むかし をとこ 津の國にしる所ありけるに あにおとと友だちひきゐて 難波の方にいきけり
なぎさを見れば 舟どものあるを見て
難波津をけさこそみつの浦ごとにこれやこの世をうみ渡る舟
これをあはれがりて 人々かへりにけり
むかし をとこ 逍遥しに 思ふどちかいつらねて 和泉の國へ二月ばかりにいきけり
河内の國 生駒の山を見れば 曇りみ晴れみ たちゐる雲やまず
あしたより曇りて 昼晴れたり 雪いと白う木のすゑに降りたり
それを見て かの行く人のなかに ただ一人よみける
きのうけふ雲のたちまひかくろふは花の林をうしとなりけり
昔 をとこ 和泉の國へいきけり 住吉の郡 住吉の里 住吉の濱をゆくに
いとおもしろければ おりゐつつ行く ある人 住吉の濱とよめ といふ
雁なきて菊の花さく秋はあれど春の海辺にすみよしの濱
とよめりければ 皆人々よまずなりにけり