業務日誌(2003年11月その3)

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11月30日 マイケル・ジャクソンはなぜ勾留されないか

 ちょっと旬を逃してしまった話題ですが、先日のマイケル・ジャクソンの逮捕劇に関して一言。

 ニュースを聞いた方は、「あれ?逮捕されたのに、なぜすぐ保釈で出てこれちゃうの?」と疑問に思いませんでしたか?

 日本からみると、「逮捕=勾留の始まり」で、少なくとも起訴されるまでは身柄拘束が続くという感覚があります。「保釈」が認められるのは、制度上起訴後だけであり、しかも保釈が必ずしも認められる訳ではありません。否認していたりすると、まず当初は認められません。従って、もしマイケル・ジャクソン事件が日本でのことであれば、彼は当面身柄拘束されたままだろうと考えられます。

 しかし、彼の国では、逮捕直後から原則として保釈が認められるため、逮捕というのは、捜査段階における通過儀式の一つに過ぎないのです。

 「犯罪者を簡単に野に放つとはけしからん!」と考える方も多いでしょう。

 でも、ちょっと待って下さい。被告人は、有罪判決を受けるまでは、無罪と推定されるのが、民主主義社会のルールです。逮捕された段階では、未だ「被告人」ですらない「被疑者」です。「犯罪者」と同一視はできません。

 日本の保釈の運用は、まだ有罪と断定されていない「被疑者」に既に「身柄拘束」という懲罰を与えているとともに、この身柄拘束の期間に「自白」を迫る捜査機関のために利用されてしまっています。「自白」しなければ、保釈が認められない。「人質司法」といわれる所以です。

 マイケル・ジャクソンが現在の容疑で仮に有罪判決を受けた暁には、彼は重罰を受けることになるでしょう。そのことには何ら異論はありません。しかし、それまでの間に「被疑者」である彼をどう扱うべきなのか。そこが日本の刑事司法の大きな問題点です。





11月29日 審理は迷走する………

 民事裁判の審理の迅速化のためとして、「計画審理」の導入論があります。

 裁判の当初の数回の期日で、争点整理を徹底的にやり、事件の争点と立証課題を絞り込んだ上、証人尋問に移ることで、早期に審理を進めるという発想です。

 この手法は数年前の民事訴訟法改正のころから徐々に取り入れられていますが、まだまだ全面採用にはいたっておりません。

 その大きな理由に、「裁判は生き物」ということが挙げられます。裁判所だけでなく、当事者といえども裁判の当初から全ての争点と立証課題が見えているわけではなく、相手方の応訴の対応と裁判所の訴訟指揮に応じて新たな課題を見つけ出すという「相互作用」が働くからです。ですから、「計画審理」万能論には容易く与することはできません。

 とはいえ、実際の裁判では、もう少し何とかならんかなあ、と思われる「さみだれ審理」もあります。

 7月3日に争点整理終了。
 9月18日午後1時10分から5時まで集中証拠調べ(原告本人、被告本人)の予定。

 ところが、9月18日当日になって、被告側代理人が10点近い証拠(書証)を追加で提出すると言い出しました。
 私は「不意打ちであり、反証の準備ができない」として、当然ながら反対。

 裁判官の訴訟指揮によって、証拠自体は採用になりましたが、おかげで被告に対する反対尋問の時間が足りなくなり、裁判官の提案で、10月23日午後3時から1時間、再度尋問期日を入れ、被告反対尋問の残りの予定となりました。

 ところが、またしても直前の10月20日になって、被告代理人から10点ほどの追加の書証の提出が。しかも証拠説明書もないため、一見して立証趣旨が全く不明な証拠もありました。

 2度目ですのでもうこちらも譲歩できません。「もう23日までには原告本人との打ち合わせもできない。反証の準備ができない。23日は追加の書証について、被告代理人に追加の主尋問でもやらせてくれ」と、裁判所に噛みついて、23日はそのとおりの進行になりました。

 さすがに裁判官も自体を重く見て、「また2回、弁論準備期日を入れますので、その間に追加の書証は全て出してくれ。それ以後の提出は認めない」として、11月21日、12月5日の2回の弁論準備期日と12月9日の尋問期日を指定しました。

 ところが、です。

 11月21日の期日に被告側は、追加の書証どころか、「新たに反訴を起こす」と言ってきました。それもその日に反訴状を作成して持ってくるならまだしも、これから作るということで。

 さすがに裁判官も呆れて「原告側が異議を唱えるなら時期に遅れた攻撃防御方法の提出と判断する」とまで言い出し、協議の結果、反訴の内容を一部に制限することで当方も異議を唱えないことにし、そのかわり26日までに反訴状を必ず提出すること、という取り決めになりました。

 ところが26日まで待てど暮らせど、反訴状は届きません。どうしたのかと思っていたら、27日になってなぜか「準備書面」がファクスで届きました。

 ??なぜ反訴状ではなくて?と思ってみると、反訴ではなく、当方の請求に対する「相殺」の主張になっていました。

 「反訴」については異議を唱えないという取り決めはしましたが、「相殺」については取り決めをしていません。さて、いったいどう対応してくれましょう、頭を悩ましています。

 この件などは、裁判所は一応争点整理時点で双方の主張整理のレジュメまで作成していますので、裁判所の訴訟進行が甘かったなどとはいえないでしょう。いくら「裁判は生き物」だとはいえ、代理人レベルでもう少し何とかしてよ、というのが正直な感想です。





11月26日 敗訴者負担続報

 11月16日の日誌の続きですが、政府の司法制度改革審議会の司法アクセス検討会において、突然議論が妙な方向に動き出したそうです。

 委員の一人から「訴訟当事者の合意があった場合のみ敗訴者負担導入」論が出され、日弁連が真剣に悩んでいます。

 実際にはこれについても、訴訟前の合意の効力を認めてしまえば、企業対消費者といった事件類型において、約款で予め「敗訴者負担条項」が定められてしまえば一律導入したのと変わらないではないか、という批判が可能です。従って、裁判前の契約による合意は原則認めないといった規制を伴わないと意味がありません。

 仮にこの点が盛り込まれれば、かなり食指の動く案であるとは思えますが、日弁連の中でもこれまで敗訴者負担制度の反対運動の先頭に立って来た方々の胸中は複雑なようです。一種の妥協案に日弁連が踏み出した途端に、足下をすくわれて予想と違うとんでもない案に変容しないか、という危機感があるのは理解できます。

 しかしながら、悪い方向に行く危険があるから絶対に制度をいじらせない、という形の運動では結局の所、「改革」派に押し切られてしまうような気がします。「負けた側に弁護士費用を払ってくれないのはなぜ?」という素朴な疑問に対して、100%説得的な反論ができているのかは、私とてもやや疑問があるところです。そんなわけで、私としては、「合意導入論」でもまあいいかな、と思い始めているところです。




11月21日 即日面接

*本当は金曜日に書くつもりだった内容ですが、飲み会続きで今日になってしまいました(^^;

 本日(21日)は、朝一番で裁判所に自己破産申立事件の即日面接へ。

 この「即日面接」という制度、東京地裁で数年前に始まったもので、代理人がついた自己破産申立事件について、申し立てたその場で裁判官が代理人と面接し、問題がなければ申立本人との面接は省略して破産宣告を出す、というものです。代理人が申立時に申立本人に手続きについてしっかり説明しているという前提の下に行われている手続きです。

 さて、狙ったわけでもないのですが、なぜか今回は同時に5件の破産事件を申し立てることになってしまい、事件記録を持って行くのが大変でした(結局事務局に半分持ってきてもらいました)。もっともうち3件は、法人とその代表者とその妻の方ですので関係事件ですが。
 5件でこれだけ難儀するということから考えると、債務整理の大量受任を売り物にしている某事務所の即日面接なぞはどうやっているのだろうかと心配になります。