〜または、はじめてのおつかい〜
…沖くんと梨緒・3…

 

 

 

 ばたんと車のドアを閉める。ぴぴっとロックしてふうっとため息ひとつ。見上げると、平屋建てのドラックストア…地元の人間なら誰でも知っている「マツモトキヨシ」…略して「マツキヨ」と言う名のチェーン店だ。

 政治家上がりの社長の名をそのまま取って名付けた斬新なネーミング。まっきっきの外装に派手な店内音楽。そして強気の経営方針。

 …いや、そんなことは今は関係ないんだけど。

 どうも思考が逃げるようにそこから遠のいてしまう。

 ここの店舗は3ヶ月前まで別のドラックチェーン店が借りていた。それが経営不振で潰れて撤退したのに、マツキヨはここを借りて店を始めたのだ。別の同系列の店が売り上げを伸ばせなかった店舗に進出しようなんて誰が考えるのだろう…いえ、そうだからこそ店舗数を増やして売り上げも伸ばしているんだろう。あっと言う間にこの地方都市の市内にも3店舗がひしめいている。

 …いえいえ、それは関係なくて。

 ぶんぶん、と私は首を横に振った。

 店の入り口で仁王立ちになってそんなことをしているから、紙おむつを3個も抱えたお母さんに手を引かれた小さな子供が不思議そうに見ていく。ああ、特売の紙おむつ。ついつい最近までは私もそれを腕にいくつもぶら下げてレジに走ったっけ。子供のおむつはずしは半分、保育園でやってくれた。でも家でも必死だった。紙おむつは馬鹿にならない出費だ。でもだからといって「エコロジーのために私は布おむつしか使いません!」なんて環境保護団体みたいなことはとても言えない。少子化に歯止めを掛けるべく、頑張って子供をたくさん産んだのだ、それくらいは許して欲しい。

 …ああ! それも関係ないんだった!!

 天井から同じチラシがたくさんぶら下がった店内に入る。白々しいほどに大きく書かれた「いらっしゃいませ、店員一同」の垂れ幕。海水浴場の看板じゃないんだからさ、何だか気恥ずかしい。
 入って手前は食品売り場。この頃店舗を改装して生鮮も扱うようになった。冷凍食品や豆腐や牛乳まで手に入る。さすがに野菜は置いてないが、薬屋で夕ご飯の買い物が出来るというのもなかなかいい。私は半額シールの付いた菓子パンをぽんぽんとカゴに入れる。よし、これが今日のおやつだ。卵はお向かいのスーパーよりも安いのでコレは2パック。次に半額コーナーの豆腐と牛乳を。その上の棚のふたつで148円のイシイのハンバーグも朝ご飯用に。裏に回って、またまた特売のスナック菓子をいくつか突っ込む。あ、とろけるカレーが100円? お一人様2個までとあるのでこれも。

 ずしっと、カゴが重くなる…何だか、やっぱり逃げている気がする。

 …で? 私の今日の本当の買い物は一体どこにあるんだろう? コンビニとか小さな薬屋さんでは見たことがある。奥の方だろうな…。

 もうすっかりと重くなったカゴを持ち上げて私はずんずんと店内を散策する。

 買いたいものがどこにあるのか分からなかったら、お店の人に聞けばいい…でも、今日は無理!!

 壁際に生理用品が並ぶ。この界隈にあるかと思ったんだけど…ないなあ。何だか新製品が出てるけど、今日の所はまあいいかと壁際に進む。今度は薬のコーナー。胃腸薬から風邪薬、鼻炎、咳止め…ああああ、そうじゃなくて!! 振り返って棚は体温計と血圧計。その右手は傷バンとか包帯とか。黄色い消毒薬とかオキシドールとか。アイスノンも冷えピタも水枕もあるけど…違う…。

 棚の反対側に回る。ダイエット食品。この頃おなかが出てきたからなあ。でも一番有効なダイエットは必要以上に食べないことだと思うの。そうは分かっているんだけどさ。ああ、高い。5日で3千円なんて出せるかっていうの!? 普通の白砂糖の10倍くらい高いダイエット甘味料…だったら、甘いものを嫌いになった方がいい!!

 ボーっとしながら棚の右端に視線を移した…


 …あった!!…


 しかし、次の瞬間。足がすくむ。

 えええ? どうして裸のままなの? 普通、さり気なく全然関係のない花柄とかの包装紙で包んでないかい? 確か産婦人科の薬局ではそうなっていたわよ? 色とりどりの同じ大きさの箱が棚の上から下までぎっしりと詰まっている。どれを選べと言うんだよ? …どれを!! 自分が使う訳じゃないから、分からない〜〜。

 ハッとして、背を向ける。若いカップルが私のすぐ横をすり抜けていく。死ぬほど恥ずかしい、どうして私がこんなに情けない思いをしなくちゃならないのよ!! 店内に響き渡る声で叫びたいのをぐぐっと堪えて…きゅうっと、唇を噛んだ。

 

◆◆◆


 …つい、最近のこと。

 我が家では年に数回は起こる「とても怖い経験」をした。

 まあ、ぶっちゃげて言えば…生理が来なかったのだ。

 

 私は結婚10年になる主婦、パート先は中華料理屋さんの餃子包み。あ、この際パートのことはいらないか。

 夫と子供が…5人もいる。そう、5人。平成の世に21世紀にこの少子化のまっただ中で5人!! それだけでも驚異なのに、その上を行くことになんとその子供が全員「年子」なのだ。

 年子…って、知ってる? 子供の歳が2歳まで離れていない兄弟のことを言うんだよ? 学年が続いちゃうことや究極で4月と3月生で双子でもないのに同級生になることまである。まあ、ウチの場合は上の2人が1月と2月に産まれて、3番目が5月だったから学年が1年空いた。そんなことで喜んでいる暇もなく、あと6月と8月に産まれて、…ただ今小学校の4年生と3年生と1年生、加えて保育園の年長さんと年中さん…来年も再来年も卒園式と入学式、加えて最後の1年間は5人全てが小学生だ。

 さすがに私もこんなに子供が出来やすいとは思ってなかった。それは沖くん(だんな)も同意見だったらしい。沖くんなんてアダルトビデオの知識で「中で出さなけりゃ、セーフ」と考えていた。夫婦なんだし、出来たら産めばいいみたいに。でも、出来るんだな、コレが。小学校教師の沖くんは性教育の時間に子供達によく教えた方がいいと思う私。こっちとしては「外だし」されると最高に盛り上がったところで、何だか気がそがれる。すごく嫌な感じ。生がいいというのも分かるけど…女の身にもなって欲しいと言うものだ。

 面倒くさがりの沖くんはゴムを切らしたままもう半年になる。頭で排卵期を計算する。生理が始まった日から15日ぐらい。それが終わると体温がちょっと上がる。生理周期の前半は沖くんよりも体温が低くて、後半は高くなる。手のひらをぴたっと沖くんの身体に当てれば大体の見当が付く結婚10年目。
 排卵期までは出来るだけやらないようにする。それが鉄則。だって、避妊具が切れているのに、危ないじゃないの。私たちは前科持ちなんだから(5人とも)。

 …なのにさ。この間。飲み会で遅くなった沖くんにいきなり襲われた。もう、びっくり。酔っているときはこの人、他人のように横暴になるのよね。えっちなことは嫌いじゃない、むしろ好きだと思う。結婚10年目で週に1回のペースが多いのか少ないのか分からない。でも沖くんとのえっちは気持ちいいと思うもん。

 

◆◆◆


 がたがたっと玄関で音がした。下の子のトイレで丁度目が覚めたとき、真夜中の12時。パジャマ姿で目をこすりながら階段を降りて「お帰りなさい〜」ととりあえずねぎらいのひとこと。ああ、今日はお風呂に5人を入れて、音読カード3人分やったのに、なんて慎ましいステキな妻なんだろう私。そんな思考は次の瞬間、ぶっ飛んだ。

「梨緒…っ!!」

 階段の下で。いきなり、背広姿のままの沖くんに抱きつかれた。それだけで何だか久しぶり。こういう風にされたの、何年ぶり? それから彼は恋人同士のように濃厚にキスしてきた。滅茶苦茶にお酒臭い。こりゃ…悪酔いしてる、絶対してる。きっとビールをしこたま飲んだあと、冷酒に走ったな…このパターンで今までに何回もぶっつぶれているんだから、この人は…。

「や…やだっ!! 待ってよ!! …沖くんっ!!」

 そのまま、半分抱き上げられた感じでずるずると沖くんが前進する。ダイニングに続いて段差なしで作られている畳の間に仰向けに押し倒された。

「やだってば!! この酔っぱらい!! やめてよ〜〜〜!!」
 一軒家なのをいいことにあらん限りの声を出して抵抗する。子供達だって寝入ったらまず起きてこない。口どころか体中がお酒臭い。お酒の匂いの体臭が充満してむせるぐらい。どうにかしてよ!!

 それなのに沖くんときたら、私の言うコトなんて聞く耳も持ってない。あっと言う間にパジャマを全部脱がされて、夜だからブラも付けてなくて…いきなりざらざらの豆だらけの手が力一杯に胸をもみ始めた。

 ちょっと!! 気持ち良いと言うよりも痛いんですけど!? やだ! この欲望に走った感じ。嬉しくないよお〜!!

 精一杯抵抗したけど、顔中にキスされて、耳の付け根から首筋にたくさんたくさん跡を付けるみたいについばまれて…胸のてっぺんをかわりばんこにぺろぺろ舐める。思わす背中がのけぞる。私は特に胸が弱い、泥酔していても沖くんはその辺を本能的に分かっているみたいだ。

「や…やぁん…っ!! あんっ!!」
 耐えきれずに首を左右に振って、声が出てしまう。沖くんの攻めがだんだん強くなる。私の身体に火を付けていく。もうどうにでもなれって…半分意識が飛んでいた。

 それでも、一番感じやすい部分に刺激が加わったとき、びくっと正気に戻った。

「…あ!! 駄目、今日は駄目なのっ!! 沖くんやめて!!」

「どうして? こんなに濡れてるのに? 俺のこと、欲しがってるよ…梨緒は」

 私の話なんて聞いてもくれない。沖くんはどんどん腰を進めてくる。もう数え切れないくらい沖くんを受け入れてきたその場所は私の意志なんて全然関係なく、反応してしまうのだ。ずぶずぶっと入り込むものがいつもよりも大きくて熱い気がした。そして休む暇もなく、激しく動き始める。そうされるともう私は自分の意志が自分ではコントロール出来ない。いつもよりも何だか気持ちよくて、どうしようもない感じ…沖くんが違うから? それとも私が…? ええん、どうしたらいいのよ〜〜〜!!

 両足をがっしりと固定されて腰が浮いて。その状態で休む暇のない波があとからあとから押し寄せてくる。沖くんの動物みたいな激しい息づかい、それがさらに気をたかめていく。そして、酔ったときは沖くん…長いんだよな、私がのぼりつめて叫んでも全然やめてくれない、ひたすらに動いている。もうどうなっちゃうんだろう、私。

「梨緒ぉ…いいよ、いい…最高にいいよ…!!」
 そう叫んで、沖くんが突然、ぎゅうっと抱きついた。

「は…あっ…!!」
 ぼとぼとと降ってくる汗に続いて、沖くんの身体が倒れてきた。重い…!! めちゃくちゃ重い!! そのまま、息も出来ないくらいの圧迫感に死ぬかと思った。

 そりゃ、足の付け根がじんじんして、頭の奥がボーっとして身体と心が一緒に気持ちよくなったみたいな感じだったけど…その次の沖くんのひとことで、私は一気に現実に引き戻された。

「あ、ごめん。梨緒、…出来てたら、堕ろして」


 …で、その後、半月たって。いつもだったら、きちんと30日周期で来る生理が来なかったのだ。

 

 1日目はそれでも静観していた。

 …2日目になってもまだ余裕があった。

 ……3日目になるとちょっと怖い。

 

 さすがの沖くんも不安らしく、何度も聞いてくる。でも来ないものを来たとも言えない。私としては出来たなら産みたい。でもさすがに6人目はきつい。だからきちんと避妊しようって…末っ子の央太(おうた)が出来たときに二人で手に手を取り合って泣いたのを忘れたのか、全く。

 

 4日目は考えただけで気分が悪くなって仕事を終えて戻ると寝込んでしまった。夕ご飯はレトルトのカレーだった。沖くんがとても寂しそうな顔をして黙って食べているのが印象的だった。

 

 5日目、ようやく生理が来たときはもうがっくりと脱力。

 

 日曜日だったので大盤振る舞いに家族7人で回転寿司に行ってしまった。7人だと1万円ぐらいかかる。沖くんがビールを3杯も飲んだのが大きいと思うけど。480円のお皿のボタンエビを私は2つも食べた。ついでにジャンボホタテも食べた。二人してキレていた。

 

◆◆◆


 やはり、明るい家族計画。

 避妊は子作りを終えた夫婦にとっての大切な問題だと思う。小学校教師用に配布された資料によると、堕胎は10代と40代に多いそうだ。要するに失敗して堕ろしてしまう夫婦が多いと言うことでコレはゆゆしき問題だ。

 

「ねえ、こんなのはもうたくさんだわ。明日でもちゃんと買ってきてよ」

「やだ、面倒くさい。梨緒が買ってくりゃ、いいじゃん」

「そう言うのは普通、男が買ってくるもんでしょう…??」

「人妻が今更、照れることもないじゃん…!!」

 ちょっとむかつく。

 おいおい、誰が私を人妻にしたのよ。10年も独り占めして古女房と言われる部類にしちゃったのよ!?

「だって、私が付ける訳じゃないもん。やっぱ、本人じゃないとどれがいいかなんて分からないでしょ?」

「そんなの、どれだって大差ないって。梨緒だって分かんないだろ?」

「ちょっとぉ〜〜〜〜!!!」

 サッカー中継を観ている沖くんをごろごろつついたけど埒が明かない。そして半月たっても買ってきた形跡はない。私はもうあんな恐怖はたくさんだ、いい加減にしろと言う感じ。

「だったら、もう、しないから!!」

 そう言いきりたいのに、悲しいかな。女の性か…逃れられないものがあるのよね。やっぱ求められれば嬉しいし同意してしまう。私たちは似たもの夫婦だとつくづく思う。

 

◆◆◆


 ぎゅうぎゅうに同じような色違いの箱が詰まった陳列棚は4段。カップルが通り過ぎてすぐにぎゅっと目を閉じたまま、手を伸ばしてささっと触れた箱を握りしめた。そして、さっき入れた「わさビーフ」の下にぎゅうっと押し込んで一目散にレジへ急ぐ。そして若いお兄さんのいる方は避けて、私と同じくらいの女性店員のレジに並んだ。

 前のお客さんのカゴがだんだん空になっていくのを見ながら心臓がばくばくしている。飛び出してきそう。どうしよう、やめちゃおうかな。いや、駄目だ、ここは「明るい家族計画」これは越えなくてはならない私のための障害だ。頑張れ、頑張るんだ、梨緒。こんなの出産時の痛みに較べたら何てこと…。

「どうぞ〜」
 スマイル0円じゃないんだからさ。底抜けに明るい店員さんの笑顔にそそくさとカゴを台に乗せる。すると彼女はのんびりと「198円です、88円です…」とバーコードを探しつつ、レジをやっている。そしてとうとう、問題のブツが現れる。

「980円です〜」

 …で、どうしてわさビーフの隣りに平然と置くの? コレはとろけるカレーではないんだよ、あの、いわゆる…アレなんだけど。お姉さん!! 頼むよお〜〜〜!!

 私の心の嘆きなど聞き入れてもくれない。お姉さんはブツを台の上に並べたまんまレジ作業を続けた。そのうちに私の後ろに次のお客さんが並ぶ。斜めに振り向くと、大学生ぐらいのお兄さん!! ぎゃあ〜!! 勘弁してよ、コレって「私はやってます」って言ってるようなモノじゃないの〜〜〜!!

「2256円で〜っす」

 心の叫びは届かず。そのままお金を渡してお釣りを貰うまで…メタリックグリーンの箱は明るい店内照明の元、燦然と輝き続けていた。

 

◆◆◆


 その晩、沖くんが戻るまで…マツキヨの銀色の買い物袋(一応、生理用品と同じように表から透けない袋にしてくれたらしい、いつもはまっきっきの袋だから)はそのまんまタンスの部屋に転がして置いた。生ものだけは抜いたけど、さすがに。

 

「…買ってきたから」

「…へ?」

 お帰りなさいも言わず。いきなり買い物袋を指さす。

「買ってきた」

「…? 何を?」
 沖くんはがさがさと袋の中を探る。とろけるカレーとわさビーフといちごのポッキーの下に入っていたものを見つけて、ふふん、とハナで笑う。

「…何よ!! 死ぬほど恥ずかしかったのに!! その反応許せない!!」

「だって…梨緒」
 沖くんがくすくすと笑いながら、恥ずかしい箱を取り出す。

「この、キャッシュバック2千円って…何なの?」

 よくよく見ると、懸賞応募のシールが貼ってある。

「ち、違うもん!! そんなの見てないもん!! …目をつぶって取ったんだもん!!」

 真っ赤になって俯いてしまう。今日の恥ずかしかったこと、情けなかったこと、やるせなかったこと…たくさんたくさん浮かんできた。口惜しくて涙がちょちょ切れる。

 すると、ぽんっと頭のてっぺんが暖かくなった。…え?

「大変良くできました」

 顔を上げると、沖くんがいつものようにニコニコと笑っていた。

 

◆◆◆


「…でさ、どうしていきなりなわけ?」

 その夜。当たり前みたいにパジャマのズボンだけ脱がされて。上はボタンも外さずにたくし上げられて。何だか即物的で嫌な気分。ぎゅーっと、開かれた足を強引に閉じる。膝小僧をぴたっとくっつけて。

「今日は、大変だったんだから。たくさんたくさんサービスしてくれなかったら、やだ。許さない…!!」

 思いっきり睨み付けたのに、沖くんはにやりと笑って。そしてお尻の方からつるんと手のひらを差し込んでくる。

「…きゃう!! やあっ!!」
 強引に腿の間に滑り込む手のひら。素早く反応してしまう自分が悲しい。

「梨緒…」
 とりあえずね、って感じで一応胸に手をやって。私が声を上げちゃうふうに上手に手のひらが動く。

「サービスって…梨緒のここ。もう準備できてるの、入れてくださいって言ってる…」

「え…ええっ…、やだあ…!!」
 胸のてっぺんの固くなったところをすりすりされながら、そんな風に耳元で囁かれたらもう駄目かも知れない。

「口で言わなくてもね、こっちは正直なの。俺が手抜きしてるんじゃなくて、梨緒が誘うんだから…いつもいつもそうなの」

 …もう。調子のいいこと言って。信じられない、この人。そう思うのに、身体の奥の方が沖くんの言葉に反応するみたいに、とろんとしてくる。ああ、もう、恥ずかしい。嫌になっちゃう。

「…じゃ、早速行きましょうか?」

 真っ赤になった私に余裕の微笑みを浮かべて。するするっと頬をなでてくれて。そして。

 沖くんは慣れた手つきで、箱から袋を取りだした。

 

おしまいです(20020613)

Novel Index音楽シリーズTop>10年目の旋律

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