雲と水面

2001年7月9日
ホノルル沖 ビル・フィッシング



      
釣り座のサブロー

          手前の竿にドラマが!!

あこがれのトローリングを初めて経験した。こちらではマグロやカジキマグロの釣りをビル・フィッシングと言っている。出船は午前6時。自分のレンタカーで港へ行くつもりだったが、ホノルルに住んでいる従姉妹が、港は駐車場が遠いから送ってくれる、という。寝過ごさないようにホテルのフロントにモーニング・コールを頼んでいたが、気分が高揚していて3時には目が覚めてしまった。

  今回乗る船はカモメ号。築35年、53フィートの今では珍しい木造船。最近の強化プラスチックの船に比べると重量があって揺れが少ないという。オーナーはドクター・サキモトという日系人だ。90歳を過ぎた今でも元気だという。偶然にも従姉妹のご近所さんの知り合いだった。港ではすでに、この道30年のベテラン船長、キャプテン・ジョー(推定60歳)、キャプテンの恋人ドナ(32歳)、オーナーの娘婿で本職はコンピューター・グラフィック・デザイナーのロン・トシオ・イイヌマ(52歳)、そして見習い中のマット・ケイス(20歳)が待っていた。簡単な自己紹介の後、従姉妹がスタッフの分まで作ってくれた弁当と飲み物とカメラを両手に持って乗り込む。(帰り際にドナが“今までたくさんのお客を乗せたけどスタッフの分までランチを用意してきてくれた人はあなたが初めてよ。”と感謝された。従姉妹のMiyoさんのおかげだ。Miyoさん、ありがとう!)

      
カモメ号

              カモメ号

      
ケマロ湾

       釣り用のボートが並ぶケマロ湾

  6時半にケマロ湾を出るとすぐに5本の竿をセットする作業が始まった。1本は中央に沈むタイプのルアーを投入。両側に2本ずつ。合計5本。糸がまつらないように、一番外側はアウトリガーと呼ばれる腕木をのばしてラインをその先に掛けて広げる。客はこの日サブロー一人だけ。どの竿に掛かっても一人で独占できる。なんという贅沢。

        
ジョー&ロン

      竿をセットするキャプテン・ジョー(左)とロン

  仕掛けは、サブローが今まで見たこともない太さのラインに、大きな針はふかせマダイ13号しか知らないサブローには信じられないほど大きな針が2本ついたルアー。ルアー仕掛けの呼び方は知らないが、ルアーから伸びるハリスの太さは140ポンド、ラインは130ポンド(約43号に相当)のものが750フィート(約225m)。針の大きさは中央においたボールペンと比べて頂きたい。竿はシマノ・TIAGR80W、リールはPENN REELS・80STW・INTERNATIONAL Uほかいろいろ。

         
リール

          

         
ルアー

           針の大きさにビックリ
       (カラーでお見せできず残念ですが、
        色の使い方はキャプテン・ジョーの
        秘密事項なのでモノクロにしてあり
        ます。)

  ケマロ湾を後にしてカモメ号はたいした揺れもなくポイントを目指す。しばらく進んだところで、えひめ丸が沈んだ所はあそこ辺りだよ、とすでに通り過ぎた所をロンが指さす。若い命が奪われた事故に胸が痛む。ご冥福をお祈りする。

  ホノルル西方約30qのポイントに到着。ここは海面下に山があって、そこに潮流が当たって上昇するためエサとなる魚が多く、それを求めて大物が集まるのだそうだ。船は速度8ノットで直線的に走ったり、蛇行したりを繰り返して魚にルアーをアピールする。真ん中のルアーは下に沈みその両側は海面直下を走る。一番外側のルアーは、船が蛇行すると両側のルアーが互いにクロスしながら綾取りのように海面近くを走る。糸はどれくらい出すのか船長に聞いてみた。ハワイ島コナで毎年開かれ、世界中から参加者のある有名なビル・フィッシュ・トーナメントの1995年大会で478ポンドのマーリーンを釣り上げて優勝したこともある、この道30年のベテランキャプテン・ジョーの説明では、長さは問題ではない。問題はルアーのプレゼンテーションだという。ルアーがどのように魚にアピールするかということだろう。もっとも良いセッティングは、ルアーが4〜5秒に1回海面上にホップしてくる事だという。よく見ているとルアーは4秒前後潜った後海面にジャンプしてきて、すぐにまた潜る。4秒くらい潜ってまた海面に出てくる。このタイミングが一番良いそうだ。ルアーは理想のセッティング通り動いている。後は獲物が掛かるのを待つだけだ。

        
釣り座


  7時半、8時、8時半。時間は静かに過ぎていく。興奮のため早起きしたサブローに睡魔が襲う。我慢していたが、立っていても膝がガクッと折れてしまうほど眠くなった。仕方なくキャビンのベッドで横になる。まどろんでいると、スタッフの大きな声がする。獲物が掛かったようだ。大慌てで靴を履き船尾の椅子に座る。中央からすぐ隣の左舷の竿(サブローの写真で一番手前に写っている竿)に獲物が掛かっていた。マットから竿を受け取り両手で支えるが、糸はギリギリとドラグの音を立てて出ていく。100m以上出たところで糸が止まった。今度はこっちが攻める番だ。糸を巻く。船長も船を止めた。糸は重くてなかなか巻けない。ロンに時間を確認。9時15分。

  魚は右に左に逃げて抵抗する。ロンが椅子の後ろに立って、サブローが魚に真っ直ぐ向くように、椅子の向きを変えてくれる。マットはリールに巻き糸のむらが出ないように、ラインに指を添えて左右に動かしている。なんと原始的なリール!この大型リールには巻きむらがでないように糸を左右に動かす装置が付いていないのだ。大型リールって全部こんなものなのだろうか。大物とファイトしているサブローの姿を写真かビデオに撮って貰いたかったが、全員が僕のサポートにまわっているので、そんなことを頼めたものでない。

  抵抗が弱くなってきた。軽く巻ける。これはあまり大きくないのかもしれない、と思ったが、また糸が重くなってきた。懸命にリールを巻いているその時左舷方向、30〜40mのあたりで巨大なマーリーン(カジキマグロ)がジャンプした。スタッフ達が“オイ、ジャンプしたぞ!魚はこっちへ向かってるゾ!」ジャンプした方向がうんと右の方だったので、自分の竿に掛かっているものだとすぐに分からなかったサブローは“あれは俺の魚か?”と思わず訊いた。糸は真っ直ぐ船尾に伸びているので、魚はてっきり船尾の方だと思っていたのだ。

  ジャンプしたマーリーンは船影を目にしたに違いない。今度は方向を転換して船と反対の方へすごい勢いで逃げ始めた。糸がさっきよりうんと速いスピードで出始める。リールに残された糸が見るみる少なくなっていく。船長は船をバックし始めた。しかし魚のスピードには勝てない。残り3分の1くらいのところで、マットが“糸が少なくなってきた”と船長に告げる。マーリーンは逃げることを止めない。スピードも変わらず糸はどんどん出ていく。サブローはたまらず、“もうすぐ糸がなくなるぞっ!”と上のデッキにいる船長に向かって叫んだ。マーリーンは相変わらずスピードを落とさずに逃げていく。ダメだ、このままでは糸が出尽くしてしまう。そう思う間もなく、糸が出尽くした。“バチーン”という音を残して夢のマーリーンは遠くへ行ってしまった。この間15分。緊張と興奮の一瞬だった。サブローは魚の去った方向を見つめて呆然とするばかり。気がつくと両手を膝について息を整えていた。
  経験者ならもっとうまく、途中でドラグの調整をし直したりするなど何か手をうってマーリーンの動きを制する事が出来たかもしれない。悲しいかな、ビルフィッシングを初めて経験するサブローには何もすることが出来なかった。

  船長やロンが“惜しかったね”と慰めてくれる。デッキにいた船長の恋人ドナも下に降りてきて“残念だったわね。あなたは立派に戦ったわ。勇敢だったわ。”とアメリカ式表現で慰めてくれる。みんなに礼を言って、気持ちを切り替えたサブローは次の獲物が掛かるのを待った。サブローは、“次は絶対仕留めるゾ”と心に誓った。が、その後当たりがない。船長がなんとかシイラでも釣らせようとパヤオの周りを回ってくれたが、その後獲物が掛かることは二度となかった。本当に1回だけのチャンスだった。

        
カモメ号のスタッフ

         ケマロ湾で記念写真。アロハ!

  マーリーンとファイトしている写真は残らなかったが、強烈な強い引きとジャンプしたときの巨大な姿は、サブローの両手、両足、そしてまぶたの裏にしっかりと焼き付けられた。ツキのあるミキコだったらマーリーンを上げていたかもしれない。次回は二人で来よう。そして大きなマーリーンを釣ろう。次回のリベンジを期してハワイをケマロ湾を後にした。


      7月20日 辧屋・海上釣り堀の釣果


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