野菜を育てることは、一種の狂気である。野菜そのものは狂気ではない。彼らはどこまでもまっすぐであり、太陽や雨、風に従順である。まあ、しかし、どんなことがあっても太陽に向かって生を全うしようとする姿は、人間からみたら狂気そのものかもしれない。言ってみれば、野菜そのものではなく、野菜という植物の生を全うしようとさせる、そのエネルギーに人間からすると狂気を感じる、と言っていいか。

　野菜を、化学肥料で細胞を肥大させて育てること、それもまた別の狂気であろう。自然界にはない営みである。野菜周辺の植物や昆虫を、農薬で皆殺しにする行為、それもまた狂気であろう。ところが、皆が農薬や化学肥料を使ってしまえば、それはもはや狂気と思わないで、当たり前の世界だと感じるようになる。人間が人間を飼い慣らした状態であるが、それもまた狂気である。

　その狂気を排した状態、それが無農薬野菜と言えるかもしれないが、無農薬野菜は農薬を使わない、化学肥料を使わない、という一昔前なら当たり前のやり方を現代に継続させるという困難を具現させるやり方である。その場合に、継続ということが前提となるし、最も重要な事でもある。継続しなかったら無農薬野菜とは言わないのだ。それを続けることは、狂気の沙汰と言えなくもない、と最近は思い始めている。

　野菜は、僕自身である。僕自身の存在をかけて野菜に投影している、という意味ではない。例えば、野菜にほかの野菜よりも大きくなってほしい、と願って育てていない。草や虫と生存競争をして、生き残ってほしい、と思って育てている。草が生えるな、虫は一匹も来なくていい、などと考えたことはない。ただ、雨風も激しく、太陽も容赦なく、あるいは気温の乱高下を受け入れ、季節の中で何とか育って欲しい、と願うことは、これは狂気の沙汰である、と言えるかもしれない。その願いを２５年間続けてきたのである。そうしているうちに、野菜と僕の境目がなくなってしまった。いつも小ぶりな野菜が育ち、いつも飢餓状態で育ち、雨と風を強く受けのだ。

　野菜には、生存競争に何とか生き残って欲しい、他を蹴落とさないでみんなで残るということを願うわけだが、それを自分の子供にも当てはまるかというと、そうでもない。お金がないという理由が最初にあって、それで進学をしたいのなら、お金をできるだけ使わないでトップを狙えるように努力を重ねなさい、というのがひとつの方針である。その努力は、自分の好きな事ならばできるという努力である。その、数年後のトップを目指して努力を重なる、ということは、それもまたひとつの狂気と言えるかもしれない。

　狂気、狂気、というけれど、その意味は捉える人によって違うだろう。僕がしている解釈は、「一心不乱に自分の道を追い続けているうちに、その道において世間と乖離し、自分自身のルーツからなにものかの影響を認められつつ表現してしまう姿」というようなものか。野菜で言えば、一心不乱に太陽を目指して成長し、外界の草や虫に陵辱されながらも太陽だけを見て、そのルーツたる種に存在した遺伝子をその成長とともに開花させ結実させる、というようなことになるかな？ただ、どんな狂気も、合法的であることが必須だ。

2014年11月20日　寺田潤史

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