第3章に戻る 第5章に進む 勉強部屋に戻る ホームに戻る


  第4章 在宅就労中の障害者の意識調査

1.調査目的・方法

 第3章では障害者の在宅就労の現状をみてきたが、実際に在宅就労を行っているっている障害者は、どういうプロセスを経て在宅就労にたどり着き、何を感じ、将来はどうしたいのであろうか。現状では在宅勤務者やSOHOである障害者の数が少ないと思われるため、今回は量的調査ではなく、ケーススタディとして在宅勤務者・SOHO各3人、そのうちパソコン使用時に障害を補う道具・ソフト等(以下、「自助具」と略す)が必要な人各1人、計6人に聞き取り調査を行った。
 調査期間は2000年8月1日から9月26日までで、7月30日にWeCAN!が運営する「WeCAN!公開メーリングリスト」および林美恵子氏が運営する「身障者生活情報メーリングリスト」に調査の主旨等を送付し、被験者を募集した後、個人的に依頼した。なおBさんについては、「パソコン使用時に自助具が必要な人」で在宅勤務者がみつからなかったため、Aさんにお願いして紹介していただいた。
 調査方法は、ワープロソフトで作成した調査票のファイルを被験者にEメールで送り、回答してもらった後、個別にEメールで詳細を聞く形をとった。
 調査結果は以下の通りである。

 2.調査結果

    (プライバシー保護のため調査結果は公表しません)

 3.調査結果よりわかること

(1)在宅勤務・SOHO共通の調査

 パソコンを始めるきっかけは仕事がらみである。在宅勤務者は「在宅就労をするために」、SOHOは「勤務先でパソコンを使うことになった」、あるいは「勤務先にパソコンがあったから」であった。これは在宅就労を開始する時点での仕事能力の習得方法と深く結びつく。在宅勤務者は「在宅パソコン講習を受講して」、「社員教育を受けて」、SOHOは「勤務先での仕事経験、研修などを通じて」仕事の能力を身につけたという。本での学習や博覧会への参加など、もちろん自らの努力なしで在宅就労はできないということも調査でわかったが、それと同時にパソコンの技能習得ができる環境や、実務で学べる環境がないと、難しいということもできる。
 自助具を使用しているBさんとFさんの自助具の情報源は、トーコロとインターネットによるものであった。ただし、Bさんはパソコンを始める前からワープロで授業のノートをとっていたということ、Fさんは入院中リハビリでパソコンを使用していたということから、ある程度経験に基づくものや医療関係者からの情報が得やすかったともいえる。
 「仕事」をしている理由は、「自分の能力・経験を活かすため」や「社会とのつながりをもつため」、「生きがい」という回答が多い。もちろん「生活を維持する収入を得るため」や「副収入(小遣い)を得るため」という経済的なものもあるが、それより社会的・精神的な理由が多いのは、重度障害者の多くが障害者基礎年金を受給していることにも関係あると思われる。障害者基礎年金だけでは生活していくことはできないものの、体に無理がたたらない程度に働くにはありがたい収入である。それなので、経済的理由より社会的・精神的理由が大きくなるということであろう。
 被験者6人のうち4人は、仕事確保や情報交換のため、また相談相手あるいは仲間を増やすため、何らかの人的グループやサークルへの参加・運営をしている。これは在宅就労が地域住民や仕事仲間の協力が必要であることを示している。またパソコン講習の後輩の質問に答えたり、自らパソコン・ボランティアとして活動していくことによって、他の人の可能性を広げることにもつながり、自分たちの経験を還元するという意味ももつのではないか。
 パソコン等の使用における精神的ストレスについて、6人全員、「仕事の相談相手が欲しいとき」か「人と話、雑談がしたいとき」かのどちらかを挙げている。他の選択肢の「長時間パソコン作業をしたとき」、「仕事がうまくいかないとき」、「締切が近いとき」はオフィスで他の人と一緒に仕事をしている場合でも考えられるが、上記2つは在宅就労の特徴が出ているものであろう。
 パソコン等の使用の身体的負担の配慮は「自分ではどちらかといえば気を付けている」が多く、健康状態は6人とも「健康である」もしくは「どちらかといえば健康である」と答えており、身体的負担の配慮や健康管理への意識は本人たちにはあるようだ。肩凝りや眼精疲労を感じるということが多いのは、パソコンを使っているので、しかたがないかもしれない。しかし指導特殊健康診断(VDT関係)は皆無、一般健康診断を受けた人は1人であった。労働安全衛生法で、「事業者は、労働者に対し、労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。」と定められているので、特に在宅勤務者を雇用している会社は、一般の勤務者と同じくその義務があるはずである。逆にSOHOはそれも含めた自己管理が必要である。
 またパソコン作業で生じる身体的症状としては、「後頭部から背中が痛くなることがある」「腕が動かなくなることがある」と、こちらで考えていなかった回答もあった。比較的仕事にノルマがある重度な障害のある人が訴えていたことから、仕事の量的問題もあるが、キータイピングのやり方など障害からくる問題が大きいと思われる。

(2)在宅勤務者に対する調査

 入社したきっかけは3人とも、「トーコロ」あるいは「中学時代の先生」に紹介されたというものである。3人とも在宅勤務を前提にして入社、在宅労働時間は週5日、勤務時間は固定しており、会社にはほとんど出社しないということが共通である。
 仕事に関しては、Aさんはモニターのマネージメントで、ある意味では「単独ですべて任されている」業務であり、ノルマがなく自分のペースで進められ、仕事量にも満足している。BさんとCさんは会社内の業務の流れの一部であり、社内の業務に合わせてノルマもあり、仕事量にも関係している。
 会社への報告・報告内容は、Aさんが「報告事項・確認事項があった時のみ」、Bさんが「開始時と終了時に当日の仕事進捗や体調を報告する」、Cさんは「終了時に当日の仕事進捗を報告する」と答えており、これも業務内容に関係している。ただ報告の際のメディアの使い分けについては、電話は急な用事、FAXやEメールは急を要しなく文章に残すほとの重要な用件、とほとんど同じ回答であった。
 年収について、AさんとBさんは満足していると答えているが、Cさんはやや不満であると答えている。これは、BさんとCさんはだいだい同金額もらっていると答えているが、入社時期に5年ほど差があり、昇給がほとんどないのではないかと推測できる。しかも「『仕事』をしている理由」で、Bさんは「副収入(小遣い)を得るため」、Cさんは「生活を維持する収入を得るため」と答えていることに関係がある。さらに障害者手帳の等級は同じであれ、BさんとCさんは障害の程度が違い、支給される手当(特別障害者手当など)の有無ということも関係があるのではないか。
 作業環境に関して、在宅勤務者の全負担か一部負担かは、それぞれの事情や雇用されるまでの経緯があるようである。しかし設備の交換についての会社との契約は3人ともないと答えている(Aさんは全負担することが契約の内容だったのかもしれないが)。ほとんど会社の負担のCさんでさえ、契約はないと答えているが、業務で使う機器の買い替え・メンテナンスのしかたを曖昧にしたまま在宅勤務を行っているようである。
 在宅勤務の良い点は3人とも「通勤できなくても仕事ができる」「自宅なら自分にあった作業環境がある」を挙げている。Aさんはその他に「体調にあわせて、作業ができる」と言っている。通勤(外出)・設備・介助・体力で問題をもつ重度障害者にとって在宅勤務は有効であるということが調査でもわかる。
 在宅勤務の悪い点については、3人とも、「コミュニケーションがとりにくい(仕事の指示がわかりにくいこと)」「職場の雰囲気がつかめない」「1人の作業が孤独」を挙げている。その一方で、会社の方たちとの交流・コミュニケーションの満足度は3人とも「こんなものだと思っている」と答えている。しかし、Bさんは会社に対して「勤務に関して不安や不満を感じたとき、話し合える場がほしい」、Cさんは「人としてのコミュニケーションや成長などを考えると、会社の設備面の改善など、障害者も社内で働きやすい環境を整えていくことも考えて欲しい」と言っており、「こんなものだと思っている」というのは諦めに近いものではなかろうか。在宅勤務であろうと、会社の一員としてコミュニケーションの場が必要であるということがわかる。
 将来の希望については、AさんもBさんも体力のことや将来のことも考え、安定したペースで働ける在宅勤務のままがいいと答えている。比較的障害の程度が軽いCさんは通勤できるところに転職しようかと考えている。ただSOHOという働き方については、「SOHOができるだけの、実力(技能・職能)がないから」選択しないと答えている。転職についても具体的な行動はしていないということである。転職にしてもSOHOにしても勇気がいることであり、勇気を支えるスキルアップの方法や仕事に関してアドバイスをしてくれる人もいないのではないかということが推測できる。

(3)SOHOに対する調査

 会社員等としての勤務の経験年数は3人とも10年以上であり、勤務をやめた理由は主に「体調を崩したため」「結婚したため」「障害者になったため」と異なるが、社会人として実績を積んでからSOHOを行っている。SOHOをやっている期間も1〜2年から2〜3年と比較的に最近なのも共通点である。
 SOHOを開始するにあたりかかった費用について、Eさんは10〜19万円、DさんとFさんは50〜99万円と答えている。Eさんは退職前から自宅でパソコンなどを使っており、その分SOHOを開始する費用は少なかったのではと思われる。いずれにしても、SOHOといっても開業資金はある程度まとまった金額が必要であるということである。
 「最初」の依頼主について、DさんとEさんは「以前の勤務先」で、現在の最も仕事量の多い依頼主も「以前の勤務先」という。1997年に日本労働研究機構が行った調査でも、以前の勤務先のコネクション(計約4割)や勤務先以外のコネクション(計約3割)で、最初の仕事を獲得するということから、SOHOを開始・続行する場合でも、以前の勤務先や何らかのコネクションの有無は重要といえる。そう考えるとFさんの「最初」の依頼主を「自分で営業」して獲得したことは並々ならぬ努力が必要だったのではないか。
 仕事の確保状況や仕事量はまちまちであるが、仕事量の満足度と年収の満足度は3人とも「不満」であると答えている。DさんとFさんは、仕事量は全く反対であるが、仕事量も年収もかなり不満ということである。仕事量の調整が難しいのは、SOHOが依頼先の発注量に従って仕事量が決まるからであり、しかもその多くは提示された日時までに仕事を完成させないと、今後の受発注の関係に大きく影響するからである。また収入は、出来高か所要時間かを考慮するとしても単価によって決まるので、非常にシビアである。「単価を見直して定期的に発注してもらう」Eさんのように、働き方をもみつめた"戦略"が必要といえる。
 報告の際のメディアの使い分けについて、DさんとEさんは、電話は細かな打ち合わせ、FAXは「入稿・校正」あるいは「物件の大まかな指示をもらいたい時に」図をみて確認、Eメールは納品やデータ交換に使っている。電話回線でのやりとりで打ち合わせから納品にいたるまでを行っていることがわかる。
 労働時間における自宅以外での仕事時間が全くないか、あっても1〜2割程度であり、労働時間帯は3人とも午後からと答えている。Dさん場合は深夜も労働時間帯であると答えており、一般的な労働時間帯とはあまり関係なく、家事や体調などの自分の生活ペースに合わせて仕事ができるというのはSOHOならではのことである。そのことは「SOHOのメリット」として、DさんとFさんは「生活時間にゆとりが持てる」「自分のベースで仕事ができる」と答えている。
 SOHOのメリットは他に、「家を空けずに仕事ができる」「家にいながら社会との接触が持てる」「地域の人たちとつながりができる」「自分の能力を発揮できる」「自己責任で仕事ができる」「出勤しないでもいい」を挙げている。
 現在困っていることは各人それぞれであった。Eさんは「税務問題」、DさんとFさんの共通した回答は「単価が安い」「大きな仕事を引き受けるための仲間・人材の確保」「ハード・ソフトのレベルアップ」「能力・知識の不足」であった。Eさんは相談する人がいると答え、Dさんは相談はしないが愚痴をこぼせる友人がいるという。だがFさんは相談できる人がいないという。SOHOは作業的にも孤独なのはいうまでもなく、経済的にも独立しているので、仕事仲間や同業者、専門家の相談相手が必要ではないのか。例えばFさんの「(仕事の報酬は)納期の時間的な余裕と障害者というハンディから、単価を上げられないのが現状」ということも、客観的に見てくれる人がいれば妥当な単価を提示したり、納得できたりするのではないか。
 将来の希望はDさんとFさんはSOHOを続けたいと思っているが、Fさんは仕事量の多さと単価の安さで続けるか迷っており、在宅勤務の話があれば進んで引き受けたいと思っている。全体的にみても、DさんとEさんは自ら進んでSOHOという働き方を選択し楽しんでいる感じを受けるが、Fさんは前の勤務先や障害の程度を考慮するとSOHOしか選択できなかったという現実の中で、相談できる人もなく仕事に振り回されている感じを受ける。

第3章に戻る 第5章に進む 勉強部屋に戻る ホームに戻る