暖簾』『喜劇 とんかつ一代』
『青べか物語』『グラマ島の誘惑』『わが町』『洲崎パラダイス 赤信号』
などがハイビジョンの綺麗な映像で放送されていました。

NHKBSプレミアムでも『幕末太陽傳』『とんかつ大将』『真実一路』などがやはりハイビジョン映像で放送されました。

さて、明日からの新文芸座での特集ですが、初日の5/12(月)からデビュー作で傑作の『還って来た男』(1944)と
個人的に川島映画の最高傑作と評価したい『人も歩けば』(1960)と充実した2本です。

トップページへ戻る


『初めて観た映画 東宝怪獣映画』 2014.5.9

NHKラジオ第一で月に1回放送されている「みうらじゅんのサントラくん」は
タイトル通り懐かしい邦画、洋画両方の映画音楽のレコード(CD?)をかける、
とても楽しい番組なのですが、
なんといっても、1曲目に東宝怪獣映画
のテーマ音楽がかかるのがたまらなく好きです。

私はみうら氏と同じ1958年生まれなので、彼が熱く語る
東宝怪獣映画についてはすべて理解し共感できます。

成瀬映画と同じ東宝ということで今回は怪獣映画について書いてみます。

みうら氏が最初に観た記憶のある映画は、キングギドラが初登場した
『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)だとラジオで話していました。
そこで、「私が最初に観た記憶のある映画は何だったか」と考えたのですが
それより数ヶ月前の『モスラ対ゴジラ』(1964)だったかと。
最初に観た映画かどうかは記憶が曖昧ですが、
最初のほうに海岸で尻尾から出てくるゴジラの映像ははっきり
覚えていますし、その迫力は当時6歳の私にとって衝撃でした。
ちなみに成瀬映画で最初に観たのは『めし』(1951)でした。

当時、東京の銭湯の脱衣所には映画のポスターがよく貼ってあったのですが、
子供心に怪獣映画のポスターはとても怖かったのを覚えています。
→映画のタイトルで画像検索すると当時のポスターがたくさんアップされています。

『モスラ対ゴジラ』以降は、
上記の『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)も含めて、
東宝の怪獣映画は1969年あたりまではすべて観ていると
思います。
『ゴジラ』(1954)、『ラドン』(1956)、『モスラ』(1961)など
それ以前のものもテレビ放送で観たり、映画館の怪獣映画特集
などでほとんどすべて観ました。

大映映画ですが『ガメラ』シリーズ、『大魔神』シリーズ
などももちろん観ました。

これは私だけでなく、同世代の小学生の男の子は
ほとんど一緒ではないかと。
当然テレビの『ウルトラQ』『ウルトラマン』も放送時に
リアルタイムで観ています。

東宝怪獣映画の中でも特に怖かったのは、
『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』(1965)
→ネットで調べると2本立てのもう一本は『海の若大将』というのが凄い
『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)
の2本です。
これは今レンタルDVDで観ても結構怖いので、7-8歳のときに
相当怖かったのは当然でしょう。

東宝怪獣映画の多くは監督・本多猪四郎、特撮監督・円谷英二のコンビですが、
音楽は当然、伊福部昭です。

これは比較的最近知ったことですが、本多監督は成瀬映画『鶴八鶴次郎』(1938)
の助監督だったそうです。
伊福部昭も、成瀬映画『コタンの口笛』(1959)を担当してます。
それからこれは有名ですが、
記念すべき最初の『ゴジラ』の本編のスタッフは、
玉井正夫(撮影)、中古智(美術)、石井長四郎(照明)
という、成瀬映画のスタッフが担当しています。
時期的には『浮雲』(1955)の直前ということになるのでしょうか。

俳優で言えば、成瀬映画、東宝怪獣映画の両方に出演されているのは
宝田明、星由里子、夏木陽介、志村喬、香川京子、若林映子、
白川由美、小泉博、水野久美、上原謙、佐原健二、浜美枝、土屋嘉男、
小林桂樹(1984年版の『ゴジラ』)などが主な方でしょうか。
渋いところでは、成瀬映画『禍福』(1937)、『まごころ』(1939)などに
出演した高田稔が、『三大怪獣 地球最大の決戦』などに
出演しています。

東宝の怪獣映画はどれも好きなので甲乙つけがたいのですが
個人的にベスト3本を挙げると
①『ゴジラ』(1954)
②『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)
③『モスラ対ゴジラ』(1964)
です。

ラジオでみうら氏も話していますが、
②のストーリーは、『ローマの休日』が少し入っている
のは私も大人になって気づきました。

今年の7月に公開されるハリウッド版の新作『ゴジラ』
はどうなんでしょうか。

トップページへ戻る


『ウォルト・ディズニーの約束』 2014.4.23

私は映画館、DVD、テレビとも邦画を観る比率が高いのですが、
1本気になる洋画があり、久々に映画館で観てきました。
『ウォルト・ディズニーの約束』(原題 Saving Mr.Banks)です。

とても素晴らしい映画でした。
もともとアニメーション映画をほとんど観ないので、
ディズニー映画にもあまり思い入れは無いのですが、
この映画には心打たれました。

私は、洋画でも邦画でも、CGを多用した映画が苦手ですが、
本作品のように、よく練られたシナリオ、ユーモラスで味わい深い台詞、
名優の演技、テンポのいい演出や編集などの要素がいい映画を形作ると
思っていますし、それをこの映画は実証しています。
CGを多用したおこちゃま向けのSFやアクション映画が多い
洋画・邦画の中で、これは大人の鑑賞に堪える映画と言えます。

この映画は『メリー・ポピンズ』の制作秘話ということだったので、
映画を観に行く前に予習として『メリー・ポピンズ』のブルーレイを
レンタルして観ました。

『メリー・ポピンズ』というのは子供向けの映画だと思っていたのですが、
ストーリー、演技、音楽、歌詞、アニメーションのどれもが素晴らしく、
これも感動してしまいました。
私は初めて観たのですが、もし今回の映画が無ければ、
おそらく一生観る機会が無かったと思います。
『メリー・ポピンズ』がこんなに素晴らしく、また深い内容だと
は思ってもいませんでした。

そしてやはり『メリー・ポピンズ』を観たばかりだったので、
この『ウォルト・ディズニーの約束』にちりばめられている
いくつかの台詞や楽曲の制作過程もよく理解することができました。
本作を観られる場合は事前に『メリー・ポピンズ』をブルーレイまたは
DVDで観ていくと2倍楽しめます。
原題の意味もまさに『メリー・ポピンズ』から来ていて、とても深い意味があります。

原作者のパメラ・L・トラヴァース(エマ・トンプソン)が、ロンドンからカリフォルニア
へ来たときに、カリフォルニアのスタイルにいちいち反発するところが
面白かったです。
そして、『メリー・ポピンズ』は実写であり、アニメーションは絶対に入れるな
という要求も強烈でした。
ホテルの部屋に置かれたディズニーのキャラクターのめいぐるみを
エマ・トンプソンが文句を言いながら片付けるところなどは、
ディズニー映画でありながらなかなか懐が深いというか大人だな
と思った次第。
ウォルト・ディズニーを演じるトム・ハンクスも名演技です。
この二人のオスカー俳優の演技だけでも見ごたえがあります。

『メリー・ポピンズ』のブルーレイの特典映像の中に
メリーポピンズを演じたジュリー・アンドリュースの面白いエピソード
が紹介されていました。(DVDにも特典映像ははいっているとは思いますが)
映画ファンには有名なエピソードなのかもしれませんが、私は初めて知りました。

ブロードウェイのミュージカルで『マイ・フェア・レディ』の主役イライザを
演じていたアンドリュースは、映画化の時に「映画出演経験がない」との理由から、
製作者ジャック・ワーナーはイライザにオードリー・ヘップバーンを起用。
その結果、アンドリュースは『メリー・ポピンズ』に出演することになり、結果として
1964年のアカデミー主演女優賞とゴールデン・グローブ主演女優賞を受賞しました。
そして、ジャック・ワーナーも出席しているゴールデン・グローブ賞の
受賞式の会場で、以下のようにスピーチしました。

以下はジュリー・アンドリュースのウィキペディアより引用。

アンドリュースはゴールデン・グローブ賞の受賞スピーチで
「最後に、これを現実にしてくださったジャック・ワーナーさんに感謝したいと思います。
(And, finally, my thanks to a man who made a wonderful movie
and who made all this possible in the first place, Mr. Jack Warner.)」

このときの実際のモノクロ映像が特典映像に入っていて、
そのときに苦笑まじりに高笑いしているジャック・ワーナー本人も映っています。

こういうエピソードはお洒落でとても素敵です。

『ウォルト・ディズニーの約束』は映画が終わってのエンドクレジットにも
なかなか味わい深い演出があり、本当にいい映画でした。


トップページへ戻る


祝 ! 5月の成瀬映画と川島映画の上映 2014.4.19

トップページで紹介しましたが、5月に東京の2つの名画座で
成瀬映画と川島映画(特集)があります。素晴らしいことです!

まずは、神保町シアターでの『秀子の車掌さん』『まごころ』。
2本とも山梨県・甲府(『秀子の車掌さん』は甲府の手前の
現山梨市)を舞台にした、昭和10年代の映画です。

2本とも今から10年くらい前に、
当時録画ビデオの画面写真を参考にして、
ロケ地写真を撮影に行ったので、思い出深い映画であり、
2本とも1時間ちょっとの小品ですが、2本とも傑作です。

1か月ほど前、評価の高い最近の日本映画で
前田敦子主演の『もらとりあむタマ子』を観ましたが、
甲府市が舞台で、途中に出てくる川と橋は、
本HPのロケ地紹介ページ内の『まごころ』に掲載した、
荒川と荒川橋ではないかと感じました。

この2本とも、以前ビデオは発売されていましたが(現在は廃盤)、
DVDは無いので、未見の方にはいい機会でしょう。

続いて、川島ファンが待ち望んでいた新文芸座の「川島雄三」特集。
私は長年かけて川島映画の全51作品を観ることができたのですが、
スカパーの放送でしか観る機会の無かった作品も何本かあり
それはこの特集上映にスクリーンで観たいと思っています。

こういう特集はめったにないので、誰でも同じだと思いますが、
観に行ったほうがいい作品の優先順位としては
・DVD化、ビデオ化されていないもの
・あまり上映、放送(スカパー、BSなど)の機会がないもの
・作品の出来がいいもの
が選ぶポイントではないでしょうか。

私なりに今回の上映作品で貴重なものを
上記のポイントで優先順位順に10本挙げると、
(1)『特急にっぽん』 5/13(火) 上映
(2)『女であること』 5/19(月) 上映
(3)『人も歩けば』  5/12(月) 上映
(4)『イチかバチか』 5/22(木) 上映
(5)『接吻泥棒』 5/15(木) 上映
(6)『青べか物語』 5/21(水) 上映
(7)『縞の背広の親分衆』 5/21(水) 上映
(8)『花影』 5/20(火) 上映
(9)『赤坂の姉妹より 夜の肌』 5/20(火) 上映
(10)『明日は月給日』 5/15 上映
になります。
松竹の『明日は月給日』以外はすべて、東京・東宝作品かと。

松竹時代の作品が少ないのと、日活時代では『わが町』『飢える魂』「続・飢える魂』
あたり、東宝時代では『貸間あり』『箱根山』もラインナップしてほしかったところです。
→DVDもあり、上映、放送の機会も多い「日活時代」「大映時代」の作品は外してほしかった!

私は上記の10本はすべてスカパー日本映画専門チャンネル、衛星劇場などで
以前放送された録画DVDを持っていて、同じ作品を何度も観ているのですが
それでもまたスクリーンで観てみたいと思わさせられます。
川島映画(特に、東京・東宝・宝塚時代が最高!)が、いかに面白く、傑作ばかりか、ということにつきます。

トップページへ戻る


ビリー・ワイルダー 2014.4.16

先日行った図書館にあった映画本で、そのタイトルに惹かれて
『ビリー・ワイルダーの映画作法』(瀬川裕司著 明治大学リバティブックス)
という本を借りて読みました。

書籍紹介HP

私が外国映画で好きな映画監督のベスト3は
①ビリー・ワイルダー
②シドニー・ルメット
③アルフレッド・ヒッチコック
なのですが、何といってビリー・ワイルダーが圧倒的に好きです。
彼の作品はおそらく2-3本を除いてすべて観ていると思います。

この本は、タイトルの通り、ワイルダー作品に見られる
映画術を詳細に解説したもので、ある程度の映画マニア向け
の本ですが、私が見逃していた内容もあり、個人的には
とても面白い本でした。

特に、一般的にはあまり有名ではない
『少佐と少女』(1942)
『ワン・ツー・スリー』(1961)
の2本が取り上げられていたのが嬉しかったです。
もちろん大傑作の『情婦』(1958)や『麗しのサブリナ』(1954)
なども興味深く読みました。

ワイルダーは優れたシナリオライターでもあるので、
ストーリーの省略の仕方、小道具の使い方、伏線の張り方
など、すばらしい職人技という感じがします。

どの作品にもドラマの重要なアクセントとして小道具が
登場しますが、著者の瀬川氏がワイルダー作品の中の
小道具の演出で最も気に入っているという
『少佐と少女』の中の「おたまじゃくしと蛙」の使い方は、
私は一度DVD(代官山ツタヤでレンタルしました)で観ただけで
あまり意識していなかったのですが、「そういう意味か」と
改めて気づかされました。
この意味を説明するには長くなるのと野暮なのでやめますが、
ユーモラスでお洒落な表現がとても素敵です。

前に本エッセイで書いたことがあるかもしれませんが、
私は成瀬監督(そして川島監督も)が外国の監督の誰に
似ているかといえば、ワイルダー、ヒッチコックではないかと
思っています。
もちろん映画の題材はまったく違うのですが、映画として
共通する要素がいくつかあります。
それは
・説明的な台詞が少ない
・映像表現の素晴らしさ
・小道具の使い方、伏線の張り方の巧みさ
 →同じ作品を何回か観て初めて気づくことが多い
・直接的なバイオレンスシーンが少ない
 →これは個人的な好き嫌いでしかないですが、
  私はバイオレンスに満ちた映画が生理的にだめなのです。
  従って『ゴッドファーザー』や『タクシードライバー』なども苦手で。
  ルメット作品は警察の腐敗などを描いた社会派作品も
  多いので銃も登場するのですが、あまり気にはなりません。
  『ダーティハリー』や『フレンチコネクション』なども大好きなので
  こればかりは好き嫌いとしかいいようがないです。
・都会的なお洒落なセンスに満ちている
・抑制されたユーモア
など。

つまり
「映画のプロフェッショナルが作った、安心して観られる、よくできた映画」とまとめられるかと。


私のいい映画(TVドラマなども)の定義とは
「何度観ても面白く、新たな発見もある映画」
なのですが、ここに挙げた監督の映画は
その点が全員共通してます。

故小林桂樹さんの対談を聞いたことがありますが、
成瀬監督は小林さんが少し説明的な演技をすると
(小林さんご本人はほとんど演技していないとの認識だった
とのことでしたが)、笑った後に「オーバー」と駄目だしが出て、
その後に「アメリカ映画みたい」とかおっしゃったそうです(笑)。

成瀬監督もワイルダーやヒッチコックの映画を観ていたとは
思うのですが、どう評価していたのか気になるところです。

トップページへ戻る


最近観た日本映画について 2014.2.23

キネマ旬報ベストテン、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞
など2013年公開の映画賞がすでに発表されています。
その情報も参考に最近の日本映画を何本かDVD等で観ました。

最近は洋画よりも邦画、日本映画の方に秀作が多いように感じます。
私が昨年映画館で観た洋画は、アカデミー賞の『アルゴ』(公開は2012年秋)と
『ヒッチコック』くらいで、とにかく映画館に行って観たいと思うような洋画は
ほとんどありませんでした。
日本映画であれば公開中の『小さいおうち』『もらとりあむタマ子』
などは観に行きたいのですが。

最近観た日本映画で久しぶりに感動したのは『横道世之助』です。
公式サイト

人気作家・吉田修一原作で、監督は沖田修一、脚本は沖田修一・前田司郎。
主人公の世之助に高良健吾、ヒロインの与謝野祥子に吉高由里子。

1980年代後半に東京の大学へ入学した世之助の大学生活(実名で法政大学)
を中心に描いた「青春」+「ラブコメディ」映画ですが、
個人的には最近の日本映画では『モテキ』『僕達急行 A列車で行こう』以来の
心に残る大好きな映画になりました。
この映画は160分というかなりの長編なのですが、演出と編集のテンポ
が良く、もちろん俳優陣も魅力的で、そんなに長い映画だと感じませんでした。

私が大学生の時期はこの映画の舞台の約10年前で、
1987年の頃はすでに社会人でしたが、当時の東京の雰囲気はよく覚えています。
この映画の魅力の一つは、1980年代の東京の雰囲気を再現している点です。
冒頭、長崎から上京した世之助(高良健吾)が新宿の東口
を歩くシーンには、CG合成なのでしょうが、当時の斉藤由貴の広告の
看板(確かカセットテープ)があり、歩いている人たち、そして高良健吾
のファッションも正に1980年代そのものです。
前半に登場する下北沢駅前(これはオープンセットで再現したとのこと)
の雰囲気も、一瞬1980年代の当時の日本映画を観ているような
錯覚に陥りました。
携帯電話やスマホも無い時代なので、公衆電話がよく登場します。

映画はまだ子供っぽさを残した高良健吾とその友人たち(東京・長崎)
そして恋人になる超お嬢様の与謝野祥子(吉高由里子)
(手を振り「ごきげんよう」と「わたくし」というのが口癖)
との交流をユーモラスに描いた楽しい映画なのですが、
随所に短く、現在の彼らが世之助のことを懐かしそうに語る
シーンがはさまり、この編集(原作とほぼ同じ)はとても自然で
違和感がありません。
ともかくこの映画での高良健吾と吉高由里子の演技は
生き生きとして素晴らしいです。
原作にもありますが、応接間のカーテンに隠れて高良健吾から
愛の告白を受ける吉高由里子は本当にキュートです。
(予告編にも出てきます)


また、高良健吾と同じ大学の友人役の池松壮亮、綾野剛との
会話は、どうでもいいことを真面目に話していたり、その話し方
も含めて、18歳・大学1年生の頼りない感じがよく表現されています。

特に好きなのは、サンバクラブ(!)の合宿の風呂場で
高良健吾と池松壮亮
がシャンプーしながらする会話シーン。
爆笑しました。
全体的に会話のリズムに変な間があり、(その間の感じも1980年代っぽい)
笑わせてくれます。

この映画を観て、あらためて1980年代はいい時代だったと
再認識しました。


もう1本は評価の高い『舟を編む』です。
公式サイト

三浦しをん原作、監督は石井裕也、脚本は渡辺謙作。
松田龍平、宮崎あおい、小林薫、オダギリジョー、加藤剛、
八千草薫などの他、最近ベルリン映画祭で賞をとった黒木華も出ています。

この映画もとても素晴らしい作品なのですが、
私自身は『横道世之助』の方が好きですし、映画としても評価をします。

理由としては、『舟を編む』の面白さは、出版社の辞書編集部を舞台に
辞書作りの気の遠くなるような地道な作業について
初めて知る情報の要素が半分くらいではないかと感じたからです。
辞書作りについては、例えばNHKスペシャルのようなドキュメンタリー
や池上彰さんの情報番組などで取り上げても興味が惹かれるのではないかと。

比較すると、『横道世之助』は大学生の青春を描くという
これまで数多くあった、極めて平凡な題材を描いているのに対し、
『舟を編む』はまずその題材自体にインパクトがあったように思います。
成瀬映画、小津映画、川島映画を愛する者としては
『横道世之助』の方が好みということなのかもしれません。

別の言い方をすれば『横道世之助』では、ジーンとして涙ぐむ
個所がありましたが、『舟を編む』にはそういう個所がありませんでした。
あくまで私個人の感じ方ですが。

『舟を編む』はタイトルが素晴らしく、またさらっと終わるラストシーンはとてもいいです。
また、日本料理の女料理人という珍しい役を演じる宮崎あおいが光ります。

最後に、もう1本。
これは昔の日本映画ですが、木下恵介監督『今年の恋』(1962)。

木下恵介監督公式サイト(松竹)

製作ニュース・予告編(You Tube)

昨年は未見の木下作品のDVDを数多く観ましたが、この映画が最も気に入りました。

岡田茉莉子と吉田輝雄の恋を駆け引き描いた軽いタッチの都会的なラブコメディですが、
木下作品の中では、一番好きな『お嬢さん乾杯』に通じる雰囲気があります。

ストーリー展開も極めて平凡なものですが、こういう題材も演出のテンポがいいと楽しめます。
吉田輝雄の弟役の能天気な高校生を演じているのは若き日の田村正和ですが、
現在の田村正和しか知らない人には興味深いでしょう。

早口でまくしたてる銀座の小料理屋の娘役の岡田茉莉子は綺麗でとにかく魅力的。
この映画で毎日映画コンクール女優主演賞をとったのもうなづけます。
私が好きな三木のり平も高校教師役で出ています。

トップページへ戻る


女優・淡路恵子さんが1月11日にお亡くなりになりました 2014.1.12

年末年始と訃報が続きますが、
報道されているように昨日の1月11日、女優・淡路恵子さんが
病気でお亡くなりになりました。
80歳。

淡路さんは、成瀬映画には以下の5本に出演されています。
・『女が階段を上る時』(1960)
・『娘・妻・母』(1960)
 →明日1/13 AM10:30 東京・江東区の「古石場文化センター」で上映
・『妻として女として』(1961)
・『女の座』(1962)
・『女の歴史』(1963)

この中で私が特に好きなのは『娘・妻・母』の宝田明の妻役と
『女の座』の三橋達也の妻役の2本です。
私は「大家族もの」と名づけている2本ですが、
作品自体も1960年代の成瀬映画の傑作の2本です。

2本とも東宝の俳優を中心としたオールスターキャスト
ですが、その中で淡路さんは、家族から少し距離を
置いて、クールな視点を持つ役柄を活き活きと演じています。
『娘・妻・母』では年下の夫・宝田明に対して、
また『女の座』でもダメ男の夫・三橋達也に対して
完全に主導権を握っており、夫の発言、行動に対して
ずけずけと意見を述べますが
淡路さんが演じるとまったく厭味が無く、小気味よさにとても好感が持てます。

3年ほどの間に5本の作品に集中的に起用されたのは
成瀬監督が淡路さんの「大人の女の演技」を気に入ってたからでしょう。
淡路さんといえば、タバコの吸い方が一番かっこいいと評された
女優としても有名です。

ネットの映画データベースを見ると、淡路さんは
デビュー作の『野良犬』(1949)から約160本の映画に
出演されているようですが、
私が観ている映画のうち、成瀬映画以外で好きな淡路さんの出演作は
・『新東京行進曲』  川島雄三監督
・『グラマ島の誘惑』 川島雄三監督
☆『人も歩けば』   川島雄三監督
・『三十六人の乗客』杉江敏男監督
☆『切られ与三郎』 伊藤大輔監督
☆『男嫌い』     木下亮監督
・『男はつらいよ 知床慕情』山田洋次監督
です。
☆は特にお気に入りのもの。

晩年TVのバラエティ番組に出演されていましたが
その中でご自身の出演作品の中で、
上記の映画『男嫌い』(1964 東宝)
がとても好きな作品だと話していました。

ご冥福をお祈りいたします

トップページへ戻る


大瀧詠一さんがお亡くなりになりました 2013.12.31

すでに報道されていますが、昨日12月30日に
音楽家の大瀧詠一さんが病気でお亡くなりになったとのことです。
65歳。

成瀬映画と直接の関係は無いのですが、
大瀧さんは(割と最近になって?)成瀬映画や小津映画のファンだったようで
雑誌「東京人」の274号(2009年11月号)の
特集「映画の中の東京」の
:『銀座化粧』『秋立ちぬ』
 大瀧詠一の「映画カラオケ」のすすめ。(P28~P39)
の中で、2本の成瀬映画の舞台である銀座、築地、新富町界隈の
ロケーションを徹底的に調査、分析されています。
(聞き手は川本三郎さん)

『秋立ちぬ』の当時の助監督で、私が親しくさせていただいていた
故石田勝心監督にもお会いしていろいろと取材をされたようです。
(文中にも石田監督の話が出てきます)

私は2009年当時、石田監督とはパソコンメールのやり取りをしていたのですが
石田監督から「先日、雑誌の取材で成瀬ページと同じようなロケーション探しを
されている歌手の大滝さんという方とお会いしました」
とメールをいただいたのですが、まさか大瀧詠一さんとは思わず
雑誌「東京人」の特集を読んでびっくりしました。

私も本ページで成瀬映画のロケーション地探しを幅広くやってきましたが
『秋立ちぬ』『銀座化粧』の2本を徹底的に調べられていて凄いと思いました。
特に、『秋立ちぬ』で未だにどこなのか曖昧なのですが
銀座の街中の空き地で子供たちが野球をする場所も大瀧さんは特定されていました。
(文中でも現在の場所がはっきりとは書かれていないのでどこだかよくわからないのですが)

タイトルの「映画カラオケ」について文中を引用すると、
~カラオケに歌手がいないように、映画の場面から役者を抜いて

 
バーチャルな世界を作り、登場人物の視線でその世界を歩く~
とおっしゃってます。(同誌 P28)

また
~この二作品は約十年という時間を経て、レコードでいうならば
 A面とB面、続編でもあり姉妹編であるということがわかりました。
 「母ひとり子ひとり」という同じ設定のほか、さまざまなところで
 シンメトリックな構造になっています。~
と、いかにもミュージシャンらしい表現をされています。

大瀧さんのことをネットで調べたら、大瀧さん自身も
「母子家庭」だったようで、母と子のドラマであるこの二作品のロケ分析には
そのようなご自身の体験も投影されていたのかもしれません。
これは私の勝手な推測ですが。

ネット上のどなたかのブログだったか、大瀧さんが
本成瀬ページの中の『秋立ちぬ』のロケ写真(映画冒頭に登場する京橋公園)
を検索して見ていただいたようなことが書かれていました。

大瀧詠一さんといえば、私が大学生の頃に
大ヒットアルバム「A LONG VACATION」が発売され
何度も聴きましたし、
サイダーなどのCMや、松田聖子、薬師丸ひろ子など
数多くの歌手の作曲者として、ものすごい活躍でした。
個人的には一番好きなのはやはり「夢で逢えたら」(吉田美奈子)
です。
大瀧さんの作られる曲はどれも素敵なメロディでしたが、ボーカリストしての
大瀧さんの声も大好きでした。


♪ご冥福をお祈りいたします♪。

トップページへ戻る


小津映画『東京暮色』を再見して気づいたマニアックな発見

2013.11.19

今回も小津監督関連の内容です。
ブルータスの特集号を読み終わり、久しぶりに小津映画を
観たくなりました。
そこで、私が一番好きな『東京暮色』(1957)のDVDを再見しました。
スクリーンでも観たことがあり、今回で7-8回目でしょうか。

映画は最初観た時はどうしてもストーリーを追いがちなので、
よっぽど注意して観ないと演出や台詞や映像表現などの細かい点には
なかなか気づかないのが普通です。

今回も『東京暮色』を観直して、一つ発見したことがありました。
大筋には関係ない非常にマニアックな部分でありますが。

映画の中盤で、杉山周吉(笠智衆)の妹・竹内重子(杉村春子)が、
笠智衆の次女・明子(有馬稲子)の縁談写真を持って笠智衆の家を訪ねるシーン。
写真は二人あるのですが、二人目の写真を笠智衆と長女の沼田孝子(原節子)に
見せる時にの杉村春子の台詞
「うちの取引先のね、~(略)~ いい男よ(と鼻の両側を手で示し)
この辺錦之助に似てて

錦之助とは云うまでもなく、当時の東映の時代劇の人気スター 中村錦之助
のことでしょう。
そうです。
まったく偶然でしょうが、脚本の小津安二郎・野田高梧は、
この映画の4年後、1961年の有馬稲子と
中村錦之助の結婚を予言したことになります。
杉村春子が例によって、リズミカルに台詞を早口でまくしたてるので、これまで
気づきませんでした。

それだけでなく、今回『東京暮色』を再見して、いくつか新たに感じたことがありました。
一言でいえば、「最も成瀬映画っぽい雰囲気の小津映画ではないか」ということです。

(1)笠智衆、原節子の演技
  私は笠智衆、原節子とも、小津映画の中ではこの映画での演技と台詞が一番好みです。

  
一言でいうと二人が出演した数多い小津映画の中で、最も「自然な演技、台詞」
  だと感じるからです。
  この映画の原節子は夫と不仲で、赤ん坊の娘を連れて実家に帰ってきているという
  役なのですが、演技や台詞の雰囲気が、最も成瀬映画の原節子に近いように思います。
  小津映画では観ていて不自然に感じる(その奇妙な感覚が小津映画の魅力ですが)
  台詞の発声やリズムが、この映画の原節子にはあまり感じないのです。
  もちろん綺麗さという点では『晩春』「麦秋』『東京物語』の代表3部作の
  原節子には負けますが、原節子の落ち着いた、大人の女性の魅力が全開しています。
  後年の『秋日和』『小早川家の秋』になると、大きな娘のいる未亡人だったりして、
  私はあまり魅力を感じません。
  笠智衆も、いわゆる小津調の台詞の言い回しから少し解放されたような印象を受けます。
  特に、室内で原節子と有馬稲子をねちねちと叱るシーンなど。
  小津監督が意識的に、俳優への演出を少し変えてみようと思ったのかもしれません。
  よく言われる『浮雲』への意識があったのでしょうか。
  
(2)山田五十鈴、藤原釜足の起用
  この映画は何といっても、山田五十鈴が唯一出演した小津映画というだけで
  価値があります。山田五十鈴は、成瀬映画でも『流れる』『鶴八鶴次郎』『歌行燈』
  などの名演がありますが、『東京暮色』も圧倒的な存在感のある演技に唸ってしまいます。
  それから中華料理屋の店主の役の藤原釜足。成瀬映画、黒澤映画常連の藤原釜足も
  これが唯一の小津映画だったと記憶しています。
  藤原釜足のひょうひょうとした自然な演技も、小津映画には珍しい独特な感じを与えて
  くれます。
  対比として、麻雀シーンに多く登場する、高橋貞二、須賀不二男、長谷部朋香といった
  若者たちの演技、台詞の言い回しは、いつもの小津調のリズムなので、余計にそのように
  感じます。冒頭の飲み屋のカウンターでの浦辺粂子、笠智衆、田中春子や
  須賀不二男がバーテンをしているバーでの客との台詞も、いつもの小津調です。
  

(3)映像
  前にも書いたかもしれませんが、この映画には映像表現して素晴らしい演出が一つあります。
  これは小津監督の助監督でもあった作家の高橋治氏の『絢爛たる影絵』(文春文庫)の
  P283に指摘されています。

  
  
笠智衆の家は、東京・雑司が谷の高台にあります。

  ロケページ写真参照

  映画では有馬稲子、笠智衆、原節子、杉村春子(自動車で)などが坂道を歩いて
  くるほぼ同じアングルのショットが昼間、夜間あわせて4-5回出てきます。
  ラスト前、別れを言いに来た山田五十鈴も坂道を登ってきますが、玄関で原節子に
  家に上ることを拒絶され、その後映画の中で初めて、坂をゆっくりと下りて行く山田五十鈴の
  姿が映し出されます。ラストも笠智衆が出勤のため坂道を下りて行くショットです。
  登場人物の心理状態を象徴的に使った(であろう)この坂の映像演出には唸ります。

  また、深夜の喫茶店に張り込んで、有馬稲子を補導する刑事・宮口精二の登場シーンは
  まるで「フィルム・ノアール」調ですが、マスク姿の宮口精二がなかなか不気味でいいです。
  有名ですが、有馬稲子を引き取りに来るマスク姿の原節子がまたいいです。


トップページへ戻る


雑誌BRUTUS(ブルータス)の最新号「特集 小津の入り口。」は面白い

2013.11.16

久しぶりに雑誌を購入しました。
タイトルにあるブルータスの特集号2013 12/1号、¥630です。
下記参照

ブルータス最新号

表紙はモノクロ写真に黒文字で「小津の入り口。」とあり、
男女のモデルが座っているのは『東京物語』のポスター
へのオマージュですね。

小津安二郎監督は今年生誕110周年、没50年ということで
今後特集上映やフィルムセンターでの展示などのイベントが続きます。
→同じく没50年の川島雄三監督とは扱いが異なりますね!

ブルータスは以前にも何度か映画の特集号はあり、その中にはフランスの映画監督の
レオス・カラックスの成瀬巳喜男論なども掲載されていて、当時興味深く読みました。
しかし、ブルータスに限って云えば今回のような一人の映画監督の特集号は初めて
ではないかと。
(雑誌「東京人」や「ユリイカ」ではありましたが)

これまですでに相当の小津映画を観て、小津関連の書籍を何冊も読んでいる
小津マニア、小津ファンは、この特集号をどのように感じるのか興味があります。
小津マニアの一人である私個人としては、この特集号をとても面白く読みました。

タイトルにあるように、これから小津映画を観る人に向けた
入門編と位置付けられています。
「テレビドラマ」(山田太一さんが語っています)「料理」「おじさん」「男と女」「笑い」「ファッション」
「女優」「着物」などのテーマ別に分けられていてとても読みやすい構成になっています。
写真やイラストが豊富に掲載されていてこれがともかく素晴らしい。
また、入門編といっても内容的に結構深い部分もあり、読み応えがあります。

一番びっくりしたのは「画作り」という、小津の映画のワンカットを切り取ったような
写真ページ。
『東京物語』『彼岸花』『東京暮色』に登場するシーンの中のワンカットを題材にしています。
モデルは現代の若いモデルです。
ページ下にモデルが着ているワンピースやブラウスの値段などのクレジットが出ていて、
ファッション誌なら当たり前ですが小津特集号なので驚いてしまいました。
とにかく新鮮な感覚です。
『東京暮色』の有馬稲子のスカーフを巻いたカットを再現したモノクロ写真は
モデルの娘の表情も含めてとても素敵です。

最終ページに近いところに「ヒレカツの味。」という
男性モデルのファッション写真ページがあり、
そのロケ舞台が小津監督ゆかりの
とんかつ屋・御徒町「蓬莱屋」なのですが、
ページには何の説明も無いのに
ちゃんと小津特集とリンクしていて微笑ましい。

これまで本HPでも書いてきましたが、私は成瀬監督マニアになる前は小津監督
マニアでした。
私だけでなく私の知人も小津監督→成瀬監督が多いというか、

成瀬監督→小津監督はこれまで聞いたことがありません。
それはやはり上映の機会の多さ、DVD(小津監督は全作品のDVDあり)での
鑑賞の手軽さ、一般的な知名度の高さ、書籍の多さ(成瀬本の2倍か3倍?)
など様々な理由が考えられます。
ともかく昔の日本映画に興味の無い方に聞いても、小津安二郎は知っていて、
成瀬巳喜男は知らないという方が多いのは残念です。
もちろん若い世代の成瀬映画ファンが増えていることはとても嬉しいことなのですが。

最後に、年齢を重ねるに従って、好きな作品の順位は異なってきますが
現段階での私の小津映画ベスト5は
(1)『東京暮色』
(2)『東京物語』
(3)『小早川家の秋』
(4)『早春』
(5)『お早よう』
です。

成瀬監督の生誕110周年は再来年の2015年ですね。

トップページへ戻る


『女優と詩人』(1935)のラスト、男性の声の謎 2013.11.5

現在京橋のフィルムセンターで上映中の「よみがえる日本映画Vol6 東宝篇」
には、
『女優と詩人』(1935)
『サーカス五人組』(1935)、
『浦島太郎の後裔』(1946)=超異色作
『くちづけ』(1955 筧正典監督、鈴木英夫監督とのオムニバス)
と4本の成瀬映画がラインナップされていて、
さらに原作が成瀬監督の『化粧雪』(石田民三監督 1940)もあります。

フィルムセンターの映画チラシやホームページの内容を読んでいて
気になる記述個所がありました。
それは『女優と詩人』について、
「略~
最後の、エンド・クレジットが消える直前にかすかに入る
 男性の声に注意してほしい。
」という個所です。
 下記URL参照(次回の上映は11/16(土)16:00)

フィルムセンターのHPの解説

そこで、以前スカパー日本映画専門チャンネルで放送された
成瀬巳喜男劇場の時に録画した『女優と詩人』のラストを注意して
観てみました。
ラストの楽団の音楽が鳴っているエンド・クレジットで
音楽が終わり、画面がフェイドアウトして暗くなる直前に、
確かにほんの一瞬「カット」という男性の声が聞えます。
凄く小さい声で、それも一瞬なのでこれまで何度も観ていましたが
まったく気づきませんでした。驚きました。
今回の上映用のニュープリント作成の過程でフィルムセンターの
研究員のどなたかが見つけたものと推察しますが、よく見つけた
ものと感心します。

「カット」という声なので、この声は間違いなく当時30歳の
成瀬監督の声でしょう。
松竹からP・C・Lに移籍し、『乙女ごころ三人姉妹』(1935)
に続いて二本目のトーキー映画なので、
最後にご自分の声で「カット」と遊び心で入れたという
ことなのでしょう。

成瀬監督はよく「ヤルセナキオ」という渾名で作風を語られますが、
それは成瀬映画の一部の作品しか観ていない人の言う事で、
成瀬映画を数多く観ると、成瀬映画には古典落語のような、
さらっとした、粋で上質なユーモアが沢山あることがわかります。
松竹蒲田の出身の影響もあるのでしょう。
この「カット」も成瀬監督のユーモア精神を感じます。

さて、声といってもほとんど聞き取れない声なのですが、
私は成瀬監督の声を聞いたことがないのでその点でも非常に貴重です。
若き成瀬監督の動く姿は、五所平之助監督の撮った
プライベートの8mm映像で観た事があります。
確か、フィルムセンターの展示室の常設コーナーのところにこのフィルムがあったかと。

小津監督、溝口監督はラジオ出演の時の声を聞いたことがありますし、
小津監督は『秋刀魚の味』の予告編では演出している姿も映っています。
もちろん黒澤監督や木下監督はテレビに多数登場しています。
私の調査不足かもしれませんが、成瀬監督がラジオやテレビに出演されたというのは聞いたことがありません。

例えば『浮雲』などの時に、ラジオ出演依頼くらいはあったと推察しますが、どうだったんでしょうか?

トップページへ戻る


訃報 
成瀬映画のチーフ助監督もつとめた
テレビディレクター・プロデューサーの梶田興治さんが、8日18日にお亡くなりになりました。

2013.8.27

マスコミ報道にあったように、8月18日に梶田興治さんがお亡くなりになりました。89歳。

梶田さんは、『ゴジラ』(1954)他、本多猪四郎監督の東宝の怪獣映画
の多くにチーフ助監督で付いていて、その後テレビの『ウルトラQ』(1966)では何本か監督をされています。

私は怪獣映画世代のど真ん中で、『ウルトラQ』も小学生の時にリアルタイムで見ているので、
梶田さんには非常に親近感を覚えています。

後年知ったことですが、東宝の助監督時代には成瀬映画3本でチーフ助監督に付かれています。
『くちづけ=オムニバス 第3話』(1955)、『妻の心』(1956)、『コタンの口笛』(1959)の3本。
成瀬映画の中ではあまり語られない渋い3本ですが、私はどれも好きな作品です。

数年前に、成瀬監督関連の会で一度お目にかかったことがあり、
思わず『ウルトラQ』や映画『モスラ対ゴジラ』(1964)などの話を振ってしまいました。
非常におだやかな話し方で、昔の映画人らしいダンディなお年寄りでした。
成瀬映画でのエピソードをもっと聞いておけばよかった。

『ウルトラQ』はDVDで今見てもとてもよく出来ていて、すべて名作だと思いますが、
梶田さんが演出された「悪魔ッ子」は、子供心にとても怖い映像だったことを記憶しています。
中年になって再見しても怖かったのですが!

今回の報道で、零戦のパイロットだったことは初めて知りました。

ご冥福をお祈りいたします。


トップページへ戻る


「夏」の映画 2013.8.5

BS日本映画専門チャンネルで毎月テーマを変えて放送している
「ザ・ベスト」ですが、8月のテーマは「夏」でした。

日本映画専門チャンネルHP ザ・ベスト紹介ページ

4人のゲストの選んだ作品はわりかし最近の日本映画
でしたので、番組を見ながら「夏の映画」を考えてみました。

私が推薦する夏の日本映画ベスト1は
・「愛人」(1953 東宝) 市川崑監督
です。

この作品は私がかなり多く観ている市川作品の中で
のベスト1でもあるのですが、正に夏に起こるドラマを描いた傑作映画です。

映画の冒頭は夏の避暑地(志賀高原)で、二組の家族
(舞踊家の越路吹雪と娘の岡田茉莉子、
 映画監督の菅井一郎と息子の尾棹一浩、娘の有馬稲子)が登場します。
冒頭は、テニスコートで菅井と有馬がテニスをしているシーン、
そこに霧がかかり雨も降ってきてホテルに走って引き上げる。(略)
湖で一人でボートに乗っている岡田、同じく湖に兄弟でボートに乗っている尾棹と有馬。
岡田のことが気になっているんでしょうと妹の有馬にひやかされている
尾棹は、岡田のボートとすれ違うときに会釈をし、岡田も笑顔でそれに応える。
この避暑地で二人の恋の予感を感じさせる余韻でこのシーンは終わります。

次は雪の舞う東京の結婚式場(東京會舘)。
入り口にお互いの苗字である「井上家・神家結婚披露宴会場」
尾棹と岡田が一緒になったのかと思うと、親同士の菅井と越路が
結婚(二人とも再婚)するというシニカルな展開。

冬の結婚披露宴のシークエンスが終わると、続いて
東京郊外(多摩川近辺)の夏のシーンになります。

庭のひまわりのショット、映画監督の菅井の弟子の助監督・三國連太郎と
有馬が、草のぼうぼうとした整備されていないテニスコートでテニスをしています。
ここから映画のラスト(夕立)まで、ドラマの中に夏(おそらく8月の後半くらいの晩夏でしょう)
の季節感が一杯描かれます。

・三國連太郎が多摩川で泳ぐシーン
・菅井が多摩川で帽子を被って釣りをしているシーン
・並木道を岡田、有馬の二人が歩くシーン
 →東京の郊外とは思えないほどののどかな雰囲気。
  そして成瀬組のキャメラマン玉井正夫の得意な「人物の服
  を移動する木漏れ日の影」撮影が美しい
・和服を着ている越路以外は皆シャツやブラウスを腕まくりして半袖
 にしている。有馬はショートパンツをはいている
・メイン舞台となる洋館の差し込む、いかにも夏を感じさせる光線
など

ともかくこの作品は映画自体も傑作ですが、昭和28年当時のまだ車の少ない
東京の郊外(世田谷あたり)の晩夏の雰囲気がとても素晴らしい効果をあげています。
残念ながらDVD化されていません。
以前日本映画専門チャンネルでは放送されています。
この作品については書籍「光と嘘、真実と影」(和田誠、森遊机著 河出書房新社)
の中で、お二人が詳しくその魅力について語っています。

最近の日本映画では「サマータイムマシン・ブルース」(本広克行監督 2005)でしょうか。
四国の大学の「SF研究会」を舞台にしたとても面白い作品ですが、
これは大学の夏休みに起こるドラマです。
ドラマの重要な要素が、部室のクーラーが壊れてしまうことから始まるということで、これも正に夏の映画です。
この映画はタイムマシン(セコイ!)が登場するコメディタッチの映画ですがラストのさらっとした終わり方がとても素敵で、
また上野樹里の魅力も一杯の素敵な映画です。DVDはあります。

さて、「成瀬映画で夏というと何があるか」と考えてすぐに、「秋立ちぬ」を連想しました。
「秋立ちぬ」も正に少年と少女のひと夏の出会いと別れの物語です。
・夏木陽介が多摩川で泳ぐシーン
・重要な要素のカブトムシ
・東京湾での水遊び
など、この映画にも夏の雰囲気が満ちています。
映画としても成瀬映画の傑作の1本です。
残念ながらこの作品はDVD化(ビデオにもなったことがない)されていません。

1本は選べませんが、小津映画も夏の季節の映画が多いですね。(冬の「東京暮色」は異色作)

個人的には、CGがどうしたという映画よりも、季節感を魅力的に描いた映画の方が観たいです。

トップページへ戻る



成瀬映画「娘・妻・母」について 2013.7.30

「娘・妻・母」をBS日本映画専門チャンネルの綺麗なハイビジョン映像で
久しぶりに観ました。
『成瀬映画は観るたびに新たな発見がある』というのが私の持論ですが、
下記に書いたようにこれまで10回以上は観ている作品なので
さすがに新たな発見は無いかと思っていたら、
見落としていた点がありました。映像表現に関連したことですが。

映画の中ほどで、三益愛子が孫の男の子(森・高峰の子供)
を近くの公園で遊ばせているシーン。
近所のおじいさん・笠智衆と世間話していると
公園のプランコで、孫の男の子がブランコに乗っている
女の子のブランコをゆすって「かわってよ」としつこく言い、
女の子は「いやよ」と拒否します。
公園での子供たちの微笑ましい描写ですが、
場面転換して次のシーンは、
宝田明と淡路恵子のアパートです。
淡路恵子がスーツケースに荷物をまとめて
アパートを出ようしていて、宝田明が一生懸命
なだめている夫婦喧嘩の描写なのですが、
「二人の(くだらない)言い争いは、公園の子供たちの喧嘩とほとんど変わらない」
という成瀬監督のシニカルな表現ではないかと感じました。
シナリオライター(井手俊郎・松山善三)の意図かもしれませんが
成瀬監督は説明的な台詞や芝居は削除してしまうと、
多くの俳優、スタッフの証言にあるので、残しているのは成瀬監督の意図が
あったということでしょう。シナリオに書かれているかは不明ですが。
淡路恵子の台詞には「子供の喧嘩じゃないのよ」もあり、ますますその感を強くしました。
これは前に観た時はまったく意識しませんでしたが、
この場面転換の編集を見ると、そういう意図があったのだと推察します。

ロケ地について、ラスト前、家に届いた封筒を高峰秀子が
見るシーンがあります。
老人ホームから三益愛子(坂西あき)宛てに届いた封筒です。
成瀬監督は住所の書かれた手紙・郵便や名刺をそのままアップで映す
ということをよくやりますが(「妻よ薔薇のやうに」「女優と詩人」「妻」など)
この作品でも家族の住む家は「世田谷区北沢(実際の番地も書かれていますが
現在は町名、番地とも変更になっているでしょう)、封筒の裏の老人ホームの住所は
「東村山」と書かれているのが画面でわかります。

この後、台所での原節子と高峰秀子との会話シーンがあり、
その後場面転換し、三益愛子が公園のベンチに座っているシーンになります。
この編集の流れも映画のタイトルを表現(原=娘、高峰=妻、三益=母)
しているのかなと感じました。

ラストシーンの公園は、ロケ地紹介に写真を載せた「女の歴史」のラスト
の世田谷の公園に似ているのですが、公園に再び登場する笠智衆が
「この公園はもうすぐ取り壊されて、どこかの銀行のアパートが建つそうですなぁ」
と三益愛子に話しかけるのでなんとも言えません。
この作品での笠智衆は近所のおじいさん役で公園シーンしか
登場しませせんが、この作品の2年後の同じく「大家族もの」の秀作、
「女の座」では大家族の老いた父親役を演じています。

それにしても成瀬映画は奥が深いです。



久しぶりに成瀬映画について語ります。
トップページに紹介したように、7/29-8/2まで
日本映画専門チャンネルで放送されます。
この作品はDVDも出ているので、すでにご覧になった方も多いかもしれません。

成瀬映画には「大家族もの」とでも名づけられる作品があります。
本作とそして1962年の「女の座」の2本です。

2作品とも、「おかあさん」「めし」「浮雲」「乱れる」「乱れ雲」といった
ベストテン何位といった評価を受けている作品ではなく、
当時の東宝の豪華スター共演というヒット作であり、映画の賞とは
無縁のような作品です。

これぞホームドラマという感じで、ストーリーもいたって平凡。
傑作の多い成瀬映画の中では当時の評論家の評価は低かったようです。

ところが、こういう平凡なホームドラマ題材の時にこそ、
成瀬監督は「では演出で工夫してみよう」と思われたと推察しますが、
実に映画的なお洒落な演出、表現に満ちていて素晴らしいです。

キネマ旬報から出ているロバート・アルトマン監督のインタビュー本
を先日読みましたが、その中に「観客はある映画を最初に観る時は
どうしてもストーリー中心で観るので、監督が工夫した映画の表現
まで読み解くことは難しい。何度か観ないと気づかないだろう」
といった趣旨の発言をされてました。(表記は正確ではないです)

この趣旨はまさに成瀬映画に当てはまります。
「娘・妻・母」には平凡なホームドラマの展開の中に、成瀬監督の仕掛けた
お洒落で、かっこいい演出表現が満載です。

「娘・妻・母」については私の著書の「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)
の作品分析で詳細に記述していますが、その中から2つだけ紹介します。

(1)「おかあさん」という台詞つながりの場面転換
 ・小泉博と草笛光子夫婦が仲のいいことに嫉妬した小泉の母・杉村春子は
  「おかあさんがじゃまなんだろ。家を出て行く」と怒って外に出て行く。
  小泉の「おかあさん」の台詞
  (場面転換)
  「おかあさん」と母に呼びかける宝田明。妻の淡路恵子と夫婦喧嘩して
  実家に来ている宝田明が、母・三益愛子にいい年をして甘えているシーン。
  妹の団令子に「兄さんは昔から甘えん坊なのよ」などと皮肉を言われる。
  成瀬映画にはこういう同じ台詞での場面転換が多くありますが、このシーンも
  その一つです。編集のリズムの素晴らしさ

(2)原節子と仲代達矢の2回のデートシーンに見られる映像の遊び心
 ・夫の事故死(交通事故!)によって実家に戻って来た長女の原節子は、
  妹・団令子の食品会社のワイン醸造技師の仲代達矢と知り合い
  2回デートシーンが出てきます。
  1回目は、通りの店の前で待っている原節子(最初は足のみ映す)。
  そこに通りの向こうから笑顔で歩いてくる仲代達矢。
  2回目は、1回目とまったく同じ店の前で、同じアングルで足から
  映すが、今度は待っているのが仲代達矢で、向こうから道路を
  渡ってくるのが原節子
  こういう細かい映像表現は、映画を1回観ただけではなかなか気づきません。
  二人が食事に行く店での座り位置も、上記と同様の表現だったと記憶しています。
 
この映画の見所は、成瀬映画では唯一の高峰秀子と原節子の共演、
そしてなんといっても原節子と仲代達矢のキスシーンです。
以前、やはり日本映画専門チャンネルで放送された仲代達矢ロングインタビュー
で、仲代さんがこの時のエピソードを語っていました。

キスシーンの撮影の前、成瀬監督が「仲代くん」と手招きし、仲代さんに「本物でやってね」と指示したそうです。
仲代さんは原さんの大ファンだったので、「まいったなあ」と思っていたところ
原さんの付き人(だったか?)が、「原はキスシーンではこれまで唇をつけないように
お願いしています」と言ったので仲代さんは「そうだよな」と納得していた。
その時に近くでそれを聞いていた原が「何言っているのよ、(本当に)どうぞ」と仲代さんにおっしゃったそうです。
実際の映像だと、カメラアングルの工夫で実際に唇が合わさっているかはよくわかりませんが、
いずれにしてもそのようなやり取りがあったとの仲代達矢さんの証言でした。

このエピソードを聞いて、私はますます原節子ファンになりました。
いま大人気のNHKドラマ「あまちゃん」のヒロイン・アキの台詞風にいえば
「原節子、かっけぇ」になるでしょう。

私も久々にハイビジョンの綺麗な映像で「娘・妻・母」を(おそらく10回目くらい)観たいと思います。
私も見落としている「お洒落な映像表現」があるかもしれません。
成瀬映画は観るたびに発見があるのです。

トップページへ戻る


生誕110年 映画監督 清水宏(フィルムセンター特集) 2013.6.20

6/5より京橋・フィルムセンターで「清水宏特集」が始まりました。
私はまだ行っていませんが、期間中に何本か観たいと思っています。

フィルムアート社の清水宏本のフィルモグラフィ資料によると
デビュー作=1924年の松竹蒲田「峠の彼方」(この時清水宏は21歳)から
遺作=1959年の大映東京「母のおもかげ」まで、なんと163本撮っているんですね。
凄い数です。松竹蒲田時代にサイレント、トーキーあわせて104本撮っているようです。
おそらく清水宏の作品をすべて観ている人というのはいないのではないかと。
今回フィルムセンターではそのうちの50作品を上映しています。

同じ清水宏本の資料によると、清水宏が亡くなった1966年に、大変珍しいことに
成瀬監督が朝日新聞に「清水宏監督をしのんで・成瀬巳喜男の追想」という
追悼文を寄稿しています。(朝日新聞1966年6月25日夕刊)
私は一度図書館の縮刷版でこの文章を読んだことがあります。

これまで清水作品を何本観たか数えてみたら、代表作を中心に13本くらいでした。
清水宏監督といえば
・子供
・伊豆やひなびた温泉地の屋外ロケーション
・ほのぼの系のドラマ
・人物を真正面にとらえて真後ろにいく移動撮影
などの特徴が思い起こされます。

「小原庄助さん」(1949)、「簪」(1941)、「花形選手」(1937)、
「信子」(1940)、「暁の合唱」(1941)あたりが私のお気に入りですが、
これらは上記の清水作品の特徴が入っていると思います。

ところが、松竹大船時代の清水作品には
・東京などの都市が舞台
・モダンな作風
・繊細な恋愛心理劇
があります。
この種の清水作品がまたとてもいいのです。


私がこれまで観ている清水作品で最高傑作と思っているのが
正に都会的な恋愛心理劇である「家庭日記」(1938)です。
吉屋信子の原作で、佐分利信、高杉早苗、上原謙、それから私の大好きな
桑野通子、三宅邦子などのそうそうたる俳優が出演しています。
一度それもビデオでしか観たことがないので、フィルムセンターの上映に行こうと思います。

今回のフィルムセンターでも上映される遺作の「母のおもかげ」(1959)。
淡島千景、根上淳の出演している母物の一つで、とてもいい映画ですが
この映画には一つ成瀬ファンには興味深いロケーションシーンがあります。
以前にも書いたことがあると記憶していますが、この映画には成瀬監督作品
「噂の娘」(1935)で千葉早智子、梅園龍子、藤原釜足の3人が歩いて
会話する屋外シーンに登場する深川界隈にあった「一本橋」「丸太橋」
が登場します。つまり1959年にはまだ現存していたということになります。
現在は埋め立てられてありません。

今回のフィルムセンターでは上映されませんが、
「花ある雑草」(1939松竹大船)という作品には川島雄三監督が助監督についていたとのこと。


トップページへ戻る



横山道代(旧芸名・現=横山通乃)さんトークショー 2013.6.17

トップページに告知紹介しましたが、川島雄三監督没後50年
を記念したトークショーに行ってきました。
(6/15土 16:00-18:00 下北沢書店B&B)
聞き手は映画ライターで「川島雄三乱調の美学」(ワイズ出版)の編者でもある磯田勉氏。

当日の参加者の方たちがすでにツィッターでつぶやかれているのですが、
私はツィッターやっていないものでここに書きます。

とても面白いトークショーでした。
横山道代さん(旧芸名で書きます)はご高齢なのですが、
見た目も若々しく、ともかく約50年前の川島映画の時と
同じく、早口で流暢な言葉にびっくりしました。
あの年代であれだけ早口なのは、NHKで同期だった黒柳徹子くらいではないかと。
頭の回転が速いということなのでしょう。

横山さんはもともと文芸映画にあこがれていたので
(タイトルが2文字の映画「暖流」「浮雲」他)
最初は少しアチャラカの要素のある風俗映画
のイメージだった川島作品には出たくなかったそうです。
特に、最初に撮影見学したのが「グラマ島の誘惑」だったそうで、それはよくわかります。

ところが、川島監督の美少年風のルックスと撮影現場で
スーツと緑色ネクタイのお洒落でダンディなファッションを見て、好きになってしまったとのこと。
川島監督も横山さんの独特の個性を気に入られたようで横山さんは川島作品6本に出ています。
・人も歩けば(主役のフランキー堺の妻=銀座の質屋の娘)
・夜の流れ(成瀬監督の共同監督 芸者役)
・赤坂の姉妹・夜の肌(赤坂の芸者役)
・特急にっぽん(特急の1等車のスチュワーデス=現在のCA)
・とんかつ一代(フランキー堺と見合いする活発な娘)
・イチかバチか(芸者)
ご本人も話していましたが芸者役が多い。
この中で一番出番の多い代表作は「人も歩けば」でしょう。
母親の沢村貞子との東京下町のべらんめえ調に近いマシンガントークは絶品です。

たくさんの映画に出ているのと50年くらい前の映画なので
どんな役だったのかよく覚えていないとのこと。それはそうでしょうね。

川島監督は細かい演技指導などはほとんどしなかったそうで
(それと対照的に細かい演技指導するが市川崑監督だったとのこと)のびのびと演技できたようです。
川島監督は声も小さくよく聞き取れなかったようで、
また肩を下げながら「くっくっくっ」という笑い方が特徴だったと懐かしげに語っていました。

横山さんが川島監督について述べられた考えはなかなか深いものでした。

(1)川島監督は表面的に「分けの分からないアチャラカ」や「通俗的な風俗」
  を描いていたが、実は心の底には純粋で深い考えがあったのではないか
(2)川島監督はともかく映画のテクニックが素晴らしかった。演出、台詞、モンタージュなど

当日参加者のツィッターでは(1)は様々な言葉でより正確に紹介されていたのですが
(2)については触れられていないようです。
私は、本HPにも川島映画の映画自体のテクニカルな面に最大の興味を持って
作品評を書いていたので、横山さんから「モンタージュ」という言葉を聞いたときは
深くうなづいてしまいました。いいぞいいぞという感じで。

途中に休憩があり、その時に少しお話させていただきました。
横山さんは成瀬監督「女が階段を上る時」の冒頭にも出演されて
いるので(藤木悠と結婚して静岡に行くホステス役)
成瀬監督の本を出していることも伝えました。本HPのことは伝え忘れ。
磯田さんも「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)でフィルモグラフィ作成にご協力
いただいたのでご挨拶をしました。
横山さんには、私が川島監督の現存50本を全部観た中で、
一番好きな作品が「人も歩けば」だと伝えたら、結構感動していただいたようで
トークショー後半の時にその話をされていました。
(横山さんから「どなたでしたか」と言われ手を挙げたのが私です(笑))

ご本人が詳細を記憶していないとおっしゃっていたので仕方ないのかも
ですが、川島監督についてのトークショーとして最初は「人も歩けば」から1本1本インタビューしていたのが
結局「特急にっぽん」と「とんかつ一代」の話にまったく触れられていなかったのだけが残念でした。
この2本の横山さんの個性的な演技もとても好きです。

書店の一部をパーテーションで区切った小さいスペースでしたが
満席という盛況ぶりで、最後に横山さんに皆で大きな拍手
(話を聞いた後では全員がリスペクトの拍手だったよう)
をした時に、横山さんが思わず涙ぐまれて、その光景も非常に感動的でした。

川島映画の当時のスタッフや俳優では数少ない貴重な証言をしていただける方なので、
横山さんにはこれからもお元気でと祈るばかりです。

そういえば伊丹十三監督の話の中で、横山さんから「ロラン・バルト」の本」という話題が出た時も、
びっくり+嬉しかったです。
私は大学生時代に演習でロラン・バルトのあるエッセイを原書で習ったことがあるので、とても懐かしい名前でした。
「構造主義」ですね
横山さんは知性に溢れる女優さんで本当に素敵です。

以上、トークショーのレポートまで


トップページへ戻る


木下恵介生誕100年記念映画「はじまりのみち」を観て 2013.6.7

上映中の「はじまりのみち」を観てきました。
昔の日本映画を彷彿とさせる、しっとりとした実にいい映画でした。
私はとても気に入りました。

映画「陸軍」のラストをめぐっての対立から松竹に辞表
を出した若き木下恵介(加瀬亮)が、空襲の激しくなった
町から山間の家に病気の母親を疎開させる。
主なストーリーはこれだけです。

母親・たま(田中裕子)をリヤカーに乗せて、兄・敏三(ユースケ・サンタマリア)と
荷物運びに雇った便利屋(濱田岳)とともに山道をリヤカーを引いて歩き、
やっと宿泊できる旅館に着いたときに、加瀬亮は井戸の水でタオルを濡らし
泥のはねが付いた母親・田中裕子の顔と首を拭いてあげ、その後櫛で髪を
整えます。脳溢血で倒れた母親は何も言葉を発せずに、息子の行為を
無言で受けます。
これは同じ状況なら息子が母親にしてあげるだろう普通の行為だと
思うのですが、ともかくこのシーンが最も感動的でした。
木下恵介監督の大ファンでこの作品の監督・脚本を手がけた原恵一監督は
「クレヨンしんちゃん」などのアニメ作品で有名で、これが初実写映画らしいのですが
抑えた演出や構図の美しさはなかなかのものです。

映画の中には「陸軍」のラストの有名な田中絹代の出征息子を
追い続けるシーンが引用されたり、ラストではその後の木下監督の
作品(全作品ではないですが)のダイジェストが引用されたりと、
普通の映画とは少し異なる展開ですが、私は特に気になりませんでした。
ダイジェストでも引用されるシーンやショットにこだわりが感じられました。
特に、「香華」では雨の中、岡田茉莉子が歩くシーンはとても素晴らしい
シーンだと思っていたので、それが使用されていて共感を覚えました。

回想シーンで紹介されるデビュー作の「花咲く港」の撮影の時の
家族エピソードも興味深かったし、
上下白い服装の加瀬亮が撮影の舞台である静岡の海岸を
歩くシーンも、木下監督のお洒落な面を表現したのでしょう。
「花咲く港」には確か川島雄三監督が助監督でついていたはずなので
洒落で川島雄三役も出してほしかった。「川島くん」とか一言でも。

原監督のインタビューは新聞で読んだり、ネットの動画で見たり、
本作のパンフレットの対談も読みましたが
「木下恵介監督は『二十四の瞳』のイメージが強すぎるが実は
過激な映画を沢山とっていていわばロックやパンクの映画監督なのだ」
といった主張が語られています。
原監督が大好きらしい「永遠の人」は私も今年DVDで観たので
その言いたいことはわかります。あの映画の高峰秀子と仲代達矢の
憎みあう夫婦のドラマは、雰囲気もストーリーも陰湿で
(フラメンコのギターの音楽が対位法的に決まっている)
確かに「二十四の瞳」のイメージとはかなり違います。
喜劇から悲劇まで、これだけ作風の異なる(+撮影方法などの変化)
作品を作り続けたのは日本映画では木下恵介監督が一番のように思います。

一人の映画監督を代表作の作風のイメージで捉えるのは
私も嫌いですので、原監督が木下恵介監督作品への思いを語るのはよくわかります。
「二十四の瞳はもちろんいい映画だけども、それ以外にもたくさん名作があり、
そのいくつかは非常に過激で驚かされるのだ」と言いたいのでしょう。
成瀬監督「浮雲」、小津監督「東京物語」、川島監督「幕末太陽傳」
が代表的ですが、名監督と言われる監督の作品を数多く観ていくと
代表作がいかに一面でしかないかを痛感させられます。

「はじまりのみち」は木下監督のエピソードが感動的だから
生誕100年記念映画になりえたのでしょう。
その点、成瀬監督はともかくエピソードが少ない。
当時の助監督やスタッフや俳優の皆さんに直接お会いして質問しても、なかなか無いのです。
いつか成瀬監督や川島監督が登場する映画やドラマを観たいものです。

トップページへ戻る


最近観た日本映画について 2013.4.28

この2-3か月、最近の日本映画を劇場やDVD等でいろいろと観ました。
気に入った映画について少し書きます。

最近最も気に入った日本映画はDVDで観た
「僕達急行 A列車で行こう」(森田芳光監督)
です。
2011年に61歳で亡くなられた森田監督の遺作
になってしまった映画ですが、これがとても素晴らしい出来でした。

タイトル通り、鉄道マニアの会社員・小町圭(松山ケンイチ)とその友人で
同じく鉄道マニアの鉄工所の2代目・小玉健太(瑛太)の2人が主人公で、
当然ながら鉄道の話と映像がたくさん出てくるコメディタッチの映画です。
2人の役名もそうですが、この映画の主要キャストの役名は
すべて日本の鉄道の特急や急行の名前というのもお洒落です。
不動産会社の企画係の松山ケンイチが東京本社から九州支社
へ転勤を命じられるので、東京(瑛太の鉄工所は京浜急行の蒲田あたり)と博多が主な舞台になります。

松山ケンイチがともかく笑わしてくれます。鉄道にしか興味のない
真面目なサラリーマンなのですが、その生真面目なところが
笑いのツボになっていて、くすくすと笑えるシーンが沢山あります。
面白い台詞も多くて、森田監督のシナリオも冴えています。
ストーリーの中心は松山ケンイチの勤める不動産会社を取り巻く
もので、「こんなにうまくいくわけないだろう」という能天気な展開も
あり、もしかしたら森田監督は「社長シリーズ」を意識していたのではないかと感じました。
不動産会社の女社長=松坂慶子(北斗みのり!)。
個人的に森田作品としては「ハル」以来の傑作でした。
ともかく観終わってなんとも言えない幸福感につつまれた映画でした。

知人から薦められた
内田けんじ監督の映画は
「鍵泥棒のメソッド」
新文芸座で鑑賞)
「アフタースクール」(ブルーレイ)
「運命じゃない人」(DVD)
の3本を続けて観ました。
この若い監督は自身でオリジナルシナリオも手がけていて、
「映画はシナリオが命」とあらためて感じました。
ストーリーは先が読めなくて、少しミステリータッチなのですが
後半にかけて「そうだったのか」という驚きが待っています。
しかし、あざとい感じはなく、ほのぼのとしているところが好きです。
ともかくシナリオの構造が緻密で素晴らしい。
内田監督のインタビューを読むとビリー・ワイルダー監督が好き
らしく、いい影響を受けているのでしょう。
3本の中では最初に観た「アフタースクール」が一番面白かった
ですが、5月にDVDが出る「鍵泥棒のメソッド」も相当面白いです。

評価の高い
「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督)DVD
も堪能しました。特に吹奏学部のワーグナーの曲の演奏と
ラスト前の屋上のシーンがとてもマッチしていて素敵でした。
突然終わるようなラストも、説明的なくどいラストが多い
最近の映画(日本映画、外国映画を問わず)と違いセンスがいいです。

「終の信託」(周防正行監督)DVD
は前半は少し説明的な回想シーンが続き、あまりいいとは思いませんでした。
また役所広司演ずる重度の喘息患者の病室での治療シーンは映画とはいえとてもリアルで
観ていて気が滅入りました
しかし、後半からラストにかけての検察庁の取調室での
被疑者の女医役=草刈民代と検事役=大沢たかおのやりとりは
緊張感に満ちていて、その迫力と演技に圧倒されます。
さすがに周防監督(シナリオも)の演出です。

その他観た主な映画は
「八日目の蝉」(成島出監督)DVD
「苦役列車」(山下敦弘監督)DVD
「マイバックページ」(〃)DVD
「黄金を抱いて翔べ」(井筒和幸監督)ブルーレイ
などで、それぞれ面白い箇所も不満な箇所もありました。

次回は同じく最近観た洋画(クラシック+新作)について書こうと思います。


トップページへ戻る


訃報
名優・三國連太郎さんが4日14日にお亡くなりになりました 
2013.4.16

マスコミ報道にあるように、4月14日に三國連太郎さんが
お亡くなりになりました。90歳。

TVや新聞ではあまり紹介されていないようですが
ご存知のように成瀬作品にも2本出演されています。

・「夫婦」(1953)
・「妻」(1953)

この2本での役柄は、後年の、役に入り込んだ迫力のある演技ではなく、

ひょうひょうとしたコミカルな演技がとてもいいです。

「夫婦」では会社の同僚(上原謙)が地方から東京本社に転勤となり
住宅難のため自分の家の1Fを同僚の夫婦(妻=杉葉子)に貸して
自分は2Fにまるで下宿人のように住むという面白い役柄でした。
自分の妻を病気で無くしたばかりなのに、同僚の妻の杉葉子にほのかな
恋心を抱いてしまうという男を淡々と演じていました。
同年の「妻」は上原謙、高峰三枝子の家に下宿する若者を演じていて、
(今度は本当の下宿人にするというこの設定が
 成瀬監督らしい洒落っ気を感じさせます)
この役も夫婦の危機の話を和ませるような役割を果たしています。


本屋で読んだだけなので正確ではありませんが、
三國連太郎のインタビューの書籍(タイトルも思い出せず)の中で、
成瀬作品について
「現在海外でも評価されているらしいのですが
出演していた俳優としてどこがいいのかよくわかりません」
といったことを述べていたのを読んだ記憶があります。

しかし、成瀬作品に限らず、木下恵介作品、市川崑作品、川島雄三作品
など若い頃の三國連太郎は本当に美男子で驚きます。

上記の成瀬作品以外では
・「飢餓海峡」(内田吐夢監督)
・「にっぽん泥棒物語」(山本薩夫監督)
の演技が特に素晴らしい。

また、
・「愛人」(市川崑監督)
・「ビルマの竪琴」(〃)
・「破戒」(〃)
・「切腹」(小林正樹監督)
・「怪談」(〃)
・「海の花火」(木下恵介監督)
後年では
・「息子」(山田洋次監督)
などが印象に残っています。

ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


木下恵介作品を観て 2013.4.13

成瀬作品、黒澤作品、川島作品はほぼ全作品、小津作品、市川作品もかなり
の本数を観ていますが、何故か木下恵介監督作品は代表作「二十四の瞳」「お嬢さん 乾杯」
などこれまで10本に満たなかったので、少し集中して木下作品をDVDで鑑賞しました。
今年にはいってDVD(レンタルや以前スカパー放送録画)で観たものは
・「海の花火」(1951)
・「遠い雲」(1955)
・「夕焼け雲」(1956)
・「この天の虹」(1958)
・「風花」(1959)
・「永遠の人」(1961)
・「香華」(1964)
です。

これらは木下作品の代表作とは言えないでしょうがどれもなかなかの作品でした。
「遠い雲」「風花」「永遠の人」の3本は、地方の旧家の因習
との葛藤が描かれていて、木下作品の別の面を発見し興味深かったです。
「風花」には岸恵子、久我美子、有馬稲子の3人が勢ぞろいして映っているショットがあり、
思わず「にんじんくらぶだ」とつぶやいてしまいました。

ここでは共通する映像表現について書きます。

木下恵介ファンには有名なことかもしれませんが
木下作品には、必ずといっていいほど
屋外シーンで人物の歩く、走るの横移動シーンが出てきます。
アクションシーンでも何でも無いのですが、この横移動シーンが
作品の中で重要な位置を占めていて、とても迫力がありました。

主人公が「何かを決断する」といった決定的な場面に合わせて横移動が登場します。

屋外での人物の歩き、走りのシーンでは、成瀬監督は
人物(二人が多い)の斜め前方からのアングルでの移動、
清水宏監督は、ロングでの人物の真正面からの移動
(人物が手前に向かって歩いてくる)が特徴ですが、
木下監督は真横の移動をカット無しに延々と撮影していきます。
あの有名な「陸軍」(1944)でのラストシーンの、母親・田中絹代
が出征兵士の息子を街中で延々と追いかけるシーンにもその片鱗が見られます。
一人の人物の横移動がわりと多いのも特徴でしょう。

木下監督は本当に多くのジャンルの映画を撮っていて、

かつ映像スタイルもバラエティに富んでいて
(「カルメン純情す」の斜め映像、「野菊の如き君なりき」の卵形の映像など)
特徴がつかめなかったのですが、集中的に見て「屋外シーンの人物の横移動」を体感しました。

以前、木下作品をやはり観ようと思って
「カルメン純情す」(1952)、「日本の悲劇」(1953)、「女の園」(1954)、
「楢山節考」(1958)、「笛吹川」(1960)などの木下作品の代表作と
呼ばれている諸作品をビデオやDVDで観ようとトライしたのですが、
当時の私にはあまり響かなかったようで途中で観るのを挫折した経験があり、「木下作品は合っていないのかな」と思っていました。
成瀬作品ではそんなことは一度も無いのですが。

上記の作品にも再チャレンジしようと思っています。

松竹の「木下恵介生誕100年プロジェクト」のHP
は、内容もわかりやすく、デザインも綺麗で、コンテンツも充実しているなど
日本の映画監督の公式ページとしてはナンバーワンではないかと思います。

私も作品を観る際に参考にしました。

トップページへ戻る


銀座シネパトスのラスト上映も成瀬作品 2013.2.27

トップページに紹介している銀座シネパトスの3月末までの特集「銀幕の銀座」
ですが、よく見るとラスト上映3/28-3/31は「銀座化粧」「女が階段を上る時」。
成瀬作品2本なんですね。

偶然だとは思いますが、名画座が閉館する時のラスト上映は成瀬作品が多い。
1998年に閉館した有名な銀座・並木座ですが、あの時もラストの特集は
「成瀬巳喜男特集」で、閉館の最終日は「晩菊」「おかあさん」でした。

並木座の閉館を紹介しているHP

また、その前年1997年に閉館した池袋の文芸座地下(日本映画専門)も
ラスト上映は成瀬作品「歌行燈」でした。私は確か観に行った記憶があります。
文芸座はその後「新文芸座」として復活していますが。

名画座業界のルールではないのでしょうが、偶然にしても多いと思います。
ラスト上映には成瀬作品が似合うということなのでしょうか。

トップページへ戻る


成瀬監督に関する記述の紹介 2013.1.20

また図書館で借りた映画本に出ていた「成瀬監督に関する記述」を紹介します。

本は、「誰かが行かねば、道はできない:木村大作と映画の映像」
(木村大作、金澤誠著 キネマ旬報社)です。

東宝出身の撮影監督で、最近では「剱岳 点の記」で映画監督デビューした
木村大作氏へのロングインタビュー本です。

木村さんの話は本職の撮影技術以外でも、過去に仕事をした監督のエピソードが
多数紹介され面白かったのですが、その中に成瀬監督に関する記述
が4つほどありました。以下紹介します。

①木村さんが東宝入社された時の、東宝の映画監督の印象として
 「
成瀬さんは物静かな哲学者のようで」(P16)とあります。
 
②木村さんは黒澤組で撮影助手を多くつとめていて、その話は
 インタビュー映像や本で知っていたのですが(「用心棒」でのピント送りの話は有名)、
 成瀬作品にも1本撮影助手としてついていたというのは初めて知りました。
 「遺作の『乱れ雲』(67年)、1本だけ就いている。
成瀬さんは怒ることはない人
  ~(中略)黒澤さんも
成瀬さんを尊敬していたよね」(P24)

③「八甲田山」などの多くの映画でコンビを組まれた森谷司郎監督の「海峡」撮影時
  の中で、
  「~森谷さんは『一番尊敬する監督は
成瀬巳喜男だ』と言っていたけど、
  黒澤組の助監督をやっていれば、長廻しの良さというのが身についている
  ところがある~」(P122)
  とあります。
  森谷監督は黒澤監督の「悪い奴ほどよく眠る」から「赤ひげ」までのチーフ
  助監督でしたが、その前に成瀬監督作品の監督助手にも就いています。
  助監督の名前はチーフくらいしかタイトルクレジットされないので確実な
  ことは言えませんが、ウィキペディアで検索すると
  「流れる」「杏っ子」「鰯雲」「コタンの口笛」の4本で監督助手だったようです。
  「杏っ子」は、当時やはり監督助手で昨年2月に亡くなられた石田勝心監督から
  見せていただいた撮影時の写真にも監督助手時代の森谷監督の姿が映っている
  ものがあり、また「鰯雲」はチーフ助監督だった須川栄三監督のインタビュー
  記事で名前を見ていたので知ってはいました。
  森谷監督が成瀬監督を尊敬していたというのは初めて知り、少し驚きました。
  ちなみに、本多猪四郎監督は成瀬監督「鶴八鶴次郎」の監督助手だったようです。

④「火宅の人」などでやはり多くコンビを組まれた深作欣二監督との
  「おもちゃ」撮影時の中で、
  「~黒澤明さんは『映画は記憶だ』と言っていた。深作さんもクランクインする
  前には、参考になる映画を見まくる。『おもちゃ』のときには、
成瀬巳喜男さん
  の『浮雲』(55)だった。~」(P248)
  とあります。
  私は暴力シーンが苦手なので、深作作品はあまり得意では無いのですが
  この「おもちゃ」という作品は未見なので観てみたいと思っていた作品でした。
  深作監督のワイズ出版のロングインタビュー本の中で、成瀬作品「おかあさん」
  を褒めていらしたので、深作監督の作風と対極にある成瀬作品への思いに
  意外性を感じたことを記憶しています。


大島渚監督がお亡くなりになりました。
大島作品は10本くらいしか観ていないと思いますが
その中での個人的なベスト3は
①「絞死刑」(1968)
②「新宿泥棒日記」(1969)
③『白昼の通り魔」(1966)
です。

前にビデオで観た「帰って来たヨッパライ」(1968)は
私がこれまで観た映画の中で、難解さでは一番だったかも。
フォーククルセダーズのオリジナルメンバーが見られるのは貴重です。
上記の①-③も高校生か大学生時代の若いときに観たのですが、同じくかなり難解でした。

愛のコリーダ」は大学生の時に、ドイツのフランクフルトでノーカット版というのも観ましたが、
なんと「ドイツ語吹き替え」バージョンだったので、物凄く不思議な感覚でした。
藤竜也がドイツ語を話すのですから!

名作と評価の高い「少年」(1969)と
デビュー作の「愛と希望の街」(1959)はDVDでも観てみたいと思ってます。


ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


「今井正映画読本」を読んで 2012.12.29

年末なので久しぶりに書いてみます。

図書館で「今井正映画読本」(今井正監督を語り継ぐ会編;論創社)
を借りて読みました。
今年の5月に出版されたばかりの新刊本です。


その中に今井監督の日記の紹介があり、昭和15年5月31日
の記述に、成瀬監督が登場しています。(P68)

映画「駅馬車」の試写を見た帰りに、<成瀬さん、山本薩ちゃん、藤本(注;真澄)君>
(文中のまま)と銀座でお茶を飲みながら映画の感想を語り合うという記述
がありました。

ご存知のとおり、小津監督、溝口監督、黒澤監督、木下監督などと
比較しても、成瀬監督関連のエピソードは本当に少ないので
今井監督とも少しつきあいがあった(同じ東宝なので当然ですが)
だけでも貴重な情報のように思えてしまいます。

日記は続きがあって、その後また<藤本君、成瀬さんと落ち合い、
大船の「女性の覚悟」を見る。又お茶を飲んで、成瀬さんの批評を拝聴>
(P68-P69)とあります。

もう一つこの本の中で興味を持ったことは「キネマ旬報の歴代ベストテン」
に関することです。

これも邦画ファンなら有名なことですが、今井正監督の
キネマ旬報ベストテン内の作品は本当に多くて、そのことを
強調するように、
・Part1 1949(昭和24年)~1963年(昭和38年) P213
・Part2 1964(昭和39年)~1976年(昭和51年) P227
に各年のベストテン作品が記述されています。

今井正監督作品のこの期間のベスト1は
「また遭う日まで」(1950)
「にごりえ」(1953)、
「真昼の暗黒」(1956)
「米」(1957)
「キクとイサム」(1959)
と5本もあり、それ以外でベストテン入りした作品はなんと17本もあります。
これには水木洋子や橋本忍といったシナリオライターの貢献も大きいの
でしょう。

さて、その各年のベストテン作品を目で追っていたのですが、
成瀬作品をはじめ古い日本映画を相当観ている私でも、
まったく知らない作品が結構あって少し驚きました。

私もわからないことはすぐにネットで検索する習性がついている
のですが、あえてネット検索せずに、
上記の1949年~1976年までで、
「観た作品」「未見だが監督やだいたいの内容を知っている作品」
以外で、まったく知らない作品名のみを挙げてみたいと思います。
皆さんも「ご存知かどうか(特に監督名)」ミニテストのように
試していただければ。数字は順位

・1949 ⑨森の石松
・1950 ④執行猶予 ⑩七色の花
・1951 ⑥風雪二十年 ⑧あ 青春 ⑨命美わし
・1952 ⑩慟哭
・1953 知らない作品無し
・1954 ⑧勲章
・1955 ⑨浮草日記 ⑩美女と怪龍(凄いタイトル!)
・1956 ③カラコルム(3位なのですがまったく知らない映画で!)
・1957 ⑦どたんば ⑧爆音と大地
・1958 ⑤裸の太陽 →ちなみに私の生まれた年です。
・1959 ⑥人間の壁
・1960 ⑧武器なき斗い ⑨秘境ヒマラヤ(記録映画?)
・1961 知らない作品無し
・1962 ⑦おとし穴
・1963 ⑦彼女と彼
・1964 ⑧甘い汁 ⑩われ一粒の麦なれど
・1965 ⑤証人の椅子 ⑦恐山の女 ⑩水で書かれた物語
・1966 ⑥アンデスの花嫁 ⑦本能 ⑧こころの山脈
・1967 ⑥智恵子抄 ⑦愛の渇き
・1968 ⑧燃えつきた地図 ⑨人生劇場 飛車角と吉良常
・1969 ④かげろう ⑦ベトナム(ドキュメンタリー映画?)
・1970 知らない作品無し
・1971   〃
・1972 ⑨サマーソルジャー ⑩白い指の戯れ(どんな映画かは想像つきますが!)
・1973 知らない作品無し
・1974 ⑥わが道
・1975 ⑩実録阿部定
・1976 ⑧やくざの墓場 くちなしの花 ⑨さらば夏の光よ

今井正監督作品はそれほど観ているわけではありませんが
先日NHKBSで放送されていた「にっぽんのお婆あちゃん」
(1962年 キネマ旬報第9位)は素晴らしかったです。
それで図書館で本を借りた訳で。
私が観ている中でのベスト5を挙げれば
①にごりえ
②青い山脈
③真昼の暗黒
④あれが港の灯だ
⑤にっぽんのお婆あちゃん
といったところでしょうか。

トップページへ戻る


訃報
名女優・山田五十鈴さんが7日9日にお亡くなりになりました 
2012.7.10

マスコミ報道にあるように、7月9日に山田五十鈴さんが
お亡くなりになりました。95歳。

私は舞台の方はあまり知らないのですが、映画の出演作品は
成瀬作品も含めて数多く観ています。

成瀬作品は
・「鶴八鶴次郎」(1938)
・「上海の月」(1941)
・「歌行燈」(1942)
・「芝居道」(1944)
・「勝利の日まで」(1945)
・「流れる」(1956) DVD
・「夜の流れ」(1960)川島雄三との共同監督
の7作品に出演されています。

マスコミ報道でも「流れる」は代表作として取り上げられています。
私も山田五十鈴の映画での最高作は「流れる」のつた奴だと
確信しています。あの役は山田五十鈴しかできないでしょう。
着物の着こなし、所作、三味線など完璧です。
そして化粧をして外出した時の美しさ。
成瀬演出なので芸者置屋の日常を淡々と描いていますが
(最初に登場するのは寝起き姿でノーメイクだったよう)
普段の姿とよそいきの美しさを対比的に描くのはさすがに成瀬監督です。

それ以外では、私も生誕100年のフィルムセンター特集上映で1回
しか観た事のない、成瀬作品の中の最大の異色作の「上海の月」。
実際の上海(戦中の昭和16年)ロケで、山田五十鈴は
中国人(だったかと)の女スパイを演じていて、中国語を話して
いて、最後は銃で撃たれて倒れるという成瀬映画とは思えない
衝撃的なラストで、観た時に驚きました。

「鶴八鶴次郎」に代表される成瀬映画の芸道もの
もヒロインは山田五十鈴しか考えられないほどの適役です。

成瀬作品以外では、これまで本ページで数多く書いてますが
小津安二郎の最高傑作と評価したい「東京暮色」(1957)。
小津作品に1本しか出ていない山田五十鈴が見せる
演技の素晴らしさ。
インタビューを読むと山田五十鈴ご本人もこの小津作品は
とても気に入っていたようです。

その他、黒澤明「蜘蛛巣城」、川島雄三「暖簾」、千葉泰樹「下町」、市川崑「ぼんち」
渋谷実「現代人」、マキノ正博「昨日消えた男」(1941)などが印象に残っています。
ちなみに溝口健二の戦前の出演作も何本か観ていますが、個人的にあまり好きではありません。

ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


新藤兼人監督について 2012.5.31

報道でご存知のとおり新藤兼人監督がお亡くなりになりました。
100歳というのは凄い。
といっても監督作品をあまり多くは観ていません。
私が映画館やビデオ、DVD、TV等で観ているのは
・原爆の子
・裸の島
・裸の19歳
・ある映画監督の生涯 溝口健二の記録
・竹山ひとり旅
・午後の遺言状
・三文役者
これぐらいです。

作品の印象は一言でいえば「重い、暗い」社会派の作品が
多く、正直言って苦手なタイプの監督でした。
私は、どちらかといえば軽い、洒脱な都会的な作風の映画を好むので。

溝口健二監督の生涯を俳優・スタッフのインタビューにより
ドキュメンタリータッチで描いた「ある映画監督の生涯」が
一番印象に残っています。
田中絹代のインタビューなどは迫力がありました。

新藤監督はシナリオライターというイメージの方が強いです。
というのは様々な映画の中で、「こんな映画のシナリオも新藤兼人なんだ」
と感じたことが何度もあるからです。
ネットで調べると、ご自身の監督作品も含めて200本を超えるシナリオ作品
があるのには驚きます。
私は映画監督よりもシナリオライターとしての新藤兼人さんの方を評価します。

成瀬映画は1本だけですが、川端康成原作の「舞姫」(1951)があります。
以前作品評にも書きましたが、「舞姫」は観念的な台詞も多くて、成瀬調
とは言えず、シナリオにもその原因があるように感じました。
書籍やインタビューなどで溝口健二監督、小津安二郎監督(もちろん吉村公三郎監督も)
とはお付き合いのあったようですが、成瀬監督とのエピソードは読んだことがありません。
シナリオが1本あるのだから会話くらいはしているのでしょうけれども。

数多い新藤兼人シナリオ作品で、私が観ている映画の中での
ベスト5の映画を挙げれば

(1)「お嬢さん 乾杯!」(木下恵介監督 1949)
 →この映画のシナリオは上記に述べた私の好きな
  軽く、洒脱で都会的なラブコメディで、木下恵介作品の
  中でも3本にはいる好きな映画です。
  このシナリオは本当に素晴らしい。ラストもいいです。

(2)「青べか物語」(川島雄三監督 1962)
 →大好きな川島映画の中でも傑作の1本です。
  冒頭の森繁久弥のモノローグによるアバンタイトル
  の展開は、川島演出なのか、新藤脚本に忠実なのか
  不明ですが、奇抜という言葉がびったり。

  
(3)「しとやかな獣」(川島雄三監督 1962)
 →私は実はそれほど好きではないですが、川島ファンでは
  評価の高い1本です。
  ほとんど団地の1室に限定された室内劇のような映画ですが
  これはシナリオの力が大きい1本ですね

(4)「華岡青洲の妻」(増村保造監督 1967)
 →市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子という豪華俳優の
   傑作です。
   姑の高峰秀子が息子の雷蔵が修行から戻ってきた後に
   嫁の若尾文子を見る目つきが明らかに変わっていて
   怖いです。
   確か鏡を使った表現だったと記憶していますが
   これもシナリオの意図なんでしょうね。
   増村作品には新藤脚本が多く、「氷壁」「不敵な男」
   「刺青」「清作の妻」「妻二人」なども。

(5)「映画女優」(市川崑監督 1987)
 →この映画は、新藤兼人は原作で、脚本は市川崑、日高真也との
  共作です。
  田中絹代の生涯を吉永小百合が演じた映画ですが、
  溝口映画(映画の中では溝内監督=菅原文太演じる)「西鶴一代女」
  の撮影のシーンで、唐突に終わるラストシーンが最高に好きなのですが
  あれは新藤兼人もからんだシナリオなのか、市川崑演出なのか
  不明です。他の映画の傾向からいって、市川崑演出だと推測しますが。

その他にも新藤兼人シナリオの映画は結構多く観ています。

観ていない映画で是非観てみたいのはかなりマニアックですが、
「殺したのは誰だ」(中平康監督 1957)
「倖せは俺等のねがい」(宇野重吉監督 1957)
「おもちゃ」(深作欣二監督 1999)
です。

事務所とご自宅が東京・赤坂にあったようなので赤坂で何度かお姿を見かけたことがありました。

ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


小津安二郎監督のカラー作品について 2012.5.6

最近、日本映画専門チャンネルやNHKBSプレミアムで
何本かの小津映画を放送していました。
「浮草」「お早よう」「小早川家の秋」「秋刀魚の味」
などです。共通するのはすべてカラー映画ということです。

放送の機会に久しぶりにカラーの小津映画を何本か観ましたが
これまで小津映画の色彩についてそれほど興味を持って観ていたことは
無いのですが、
今回カラー映画を連続して観て気づいたのは
アクセントとして「
」と「」を強調している点です。

特に、大映の宮川一夫が撮影監督の「浮草」はそれが顕著でした。

また、「お早よう」では、笠智衆や佐田啓二などのセーター、
カーディガン等の服装がグレー系で色が目立たないので
余計に小道具で登場する赤や緑(ヤカンが強烈)の色が目立ちます。

これは間近い無く、小津監督の意図した色彩表現なんでしょう。
色にも小津調または小津ごのみと呼ばれる特長があることに気づきました。

それにしても小津映画は「変な映画」です。
今回カラーの小津映画を連続して観て、あらためてそのように感じました。
映像や俳優の台詞だけでなく、美術関連のセットや小道具の一種人工的な感じも
それを増大させていると思います。
もっとも「変な映画」であると同時に、とても魅力的な映画なんですが。
久しぶりに観ましたが「浮草」も「お早よう」も「小早川家の秋」も
どれも傑作です。「秋刀魚の味」は個人的にあまり好きではありません。

さて、成瀬映画を観て、「変な映画」と感じたことは一度もないです。
成瀬映画にも小津映画とは異なる、成瀬調という独特の映像表現や
演出があるわけですが、
カラーの成瀬映画を観ても、これまで「強調している色」があると感じたことは
ありません。成瀬映画での色彩は、ある色を意識的に強調することはなく
ごく自然体で処理されていると思います。

一般的には、日常生活の機微を淡々と描いている点で共通していると
思われている小津映画と成瀬映画ですが、
それぞれのカラー映画の色彩表現一つを比較しても、かなり異なる印象があります。

なお、前回書いた「地方記者」(丸山誠治監督)もとてもいい映画でした。
撮影は成瀬組の玉井正夫でしたね。

トップページへ戻る


日本映画専門チャンネルハイビジョンで甦る日の当たらない名作
2012.4.25


久しぶりに未見の面白い日本映画を観ました。
CSからBSに移った日本映画専門チャンネルで放送されている
「ハイビジョンで甦る日の当たらない名作」で今週の月-金で
朝7時から放送されている映画
「結婚の夜」(筧正典監督、1959、東宝)です。

解説文を書いている川本三郎さんの言葉をそのまま
引用すると「上質のサスペンス映画。ともかく怖い・・・・・」
とあります。私の感想もまったく同感で。

基本はラブストーリーなのですが、ラストの近くになって
急にスリラーの要素がはいってきて、久しぶりに映画を
観て「おお!」と声を上げそうになりました。怖いですよ!
主演は小泉博と安西郷子です。

筧正典監督は、東宝のカラーであるサラリーマンもの・小市民もの
映画の監督という印象があったのですが、
(この作品でも小泉博はデパートの時計売り場の店員なのですが)
こんなに怖い心理サスペンス映画を撮っているとは知りませんでした。

筧監督は、成瀬監督のお弟子さんとも言える方で、「山の音」の
助監督をつとめていますし、オムニバスの「くちづけ」では第一話の
「くちづけ」の監督です。

その影響もあるのか、この映画でも内容とは関係ないですが
屋内シーンで人物の動きを相手の目線で表現する「目線送り」が随所に観られます。

日本映画専門チャンネルを観ることが出来る方は、是非録画をお薦めします。
明日4/26(木)のAM7:00~、4/27(金)のAM7:00~、
それから5/7のAM10:40~と3回放送されるようです。

来週の月-金の「地方記者」も未見なので楽しみにしています。

トップページへ戻る


訃報
名女優・淡島千景さんが2月16日にお亡くなりになりました。

2012.2.22

少し遅くなりましたが、2月16日に淡島千景さんが
お亡くなりになりました。87歳。

文芸作品から娯楽作品まで数多くの映画に出演されていますが、
成瀬作品では、農業に従事する戦争未亡人の主役を演じた「鰯雲」と
「妻として女として」の2作品に出演されています。
「鰯雲」は間違いなく淡島さんの代表作の1本といえます。
都会的な色気のある女性を演じることが多かった淡島さんですが、その中で
「鰯雲」は、東京郊外(厚木)で泥まみれで農作業に従事する姿が印象的でした。
渋いけど淡島さんの演技もあり名作だと思います。

成瀬作品以外では、何と言っても川島雄三作品。
「貸間あり」「赤坂の姉妹 夜の肌(凄いタイトル!)」「縞の背広の親分衆」
「花影」「喜劇 とんかつ一代」と数多く出演されています。
松竹時代の「真実一路」「昨日と明日の間」にも。
どれも素敵です。

小津作品「麦秋」「早春」の他、代表作の「夫婦善哉」「にごりえ」「本日休診」や
「駅前シリーズ」など、挙げていったらきりがありません。

ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


訃報
石田勝心(いしだかつむね)監督が本日2月2日、お亡くなりになりました。
2012.2.2

既に新聞社のネットニュースで報道されている通り、
成瀬巳喜男監督の8本の作品の助監督をつとめた石田勝心監督が
2月2日肺炎でお亡くなりになりました。79歳でした。

本HPにも資料(成瀬作品の保有シナリオ)を提供いただいたり、
「成瀬巳喜男を観る」(2005 ワイズ出版)ではインタビューを
お願いし、成瀬映画の撮影現場の貴重なエピソードを話して
くれました。

成瀬監督を敬愛されていましたし、遺作「乱れ雲」でも
助監督をつとめられていますので、
成瀬監督の最後のお弟子さんと言える方です。
成瀬監督作品では
・「杏っ子」
・「鰯雲」
・「女が階段を上る時」
・「秋立ちぬ」
・「妻として女として」
・「女の中にいる他人」
・「ひき逃げ」
・「乱れ雲」
の8本で助監督をされています。

2004年くらいにある方にご紹介いただき、
私が成瀬巳喜男監督の大ファンということもあり、
それ以来個人的に親しくおつきあいさせていただきました。
本HPも熱心に読んでくださっていたようです。

お宅にも何度もおじゃまし、貴重なシナリオや写真を
見せていただいたり、
ご高齢でしたが、私とはパソコンメールで定期的に
成瀬映画やその他のことをやりとりしていました。

これまでも川本三郎さんの本にもコメントがでたり、
成瀬監督について語る座談会などにも一番多く
登場された方ではなかったかと。
成瀬監督の生誕100年の記録映画「記憶の現場」でも
成瀬監督について語られていました。

また、川島雄三監督にも確か2本ほど助監督につかれていて、
(ご本人の話だと「接吻泥棒」「特急にっぽん」)
川島監督のエピソードなども聞かせていただきました。

監督としての代表作は「父ちゃんのポーが聞える」(1971)や
「東京湾炎上」(1975 DVDあり)ですが、
私は「紙芝居昭和史 黄金バットがやって来る」(1972)
が一番好きな作品で、ご本人も気に入られていたようです。

成瀬映画の現場のことを直接伺える数少ないお一人でしたので
本当に残念で、悲しいです。

最後にお会いしたのは、昨年7月の成瀬監督の命日の日の
集まりでしたので、久しぶりにお会いしたいと思っていた矢先でした。

ご冥福をお祈りいたします。

トップページへ戻る


山本薩夫監督「にっぽん泥棒物語」を観て 2012.1.8

私は古い日本映画をかなり多く観ているほうだとは思うのですが、
年末に初めてDVDで観た作品に深く感動してしまいました。
知人にも薦められて前から観たいと思っていた作品ですが、
タイトルにある山本薩夫監督「にっぽん泥棒物語」(1965東映)です。

山本薩夫監督は「真空地帯」「白い巨塔」「華麗なる一族」あたりが代表作なんでしょうが、
この「にっぽん泥棒物語」は一般的にはあまり有名ではない作品です。
といっても1965年のキネマ旬報第四位なんですね。
 
タイトル通り、東北のある泥棒の一代記なんですが、そこに「松川事件」(映画では杉山事件)
がからんでいて「社会派喜劇」といった珍しいタイプの映画です。
山本薩夫作品には「松川事件」(1961)もあって、その取材から構想したようです。

ストーリーは検索してもらうとして、泥棒=林田義助役の三國連太郎の演技に圧倒されます。
三國連太郎では何と言っても内田吐夢監督の「飢餓海峡」(1964)での演技が代表作と思っていましたが、
この映画の三國連太郎も凄い。
時期から言うと、「飢餓海峡」に続いて「にっぽん泥棒物語」ではないかと推察しますが、
こんな凄い映画に2本続けて主役で、その2本とも日本映画史に残る迫力のある演技
に驚かされます。
 
脇役も充実していて、三國を執拗に追いかける刑事役の伊藤雄之助、三國の妻役の
佐久間良子(若くて可愛い)、江原真二郎、市原悦子など。
まだ新人の頃の千葉真一が熱血弁護士役、室田日出男が新聞記者役で登場するのを観て、
「東映作品なんだ」と実感しました。
 
圧巻はラストの法廷シーンです。三國が答える内容の言い回しが何ともユーモラスなんですが
これが一つ一つ深いシニカルな意味があって、笑いと感動が同時に芽生えてきます。
山本薩夫にこんなユーモアたっぷりの映画があったとは。日本映画は奥が深いです。
 
私はレンタル(東京・代官山蔦谷(Tsutaya)書店の映画レンタルコーナー)で借りましたが、
どこのツタヤでも置いてあるわけではないですので、レンタルされる方はネット等で調べて
いくことをお薦めします。
 
山本薩夫監督といえば、成瀬監督の弟子というか後輩にあたります。
松竹時代のサイレント映画では成瀬監督の助監督をつとめ、成瀬監督の
PCL移籍では一緒に行動を共にしています。

東宝時代に撮った作品で「そよ風父と共に」(1940)は原作・脚本が成瀬監督で、
成瀬監督生誕100年の2005年に、スカパー日本映画専門チャンネルで
放送されていました。
高峰秀子、藤原釜足、丸山定夫が出演しています。

この映画のロケーションは、東京・下北沢界隈なんですね。
下北沢の「餃子の王将」の近くに、「庚申塚」(庚申堂?)が現在でもありますが
今から71年前の映画にも登場しています。
駅前や踏切、井の頭線の横の道なども出てきます。
当時、下北沢が映画の舞台になるのは珍しかったのではないでしょうか。

 
私が昨年観た数少ない新作映画でダントツの評価No1の「モテキ」でも、その下北沢の「庚申塚」
が出てきたように思います。

トップページへ戻る


「妻として女として」回想シーンの編集の素晴らしさ 2011.12.18

成瀬作品は現存する69本をすべて観ていますが、その中でも何度となく観ている作品も、
1度しか観ていない作品があります。
繰り返し何度も観ている作品は、スカパーやBSなどで放送される頻度の多い作品、名画座
などでよく上映される作品であり、もちろん私自身が気に入っている作品です。

1度しか観ていない作品は、正確には「観ることができない」作品と言えます。
スカパーの日本映画専門チャンネル、衛星劇場などでも放送されたことがなく、
名画座でも上映していない作品です。

具体的には
・「上海の月」(1941:現存しているのは半分以下の53分程度の不完全版)
・「勝利の日まで」(1945:これも15分程度しかない不完全版)
この2本は生誕100年の2005年にフィルムセンターでの特集上映
で観ただけで、おそらく今後もフィルムセンターでの上映以外には日の目をみることは無いのではと推察します。

スカパーで放送された録画DVDを持っていても、あまり観たいと思わない作品もあります。
要は出来があまりよくないと私が感じる作品です。

今回、スカパー日本映画専門チャンネルの放送で久々に再見した
「妻として女として」も傑作揃いの1960年代の成瀬作品の中で
あまり出来のよくない作品(「ひき逃げ」も同様の1本)と思っているので
今回で通して観るのは3回目くらいでしょうか。

森雅之と淡島千景の夫婦に、森雅之の愛人で銀座のバーのマダム
役の高峰秀子がからみ、夫婦の2人の子供(星由里子、大澤健三郎)
の実の母は高峰秀子だということが2人の子供に知れてしまいという
「どろどろ」した展開は、観ていてなかなか息苦しく、成瀬監督には
珍しく演出も少しくどく、説明的な台詞や演技が随所にあります。
シナリオの出来にも原因がありそうですが。

しかしこの作品には1箇所、回送シーンと現在を流麗に交錯させた
素晴らしい編集テクニックに唸らされるところがあります。

映画の中盤、森雅之が高峰秀子の家を訪ねるシーンから始まります。
①森雅之と高峰秀子が和室の中で互いに正面に座り、森雅之が「別れ話」を切り出す
②戦争中の2人の苦労を描いた回想シーン
③(普通は①に戻るところをそうせずに)
 回想シーンが続き、今度は森雅之と淡島千景の戦争中のシーンで、
 淡島千景が2人の子供を育てることを拒否するシーン
④現在に戻るが①ではなく場面転換し、
 森雅之と淡島千景が家の和室で向かい合って話している。
 「結局子供を私が育てることにした」と
⑤回想シーンとなり、幼い姉(弘子)と弟(進)が言い争いをしているのをなだめる淡島千景。
 廊下に逃げていく弟の後を追う姉。「進ちゃん、弘子」と名前を呼ぶ淡島千景。
⑥現在に戻り(⑤とまったく同じ部屋)⑤で姿を消した廊下から「ただいま」と言って部屋に入ってくる
 成長した星由里子と大澤健三郎。
 淡島千景は「おかえり」とにこやかに返事をする。

この回想シーンと現在とのつなぎ方の素晴らしさは
本「成瀬巳喜男を観る」のP31にもそっくりと紹介
していますが、なかなか斬新なつなぎ方です。

私が今回新たに発見したのは、上記⑤と⑥の編集です。
⑤で「進ちゃん、弘子」と呼ぶ淡島千景は、前方からのアングル
のショットで立ち上がろうとするところで切り替わり
⑥ではその立ち上がりアクションを受けた後姿の
淡島千景
につないでいます。着物は④の時と同じものを着ています。
 
つまり人物(淡島千景)「アクションつなぎ」での編集なのですが、
回想シーンの立ち上がりアクションを、後ろ姿で現在につなぐという手法
使っています。
そしてこれは一瞬で、かつ流れが途切れていないので初めても観た方が意識
することは難しいでしょう。私も今回まで気づきませんでした。

回想シーンの人物の動きの途中でショットを割って、その動きに
連動させて現在に戻すなどという「アクションつなぎ」」は日本映画
でも世界の映画でも、私が観ている映画では気づいたことがありません。
相当、斬新なテクニックであることは間違いないでしょう。
 
そして、このような映画のテクニックが、作為的であざとい感じがまったくなく、
あくまで自然で、目立たせず、洒落っ気のある見せ方であるところが
成瀬監督の素晴らしいところです。職人魂とでもいいいますか。

スカパー日本映画専門チャンネルでは、来年1/1と1/7のそれぞれ
午前8時からも「妻として女として」が放送されるので、この一連の
回想シーンの編集テクニックだけでも観てもらえればと思います。

ところで、森雅之が勤務する大学のキャンパスが2回ほど登場しますが
あれはどこの大学なんでしょうね?


トップページへ戻る


成瀬映画の女優 作品別 美しさ+色っぽさ 私的ベスト15
2011.12.15

先日、スカパー日本映画専門チャンネルでハイビジョン放送された「女が階段を上る時」
を再見しました。
あの作品の銀座のバーのマダム役の高峰秀子の和服姿は本当に美しく、ハイビジョン放送だと
その美しさは際立っていました。
 
そこでまったくの個人的な感想ですが、私が思う成瀬映画の女優(映画の配役)で
美しさ+色っぽさのベスト15を選んでみます。主役、脇役ミックスで。
可愛らしさは今回は除外します。
ちなみに可愛らしさだと「驟雨」の香川京子がベスト1です(笑)。

私は洋画でも色っぽくて大人の雰囲気の女優が好みで、例えば、キム・ノバック、エバー・ガードナー、
グレース・ケリー(可愛らしいけど結構色っぽい)、ナタリー・ドロン(懐かしい!)、シャロン・ストーンなど。

さて、成瀬映画に出演する女優さんは演技はもちろん、美しさも甲乙つけがたいのですが
無理やりに選んでみます。コメントは最小限で。

 ①「女が階段を上る時」 高峰秀子
  
→これは決まりです。
 
 
②「山の音」 原節子 
  →綺麗さで言えばこの作品でしょう。演技と雰囲気では「驟雨」がベストですが。

 
③「流れる」 山田五十鈴 
  →化粧して外出するシーンの艶やかさ。

 
④「女の歴史」 星由里子 
  →この作品のショートカットの星由里子は綺麗で色っぽいです。
   この作品の2年前の『妻として女として」でのあどけない
   女子大生役と比較するとたった2年でと、変化に驚かされます。
 
 
⑤「ひき逃げ」 司葉子 
  →作品としては「乱れ雲」の司葉子の方がいいのですが、
   この作品の不倫妻役の司葉子は妙に色っぽい

 
⑥「夫婦」 杉葉子  
  →原節子が急病での代役ですが、若妻の色っぽさがいいです。
 
 
⑦「浮雲」 高峰秀子 
  →特に、仏印での回想シーンの美しさ !

 
⑧「女の中にいる他人」 草笛光子 
  →落ち着いた大人の女の色気という感じでしょうか。

 
⑨「禍福(前篇/後編)」 入江たか子 
  →日本を代表する美人女優の一人。「まごころ」の母親役も美しい。

 
⑩「お國と五平」 木暮実千代 
  →成瀬映画に限らず、色気といえばこの方でしょう。

 
⑪「妻よ薔薇のやうに」 千葉早智子 
  →ファーストシーンのモガスタイルのエレガントさには圧倒されます。
   それにしても『稲森いずみ」って千葉早智子にそっくりだと思いませんか?

 
⑫「流れる」 岡田茉莉子 
  →「浮雲」での岡田茉莉子も、当時まだ若いのになかなかの色気です。

 
⑬「鶴八鶴次郎」 山田五十鈴 
  →三味線を弾いている姿がなんともいい。

 
⑭「コタンの口笛」水野久美 
  →子供の頃観ていた東宝の怪獣映画でも子供心に綺麗だと思いました(笑)。

 
⑮「鰯雲」新珠三千代
  →「女の中にいる他人」の母親役も綺麗ですが、「鰯雲」の方が色っぽいかと。
 
  挙げてない女優さんと作品がまだ沢山ありそうですが、とりあえず思いついたのはこのあたりです。

トップページへ戻る


「コタンの口笛」を再見して発見したこと 2011.11.4

久しぶりに書きます。
先日、機会があり、以前スカパー日本映画専門チャンネルで放送された
成瀬作品「コタンの口笛」(1959)の録画DVDを再見しました。

「成瀬映画は何度観ても新たな発見がある」というのが私の持論なんですが、
「コタンの口笛」を久しぶりに観て、新たに発見したことがありました。

この作品はユタカ(久保賢=今年の9月にお亡くなりになった山内賢さんの子役時代)
と姉のマサ(幸田良子)の二人の子供(中学生?)が主役といっていいと思います。

成瀬作品で子供が主人公と言えるのはこの作品を入れて以下の4本です。
・「まごころ」(1939)
・「なつかしの顔」(1941)
・「コタンの口笛」(1959)
・「秋立ちぬ」(1960)

子供が主要な登場人物の成瀬映画には、一つ共通する特徴があります。
それは

「子供が片足を怪我して、ラストシーンに片足を引きずって歩くシーンがある」

 
です。

このことは本HPの中に部分的にも書きましたし(作品評「なつかしの顔」)、
書籍「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)の第五章作品分析「まごころ」の中のP74にも書きました。
それも参照してください。

「まごころ」「なつかしの顔」「秋立ちぬ」の3作品にはそのような共通項目があると
本HPでも、本の中でも指摘しましたが、うっかりと「コタンの口笛」を見落としていました。

発見とは、「コタンの口笛」でも同じようにユタカが足を怪我して(学校のいじめっ子と
決闘して怪我をし、入院した後自宅療養する。父親役の森雅之がユタカの足に包帯を巻く)
ラストシーンでは少し片足を引きずりながら歩くシーンがあったことです。

もしかしてこの4作のシナリオには偶然そのように書かれていて、ということも
考えられなくはないですが、シナリオライターは異なっていますので
まあ有り得ないかと。要は成瀬監督の演出と考えるのが自然です。
ちなみに4作品のシナリオは
・「まごころ」(成瀬監督)
・「なつかしの顔」(成瀬監督)
・「コタンの口笛」(橋本忍)
・「秋立ちぬ」(笠原良三)
となっています。

理由はまったくわかりませんが、これもこだわりとしか思えない
「自動車事故、電車事故」を作品の中で繰り返し登場させることと
並んで、「子供の足の怪我」というのも成瀬演出の特徴の一つ
だと言う事は間違いないでしょう。

非常にマニアックな発見ですが、「コタンの口笛」にも
子供の足の怪我のシーンが登場するのは、これまでまったく気づかなかったので
正直驚かされました。

トップページへ戻る


小津演出と成瀬演出の違いを思う台詞 2011.5.29

先日、久々に小津映画「東京暮色」を観ていて、こんなシーンを発見しました。
映画の最初の方、周吉(笠智衆)が帰宅すると、そこに小さい娘をつれて
実家に帰ってきている長女・孝子(原節子)がいます。

近況や孝子の夫の沼田(信欣三)の話題がしばらく続き、
孝子と沼田の夫婦仲がうまくいってなくて実家に戻ってきたことが周吉にわかったときのシーン。
笠智衆が「困ったもんだね」と言って、少し話がとぎれます。

原節子が雰囲気を変えようと「お父さん、お床敷きましょうか」
と言って、続いて「仕様がないのよ」とつぶやいた後、
立ち上がり、部屋の向こうの障子の方に向かおうとした時に
言う笠智衆の台詞。

「おい、ちょいとおいで、お座りよ」

すると、立ち上がってむこうに行きかけた原節子はまた笠智衆の座っている
コタツに座り、
笠智衆「どうしたんだい、一体」
原節子「いいの、すこし放っといて」
と続きます。

このシーンを観た時に、

・この感じは(台詞自体も)成瀬映画には無いなぁと思った次第です。

このシーンでは、原節子は夫とのいさかいについて父親にも
話したくない、意図的に避けたいという気持ちで、父親の座っている
コタツから離れようと立ち上がろうとしていたわけですね。
これをまた座らせようとするのは小津演出そのもので、成瀬演出にはあまり無い展開と思われます。

成瀬演出であれば、同様のシーンでも立ち上がり、部屋の隅に行ってそこで振り返り、
立ったまま、話しを続けるでしょう。
つまり「お互いが座って、面と向かって互いが避けたいと思っている話題
を話し合う」というのは成瀬映画には少ないと思うのです。

成瀬映画では、
例えば「めし」で、原節子が東京の実家に行く前日の夜のシーン。
台所で米をといでいる原節子に、夫の上原謙が「君、話があるんだ」と言いつつ
「こっちに来て座って話そう」などとは一切言いません。
立って台所仕事をしている原節子に対して、申し訳なさそうに話しかけていきます。
原節子は台所仕事をしながら、立ったまま上原謙の質問に淡々と答えていきます。
この二人の和室での距離感が、演出上重要だったのでしょう。
もっともこのシーンをよく観ると、ちゃぶ台も片付けられていて
上原謙はあぐらをかいていて、最後は横になってしまいます。

もちろん、成瀬映画にも家族や夫婦が、部屋で座って何かを話すシーン
はありますが、一人の人物が(その話題をこれ以上避けたいという心理もあって)
立ち上がって部屋の窓の方に歩いていくような時に「おい、ちょいとおいで、お座りよ」
(言い方は別にして)というように引き戻すようなシーンのある成瀬映画は、
私の記憶の中にはありません。何かありますかね?

小津映画ではもう一つ同様のシーンを発見しました。
それは「彼岸花」の中盤で、長女の節子(有馬稲子)が帰宅し、
父親の平山(佐分利信)と母親の清子(田中絹代)が茶の間に座っています。

(この前のシーンで、有馬稲子がつきあっている青年・谷口(佐田啓二)
が、佐分利信を会社に訪ねて「お嬢さんをいただきたいと思いまして」と言い、娘から一切
何も聞いていなかった佐分利信が娘の有馬稲子に対して怒っているという伏線)

有馬稲子は茶の間に座っている父母に向かって「只今」と言い、そのまま
2階の部屋に行こうとします。
その時の台詞。
佐分利信「おい」
有馬稲子「なぁに?」
佐分利信「ちょいとおいで」
有馬稲子が茶の間に戻って来る
佐分利信「おすわり」
有馬稲子「なんなの?」と座って
佐分利信「お前、谷口って男知ってるね」
と続き、佐分利信は何故お父さんとお母さんに相談しないんだ
と怒り、結婚に反対だという意見をきつく言います。

考えてみると小津の映画では、「相手の今の心境を考えて、今話すのはやめておこう」といった
感情よりも、「正しいと思うことは、きちんと座って直接相手に面と向かって言うのだ」
という激しい感情が湧き出るシーンが結構あります。
 
例えば、「麦秋」で勝手に結婚を決めてしまった原節子に対して、兄の笠智衆が
意見を言うシーン
「戸田家の兄妹」で二男の佐分利信が兄妹に対して、「何でもっと母親の気持ちを考えないんだ」
といって激怒するシーン
「東京暮色」の有馬稲子と母親の山田五十鈴の言い争いシーン
など、他にもあるでしょう。


 「何か重要な話をする時は、きちんと座って話し合う」というのが小津監督の美学でしょうか。
一方、成瀬監督の演出では、部屋の中でも立ったまま会話させるシーンが数多くあり、
映画の中で人物の動きを自由にさせる、これが成瀬監督の美学でしょう。
 

成瀬映画では、「浮雲」での森雅之、高峰秀子の二人の激しいやり取りのシーンも
ありますが、どちらかが立ち上がってみたりと、これ以上面と向かって言い争ったら決定的な
破局になることを予感してか、うまく相手の感情を外すような雰囲気が漂っているように
思えます。
 「秋立ちぬ」で藤原釜足がプチ家出した大澤健三郎を叱るシーンでも
結局、夏木陽介や原知佐子が少しちゃかすような形で終わります。
 これは例を挙げたらまだまだ沢山あるでしょう。
 
小津映画は、その静かな作風のイメージとは違い、「徹底的に<俺の言うことを聞け>」
的な激しいやり取りのシーンが意外に多く、
それと比較して成瀬映画は「本当は言いたいけど、今はやめとこう」的な、悪く言えば「逃避的な姿勢」
が特長かと思います。
 
また、演出の面では「この人物の感情をあえて言葉で表現する必要はない」
といって、俳優の視線や表情や動きで語らせ、説明的な台詞を削る成瀬監督の美学にも
起因しているように思えます。
小津映画にそういう演出が皆無というわけではありませんが、(小津監督も特に省略の
演出は素敵です)、比較すると成瀬監督のほうが多いということでしょう。

ともかく、冒頭の「おい、ちょいとおいで、お座りよ」という台詞は非常に小津的な台詞であります。


トップページへ戻る


「浮雲」のロケーションについて 2011.5.5


 昨夜、NHKBSプレミアムで「浮雲」のデジタルリマスター版が放送されていました。
初めて観た方も多かったようで、検索するとブログなどにも多くの方が感想を書かれています。

 今回は「浮雲」のロケーションについて少し書いてみます。
一部はトップページの「ロケ風景写真」に掲載しています。
以下、映画の順を追って検証してみます。

なお、「浮雲」の撮影のロケーションとセットについては、
「成瀬巳喜男の設計」(中古智/蓮實重彦 筑摩書房)
の中で、美術監督の中古さんが詳しく述べられていますので
(「浮雲」について(P197-P218))
それを参考にしています。


①ゆき子(高峰秀子)が冨岡(森雅之)の家を訪ねるシーン
  →冨岡の家の表札に「渋谷区代々木上原一の五十六番地」と書かれています。
    前述の本のP215にも「代々木上原」でロケと書いてありますので
    間違いないでしょう。
    また、成瀬監督はロケーションについてはかなり正確に登場させます。
    東京の方はご存知だと思いますが、「代々木上原」は小田急線と千代田線の
    駅があって、新宿に近い高級住宅街です。  
    上記の番地はもちろん現在は使用されていないと思いますが、現在の
    住所だと渋谷区上原1丁目のどこかで撮影されたと推測できます。
    しかし、撮影時期(昭和29年頃)にあれほど空き地があってというのは
    驚きです。森雅之が着替えに戻って、高峰秀子が座って待っているシーンの
    後ろに「蔵」のようなものが映っていますが、あれは今も現存しているのか
    興味があります。今度一度散策してみたい。

②回想シーン=仏印ダラット(現在のベトナム)
  →前述の本のP200に「伊豆。三島の自然公園」とあります。
    2人が橋を渡るシーンなどはそこでロケーションしたようです。
    検索すると今は同じ名前の公園はないのですが、「三島市立公園 楽寿園」
    ではないかと思われます。

③駅で高峰秀子を待つ森雅之
  →JR「千駄ヶ谷」駅の改札です。
    その後2人が横に公園のような並木道を歩くシーンがあります。
    千駄ヶ谷駅の近くだと「新宿御苑」「神宮外苑」「明治神宮・代々木公園」の
    どこかだと思うのですが特定するのは難しいです。
    もしわかる方がいたら掲示板にでもお知らせいただきたく。

④2人が行く「伊香保温泉」
  →これも前述の本に書かれていますので伊香保の現地ロケーション
   です。すでにロケ風景写真に掲載しています。
   有名な伊香保の階段のところで正月の獅子舞のシーンがありますが
   あれは成瀬監督が演出している写真も残されています。
   ただ複雑なのは、まず何度も登場する上に共同浴場のある石段のシーンは
   (東宝撮影所近く?)の屋外に立てたオープンセットで、これは世田谷文学館の
   成瀬監督や中古さんの展覧会で図面やスケッチ図が展示されていました。
   森雅之とおせい(岡田茉莉子)、森雅之と高峰秀子の2人があの石段を登る、降りるシーンは
   成瀬監督には珍しくクレーン撮影だったとのこと(前述の本) 
   また風呂は、不思議なことに伊香保ではなく、伊豆(中古さんは確か湯ヶ島と述べています)
   でロケーションしたようです。
   余談ですが、小津監督「秋日和」で、母親の原節子と娘の司葉子が旅行するのも
   伊香保(ただし旅館のシーンはどうみてもセット)でした。
   もしかして小津監督が激賞したという「浮雲」を意識してのことだったのかも。

⑤高峰秀子が岡田茉莉子のアパートを訪ねる
  →後ろに蒸気機関車が走っていて、上には道路のようなものがあります。
   あれはロケーションだと思うのですが、ひょっとしてオープンセットでしょうか。
   「流れる」や「めし」や「山の音」でもロケーションと思っていたら実はオープンセット
   というのがあるので、中古美術ならやりかねないとも思えます。

⑥夜、電車の線路の下のトンネルをくぐり歩いてくる森雅之と高峰秀子
  →これはすでにロケ風景写真に掲載していますが、東京の「池袋」と「目白」の間
   の現存する西武池袋線(池袋~椎名町)のトンネルと、JR横(高台)の目白駅に向かう
   道です。この2人が歩くシーンでは、森雅之途中で止まり(「水虫が痛むというのが
   情けなくて笑える)、高峰秀子も立ち止まり振り向いて森雅之に話しをします。
   この時の高峰秀子の横顔は本当に綺麗でびっくりします。
   私が観ている数多くの高峰秀子の映画でもNo1の美しさです。

⑦森雅之が、高峰秀子が身を寄せている伊庭(山形勲)の家を訪ねる
  →いかにも東京・世田谷あたりの住宅街ですが、これは後で伊庭の名刺
   が出てくるシーン(屋久島に行く直前)と関係がありますが、
   名刺には自宅「渋谷区櫻丘二十三番地」とあります。
   渋谷には駅の近くに桜丘町は現存していますのでその近辺かもしれません。
   映画では家の道のつきあたりに「踏切」が映り、銭湯の煙突も見えます。
   渋谷近辺かどうかは定かではありません。
   成瀬監督は映画の中で名刺や封筒に現存する住所を出すことが多い。
   古いところでは
   ・戦前の「女優と詩人」(1935)で保険外交員の金太郎
   (名人 三代目三遊亭金馬)の名刺がアップになったり(確か高円寺・・・)
   ・ 「妻」(1953)でも高峰三枝子が、夫のつきあっている丹阿弥谷津子の
    泊まっている住所(これも確か高円寺・・・)のメモを見たり、
   ・「娘・妻・母」(1960)でもラスト近くに老人ホームから三益愛子宛に送られてきた
    封筒の住所(確か世田谷北沢・・・)を高峰秀子が手に取る
   などが思い浮かびます。これ以外にもあるでしょう。
   
⑧高峰秀子が電報で森雅之を呼び出す温泉地
  →これは「伊豆長岡温泉」で間違いないようです。これもすでに掲載しています。
   
⑨森雅之と高峰秀子が夜汽車に乗って着く鹿児島市
  →桜島や鹿児島湾も映っており、また前述の本にも「鹿児島市ロケーション」
   のことは証言されています。
   最初に登場する(人力車が2台)広い橋は、鹿児島市の地図をグーグルマップで
   検索すると「甲突川」の河口近くの天保山大橋(錦江通り)ではないかと推察します。
   その後の旅館に人力車が着くシーンには、前に小さい川がありますが
   これもグーグルマップで検索すると、川の名前は書かれてませんが
   甲突川の上部にある川に面した場所だと思われます。
   便利なグーグルビューで川筋の画像を見ると、映画に出てくる石垣の
   ような川べりととても似ているので。
   ただし、雨の降っている旅館の室内シーンはセットでしょうね。
   屋久島に向かう客船で風邪でベッドに伏せている高峰秀子を
   診察する医師は、成瀬映画ファンならお気づきでしょうが、
   特に戦前の成瀬映画に数多く出演していた大川平八郎です。
   「妻よ薔薇のやうに」(1935)の千葉早智子の恋人役が一番有名です。
   その他に「乙女ごころ三人姉妹」「サーカス五人組」「噂の娘」(1935)、
   「君と行く路」「朝の並木路」(1936)、「女人哀愁」(1937)他。
   戦後では、「舞姫」(1951)にちょこっと出演してました。

⑩屋久島
  →これも前述の本によると、実際に屋久島のロケーションはされず
   伊豆で撮影されたそうです。 

 

トップページへ戻る


「映画のタイトルについて」 2011.1.20

先日、NHK BS2でビリー・ワイルダー監督の名作「翼よ! あれが巴里の灯だ」が放送されていました。
有名な飛行家リンドバーグの大西洋無着陸横断飛行の話で、ジェームズ・スチュアート主演。
原題は「
The Spirit of ST.Louis


洋画の邦題について、「最近の洋画は英語のカタカナ表記そのままが多く昔の洋画の日本語タイトルのほうが良かった」
という意見はネット検索するとブログなどで数多く見受けられます。
 
その意見には私もまったく同感です。また同じくネット検索すると
「素晴らしい邦題の例」としても数多くの作品を皆さん挙げられています。

そこで私も数多い洋画の中で、個人的に素敵だと思う邦題をいくつ挙げてみようかと。
真っ先に挙げられるのが冒頭の作品です。これは邦題が映画の内容を示唆している点でいわゆる
「ネタばれ」に近いとは思いますが、謎解きのミステリー映画ならともかく史実なのでその点は
OKかと。
原題の「セントルイス魂」もなかなかいいですが
(ご存知だと思いますが、実際にリンドバーグの操縦した
飛行機の名前で、私は以前ワシントンのスミソニアン博物館で実物を見たことがあります
)
 「翼よ! あれが巴里の灯だ」はどなたがつけたのか知りませんが、私の中では洋画の邦題ベスト1ですね。

 →(青文字部分追加1.21)知人からの情報によると、この日本語タイトルは翻訳家の佐藤亮一氏(1907-1997)がつけたとのこと。
  チャールズ・リンドバーグ『翼よ、あれがパリの灯だ 大西洋横断飛行の回想』出版共同社、1955
  リンドバーグが作品の中で、Iを使わず、飛行機と自分のことをWeと表現していたことから、
  このタイトルを思いついたとか。映画会社が佐藤氏に許可をもらってこのタイトルを使用したそうです。
  これらのことは 翻訳秘話「翼よ、あれがパリの灯だ」(佐藤亮一、佐藤雅子共著 恒文社 1997)という単行本に
  詳しく書かれているとのこと。

 ビリー・ワイルダー監督作品は、作品自体に名作が多いですが邦題も素晴らしい出来のものがたくさんあります。
・「お熱いのがお好き」(Some Like It Hot)
・「麗しのサブリナ」(Sabrina)
・「アパートの鍵貸します」(The Apartment) あたりがブログなどで多く挙げられているようです。

 逆に、名作なのに損している邦題としては
・「情婦」(Witness for the Prosecution:検察側の証人)
・「昼下がりの情事」(Love in the Afternoon)→これは「昼下がりの恋」でも良かったのでは。
 でしょうか。

 変わったところでは
・「ワン・ツー・スリー ラブ・ハント作戦」(One, Two, Three)
  ラブ・ハント作戦というのは、映画の中身ともあまり関係ないので凄い

 その他の洋画の中からいくつか挙げてみると
・「逢う時はいつも他人」(Strangers When We Meet)  :リチャード・クワイン監督、カーク・ダグラス、キム・ノヴァク
  原題の直訳に近いと思いますがこれもお洒落なタイトルです。
   この映画の
キム・ノヴァクの色っぽさは、ヒッチコックの「めまい」に匹敵。
ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! (A Hard Day's Night)   :リチャード・レスター監督  
  水野晴郎氏がつけたとのこと。飛躍の仕方が凄い!
・「突然炎のごとく」(Jules et Jim: フランス語 ジュールとジム)
  トリュフォー監督作品ですが、このタイトルもなかなかです。
・「先生のお気に入り」(Teacher’s Pet) :監督ジョージ・シートン、主演クラーク・ゲイブル、ドリス・ディ
  
原題の直訳に近いですが「お気に入り」という語感が好きです。
   ドリス・ディの唄うタイトル曲も有名ですが、ジャーナリズムを題材としたコメディタッチのラブロマンスで
  私の大好きな映画です。
DVDもあるので未見の方にはおすすめ。 


最近の映画は英語タイトルそのままのものが多いですが、その中で珍しく意訳している邦題は
・「その土曜日、7時58分Before the Devil Knows You're Dead2007 :監督シドニー・ルメット
  →この邦題も最近ではなかなかのものかと。
  私はシドニー・ルメットファンなので封切時に映画館で観ましたが、
  出来がいいとかそういうのを超えて人間の心の闇を描いた「すさまじい映画」でした。

・「ミニミニ大作戦」(The Italian Job) 2003 (1969の同名映画のリメイク)
  :監督F・ゲイリー・グレイ 主演マーク・ウォールバーグ、シャーリーズ・セロン
  →この映画は「現金強奪もの」のアクション映画としては最高に面白い映画なのですが、
  タイトルが損している典型例です。ミニとは車の「ミニ
(クーパーS)」のことで、
  これが大活躍するわけですがタイトル「大作戦!」がねぇ。
  とはいっても原題のイタリアン・ジョブでは映画観てない人には何のことかわからずなので、
  こうしたらというアイデアはないのですが。
 
  この作品もDVDはあるので未見の方は是非観てほしい1本です。
  私はオリジナルよりもリメイクのほうが好きです。シャーリーズ・セロンも綺麗でそれも見所。


さて、最後に成瀬映画のタイトルで「好きなもの」「あまり好きでないもの」を挙げてみます。
あくまでタイトルだけの評価で、映
画自体の評価ではありませんので。原作自体のタイトルも含まれます。 

★好きなタイトル()
・「女の中にいる他人」
・「秋立ちぬ」
・「女が階段を上る時」
・「流れる」
・「妻よ薔薇のやうに」
・「鰯雲」
・「まごころ」
・「驟雨」
・「山の音」
・「女の座」
・「石中先生行状記」
・「秀子の車掌さん」
・「乱れ雲」

★あまり好きでないタイトル()
・「女の歴史」
・「乱れる」
・「妻として女として」
・「ひき逃げ」
・「白い野獣」
・「女人哀愁」
・「乙女ごころ三人姉妹」

その他で好き嫌いを超えての微妙なタイトルとしては
・「愛は力だ」(1930)
・「ねぇ興奮しちゃいやよ」(1931)
・「浦島太郎の後裔」(1946)

 ちなみに小津映画のタイトルもシンプルなものが多いですが、一番好きな(映画自体も)のは「東京暮色」ですね。


トップページへ戻る


成瀬映画を代表する女優・高峰秀子さんがお亡くなりになりました 
2010.12.31


今年もあとわずかですが、悲しいニュースが飛び込んできました。
女優・高峰秀子さんが12月28日に肺がんのため、お亡くなりになられました。86歳。
日本映画を代表する女優であり、成瀬映画の代表的な女優さんでした。
1941年の「秀子の車掌さん」から、1966年の「ひき逃げ」まで、計17本に出演されました。
悲しい以外に言葉がありません。追悼上映、放送などもあるんでしょうね。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。


トップページへ戻る


名優・小林桂樹さんがお亡くなりになりました 2010.9.18

俳優の小林桂樹さんが9/16にお亡くなりになりました。86歳。
マスコミ報道では、社長シリーズや「黒い画集 あるサラリーマンの証言」「裸の大将」
やTVドラマ等が紹介されていますが
何と言っても成瀬ファンにとっては「成瀬作品」への出演が印象的です。

ご存知のとおり成瀬作品には以下の10作品に出演されています。(DVD)=DVDあり
・「めし」(DVD)
・「夫婦」
・「くちづけ 第三話 女同士」(オムニバス)
・「驟雨」
・「妻の心」
・「杏っ子」
・「鰯雲」
・「女の座」
・「放浪記」(DVD)
・「女の中にいる他人」(DVD)

この中では異色のミステリー調の主役となる「女の中にいる他人」が代表作だと思いますが、
(「妻の心」も準主役)
個人的には飄々とした演技が最高の「驟雨」、八百屋のあんちゃん役の「くちづけ」、
ラーメン屋の「女の座」などが特に好きです。厚木の農民役の「鰯雲」も渋くていいですね。
ともかく日常生活を淡々と描く成瀬映画には無くてはならない俳優さんであり
戦後の成瀬映画を代表する男優のお一人であったことは間違いありません。

個人的には、2年くらい前にある会でお会いすることができ、なんと隣の席に座らせて
いただき、成瀬映画についていろいろとお話を伺うことができました。

心よりご冥福をお祈り申し上げます。


トップページへ戻る


ヒッチコック作品と成瀬作品の共通点? 2010.5.5

先週からNHKのBSハイビジョンで、ヒッチコック作品を連日放送しています。
私もヒッチコック作品はこれまではかなり観ているのですが、観たことのある作品でも
思わず引き込まれて観てしまいます。
昨夜はケーリー・グラントとグレース・ケリーの「泥棒成金」(1955)が放送されてました。
この作品は、ヒッチコックの数多くの傑作の中では、サスペンスの要素が少なく、
おしゃれなラブコメディの要素が大きいので、あまり評価されていないようですが
私は大好きな作品です。
南フランスの風景の美しさと、何と言ってもグレース・ケリーの美しさに圧倒されました。
衣装も素晴らしく、彼女の出演作ではその魅力が最も発揮された1本だと思います。
ケーリー・グラントもダンディでかっこいいです。
未見の方はレンタルDVDでも是非観てください。

さて、BSでの特集にあわせて未見のヒッチコック作品の「私は告白する」もDVDを借りて観ました。
これも非常に面白かったのですが、最近ヒッチコック作品を連続で観て、「ヒッチコック作品と成瀬作品の
共通点」を感じました。
もちろん、題材は異なるわけですが、その中で共通する点は「説明的な台詞、演技を排除する」「映像で語る」
要素です。これは共通していると確信しました。

ヒッチコックの方が年上ですが、ヒッチコックも成瀬監督もサイレント映画からスタートしているという
ことが大きいのでしょう。とにかく「人物の繊細な心理や感情を映像で表現する」ことは2人の監督の
作品の魅力でしょう。

前述の「私は告白する」のDVDに入っている特典映像では、ヒッチコック研究家の方が
「この作品はヒッチコックの特徴である人物の視線が多用されている」と解説していました。
サスペンスという題材から当然ともいえますが、確かにヒッチコックの映画では人物の視線
が重要な役割を果たしています。
成瀬作品のように相手の人物の動きを想起させるような視線の使用はあまり無いと思いますが
人物の心理や感情を台詞ではなく、視線で表現するのはヒッチコックの特徴であり、この点は
成瀬作品とも共通しているでしょう。
それからシリアスなシーンに、軽いユーモアを挿入する点も共通しています。

成瀬監督という方は、当時のスタッフの方に聞いても、他の監督の映画の話などはほとんどしなかった
らしいので、果たしてどのような映画(特に洋画)がお好きだったかは不明ですが、
ヒッチコック作品はご覧になっていたのでしょうかね。

成瀬作品の中で、題材的に最もヒッチコック作品に近いのは「女の中にいる他人」(1966)でしょう。
田代(小林桂樹)の母役の長岡輝子が、TVドラマを見ていて男が女を絞殺しようとするシーンを気味悪がり
スイッチを切ってしまうシーンがありますが、これなどは絞殺されたさゆり(若林映子)の事件が
明らかになった後の展開なのでブラックユーモア的で、最初に観た時も「ヒッチコック映画のようだ」
と感じたことを覚えています。

トップページへ戻る


「浮雲」を久しぶりに観ての感想 2010.1.13

1/11の祝日に、江東区古石場文化センター「江東シネマフェスティバル」で上映された
「浮雲」を久しぶりに観てきました。
上映されたホールは満席で、上映前には私もお付き合いのある成瀬組の助監督
の石田勝心監督のトークショーもありました。

さて「浮雲」を久しぶりに、スクリーンで通して観た感想ですが、
やはり、「全体的に暗くて、重たい映画だな」という印象で、これは今から
20年近く前に初めて観て以来変わらないです。

ただ、演出を細部にわたってみると、あらためて成瀬監督らしい「上手さ」を感じる
部分がいくつかありました。
例えば

・仏印のジャングルの中で、冨岡(森雅之)とゆき子(高峰秀子)がキスをする瞬間
 →現在(昭和21年)の安宿の一室でキスをする二人の顔につながる
 (人物のアクションの空間移動、時間移動の切れの良さ)

・伊香保で「正月までここにいない」というゆき子に対して、冨岡は「明日帰るよ」
 答える→伊香保の階段での獅子舞の踊り→旅館にいる二人
 (台詞の言葉と逆の行動を見せる=山中貞雄作品にもよく登場する)

・おせい(岡田茉莉子)のアパートで、ゆき子が泣きながら冨岡をののしる
 →アパートの廊下で「おままごと」遊びをしている子供たちのカットのインサート
 (ストーリーに関係の無いカットのインサートによる余韻の出し方の名人芸)

などはさすが成瀬監督という感じです。
それからトークショーで石田監督も指摘されていましたが、屋久島の部屋での
ラストカットで、冨岡の泣き崩れる顔のアップではなく、泣いている
冨岡の背中を見せて終わるのも渋い!!

「浮雲」には笑いの場面がほとんど無いと「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)の中にも
書いたのですが、今回観客席で一緒に観ていていくつか観客席から笑いの起こるシーンがあって
少し驚きました。もちろん笑いといっても爆笑ではなく、少し呆れたようなシニカルものなのですが。
私が記憶しているのは


・仏印での夕食の場面で、冨岡がゆき子に言う「東京生まれには見えないなぁ」といった
 一連の毒舌のシーン
・おせいが、冨岡と一緒に風呂に行こうとすると、ゆき子が「私も一緒に行く」と言った
 後におせいが「あらそう、じゃあ二人で行ってらっしゃい」と突き放して強い口調で言うカット
・冨岡がゆき子に「水虫になっちゃって」というカット

など。

今回上映されたプリントはとても綺麗で(2005年の生誕100年の時のニュープリントかも)
森雅之、高峰秀子の二人はもちろん、屋外のロケーション風景も本当に綺麗なモノクロ映像
でした。

今回上映会のあった江東区の古石場(ふるいしば)文化センターの1階には、地元深川出身の
小津安二郎監督ゆかりのものを展示した「小津安二郎紹介展示コーナー」(無料)があり、
江東区が登場する小津作品の地図と映画の写真なども展示されていて興味深かったです。
私も今回初めて行ったのですが、小津ファン、邦画ファンは是非一度行ってみてください。


小津監督つながりだと、この成瀬HPにも開設当時にお祝いの文章をいただいた 
落語家の立川志らく師匠が、現在(2010年1月)、NHK教育テレビで毎週水曜日の
22:25-22:50に放送されている「こだわり人物伝」で「小津安二郎は落語だ」と
のテーマで講義されています。

私も20代の若い頃は一時はまったことがあるのですが、いわゆる映画に関する
難解な用語の飛び交う「記号論」の書籍は大嫌いで、今回の小津論は本当に
応援したい気持ちです。
私も以前から小津作品に限らず、成瀬作品も人物や状況設定、台詞などに
「落語」の影響(二人とも明治時代の東京出身の方ですから当然ですが)を感じていたので
今回の志らく師匠の小津論が新たな小津論として認識されてほしいと思います。

これはNHKからテキストも発売されていますが、1/6放送分の第1回の
テキストP92に記述されている「お客さんの中に小津と成瀬の大ファンだという人
がいて、ぜひ見ろって勧められたんです」は実は私のことで(笑)。
かれこれ13年くらい前に、三軒茶屋の居酒屋で話したことを記憶しています。
ただし「見なさい」ではなく「志らく師匠、是非ご覧ください」と申し上げたのですが(笑)。
逆に、そのときは志らく師匠から、私が未見だった川島雄三監督「人も歩けば」を
勧められて、その後観て私の川島作品ベスト1になりました。

立川志らく師匠からいただいた祝本HPの文章


NHK 知る楽 こだわり人物伝

トップページへ戻る


女優・南田洋子さんについて 2009.10.22

成瀬映画とは直接関連がありませんが、女優の南田洋子さんが10月21日にお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。

南田洋子さんはとても好きな女優さんでした。小柄で可愛らしい顔なのに、どこか色気があって。
中年になっても綺麗でしたが、やはり20代の初期の日活時代が最高ですね。
そこで追悼の意味で、テレビのワイドショー等では絶対に紹介されないであろう南田洋子さんの魅力一杯の
出演作・私的ベスト5を紹介します。

(1)「飢える魂」「続・飢える魂」(1956) 日活 川島雄三監督
  :この作品はいわゆる通俗的なメロドラマで、川島映画の中では出来がいいとはいえませんが
   この人妻役のヒロイン(名前が芝令子。いかにもメロドラマの名前!)を演じた南田洋子さんは
   最高に綺麗で色っぽいです。確か、温泉地での入浴シーンもあったと記憶しています(笑)
   DVDあり

(2)「わが町」(1956) 日活  川島雄三監督
  :これは大阪を舞台にした名作ですね。主人公のターヤン(辰巳柳太郎)の妻と孫の1人2役です。
   特に、後半に登場する孫の役が明るく活発な女性で、きらきしています。DVDあり

(3)「沙羅の花の峠」(1955) 日活 山村聡監督
  :これは以前ラピュタ阿佐ヶ谷の日活映画特集で1回しか観ていない作品ですが、
   この作品がとても良かった。山村聡が監督、出演で「山間部の無医村問題」がテーマの
   作品ですが、ここでは仲間の学生と山にピクニックに来る医学生を演じています。
   DVDはありませんし、スカパーでも放送された記憶がないです。チャンネルNECOあたりで
   放送してくれないかなと思います。

(4)「影なき声」(1958) 日活 鈴木清順監督
  :松本清張原作のミステリー映画。電話で偶然に殺人犯の声を聞いてしまった電話交換手
   のヒロイン役で登場します。電話交換手の役は冒頭だけでその後は少し生活に疲れている
   主婦の役が延々と続きます。南田洋子さんとしては少し珍しい役かもしれません。
   スカパーでは放送されましたがDVDは無いかと。

(5)「街燈」(1957) 日活 中平康監督
  :洋装店の経営者役。色っぽいです。これもスカパーでは放送されたことがありますが、DVDは
   無いかと

さて、冒頭で成瀬映画とは関連が無いと書きましたが、実は少し関連のある話が。
実は、TVの連続ドラマ「乱れる」(原作 松山善三 1965-1966)に出演していたようです。
名古屋の民放なのと、年代的に私は見ていませんが、私の年上の知人は見ていたそうです。
役はもちろん映画「乱れる」の高峰秀子演じる礼子役でしょう(見てないので断言はできませんが)。
相手役(映画では加山雄三)は中山仁のようです。詳細データはネット検索できます。

トップページへ戻る


映画のラストシーンについて 2009.4.15

洋画、邦画を問わず、最近の映画やDVDを観ていて感じることが一つあります。
それは「昔の映画のラストシーンのほうがよかった」ということです。

個々の映画のラストシーンの出来の話とは別に、現在の映画はほとんどすべてといっていい
くらいに、映画のラストシーンの後に終わりにならず、延々と音楽入りのクレジットが続きます。
人によって様々な意見はあるとは思いますが、私は映画の終わり方はスパッと終わってほしい派です。
そのほうが映画の余韻のインパクトが強いと思うのですが。
昔の洋画、邦画の名作は、やはりラストシーンの後に「終」「完」で終わっていたので
感動の度合いが高いのではないかと。
協賛企業やスタッフなどのクレジットを流すことは絶対必要なんでしょうけれど、だったら
映画のタイトルの後に流せばいいのにと強く思います。
これから観に来た映画が始まるのだから、観客側にそれほど抵抗は無いでしょう。

ラストシーンから終りへの流れで私がいつも感心するのは、市川崑監督の映画です。
「ええ、これで終り!」のような唐突とした終り方の映画が数多くありますが、これが
最後にテーマらしきものを登場人物に語らせたりする説明的でしらける終り方と比べて、
はるかにかっこいいんですね。
作品としては、「青春銭型平次」「愛人」「太平洋ひとりぼっち」「映画女優」「幸福」「古都」などが
特に好きです。

さて、成瀬映画のラストシーンももちろん素晴らしいものがたくさんあります。
ラストシーンなのでここであらためて具体的に述べることは控えますが、
私が個人的に好きで、出来がいいと思われるラストシーンから終りへの流れ
は次のような成瀬映画です。唐突の終わり方、ユーモラスなもの、微笑ましいもの
などたくさんあります。一応ベストの順位をつけて10本ほど。
1.驟雨 
2.旅役者
3.乱れる 高峰秀子の表情!
4.秀子の車掌さん 牧歌的で好き
5.くちづけ「第三話 女同士」 ラストにクレジットされていない現在某有名女優の若かりし姿が!
6.石中先生行状記「第三話 干草ぐるまの巻」 素朴な三船敏郎がなんとも素敵!
7.はたらく一家 
8.女優と詩人
9.流れる
10.秋立ちぬ
まだまだたくさんありますが、これくらいで。

話は飛びますが、少し前に映画「20世紀少年 第二部」を観ました。
なにしろあの少年たちは私とほとんど同年代の設定なので
アポロ11号や大阪万博(私は東京育ちですが、大阪万博へは親に連れて行ってもらいました)
だけで懐かしい!
その中で、(悪の組織に)象徴的に使われていたのが、ぬいぐるみ「ケロヨン」の「ばっはっはーい、ケロヨ-ン」という
私も含め、当時の子供たちのハートをわしづかみにした(笑)流行語です。
木馬座のケロヨンはTVで放送され、私は小学生の時に確か木馬座ショーでケロヨンを生で観た記憶があります。
成瀬映画ファンならご存知でしょうが、実は成瀬映画の中に「ケロヨン」の話題が登場する映画があります。
それは遺作の「乱れ雲」(1967)です。姉の草笛光子の団地に立ち寄った司葉子が、草笛光子の息子と友達
が行なう「ばっはっはーい、ケロヨ-ン」の仕草を見て、「あれは何」と聞く有名なシーンですね。
草笛光子の息子に「おばちゃん、知らないの」とか言われて、その後、司葉子が真似るシーンがあって
なかなか微笑ましい。特に手の仕草を真似て「ばっはっはーい、ケロヨ-ン ての」の台詞の「ての」(ていうの?の省略形かと)
が可愛くて好きです(笑)。


トップページへ戻る


成瀬映画の屋外シーン「人物の振り返り」について 2008.9.27

成瀬映画には、二人の人物が歩く屋外のシーンでよく登場する演出手法があります。
それは、人物Aが少し先に出て、立ち止まり、振り返り、人物Bに向かって会話をする。
Bが返答しながら、Aの方向に歩いてくる、そしてまたAとBがゆっくりと歩き出す
という演出です。

これはすでに多くの成瀬本で語られていますし、私も「成瀬巳喜男を観る」
(ワイズ出版)の第一章「成瀬映画はアクション映画である」に写真やイラストもいれて
説明していますので、興味のある方は参照してください。
・「山の音」の冒頭の山村聡と原節子
・「乱れる」の冒頭の高峰秀子と加山雄三、
・「杏っ子」の山村聡と木村功
などが代表的なものです。

最近、道を歩いていてふと思ったのは「この振り返りの演出は、一見ありふれた人物の動きの表現のようだけど
実はとても映画独特の演出手法ではないか」ということです。

というのは、少なくとも現代のスピード社会においては、目的地へまっすぐに急ぐという人がほとんど
でしょうし、二人並んで散歩するということはあるにしても、上記のように一人が先に出て立ち止まり、相手に振り返る
という日常風景は「皆無」といってもいいのではないでしょうか。立ち止まっていたら、相手に「何やってるの、
急ごうよ」と言われるのがほとんどではないかなと。それだけ現代人は「せっかち」になっているのでしょう。
  
では、成瀬映画の当時は、今よりはのんびりしていたとは推察されますが、果たして当時でも、一人が立ち止まり
振り返るというような動きは、日常生活の普通の人物の行動様式だったのか。これは遺作の「乱れ雲」の時に
9歳だった私にはわかりません。
 
ただし、この演出手法は少なくとも成瀬監督と技術スタッフが、人物の動きとストーリー展開(成瀬映画では
屋外を二人が並んで歩くシーンでストーリー上重要な話がされることが多い)を、映画的な表現として工夫した
ものであることは間違いないでしょう。この振り返りの演出手法は、成瀬映画を何本か観ていくうちにだんだんと
はまっていく成瀬マジックの一つです。

 

トップページへ戻る


これぞ成瀬映画 「驟雨」(しゅうう) 2008.6.27

スカパーの日本映画専門チャンネルにて、現在(2008年6月)「驟雨」が放送されています。

本HPの作品評などにもすでに書いてますが、私が最も愛する成瀬映画はこの「驟雨」です。
数多い成瀬映画の傑作の中で、どれを最高作と思うかは各個人の趣味の問題でしょうが、
少なくとも最も成瀬監督らしい映画を1本挙げろといわれれば「驟雨」につきるでしょう。

内容についてはHPの作品評にもあるので詳細は省略しますが、原節子と佐野周二の夫婦の言い争い、
となりの小林桂樹と根岸明美夫婦との絡ませ方、地域の少し変わった個性的な人々のエピソード、
佐野周二の会社の同僚に関連したエピソード、そして、原節子の姪役の香川京子との会話のやり取り
など、独特のユーモラスなタッチで、日常生活の出来事を淡々と描いています。
 今回のスカパーの放送で観直して笑ってしまったのが「飼い犬の件での町内会議」のシーンです。
登場人物の会話の他愛ない内容、ぜつ妙な言い回し、会話のタイミング、突然、飼い犬と関係のない
ことを言い出す小林桂樹と原節子のおかしさ、極めつけは「てまえ急ぎますもので」と立ち上がりかけて
みんなの沈黙の視線をあびてまた座ってしまう太った男性(黒澤映画にもよく出る俳優)での終わり方。
本当に名人芸だとうなります。このくどくなく、頃合のよい演出がいいんですね。
水木洋子の脚本の素晴らしさでもあるんでしょう。

「驟雨」という作品は、当時の評価はそれほど高くなく、というよりもラストの「あっけない中途半端な終わり方」
もあって成瀬映画の中では低い評価であったようです。また、最近のある著書によると「平凡な映画」と
書かれていました。あの唐突で笑いを誘うラストシーンの終わり方(小林桂樹の台詞はまるで落語のサゲのよう)
が私にはまたたまらない魅力なんですがね。

私は「驟雨」を好きでない方は、「成瀬映画ファン」とは認めたくないとまで思っています。
ところが嬉しいことに「驟雨」をネット検索でみると、私より若い成瀬ファンのブログ等では
大多数が「驟雨」を非常に評価しているようです。仲間がたくさんいて嬉しい!
 
ともかく「驟雨」という映画は、観た後になんともいえない「幸福感」を感じます。
平凡な日常生活もそんなに悪くないと言われているようで、ほのぼのとした気分に
なるんですね。そしてなんといっても原節子の自然な演技は最高です。
 
「驟雨」はスカパー日本映画専門チャンネルにて
6/29(日)8:00、7/1(火)18:00、7/3(木)27:00
に放送されます(日本映画専門チャンネルHPより)


なお、別の情報ですが、新文芸座で追悼 市川崑という特集があります。
7/12~8/1ですが、7/31(木)に本エッセイにも書いたなかなか観られない
傑作「幸福」(1981)が上映されます。これは非常に貴重な機会だと思います。

トップページへ戻る


「成瀬映画のアクションつなぎと場面転換」 2008.6.19

私が成瀬映画を素晴らしいと思う理由の一つに、アクションつなぎと場面転換があります。
ともかく成瀬映画における人物のアクションのつなぎ方は独特で、一言で言えば「演出方法がかっこいい」と
言いたいと思います。
  
アクションつなぎは、インターネット検索でも調べてもらえれば出てきますが、映画の技術用語で
人物Aの一つのアクションを2つのカットで割って見せるという手法です。
  
小津映画にはこのアクションつなぎが多用されているのは有名で、例えば今回「彼岸花」をDVDで
観直してみましたが、和室のテーブルで畳に座っている登場人物が、
(1)立ち上がりかける動作のバストショット
(2)動作の途中から引きのロングショットで見せる 
といった手法が繰り返し出てきます。

俳優としては、浪花千栄子、田中絹代(箱根の湖の高台のベンチの屋外シーンにも)、有馬稲子、山本富士子など
の室内の動作に登場します。興味のある人はDVDでも観てください。
ただ今回よく見ると(DVDでスロー再生して見ると)、アクションがスムーズにつながっていないところを
発見してしまいました。例えば、映画後半の娘の有馬稲子の結婚に対して佐分利信と田中絹代の夫婦
が言い争うシーン。田中絹代が「もういいの」と言って立ち上がりかけ、画面左に傾きかけたところで
引きの映像にカットを割っていますが、アクションが上手くつながっていません。
これは映画館で観たり、DVDも普通再生だと、一瞬なのでまず気がつかないと思いますが
DVDでスロー再生という嫌な見方(笑)をするとわかります。興味のある方はどうぞ。

成瀬映画ではあまり多用はされていないと思いますが、アクションつなぎはあります。
例えば、前回書いた「女の座」では、後半に息子(大沢健三郎)の電車事故を知らせる
電話を聞いている高峰秀子のバストショットでショックで倒れかけるところ→引きのロングショット
で床に倒れるシーン。これは試しにスロー再生で見ても編集で上手くアクションがつながっていました(笑)。
  
一方、普通だったらアクションつなぎするところを一風変わったつなぎ方をするケースも見られます。
同じく「女の座」の前半部分で、九州から出てきた三橋達也と淡路恵子が和室で鍋焼きうどんを食べてるシーン。
草笛光子が立ち上がる動作の途中で、そのまま立った姿に引きでつなぐかと思うと、次のカットで隣の
部屋から現れる高峰秀子のバストショットにつなぎ、次のロングショットでは草笛光子は立っていて
高峰秀子のほうを見ているというつなぎがあります。これは実際に映像見てもらわないと説明困難
ですが、このつなぎ方は、いかにも成瀬監督らしい洒落っ気を感じます。

以上のように、アクションつなぎは普通は、一人の人物がその空間で立ったり、座ったりを
リズミカルに見せる工夫の手法ですが、成瀬映画には少し変わったアクションつなぎ(厳密にはアクション
つなぎとは呼べないかも)の手法が2つあります。これがとてもかっこいいんですね。
詳細は、私の著書「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)の第二章「成瀬映画のテンポとリズム」も参照
してください。

①は人物Aの動作を、場面転換してつなぐという手法。
 一番の典型例(上記書籍にも記述しましたが)は、「女の中にいる他人」の冒頭の有名なシーン。
 小林桂樹が歩道に立ち止まりたばこに火をつけてゆっくりと下に降ろす→(カットが変わり)その手の動作をつないで、灰皿に
 たばこを置く手。そこは小さい喫茶店かビアホールのような店内。つまりアクションつなぎを通して
 場面転換するという省略方法です。
 「浮雲」の前半で、森雅之と高峰秀子が仏印での回想シーンでキスをしようとする動作→現在の宿で
 二人がキスをする動作という「場面転換アクションつなぎ」も素晴らしいの一言です。

②は登場人物Aの動作を、場面転換して別の人物Bの動作につなぐという手法です。
 これは動作の位置を画面上にびったりあわせるということでなく、同様の動作につなぐという程度
 なのですが、これも渋いつなぎ方なんですね。
 「女の座」では、ラストの前、和室での小林桂樹の後姿での動作→住宅地で歩いている高峰秀子の後姿
 という風に「後姿」でつなげているのに気づきました。
  これも上記の書籍に書きましたが、同じく「女の座」では雨の中、傘を差しながら宝田明のアパートから(ふられて)出て行く草笛光子の後姿
  →外は雨の喫茶店で手前から窓に向かって歩いていく司葉子の後姿(夏木陽介を待っている)につないでいます。
  人物AとBの動作のつなぎをしながら、さらに男に振られてきた女から、これから男に会う女につなぐという演出
 (おそらく成瀬監督はそのような意図だったと信じています)のセンスの素晴らしさは、なんと形容したらいいのでしょうか。

①と②の手法は他の監督作品であまり観た事ないですが、誰かいまいすかね。

成瀬映画を何度観ても飽きないのは、こういう映像の工夫をさりげなく入れている点にもその理由があるかと
思います。
  
以上マニアックなレポートでした(笑)。

トップページへ戻る


「成瀬映画の語り口と噂話」 2008.6.15

 最近、久しぶりに成瀬映画「女の座」(1962)を以前放送された録画DVDで観ました。
「娘・妻・母」(1960)と並んで、東宝オールスター俳優が出演した「大家族もの」
の1本ですが、最初に映画館(銀座・並木座)で観たときから、とても好きな作品でした。

今回観てあらためて感じたのは、成瀬監督のストーリーの語り口の上手さと
ユーモアセンスです。もちろんシナリオ(井手俊郎、松山善三)が優れていることも挙げられます。

例えばこんなシーン。高峰秀子の亡き夫の法事の席で、お寺の住職から
三女・司葉子のお見合いの話が出ます。
その時に、長女の三益愛子も別の見合い写真を持ってきていて、
「梅子(=次女・草笛光子)にでもいいんだけど」と話すと、
父親の笠智衆が「梅子か、あいつは変わっとるからね。何考えているんだか、
30過ぎたっていうのに」と答えます。
そこで場面転換して、草笛光子の姿(+高峰秀子の息子役の大沢健三郎のツーショット)
が登場し、「馬鹿みたい」と突き放したような言い方をします。
草笛光子の視線の先=次のショットは、遊園地(おそらく向ヶ丘遊園)の回る遊具に
乗ってはしゃいでいる妹の司葉子や星由里子たちの姿が。
笠智衆の感想と、その感想を証明するような草笛光子の姿と台詞への
場面転換のタイミングと間が絶妙で、なんとも品のいいユーモラスさを醸し出しています。
笠智衆独特のイントーネーションなのか、シナリオにあるのかは不明ですが、
「梅子(うめこ)」ではなく「梅公(うめこう)」と聞こえるのがまた笑いを誘います。
私はもともと大の落語ファンですが、このシーンのユーモラスな感覚は、
正に名人の噺家の笑いの間と同様のものを感じます。

さて、この例のように、ある人物についての噂話があり、
場面転換して次にその噂話に出ていた本人が登場するというパターンは、
成瀬映画の中に数多く見られる特徴の一つですね。
とにかく成瀬映画には、ある人物についての「噂話」のシーンが多い。

いくつか他の作品例を挙げてみます。

①「旅役者」(1940)
 冒頭のシーンで、信州あたりの田舎町で「東京から菊五郎が来るそうだ」という
  内容の話を話す人物を変えながらスピーディなカット割で展開させる。
  →人力車に乗って練り歩く役者連中→芝居小屋には「中村菊五郎一座」の旗
  →その前を通った田舎町の二人の女が「尾上菊五郎ではなくて中村菊五郎なんて
  聞いたことないね」と噂している

②「桃中軒雲右衛門」(1936)
  ・冒頭の汽車のシーン。乗客が「桃中軒雲右衛門」のことを噂している。
   →汽車の中で目をつぶっている桃中軒雲右衛門(月形龍之介
)

③「噂の娘」(1935)
  ・冒頭に、メイン舞台となる酒屋の「灘屋」の前の床屋(床屋というのがまた落語っぽい)で、
  床屋の主人と客が「灘屋も最近あまり景気がよくないらしい。今の主人(御橋公)も養子で
  苦労しているようだ」との 内容の噂話に続いて、灘屋の主人の御橋公の姿にショットが変わる

④「女人哀愁」(1937)
  ・映画冒頭の方で、上記とは逆のパターンで、噂話の当人(見合い相手の堀江)が登場した後、
   公園を散歩している入江たか子が、見合い相手の堀江について「軽薄な感じのする人なんだけど」
   との感想を、一緒に歩いているいとこの佐伯秀男に話すシーン

これ以外にも成瀬映画の中には、噂話とその人物へのショット
のつなぎは多
数あるかと思います。
ぜひ探してみてください。


「噂話」というのも、落語の中に多く登場する要素ですね。例えば「酢豆腐」で、
長屋の連中が近所の気障な若旦那の噂をしていると、その本人が「こんつわ」と言って
登場するところなどは典型的な例です。


成瀬監督も小津監督も松竹蒲田の出身ですが、松竹蒲田映画の特色なのか、
二人の作風には語り口や上品なユーモアのセンスに落語の影響が色濃いと思います。

成瀬監督は四谷、小津監督は深川と二人とも東京生まれですしね。

トップページへ戻る



「市川崑監督について」 2008.2.14

ニュース報道ですでにご存知かと思いますが、市川崑監督が昨日2月13日に92歳で亡くなられました。
ご冥福をお祈りします。

私は成瀬巳喜男監督は当然ながら別格として、その次に好きで尊敬している日本の映画監督は
川島雄三監督と市川崑監督なので、ニュースを聞いた時はショックでした。

市川作品は、作品数も70本を超えていて、また時代によってさまざまなジャンルの作品が
あるので、なかなか一概には言えませんが、私が一番好きなのは何といっても1950年代前半の
東宝時代の都会的で、お洒落なラブコメディの作品です。
私が最高傑作と考える「愛人」(1953)を筆頭に、杉葉子さんがとても可愛い「結婚行進曲」(1951)、
「ラッキーさん」(1952)、「足にさわった女」(1952)、代表作の1本「プーサン」(1953)、
2番目に好きな「青春銭形平次」(1953)、「青色革命」(1953)あたりは、どれも演出が小粋で、シナリオ
も素晴らしく大好きな作品です。「愛人」と「青色革命」は撮影監督が成瀬組の玉井正夫なのもいいですね。
なお、「青春銭形平次」は2/29他で日本映画専門チャンネルで放送されます。
それに比べると、一般的には代表作(文芸作品)の多い、大映時代の作品はあまり好みではありません。
「黒い十人の女」(1961)、「破戒」(1962)あたりは好きです。
また、日活時代は「ビルマの竪琴」(1956)はもちろんですが、「青春怪談」(1955)、「こころ」(1955)
も大好きです。

今回数えてみたら、私はこれまで市川崑監督作品50本観てます。
とにかく傑作が多いので、並べてるときりがありませんが、やはり「東京オリンピック」(1965)は、オープニングの
太陽が鉄球に変わるところや、聖火ランナーが京都を走るところで屋根を真下にみおろす超俯瞰の映像、
開会式、マラソンなど、大スクリーンでも見てますが、DVDで何度見ても興奮させられます。

金田一シリーズも私の年代だと封切時に見てますし(当時のパンフレットも所有してます)、特に「悪魔の手毬唄」が
いいですね。

かれこれ10年前ですか、「市川崑」という15000円の豪華本を購入した時に、購入者への本のサイン会
があり、青山の書店で監督ご本人にサインしてもらったのも楽しい思い出です。

さて、私がいま一番見たい市川作品は後期の作品で「幸福」(1981)なんですね。
エド・マクベイン原作の水谷豊と永島敏行が主演の刑事ものです。
5年くらい前に、フィルムセンターでの特集上映で初めて見ましたが、あまりの感動に終わって
しばらく席を立てませんでした。素晴らしい傑作です。
この作品は理由はわかりませんが、スカパーでも放送されず、ビデオやDVDにもなったことが無く
上映もほとんどされないということで正に「幻の傑作」映画です。
現在、スカパーの「日本映画専門チャンネル」で長期間放送されている市川崑特集で最も
期待したいのがこの作品です。

「愛人」と「幸福」については、書籍「光と嘘、真実と影」(和田誠、森遊机著 河出書房新社)
の中で、お二人がその魅力について詳細に対談されていますので、未読の方はおすすめです。
市川監督へのロングインタビューの書籍「市川崑の映画たち」(市川崑、森遊机 ワイズ出版)も
市川崑ファンなら必読です。

トップページへ戻る


「祝 成瀬巳喜男劇場」 2007.7.14

掲示板にもとみさんから情報提供いただきましたが、スカパー日本映画専門チャンネル
にて9月より1年間、「成瀬巳喜男劇場」が復活するようです。
私の登録している日本映画専門チャンネルのメルマガ情報によると
1年間で放送可能な60作品、毎週金曜朝10時からの放送とのこと。
9月は「乙女ごゝろ三人姉妹」(1935)、「秀子の車掌さん」(1941)、
「めし」(1951)、「浮雲」(1955)の4本のようです。

結局DVDも、生誕100年の時に発売された東宝10作品、大映2作品+新東宝1作品
のみなので、未見の方には特に朗報ですね。

9月の情報はまだ出てませんが、「お客様のこえ」の7/4に視聴者のリクエストの回答
として情報が出ています。

日本映画専門チャンネルHP

トップページへ戻る


「祝 川島雄三特集」 2007. 6.28

トップページにも情報掲載しましたが、6/12-7/22まで、東京・京橋のフィルムセンターにて
川島雄三監督作品の特集上映(全39作品)が始まっています。
私は、成瀬監督の次に好きなのが川島監督なので、とても喜ばしいことです。

川島作品は全部で51本ありますが(そのうちの1本「相惚れトコトン同志」松竹1952は、
プリント・ネガともないとされている)、私はこれまで、2001年の三百人劇場での特集上映や
スカパーでの放送などでほとんど観ていて、未見なのは上記の「相惚れトコトン同志」以外では、
「シミキンのオオ!市民諸君」(1948)「シミキンのスポーツ王」(1949)「真実一路」(1954)の
3本のみですが、この3本はビデオが出ているのでそのうち観ようと思っていて今日まで未見
だったという感じです。

川島雄三ファンは数多いし、様々なジャンルの映画があるので、ファンでも好みが大きく
分れると思います。
私がもっとも好きな川島作品は、実は東京映画、東宝時代なんですが、今回の特集はかなり
充実した上映ラインナップです。
ストーリー展開が面白く、タイトル前の冒頭とラストが特に素晴らしい「人も歩けば」
(私の中では川島作品ベスト1)、赤坂での国会議員と新聞記者のカーチェイスから
始まる「赤坂の姉妹より 夜の肌」(大学生役で、若き日の蜷川幸雄が出演)、
若大将シリーズの感じとはまったく異なる加山雄三と星由里子の共演が興味深い
「箱根山」(この冒頭の観光バスのカーチェースもすさまじい)、
森繁久弥の唄う主題歌が頭から離れない「喜劇 とんかつ一代」(クロレラ研究家の三木のり平!)、
その他、「貸間あり」「暖簾」(宝塚映画)、叙情的な「青べか物語」の他、
「特急にっぽん」「花影」、遺作の「イチかバチか」など、挙げたらきりがありません。
あまり出来はよくありませんが、成瀬監督との共同監督作品「夜の流れ」も
成瀬巳喜男と川島雄三のコラボレーションということで記念すべき作品です。

一般的に評価の高い大映作品の3本は、雰囲気が「重苦しくて」
私はどうしても好きになれないのですが、これは私の好みによるもので。

今回、フィルムセンターに観に行く予定にしていて行けなくなってしまい、
仕方なく以前チャンネルNECOで放送された録画ビデオを再見した作品があります。
それは、大阪を舞台にした「わが町」とメロドラマ「飢える魂」「続・飢える魂」。
いずれも日活時代の作品です。
 「わが町」は、オーソドックスに泣ける映画で、今回見直して感動しました。傑作です。
「飢える魂」「続・飢える魂」は、「これぞ通俗的なメロドラマ」という感じで(あの主題歌!)
傑作揃いの川島映画の中ではあまり評価できませんが、何よりもヒロインの人妻の
芝令子役・南田洋子の綺麗さには圧倒されます。「わが町」も南田洋子の二役が見られます。
この時代の南田洋子は、本当にいいです。可愛さだけではなく、独特の色気があるんですね。
個人的には、特に目と声が好きです(笑)。
「飢える魂」「続・飢える魂」は、綺麗な南田洋子を見るだけでも楽しめる作品
ですが、庭での「お茶会」のシーンのロングショットの撮り方が、溝口健二のようだったり、
南田洋子と三橋達也が並んで歩くシーンの撮り方が、成瀬調だったりと
川島雄三が、映像的な遊びをしているような印象を受けました。

私も何本かは久びさにスクリーンで観たいと思っていますが、おそらく混んでるのでしょうね。

トップページへ戻る


「小道具の使い方」 2007.4.30

 先日、久しぶりにビリー・ワイルダー監督作品「麗しのサブリナ」(1954)をDVDで再見しました。
オードリー・ヘップバーン、ハンフリー・ボガード、ウィリアム・ホールデンが共演している
素晴らしくロマンティックなラブロマンス映画ですが、今回観て印象に残ったのは、シナリオの上手さ、
特に小道具の使い方の工夫です。

 私は以前、短期間ですが、シナリオ学校に通ったことがありますが,その時の授業の一つに
「小道具を使う」というのがありました。
 「麗しのサブリナ」でいえば、スフレ、シャンパングラス、帽子などが印象的で、ストーリー展開
にも重要な役割を果たしています。もう一つ欠かせないのが車ですかね。

 そこで、やはり成瀬映画を連想してみると、生誕100年の時期に気づいて、素晴らしい小道具の
使い方だなと唸ったシーンがあります。
 映画は「杏っ子」(1958)です。
 
 映画の中盤に出てくる、香川京子と木村功の新婚旅行の旅館の一室のシーン。
・旅館の女中が「お床を敷かせていただきます」と言って部屋にはいり、押入れから布団を出す。
・木村功は「もうひと風呂浴びてこよう」とタオルを持って部屋から出て行く
・残された香川京子は、窓側の椅子に座り照れくさそうにちらっと女中が布団を敷いている
 方に目線をやる。
ここでシーンが変わり、
・「昭和二十五年」(3年後ということ)という文字。東京の路地で得意のチンドン屋が
 演奏している
・庭に干している布団を取り込んでいる(少しやつれた)香川京子の姿
と続きます。

途中にチンドン屋のショットがはさまるので、直接的な編集の流れではないのですが
これは小道具=「布団」つながりなんですね。
理屈っぽく言えば、新婚旅行では他人が敷いてくれた「恥じらいのもの」であった布団が、
3年の結婚生活を経て、自分で取り込んでいる「生活観のあるもの」に変化している
ということなんでしょうが、このことを布団を使って映像的に表現する。正にこれこそ
映画的な表現と言えるでしょう。

これに気づいたのは日本映画専門チャンネルの放送を録画したDVDで5-6回目
に観た時だったと思うのですが、どなたか気づいた方はいますか?

「杏っ子」のシナリオは、成瀬監督自身と田中澄江ですが、この布団つながりは
成瀬監督が書いたのではないかと勝手に想像しています。
もちろん台本にも書かれていました。
 
成瀬映画にはまだ見逃している、小道具の素晴らしい使い方がたくさんあるような
気がします。また発見したら紹介します。

トップページへ戻る