寺田真理子さん と 建築あそび 記録 2003-10-04 
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 学生時代01 SD編集 01 
  NAI010203 −040506  2部オランダでの生活 

  NAI 04

では「Towards Totalscape」という展覧会がどういうものだったのかというのをお話しましょう。

      Towards Totalscape 展を企画する

外国では、日本というのと 
カオスとしての東京や、あるいは伝統としての京都、そういったものしか知られてない部分が多いと思うんですけれども、そういった部分だけではなく、日本には東京や大阪みたいな大都市があって、その周りには地方都市としての仙台や京都、神戸があって、その他に農村・漁村。

あるいは自然というランドスケープがありますよね。そういったランドスケープのなかに、その環境に相応しい建築が存在しうるんだということを伝えようとしたのが、Towards Totalscape展でした。

 具体的には、日本のなかで日本全体を、大都市としての「Metropolitan」、そして地方都市としての「Urban」、農村・漁村としての「Rural」というランドスケープ。そして自然としての「Nature」というリアルな4つのランドスケープと、さらに環境という文脈以外でつくられた人工的な「Artificial」としてのランドスケープを加えて、まず5つのランドスケープを定義しました。

そして日本では、そのような物理的な都市のランドスケープやライフスタイルのようなライフスケープなど、様々なスケープを通してどういう関係性をもちながら建築がつくられているのか、を解明していこうというものでした。

さっきお見せしたように、展示スペースが1000平米というほど凄く大きいので、やはり立体的に見せていくことを常に求められました。私達としては、「ある壁を使ってエリアを閉じることなく、実際の都市のランドスケープのように、空間を連続させて見せていくのが良いんじゃないか」と考えました。

新幹線に乗っていても日本の風景って、途切れることなく、バサットと途中で断絶することなく、ダラダラと続きながら途中なんとなく変化するという、ヨーロッパの都市とは違った状況を展示空間でも表現したかったのです。

オランダは全く逆で、都市のなかを電車が通っているなあと思っていたら、突如として緑の農業・牧場部分が現れたり都市と都市の切れ目がはっきりとしているんです。

その違いをハッキリ見せるために連続性という、地形の連続性、つまりランドスケープの連続性を見せるために連続した壁による構成を考えました。都市の部分は緻密な折れ曲がった壁面構成にして、自然にいくほど平らになっていくというようなコンセプトの元に会場を構成しました。

展覧会ではトータル58人の建築家ゼネコン、ディベロッパーの方々に参加いただき、作品としてはトータル108の作品を紹介しました。


これは自然のランドスケープの展示部分です。基本的に垂れ幕みたいな布で、そのランドスケープにおけるライフスタイルを写真で表現しています。それぞれのランドスケープにおけるライフスタイルは淺川敏さんという写真家に撮ってもらったものをフィルムスキャンして、それを布に印刷しました。


また展示壁には、そのランドスケープの風景を特徴的に表しているメディアの絵を使用しました。写真だったり、だったりあるいはコンピューター・ゲームに描かれた都市の風景だったり、そういうものを壁面で紹介して、各ランドスケープの展示スペースではそれぞれのランドスケープのなかに実際に建っている、住宅なり建築を模型や写真パネルで紹介しました。


展覧会では、坂茂さんに、途中で休憩できるようなラウンジみたいなものを紙管で作っていただきました。このなかで、紙管のテーブルや椅子を置いて、日本の漫画建築雑誌など、日本の文化にまつわる書籍を見せました。またこのNAIの展示スペースは、とても広いスペースですから疲れたときに休憩するには最高です。


これは種田陽平さんという映画美術監督に農村・漁村のランドスケープの展示エリアに、「今、日本の農村漁村の風景がどういうふうに変わりつつあるのか」という絵を描いてもらったんですね。ロードサイドショップがあったり、漁村の風景にリゾートマンションが建ち始めているとか。実際変わりつつある日本の農村・漁村の風景の状況を背景として見せています。


 地方都市のランドスケープの展示エリアでは、谷口ジロウさんによる漫画の風景が、私達が考えていた地方都市としての風景にぴったりだったので、谷口さんからその漫画の絵をお借りして、それをボードにして、リアリティある地方都市の風景として壁面を表現しました。


このように都市に行けば行くほど建物は高くなり、人と人との関係、物と物との関係が緻密に、複雑になっていくという、そういった大都市らしい物事の関係性を、オランダ建築博物館の大空間の会場の中で表現しました。




大都市の展示エリアの壁面では、コンピューターゲーム首都高バトル」の絵を使って、首都高速から見える東京という大都市像を表現しました。




ここで私は森ビルと知り合うわけなんですけども。(笑)この展覧会の館長であった、クリスティン・ファイラスという女性が日本に何回か視察に来たときに、森ビルにスポンサーの件で訪れ、その際に東京の港区模型を見せられ、非常に感銘を受け、そして「是非この模型を展覧会で見せたい」ということから、森ビルはオランダにこの模型を出展することになったんです。

これは東京・六本木ヒルズでの「The Global City」の展覧会で展示していた模型の前身のもので、1000分の一の港区の都市模型。森ビルの活動拠点である港区中心とした港区模型の5×5mという都市模型です。
 この時でさえもかなり緻密に、そして精巧にできていたので感動しましたが、今回(2003年春)の六本木ヒルズでの模型を見たときには、さらにリアルになったという印象を受けました。

オランダの人達からすれば、彼らの町のつくり方、構造は日本とは全く違います。日本は都市全体の構造が見えなくて、バラバラだったり、グリッドに乗っかっていない。やはり彼らにとってはカオスなんですよね。そういった印象を持ちながらも、オランダの人たちは模型を見ることで、一部ではありながらも東京を理解出来たと言っていました。

展覧会の構成としては、森ビルによる東京の都市模型が中心にあって、その回りに大都市のランドスケープの展示エリアがあり、空間が分断されることなく、「urban city」「rural」「nature」というランドスケープにつながっていきます。オランダの場合は2階の部分の手すりの部分に望遠鏡が設置され、そこから模型が見えるような演出が結構楽しかったです(笑)。


この展覧会も出展者に対して、「輸送代だけは持つ」というようなかなり出展者側としては費用的に大変だったと思うんですけれど、特に若い建築家は、このために新しく模型を作ってくれたりして、頑張ってくれました。コンセプトであった「建物と周囲の関係」といった視点を考慮して、建築の廻りをかなり作りこんでくれた建築家の方々もいたので、凄く嬉しかったです。


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