TopNovel短篇集・2 Top>遠ざかるアリス・2


scene 2…

 

 

 異性間の友情なんて成り立つはずがない――それは世間一般の常識のように言われている。

 でも。私と健一に限っては、それが可能だった。お互いの近況報告をしていれば、どうしても恋愛話ははずせない。そのほとんどはこちらが一方的に話していただけだったけど。そんなときも、私は他の女友達……と言っても、恭子と玲香しか思いつかないけど……と対しているのと同じ感覚でしゃべっていた。

 

「取引先の事務員の女の子で、すごく可愛い子がいるんだけど」

 何年か前、そんな話を健一から切り出されて、とても驚いたことがある。考えてみれば、恋愛話をするのはほとんど私だけで、彼からは浮いた話などひとつも告げられていなかったのだ。

「へ……え。健一も隅に置けないわね。仕事頑張ってるのかと思ったら、結構、余裕があるんじゃないの」

 いつものように、軽く切り返して、ふと隣の横顔を見つめた。その場に他の仲間がいれば、一緒になってからかってくれたんだろうけど、その時もふたりきりだったから。あんな風にほころんだ幸せそうな照れ笑いを見たのは、私ひとりだった。

「ひとり暮らしって、何かと面倒でしょ? そっか〜、ご飯作ってもらったりするんだ。洗濯とかも? すごいね、一気に昇格だー」

 その頃、恭子と篤郎の結納の話が出ていた。どうも、出来ちゃったらしい。20歳をちょっと出ただけで結婚しちゃうなんて、女の恭子はともかく篤郎には早すぎる気がする。でも、高校の頃から付き合ってるんだし、親同士でもいいんじゃないかと思っていたみたい。渡りに船って言うんだろうね。

 そんなときだったから、健一も「負けるもんかっ!」とか気張ったのかな〜って、思ったんだ。

「馬鹿言え、そんなじゃないよ」
 健一は私の予想に反して、憮然とした顔で振り向いた。への字に結んだ口元、額に中途半端に掛かる髪を面倒くさそうにかき上げて。

「そんな一気に行けるはず、ね〜だろ? まだ、単なる顔なじみ。挨拶しかしたことないんだよ」

 拗ねるような口調に、思わず吹き出してしまった。健一はムッとした表情になったけど、一度湧き上がってしまったものはなかなか止まらない。だって、すっごく健一らしい。好きな女の子を器用に口説けないで、悶々としちゃって。恭子たちが、いきなり一人前になってしまった気がして、寂しいなとか思っていたんだ。それだけに、変わらないままの彼にホッとした。

「良かった〜、健一までいきなり結婚するとか言い出したら、どうしようかと思ったよ。こういうのって、連鎖反応だって言うもんね? あんたも、家でおばさんとかに言われるでしょ」

 くすくす笑いをこらえながら、それだけ言った。健一は元の通りに顔を背けると、夕日の中に沈んでいく町を見つめた。

「――ライヴに、誘われたんだよ。あっちから」

 すっごくさりげない感じで、そんな風に言うから。もうちょっとで、聞き逃すところだった。丁度、5時の時報を告げる無線放送が辺りに響いて、山に反射して、谷は音楽の渦に満たされる。

「へ、……へぇ、すごいじゃない。あっちもその気があったんだ、良かったねぇ」
 ここは友人として、一緒に喜ぶべきなんだと思った。なのに、いい言葉が浮かばない。ありきたりな情けない台詞に、自分でも悲しくなった。

 けど。話はそこでは終わらなかった。横を向いたまま、健一はもうひとつ、私に訊ねてきた。

「女って……そう言うとき、どんな風にしていれば喜ぶんだろう?」

「えっ……?」

 言葉の意味がよく分からなかった。だから、聞き返すしかなかった。まさか、直接的なことを聞いてきているんじゃないだろうとは思ったけど……分からないし。

 私の戸惑いに、彼の方も気づいたのだろう。慌てて言葉を付け足した。

「あ、ゴメン。何しろさ、女の扱いなんて知らねーし。野郎と同じようにしてたら、嫌われるかなって」

 ――あ、何だ、そうか。びっくりした、思わず、すごいことを想像しちゃったじゃないの。

「うーん、そうねえ。あまり優柔不断なのも良くないわね。こっちの意見を聞いてくれることも大切だけど……決めるところは決めてくれないと。ちょっとくらい強引な方が、ぐっと来るかな?」

 そのあと、どんな映画を見るのかとか、その後の食事はどうするのかとか、そんな話をした気がする。

 全然知らない第三者の話をしているのに、何となく私自身が健一と一緒に大きな街を歩いているような妙な気分だった。あそこで健一とすれ違わないのが不思議なくらい、私もあの街には何度も行った。もちろん、別の男と。だから、建物の位置とか、雰囲気とかも全部分かっていたし。

 

 その後、健一がその彼女とどうなったのか、知らない。私も聞かなかったし、彼も話さなかった。

 相手がどんな人と付き合っているかなんて、私たちにとっては大きな問題じゃなかったんだ。ただ……こうして、時々、健一がここに戻ってきて。そして、この丘で再会して。それだけで良かった。

 

◇◇◇


 お正月明け。あちらこちらで落ち葉たきのきな臭い香りが漂っている。仕事始めの夕方、車庫にある青い車を見つけた。お正月は交代勤務で戻ってこられないって言ってた。

 ――どうしよう、かな。

 いつもなら、すぐにきびすを返してあの丘に向かうのに。今日の私は、健一の無言の挨拶を見なかったことにして、戻ろうかと考えた。誰もいない、真っ暗なままの我が家に。

 因果なことなんだ。町の真ん中に行くには、どうしても健一の家の前を通る。行きも帰りも。私が勤めている小さな工場は商店街の裏手にあったから、健一の帰省を確認するのは簡単だった。

「……あら」
 立派な造りの長屋の先で思案していると、家の中から人影が出てきた。私を見て、驚いた顔をしている。そんなにいちいち過剰に反応してくれなくてもいいのに。

「お帰りなさい、彩音ちゃん。――健一なら、学校の裏山に行くって言ってたわよ?」

 それだけ言うと、サンダルの音を響かせて行ってしまう。夕方の買い物なんだろうか? エプロンを掛けたまま、この町の風景に溶け込んでいる人。彼女は私の母親と同級生だったと聞いている。この町で生まれて、この町で大きくなった。それほど親しくもなかったらしいが、顔なじみには違いない。

 子供の頃は、母の方がずっと綺麗だし若く見えると思っていた。でも……母の最後のやつれように比べたら、彼女のなんと生き生きとしてはつらつとしていることか。

 羨ましいな、と思った。りんと伸びた背中を見ながら。あんな風に、生きて行けたら幸せだというのだろう、この町では。しっくり風景に馴染んでいる彼女と、最後まで異分子として受け入れられなかった私の母。何が悪かったと言うわけでもないのに、この町は私たちには冷たかった。

 ……おばさんだって。

 今、出てきた健一のお母さんのことを思う。表面上は「息子の同級生」という感じで、私に対してくれる。でも……心の中ではどう思っているのか、考えたくない。気が付くと迎えに来る男が替わっている、そんな年頃の娘を温かい目で見てくれる人間はこの町にはいないんだから。

 


「よっ、久しぶりっ! 他には誰もいないんだってな〜っ、俺が戻ってくるまで待っていてくれって感じだよ」

 冬至を過ぎて、少しずつ伸びてきた夕暮れ。そんな真っ赤に染まった丘で、彼はいつも通りに振り向いた。あまりにも変わらない姿が、何故か胸にじんとくる。

「仕方ないじゃない、健一がきちんと戻ってこないからよ」

 中学を出てからは、何となくお盆とお正月に再会するだけの6人になっていた。でも、その数もなかなか揃わない。玲香や修司は三が日どころか、2日には帰ってしまうし、恭子と篤郎はもう所帯持ちだから、年始回りとかいろいろあって。子供もいるから自由になれないみたい。
 それでも、毎年、予定があった人数で新年会をしていたけど、今年はそれもなかった。よく考えたら、そう言う席を一番大切にしていたのは健一だったから、彼がいないと話がまとまらないんだ。

「玲香は卒論なんだって。あの子、4年生でしょ? 何しろあとから大学に入り直したし、なかなか就職口もないって、嘆いていたわ。修司も昨日まではいたんだけど、仕事始まるから。恭子と篤郎は商工会の温泉旅行だし」

「だりぃ〜なあ。みんな、楽しくね〜ぞっ……」

 そこまで言うと、コートのポケットに両手を突っ込んだままで、彼は振り返った。白い息が、ふわふわと辺りに漂う。日が落ちる頃になると、ぐっと冷え込む。鼻の頭が赤くなってた。

「……で? お前は、どうした。お前だって、いろいろ忙しいんじゃね〜の? こんなところで油を売ってる暇もないだろ。式の日取りは決まったのか?」

 夕焼けの空に背を向けている。だから、表情がよく分からない。きっと、何でもない感じで聞いてきてるんだろう。いつも通りに。

「……」

 言葉が、出なかった。なんて言ったらいいのか、分からなくて。でも、私が抱えている事実を告げるのはとても簡単だ。まだこの町の噂にすらなっていない、年末に起こったばかりの私の変化を。

「健一の方こそ。試験はどうなったの? 自分から、話しなさいよ。人のことより」

 頭をぐるんと巡らせて、結局は話をすり替えてしまった。彼は、ふっと表情を緩めると、照れ隠しなのか、ポケットからタバコを取り出して火を付ける。白い煙をふーっと吐き出して、こちらに歩み寄る。

「受かった、奇跡的かも。製図には自信があったけど、今回ばかりはな〜。みんなに報告したかったのに、残念だよ。……んでな、丸山さんとウチの所長が話を付けて。4月にはこっちに戻ってくることになったんだ」

 座るか? って、横たわった丸太を指さす。まるで、私たちのための場所みたいに、杉の大木が横たわっていた。誰かが運びかけで放置しているものなのかも知れない。私が頷くと、彼はその左端に先に腰掛けた。

「良かったね……おじさんもおばさんも喜んでいるでしょ?」

 丸山さん、というのは、この町にひとつだけある工務店の名前だ。そこに勤めてゆくゆくは独立するのか、引き継ぐのか。とにかくはUターンの足がかりも出来たと言うことで。だもん、さっきのおばさんの上機嫌も分かるわ。きっと嬉しくて、いつもよりも私に愛想が良くなっていたんだな。

「所長がな、最後に大きな仕事をひとつ任せてくれるって言うんだ。今、やりかけている一般住居なんだけど、その設計を全部俺がやれって。もちろん、家主との話し合いも。今までは重要なところでは上司が主になってくれていたから、戸惑うことばかりなんだ」

 動物病院を兼ねた二世帯住宅。3階建てで、傾斜の土地。さらにバリアフリーの仕様にして欲しいとか、様々な要求もあるらしい。正月には同居予定の息子夫婦も同席できると聞いて、健一は何度もその家に足を運んでいたと言う。

 家主がこれがいいと言って、決まりかける。ホッとして、その帰り道は浮き足立っていた。でもそうすると、その夜、息子さんの方から電話が来て、あれはまずいから変えて欲しいと言い出す。キッチンのことになると更に複雑で、ギスギスした家庭の内部事情までかいま見る結果となってしまった。今もアイランド式のキッチンにして欲しいというお嫁さんと、それは嫌だというお姑さんの間に挟まれて、困り果てているらしい。

「家造りは、一生に一度の大事業だからな。それにこのごろでは、息子の代までローンを組む例も少なくないし。だから、ひとりの考えで造った家では駄目なんだ。リフォームとかも視野に入れないといけなくなるしね……金銭的な面を考えれば同居もいいかと思うけど、暮らす人間にしてみると、そんな簡単なことではないし、難しいよ」

 そうやって、ため息をつくのに。全然辛そうじゃない。……そうだね、健一は夢に向かって走っているのだから。ずっと自分で暖めてきた将来のビジョンをひとつひとつ確実にモノにしている。その確かな手応えが、彼をさらに勇気づけているのだろう。

「健一、楽しそうだね」

 心から、そう思った。思ったままを口にした。幸せそうな友達を見るのは、楽しいことだ。だから、私も一緒になって喜ばなくちゃならない。無理に作った笑顔がすごく歪んでいる気がして、悲しい。取り繕うとしても感情はなかなか私の思うままにはなってくれない。

「何、言ってんだよ……お前だって」
 何も知らない健一が、呆れたように言い返す。

「おい、そう言えば。さっき話が途中だったぞ。お前の結婚式なら、友人として参列しなくちゃならないだろ? こっちだって忙しいんだから、早いところ時期とか日程を教えてくれないと――」

 

 馬鹿。何も知らないで。

 ううん、知らないのは当たり前、だって健一はこの町にいないんだし、私に起こった変化なんてまだ誰も知らないんだし。

 知らないなら、知らないでいいじゃない。玲香から年末に電話を貰ったときも、はぐらかす事が出来た。学校が大変なときに、変なことで惑わせたくなかったから。こんなのは事後報告でいいんだ。私だけの問題なんだから。

 

 しばし、沈黙した。どうにかして、ここを切り抜けることが出来たら、あとはどうにでもなるんだ。夢にもう少しで手の届きそうな健一。それを笑顔で送り出すことが出来たら。それでいいのに。私が、彼に出来るのは、それだけだ。友達として、いままでの全てに感謝を込めて……。

「――別れた」

 自分のものではないような、低くてかすれた声だった。でも、次の瞬間。驚いた顔の健一がこちらに振り向いたときには、私はもう笑顔に戻っていた。

「と、言うわけで。もしかしたら、健一の方が私よりも早く寿マークになったりしてね。来年は写真入りの年賀状になっちゃうかもよ? おばさん、張り切ってるんじゃないのかな、今頃商店街で買い物しながら嫁探ししていたりして……」

 冗談にならないかもしれないな。だって、同級生の篤郎が結婚してパパになっちゃったことをすっごく気にしていたもん、おばさん。恭子とか、散歩してるといきなりベビーカーごと拉致されるって嘆いていたっけ。まあ、どこの母親もそう言うところがあるのかも知れないな。

「ちょっとっ! 待てっ、そんな風にしゃべってる場合じゃねえだろっ!? どういう事なんだよ、あいつがどうしたんだ。だって、葬式の時はあんなに……」

 こっちが明るくしてるのに、何でマジになるかな? 人間、触れられたくない傷もあるんだよ。それに、次に健一が戻ってくる頃には町中の噂になってるから、嫌でも耳に入るって。

 だからいいじゃない、私のことなんて。

「別れたの、――それだけよ」

 ほんのりと微笑みすら浮かべて。私は彼の前に、主をなくした左手を差し出していた。

 

 この指にはまっているものを、みんなに披露したのは、去年の夏。まだ母の生きていた頃だった。確か実習か何かで玲香はいなくて、でもあとの5人であの丘にいた。

「すげー、これっていくらするんだ? 給料の3ヶ月分とかじゃ、なかったっけっ」
 隣にいる恭子を見ながら、篤郎がうわずった声をあげた。素人が見てもすぐに分かるように、ふんだんに宝石がちりばめられたそれは、私の幸せの象徴だった。

 きらきらと光るリング。正式なエンゲージではなかった。でも、あの人の両親にも何度もお会いしていたし、全ては順調だった。
 いくつも貸しビルの経営をしているその町でも特に資産家と言われている家。あの人は次男だったけど、ビルのひとつの管理を任されていた。本当にほとんど仕事もしないのに、月に私の年収の何倍もの家賃が入ってくるのだ。最初に話を聞いたときは、真面目に働くのが馬鹿馬鹿しくなった。

 母親に治る見込みのない病名を告げられて、その頃の私はちょっと焦っていたのかも知れない。どうにかして、幸せになりたい。幸せな娘の姿を母親に見せてやりたかった。故郷の小さな病院では処置が出来ず、あの人の住む街の総合病院に移されて、母の見舞いに毎日訪れながら、親しくなっていったというのが本当だ。病室にだって、何度も入って貰った。

 ただ……あの人のお兄さんがまだ独り者で、だから弟の方が先に嫁を貰うのは体裁が悪いと先延ばしにされていた。そのうちに、母は亡くなってしまって。あの人もとても悲しんでくれた。もちろん、葬式の費用は母や私の貯金でまかなったけど、常に傍にいて私を気遣ってくれたのはあの人だったから。ずっと参列してくれていた健一だって、それをずっと見ていたはずだ。

 

「身軽になっちゃった……だから、もうどこにだって行けるの。ここから連れ出してくれる人なんて、必要ない。私は自由になったのよ」

 この町が嫌いだった。漂う空気も、行き交う人々も。こんな場所、いつか出て行ってやると思っていた。でも……母がいた。父がいなくなったあと、たくさんの人のそしりを受けながらも、この地を離れることなど考えもしなかった人。

 だから、お金持ちが相手ならいいと思った。だって、それなら今まで私を蔑んできた町の人たちに一泡吹かせてやれる。そして、私だけじゃない、母のことだってちゃんと受け入れてくれるだろう。言い寄ってくる男はたくさんいた。でもなかなかコレと言った人はいなくて。ようやく……あの人ならって、思ったのに。

「彩音……辛かったんだな」
 健一はそう言って、自分の方が苦しそうに顔をしかめた。細くなった目が、私をじっと見つめるのに耐えられなくて、目をそらす。

「そんなこと……」

 ないよ、って言いたかったのに。健一が隣にいるって思っただけで、もう自分を止めることが出来なくなっていた。母が死んで……あの人が去っていって。私にはもう何も残っていなかった。

 顔を覆って、泣き崩れた私の隣で、彼はタバコをくゆらせていた。それが3本4本と踏みつけられていく。その香りまでが、健一の存在を示しているみたいで、たまらなかった。今、傍らに確かに感じられる鼓動、ぬくもり。

 

「結局は、……いいとこのお坊っちゃまだったのよ、あの人」

 辺りが闇に包まれた頃、ようやくそう言うことが出来た。再び開いた視界。とっぷりと暮れた町にちらちらと灯りがともっていた。大きな街の夜景には遠く及ばない、でも確かにあのひとつひとつの光の元に誰かが微笑んでいる。

 ……私を、待っていてくれる灯りは、もうこの町にはない。

 葬儀のためにこの町に滞在して、あの人が感じ取ったのは私たち親子に対する人々の冷たい視線だった。今までの人生の中で、そんな風に扱われたことなんてなかった幸せな人。……急に怖くなった、と最後に言われた。

 ただっぴろい野原に照明なんてないから、闇の向こうにいる彼の表情も見えない。泣きはらして、お化粧が崩れた顔だって平気なんだと思うと、ようやく元気が出た。

「あのさ、……健一」

 ふわん、と浮かび上がったもの。白っぽい彼のコートの袖を取る。

「ふたりっきりだけど、お祝いしよう」

 そのまま、彼の腕にしがみつく。……返事はなかった。


 

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