「春がざわめいている」

　今日は次女の中学の卒業式があった。子供の卒業式に、僕は出席したことがないし、あまり興味もない。個人的な儀式ならともかく、多くの人数での儀式は気持ちが引いてしまうし、まだ１５歳で振り返ることを主眼とするような形が、どうも性に合わないのだ。ひねた大人になってしまったからかもしれない。まだ入学式のほうがいい。そこには未知の世界が広がっているからである。

　とはいえ、卒業したことは一つの区切りであるし、小さな世界からもう一つ大きな世界へ抜け出せるチャンスである。毎年の年度末から年度初めというものは、いつも新鮮なものである。そこに加えて、中学卒業という地元の小さな世界から見知らぬ人の多い世界へ、というような機会は、ひとつの転換期となりうるのだ。この大きなチャンスともいうべき時に、当の卒業生は、iPhoneにかじりつき、惰眠を貪っておるテイタラク。

　思い返せば、長女もそうだった。高校合格のあと、どうにも浮いた気分は高校に入学してからも続き、つまらないことをしでかして高校で始末書を書かされるくらいだった。それが、高校一年生の夏休みから先輩などに触発されて、俄然楽器の練習に精を出すようになって、毎日始発電車に乗るようになった。つまり、何事も本人がやる気に火を付けない限りは始まらない、ということであり、火が付けばあとは時たま冷水を差すくらいで親の出番は少なくなるというわけだ。次女も、高校に入ってしばらくは時間がかかるのかもしれない。

　この３月、次女のもとにはハガキが届いた。小学６年生だった次女本人の過去からの手紙である。それにはハッキリと書かれてあった。小説家になるのが夢だと。そして、その夢は３年後、漫画家に変わっている。今から３年後にはまた夢が変わっているかもしれない。ただ、絵の技術を高めるために芸術科の美術専攻を選んで高校に入ったのだから、そんなに大きくは変わらないかもしれない。先のことはわからないものだ。

　春、日中の気温が上がるに連れて、畑仕事も手に負えないほどになってくる。種播きは目白押し、植え付けも目白押し、収穫もありがたいことに増えてくるのである。畑の草、とりわけホトケノザなどが野菜を覆うように繁茂してくる。サニーレタスなどは、その貴重な赤色がホトケノザによって色付きが悪くなってしまう。だから、収穫する時には草取りもセットの作業となる。春が人間を動かすのだ。

　人のやりたいことが、例えばサニーレタスの赤だとする。その赤が、いつの間にか繁茂してきた草に囲まれて色あせてしまう、そういうことは世の中に山ほどある。やりたいことが何だったのかすら忘れてしまうこともある。やりたいことは、自分だけでは成し遂げることができないものであり、周囲にどんな人間が存在するかで変化するものだ。ぶれない心を持ち続けるには、相当なエネルギーを常に必要とする。ところが、例えば高校合格とか、卒業とか、ある種の満足感に浸ってしまうと、何ものかに自分自身を蹂躙され、モチベーションを失うことにもなる。そういったことも、春がざわめいている要因の一つかもしれない。

2014年3月20日　寺田潤史

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