古事記のものがたり
第十三話 八雲立つ出雲
ふることに伝う。


八俣のおろちをみごとに退治した須佐之男は、まん中の尾から、美しく光る大刀を手に入れました。渦の模様がついており、みるからに特異なもののように見えます。

須佐之男は、高天原でさんざん迷惑をかけたおわびに、天照大御神にこの大刀を献上することに いたしました。

これが、のちに大和朝廷に伝わって三種の神器のひとつとなった 『草なぎの剣』なのでございます。この剣は、尾張の国(愛知県)の熱田神宮にご神体としてお祀りされております。

さて、高天原では乱暴ばかり働いていた須佐之男ですが、ここでは英雄です。それに、くしなだ姫という美しい妻も得て、とても幸せそうなごようすでした。

ある日、お二人が出雲を歩き回り、新居をさがし求めていたと き、見晴らしの良い土地に出くわしました。そこは大地から目に見えないエネルギーが吹き出している神聖な所でした。

「おおっ。ここはなんとすがすがしいところだろうか」

と須佐之男はそう言って、その地を須賀と名づけ、そこに立派な宮殿をお建てになられたのでございます。

自然と共に暮らしていた古代の人々は、このような場所を直感で感じることができ、そこを聖地として代々大切に守ってきたので す。その場所が神社や鎮守の杜となって日本の各地にたくさん残っているのでございます。

やがて宮殿が完成したとき、お二人のご結婚を祝福するかのような雲が、幾筋もむくむくと立ち昇りました。その情景を、須佐之男は歌に詠まれました。

八雲立つ 出雲八重垣
妻籠みに 八重垣作る
その八重垣を

この三十一文字から和歌がはじまり、万葉集、古今和歌集などへと受け継がれていきました。そして、ごく自然に人々の間に歌を詠むことが流行りだし文化として定着し、中つ国は(日本)歌詠みの国とまでいわれるようになったのでございます。

須佐之男は、くしなだ姫の父親、あしなづちを須賀のこの宮殿の長老に任命し、稲田の宮主、須賀之八耳の神と名づけました。

やがて、須佐之男とくしなだ姫との間に子どもも産まれ、名を『やしまじぬみ』とつけられて、出雲の土地神となりました。子孫も繁栄し、末永く幸せに暮らしました。

また、須佐之男は他に、おおやまつみの娘「かむおほち姫」とも結婚されて『大年の神』『宇迦の御魂の神』を産んでおられます。

『かむおほち姫』は市場の神様。

『大年の神』は一年間の稲の暦を作られた神様。

『うかのみたまの神』は穀物と稲の守り神で、お稲荷さんの本来の姿なのです。だからお稲荷さんに商売繁盛や現世利益をお願いするのは、ちょっと見当違いなのでございます。

さて、ここからが少しややこしくなってきますので、よく聞いていてくださいね。阿礼も何とかわかりやすくお話するように頑張りますから。いいですか。

須佐之男とくしなだ姫の子どもの、
『やしまじぬみの神』は、おおやまつみの娘「このはなちる姫」を妻にして『ふはのもぢくぬすぬの神』を産み。

『ふはのもぢくぬすぬの神』が、おかみの神の娘「ひかは姫」を妻にして『ふかふちのみづやれはなの神』を産み。

『ふかふちのみづやれはなの神』が「あめのつどへちねの神」を妻にして『おみづぬの神』を産み。

『おみづぬの神』が、ふのづのの神の娘「ふてみみの神」を妻にして『あめのふゆきぬの神』を産み。

『あめのふゆきぬの神』がさしくにおほの神の娘「さしくにわか 姫」を妻にして『大国主の命』を産み。

はい、お疲れさまでした。ようやくこれからのお話の主人公、須佐之男から数えて六代目『大国主の命』(おおくにぬしのみこと)がお産まれになりました。ひとりでも知っている神さまがおられたでしょうか?

これから、大国主が、広大な領土を手に入れるまでの大冒険が始まります。高天原の暴れん坊、須佐之男にはしばらくの間お休み願いましょう。

あ、そうそう。須佐之男は出雲の八重垣神社、紀の国(和歌山)の熊野本宮大社、そして祇園祭で有名な京都の八坂神社にお祀りされて、日本中に疫病が蔓延しないように守っておられます。

この後のお話はまたこの次に。
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