古事記のものがたり
第三話 いざなぎ・いざなみ
ふることに伝う。


ある日、高天原にお住まいになられている神々が全員集まり、はるか下界を見降ろしながら会議を開かれました。

そして、いざな ぎ、いざなみ、のご夫婦をお呼びになり、玉飾りのある美しい『天の沼矛』を渡し、

「あの泥海のようにただよえる国を整え固めよ」

と命じられたのでございます。二人は天の沼矛を手に持ち、高天原と下界をつなぐ『天の浮橋』の上から、どろどろとした海原を見下ろしました。そして天の沼矛を降ろしてゆっくりとかき回しました。

♪こをろ。
♪こをろ。

そんな不思議な音が聞こえてきます。

そこで、さっと矛を引き上げました。すると、矛の先から塩のしずくがぽたぽたとしたたり、積もり固まり、やがて塩の球となりました。

この球はおのずからころころところがっているので『おのころ嶋』と名づけられました。地球の誕生でございます。

わたしたちのご先祖は、数十億年も前から、すでに地球が自転していることや塩の固まりであることを知っておられたのでございます。

二人はさっそく出来たばかりの『おのころ嶋』に降りていき、まず最初に『天の御柱』を立てました。天の御柱とは、神霊が昇り 降りするために立てるとても太くて高い柱で、大地と宇宙を結ぶ大切な役目をしています。そしてそれは、地球のどこからでも見ることができます。

つぎに『八尋殿』という広い宮殿を建てました。

こうして新居もできあがりひと息ついたところで、いざなぎは、自分自身の下半身に何か不思議なものが、ぷらんぷらんとぶら下 がっているのが気になり、

「おまえの体はどんな風になっているのか?」

といざなみにお尋ねになりました。いざなみは、しげしげと体を眺めて答えました。

「わたしの体はほとんど完成しているのですが、一か所だけ、ぺこん、とくぼんだ『なりなりて成り合わない』ところがあります」

「わたしの体にも一か所だけ、ぽこん、と飛び出た『なりなりて成り余れる』ところがある。そこでどうだろう、お前のくぼんだところに、わたしのとびでたところを差し入れて、国を産もうと思う が、いかに?」

と申されました。

「はい。そうしましょう」

といざなみは、股を広げて答えられました。

「では、新しい魂を宇宙からいただくために、天の御柱の周りを 廻ろう」

そして、いざなぎは左から、いざなみは右から回り、二人が出 会ったところで先にいざなみが、

「あなにやし、えをとこを(ああ、なんとええおとこ!)」

あとからいざなぎが、

「あなにやし、えをとめを(ああ、なんとええおとめ!)」

と見つめ合いました。

言霊といって言葉には不思議な霊力が宿っております。いい言葉を言えば幸せになり、悪い言葉を言えば不幸になっていくのです。そこで二人は、国を産むにあたってお互いをほめたたえる言葉をかけあったのでございます。

このとき、いざなぎは、

「女の方から先に声をかけたのは良くないのでは?」

と言ったのですが、あまり気にもとめないで、宮殿の奥にある寝室へと入られ、男女の営みである『みとのまぐはひ』をされまし た。

やがて、いざなみは骨のない『水蛭子』をお産みになられまし た。

二人は泣き悲しみながら、この子どもを葦船に乗せて流し去りました。つぎに『泡嶋』が産まれましたが、やはり、泡のように浮かび漂うばかりで人の形にはなりませんでした。

いい言霊を使ったのにどうしてこのようなことになったのでございましょうか、お二人は神々にご相談するために、ひとまず高天原に帰ることとなりました。

いったいどうなっていくのでしょうか。このお話はまたこの次 に。
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