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NEW 2014.11.1 石田朝也監督『無知の知』について
新文芸座で『コタンの口笛』を観ました
2014.9.19 NEW
「新文芸座」の成瀬映画特集で、昨夜(9/18)、『コタンの口笛』を観てきました。
18:40からの回でしたので、席もかなり埋まっていました。
『秋立ちぬ』との二本立てでしたが、『秋立ちぬ』は何度も観ているので
今回はパスしました。
『コタンの口笛』をスクリーンで観るのは、2回目か3回目でしたが、
作品評に書いたように、10年以上前にスクリーンで初めて観たときは、
色がピンク色に退色している最悪のプリント状態でした。
一番驚いたのが、今回のプリント状態の良さです。
1959年という55年前の映画と思えないほど、美しいカラーでした。
ニュープリントかどうかはわかりませんがニュープリントと同様の
状態でした。
昔の日本映画の名作を、綺麗なプリント状態で観られるのは、
幸せなことです。
そういう綺麗なプリントで観たので印象が違ったのかもですが、
今回スクリーンで改めて観て、素晴らしい映画だと再認識しました。
成瀬映画として異色作であることは間違いないのですが。
まずは音楽。
成瀬映画の中で、これほど音楽が効果的に使用されているのは
珍しいと思えるほど、随所に流れる伊福部昭作曲のテーマが
心を揺さぶります。
ロケーションは北海道の新千歳空港の近くの「千歳市」を中心に、
支笏湖、札幌などが出てきますが、ワイドスクリーン(東宝スコープ)
なので、北海道の雄大な美しい自然が体感できます。
札幌は一度ロケ写真を撮影したことがありますが、機会があれば
舞台となった千歳市と支笏湖へは一度行ってみたいものです。
映画の後半に、幸田良子と水野久美が、町中の橋で会話する
シーンがありますが、グーグルマップのストリートビューで見ると
千歳市内を流れる千歳川の橋がいくつかあり、映画のロケ場所
は特定できそうです。
森雅之、幸田良子、久保賢の川のほとりの住居のシーンが
多く出てきますが、室内での人物の動かし方や配置などが
絶妙で、これは他の成瀬映画にも共通しています。
記憶に無かったのですが、前半に一度だけ登場する、
森雅之が酔っ払った「飲み屋」の女将役で
成瀬映画常連の中北千枝子が出てきたときは
スクリーンを観ながら思わず微笑んでしまいました。
それにしても、久保賢を執拗に攻撃する中学の同級生の
彼(ネットでデータ検索すると「佐藤ゴン」役=山崎雅美?)
の憎らしさは凄まじく、それだけ演技が上手いということ
でしょう。
幸田良子をいじめる同級生の女子中学生たちも
同様です。
北海道が舞台だからでしょうが、様々な食べ物が「ご馳走」や「お土産」
として頻繁に登場していたのも印象的です。
森雅之が牛肉を買ってきたり、久保賢の親友の男の子が
「うちで採れたリンゴだよ」と持ってきたり。
全体的にハッピーではない重苦しい雰囲気の映画ですが、
ラストの姉・幸田良子、弟・久保賢の会話「大丈夫だよ」
が、少し希望を感じさせるもので、ここはやはり成瀬映画
だなと。
成瀬映画のキャスティング
2014.9.16 NEW
私はまだ行ってないのですが、「新文芸座」の成瀬映画特集は結構
賑わっているようです。
私は18日の『コタンの口笛』の最終回に行く予定です。
ツィッターで「成瀬巳喜男」と検索してみると、
14日の香川京子さんのトークショーで、香川さんは
出演した成瀬作品の中で『驟雨』が一番好きとおっしゃったとか。
さて、私は録画して保有しているDVDで『流れる』『晩菊』『山の音』
あたりを久しぶりに観ました。何度観ても夢中で観てしまいます。
15日の『流れる』『晩菊』は傑作2本立てと言えますが、
もう一つ、芸者と元芸者の役の杉村春子の対照的な役柄が
興味深い。新文芸座で2本観られた方も気づかれたと思います。
『流れる』の芸者役は、男にもお金にもだらしない芸者で、
鬼子母神(賀原夏子),から借金の返済の催促をされます。
一方、『晩菊』の金貸しと不動産を営んでいる
しっかり者の元芸者役では、かつての仲間の望月優子や
沢村貞子に毎月貸したお金の集金に行きます。
隙の無いおばさんという感じの杉村春子もいいです。
9/19に上映の『ひき逃げ』では交通事故の加害者役の司葉子が、
9/20に上映の『乱れ雲』では、逆に交通事故の被害者(夫が交通事故で亡くなる)
を演じています。これもまさしく立場が真逆です。
今回の上映にはありませんが、戦前の『妻よ薔薇のやうに』(1935)では
丸の内のオフィスに勤めるOL役で、当時の典型的なモガファッション
(帽子とネクタイが凄い)で颯爽と歩く千葉早智子が、
翌年1936年の『朝(あした)の並木路』では、東京でカフェの女給をしている
友人を頼って、地方から東京に出てくる田舎娘役を同じ千葉早智子が
演じています。
『妻よ薔薇のやうに』とは対照的に、着物と和傘の地味なファッションで
丸の内をオノボリサン状態で歩いたりします。
これらはすべて成瀬監督の「女優にはいろいろな役を演じさせたい」という
演出家の気持ちと同時に「遊び心」があったと推察します。
結婚直前の千葉早智子へは特別な思いがあったのかもしれません。
三船敏郎の『石中先生行状記』と『妻の心』の異なった役柄も面白いです。
一方、原節子は、子供のいない倦怠期の夫婦の妻役が多く(『娘・妻・母』
は途中で未亡人になる)、上記の女優の配役と比較するとこれまた
面白い。高峰秀子が夫婦の妻役の場合は子供がいることが多いかなと。
成瀬映画特集がスタート
2014.9.8 NEW
今日9/8より東京・池袋「新文芸座」で、成瀬映画特集が始まりました。
私もそうでしたが、未見の成瀬映画を観ることはとても楽しみでしょう。
しかし、成瀬映画というのは一度観ても全てを理解するのは難しい。
もちろん映画自体は難解ではなく、普通に観られるわけですが、
成瀬演出は、細部に見逃してしまうような仕掛け(演出術)がちりばめられていて、
1回観ただけではなかなか気づくことは難しいのです。
例えば、本HPのどこかにも書いた『杏っ子』の中盤の、
「新婚旅行の部屋」→「3年後の東京での住居の室内」の場面転換での
小道具の「布団つながり」は、『杏っ子』をスカパー録画のDVDで4-5回
観た時に、初めて気づいた成瀬演出でした。
成瀬映画といえば人物の「目線送り」が多用されていることが一番の特徴ですが、
『晩菊』だったか、すでに何度も観ていて、ストーリーも台詞もほぼ
知っているという状態のときに
「ここで杉村春子が振り向くんだ」
と個人的に驚いたこともありました。
成瀬映画では室内での単なる人物の振り返りが、重要な意味を持つことも
あるのです。
成瀬演出は、映画の中に目立たないようにちりばめられていて、
正に「職人技」と言えます。
今回上映される成瀬映画では、当然プリント状態の良いものと悪いものが
あると推察しますが、私が観に行こうと思っている作品はプリント状態が
良いことを願っています。
来年は成瀬監督生誕110年です。
『小早川家の秋』のワンシーン
2014.8.23 NEW
小津映画の中で、最近凄く好きになった映画が『小早川(こはやがわ)家の秋』(1961)です。
小津監督が東宝系の宝塚映画で撮った作品なので、森繁久弥、小林桂樹、新珠三千代、
宝田明、白川由美、藤木悠、団令子など、小津映画にはこれ1本の東宝の俳優も多数出ていて、
スタッフも撮影が黒澤組の中井朝一、照明が成瀬組の石井長四郎など、
松竹の小津映画とはどこか雰囲気が異なっていて、不思議な魅力がある小津映画です。
冒頭の森繁久弥、加東大介、原節子の登場する大阪のバーのシーンや
OLの司葉子と白川由美との会社のデスクでの会話シーンなどは
美術セット、カメラアングル、台詞の調子など正に小津調そのままなのですが、
1箇所、面白いシーンをみつけました。
それは中村鴈治郎が最近京都(祇園)によく出向いていることに対して、
昔の女に会いに行っていたと知った長女・新珠三千代が、
父親の鴈治郎との会話の中でそれをきつく言い放つシーンです。
鴈治郎が「今度のお母さんの法事を嵐山でやろうか。お母さんは嵐山が好きだったしな」
と話すところから、新珠の皮肉っぽくねちねちと話す攻撃が始まります。
(このときの新珠三千代の意地悪さは絶品です)
新珠に対して、父親の鴈治郎が怒り出すところで、新珠の夫役の小林桂樹が
止めにはいります。
小林「それなあ」
新珠「あんただまっといて」
小林「けどな」
新珠「だまっといて」
その後、新珠は風呂上りで座っている鴈治郎の方へ座ったまま向き合います。
鴈治郎「嵐山で法事するのがなんであかんのや」」
に対して
新珠「ふん。どこの嵐山かわからへん」
と返します。(この「ふん」という新珠の表情が可愛らしくて最高!)
古典落語に出てくるようなフレーズの可笑しさです。
ここでの鴈治郎と新珠の父と娘の喧嘩は正に小津調です。
小津映画は、家族の日常を淡々と描いた静かな映画のイメージが
ありますが、実は、あることに対して、二人の人物が向き合って座ったまま
口論するところで激しいドラマになることが多い。
それも人の心の痛いところをぐいぐいと責めつけるような
しつこい感じがよくみられます。
少し例を挙げれば『戸田家の兄弟』で佐分利信が兄弟に
母親への労わりの気持ちが足りないのではないかと文句を言うシーン。
『東京暮色』で有馬稲子が母親の山田五十鈴に
「私の本当のお母さんは誰」などと毒づくシーンなど。
要は、「ここまで言わなくてもいいのに」と思うほど、徹底的に
ストレートに意見や思いを伝えるシーンが珍しくありません。
では成瀬映画はどうか。このシーンの小林桂樹の態度が
正に成瀬調なんですね。
口論や争いを寸止めで避けるというか、物事の解決を
先送りしようという態度といったらいいでしょうか。
『浮雲』でも、森雅之を攻めまくる高峰秀子に対して
森雅之は「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」
と、うまくかわしていきます。
だから「くされ縁」が続くともいえるのですが。
小津演出との比較で言えば「これぐらいはもっとはっきりと言えばいいのに」
と思うようなシーンが多い。まあそれも成瀬映画の魅力の一つです。
成瀬映画には人物の口論で決定的な亀裂がはいる
のは皆無とはいえませんが(『放浪記』の高峰秀子と宝田明など)
数は少ないように思います。
説明的な台詞を削って、俳優の表情や目線でそれを語らせる
という成瀬監督の名演出につながる手法でもあるのですが。
この演出の違いは、おそらく小津監督と成瀬監督の性格が
そのまま表れているようで微笑ましい。
『小早川家の秋』のシーンに戻ると、座って斜めに向き合ったまま
口論する鴈治郎と新珠に対して、小林は立ったまま二人の口論
を見ています。
成瀬映画では室内で立ったまま会話を続けることが多い
のですが、成瀬映画常連の小林桂樹ということもあって
これも成瀬調を感じてしまいます。
つまり、この室内の口論シーンは、演出面において小津映画の中に
一部だけ成瀬映画の要素が融合されているのではないか。
もちろんこれは私だけの勝手な感じ方です。
しかし成瀬映画、小津映画を愛する私としては
新たな発見をしたように感じたわけです。
それにしても名作映画は、何度観ても新たな発見があります。
祝 ! 9月の新文芸座の成瀬監督特集上映
2014.8.17 NEW
トップページに速報を掲載しましたが、9/8-9/20まで東京・池袋の新文芸座
で成瀬監督特集(全26作品)があります。
DVD化されている作品ももちろんスクリーンで観るほうがいいのですが、
ここではなかなか観る機会の無い未DVD作品の何本かについて
見所ポイントを短く書きます。
『驟雨』(しゅうう)
→すでに本HPの中で何度も書いていますが、
私がこれまで観た69本(現存する成瀬作品すべて)の中で
最も好きな映画であり、最も成瀬調と感じているのが
『驟雨』です。個人的には成瀬映画の最高傑作、No1です。
これまでスクリーン、録画DVDなどで20回くらいは観ているかと。
何度観ても面白いのです。
この映画の中で最も好きなシーン(シークエンス?)が、
新婚旅行帰りの香川京子が叔母=原節子の家を訪ねて
新婚旅行での夫との喧嘩を原節子に訴えるところ。
香川京子の可愛らしさと、大人らしく受け止める原節子の
台詞のやり取りが最高で、特に小津映画の演技とは
異なる、原節子のナチュラルでユーモラスな演技は、
本当に素晴らしい。必見です。昭和31年当時の小田急線
「梅が丘」駅(木造のちっこい駅舎)の風景も貴重。
『くちづけ』
→3話オムニバスで、1話「くちづけ」(筧正典監督)、
2話「霧の中の少女」(鈴木英夫監督)もなかなかいのですが、
成瀬監督の3話「女同士」がやはり一番いいです。
高峰秀子、上原謙、中村メイ子、小林桂樹など。
開業医(上原)の妻役の高峰秀子の、不満げな、少しふてくされたような表情
が随所に観られ、成瀬映画の中であまり語られることはないですが、
『浮雲』の後に、力を抜いたような、これも最も成瀬調の映画の1本です。
ラストにサービスカットがあるのでそれも楽しみに
『晩菊』
→こんな名作がDVDになっていないのは信じられないのですが。
『流れる』でのだらしない芸者役とは対照的な、しっかりものの
金貸しの元芸者の杉村春子の貫禄の演技、元同僚の芸者で
愚痴ばっかり言っている望月優子、細川ちか子の演技も最高です。
この映画を観たら、ロケ場所の本郷・菊坂散策を是非どうぞ。
『石中先生行状記』『妻の心』
→三船敏郎出演作。詳細は下記の「三船敏郎」内の記述参照。
『石中先生行状記』3話のラストの三船敏郎と石中先生の
やり取りは、成瀬映画の中で最も幸福感に満ちたもので、
これを観ると「ヤルセナキオ」というよく使われるあだ名
が、いかに不正確であるかがわかります。
この映画に限らず、ラストに少し希望の予感を感じさせる
成瀬映画のほうが圧倒的に多いのは間違いないです。
『夫婦』
→杉葉子の若妻ぶりがとにかく魅力的。成瀬・夫婦もの常連の
上原謙は相変わらずの、頼りない男ぶり。
上原謙の同僚で平凡な男を演じる若き三國連太郎にも注目。
ラストに出てくる公園のロケ場所は未だに不明。
杉葉子さんご本人に直接お聞きしたこともあるのですが、
覚えていないとのお答えでした。
なにしろ60年前の映画なのであの公園が今でもあるかはわかりません。
おそらく世田谷の方だとは思うのですが。
『秋立ちぬ』
→雑誌「東京人」での故・大瀧詠一さんのロケ地検証記事
の影響もあって、ネット等でもDVD化を望む意見の多い映画。
この映画の評価は年々高まっているような気がします。
私は20年くらい前に「並木座」で初めて観たときから
成瀬映画の中でも名作の一つだと思ってました。
ロケ場所では新富・銀座界隈の他、主人公の子供2人が
歩く、晴海の線路のシーンに注目。
同場所は現在は豊洲のショッピングセンター(映画館もある)
になっています。
この映画1本だけの出演と思われる、旅館の娘・順子ちゃん役の
一木双葉は本当にキュートです。
数多くの映画に出ている乙羽信子の唯一の成瀬映画でもあります。
そして戦前からの成瀬映画常連の藤原釜足が八百屋の主人役。
なんと同時上映された黒澤映画『悪い奴ほどよく眠る』にも重要な役で
出演しています。組織の命令で汚職に関与した役人を熱演しています。
一人の俳優の黒澤映画と成瀬映画での役柄の違いには唖然とします。
『コタンの口笛』
→『ゴジラ』60年で再評価されている伊福部昭作曲のテーマ曲が印象的。
橋本忍脚本で北海道のアイヌ差別といった社会的なテーマであり、
成瀬映画の中では異色作の一つです。
全体的に重苦しいトーンで、成瀬映画の中での評価は低いですが、
そんなに出来が悪いとは思いません。
昼間の海岸で小石を投げる少年→夜の花火の映像、別海岸での
花火大会で楽しんでいる少年の姉といった、小道具を使用した
場面転換の切れ味はさすが成瀬演出です。
これ以外の作品も、もちろんすべておすすめです。
特に『杏っ子』『鰯雲』の上映はレアかもしれません。
私も何本かは観に行こうと思っています。
『三船敏郎』
2014.8.6 NEW
8/6の今夜、20:00-21:00に、BSジャパンの「昭和は輝いていた」
というトーク番組で、「世界のスター 三船敏郎」が放送されます。
番組HP
三船敏郎といえば、やはり黒澤映画(東宝では稲垣浩作品も多い)となるので、
今夜の番組も話題は黒澤映画が中心かもしれません。
古い日本映画ファン以外にはあまり知られていませんが、
三船敏郎は黒澤映画以外にも、溝口健二、木下恵介両監督の作品に1本ずつ、
そして成瀬映画には2本出演しています。
さすがに小津映画には出演されていません。
宝塚映画で撮った『小早川家の秋』には東宝の男優、女優も
多く出演しているので、
もし小津映画に三船敏郎が出ていたらと想像するのも楽しいです。
溝口映画は、人によっては最高傑作と評価の高い『西鶴一代女』(1952)、
木下映画は、『婚約指輪(エンゲージ・リング)』(1950)。
この2本とも相手役は田中絹代です。
この2作品の三船敏郎の演技は、私はそれほど好きではありませんが
黒澤映画専属のようなイメージからすると溝口映画、木下映画に出ていた
ことは意外に感じられました。
さて本HPにも随所に書いていますが、成瀬映画における三船敏郎は
とても素晴らしいのです。
1本目の『石中先生行状記 第三話 干草ぐるまの巻』(1950)では
純情で素朴な田舎の青年役で、少しユーモラスな演技がなかなかいい。
フィルモグラフィを見ると、黒澤映画『野良犬』直後の作品ですが、
その役柄の違いが際立ちます。
成瀬監督が意図的にそのような役柄で起用したのでしょう。
この第三話のラストシーンの三船敏郎と石中先生の会話は
成瀬映画の中で最も幸福感に満ちていると思います。
2本目の『妻の心』(1956)。群馬県・桐生市を舞台にした
薬店の夫婦役の小林桂樹、高峰秀子主演のドラマですが、
三船敏郎は、高峰秀子の友人・杉葉子の兄の銀行員役で
登場します。
三船敏郎の数多い出演作の中で、銀行員役は他にあるのでしょうか。
おそらくこの作品だけではないかと。
ともかくスーツとネクタイ姿で、落ち着いた感じでにこやかに話す
銀行員・三船敏郎は渋くてかっこいいです。。
10年以上前ですが、今は無い東京の「三百人劇場」で
故・小林桂樹トークショーの時に小林さんがしきりに黒澤映画とは異なる、
『妻の心』での三船敏郎の静かで抑えた演技を評価していました。
何度も書きましたが、公園にある休憩所で、雨宿りをしている
高峰秀子と三船敏郎の二人が、何も台詞がないまま
目線を合わせたり、そらしたりしながら、心の中に秘めた
恋愛感情を表現する、成瀬監督の名演出が素晴らしい。
このシーンは成瀬映画の中でも名シーンの一つです。
そして成瀬映画の2作品での三船敏郎の最大の魅力は「笑顔」です。
本当にいい笑顔なんだな、これが。
残念ながらこの2作品とも未DVDなのですが。
さて、今夜の番組にはゲストとして俳優の夏木陽介さんが出演されます。
先日、年に1回の成瀬監督の関係の会でお会いして、10分くらい
いろいろとお話させていただきました。
夏木さんとは出演された成瀬映画『秋立ちぬ』と『女の座』
についての当時のエピソードをお聞きしたのですが、
やはり特撮映画世代としてはどうしても、夏木さんが刑事役で
出演された『三大怪獣・地球最大の決戦』(1964 本多猪四郎監督)
の話を聞かなくてはと、子供の時にリアルタイムで観たファンとして
その思いを熱く語ってしまいました。
あの映画での夏木さんはスマートで本当にかっこいいです。
『映画本の感想』
2014.6.15 NEW
知人から薦められて、「あかんやつら 東映京都撮影所血風録」
(春日太一著 文藝春秋)を読みました。
映画の製作関係者のエピソードは面白いものが多いですが
本書も面白い過激なエピソードが満載で、楽しく読みました。
著者の春日氏は取材から執筆まで約10年を費やしたそうです。
さすがに読み応えがありました。
過去に東映の時代劇などに関する何冊かの本を読んだことも
あったので、知っていた内容もありましたが、初めて知る内容
も多かったです。
一番感じたのは「観ている東映の映画(京都及び東京撮影所とも)
がいかに少ないか」という点でした。
私は邦画では成瀬作品、川島作品、黒澤作品や特撮怪獣映画
や社長シリーズなど、前身のP・C・L時代の作品や、
系列の東京映画、宝塚映画なども含めて
圧倒的に東宝映画を多く観ています。
次に松竹、大映もかなり多くの映画を観ていると思います。
あまり観ていないのは日活(川島作品は全部観ていますが)
、新東宝そして一番少ないのが東映です。
東映の時代劇の全盛は世代ではなく、
また
60年代後半〜70年代の任侠映画、実録ものも、
年代的にまだ小学生〜中学生の頃なので
あまりなじみがなく。
私は直接的なバイオレンス表現がとにかく苦手なので
任侠映画も実録ものも現在に至るまで好んで観た事は
ありません。
ずいぶん前にビデオで『仁義なき戦いシリーズ』5部作だけは
観たことがありますが、その後繰り返し観たことはないです。
数少ない東映映画体験ですが、それでも好きな作品はあります。
どれも名作と評価されている定番ではありますが
私の好きな東映作品ベスト5は
@『飢餓海峡』(内田吐夢監督)
A『十三人の刺客』(工藤栄一監督)
B『にっぽん泥棒物語』(山本薩夫監督)
C『大殺陣』(工藤栄一監督)
D『宮本武蔵 5部作』(内田吐夢監督)
その他
・『米』(今井正監督)
・『浪花の恋の物語』(内田吐夢監督)
・『五番町夕霧楼』(田坂具隆監督)
・『関の弥太っぺ』(山下耕作監督)
・『一心太助シリーズ』(沢島忠監督)
・『沓掛時次郎 遊侠一匹』(加藤泰監督)
などはお気に入りです。
1980年代以降〜最近ですが、森田芳光作品で
マイベスト5にはいる
『それから』『僕達急行 A列車で行こう』の2本も
東映作品なんですね。
東映の前身の東横映画には1本だけ成瀬作品があります。
成瀬監督『不良少女』(1949)ですが(製作が東横映画、配給は松竹)
これは戦後の成瀬作品で唯一ネガ、プリントが
無くなってしまっているそうで、もちろん私も未見です。
どこかで見つかってほしいものです。
『川島映画 鑑賞記』
2014.5.11 NEW
明日から、東京・池袋「新文芸座」において「川島雄三特集」が
始まります。
プリント・ネガとも失われている『相惚れトコトン同志』(松竹 1952)を除いて
全50本の川島映画を観てきた私ですが、川島映画の鑑賞をどのようにしてきたか
過去の映画館やビデオ、放送の状況も含めて記憶をたどって書いてみます。
では、私が最初に観た川島映画は何か?
これがまったく思い出せません。
おそらく代表作の『幕末太陽傳』だと思うのですが、名画座、ビデオ、テレビ
で観たのか、まったく記憶にありません。
私が川島映画に興味を持ったのは1995年くらいからだったか。
当時は、川島映画に限らず成瀬映画などを観るには東京の名画座が一番便利でした。
・「銀座 並木座」
・「池袋 文芸座」
・「大井町 大井武蔵野館」
など。
また本来は劇場ですが
・「千石 三百人劇場」
そして、「京橋 フィルムセンター」
といったところです。
私が川島映画にはまったきっかけはよく覚えています。
1995年前後に、文芸座地下(旧文芸座は地下が邦画専門)
で観た『貸間あり』でした。
不思議で猥雑な雰囲気の映画で、テンポがよく
とにかく面白い映画だったので、
「未見の川島映画をもっと観たい」と思いました。
当時はまだビデオの時代ですが、
・松竹時代の数本
・日活時代の数本
・大映時代の数本
はビデオ化されていて、レンタルして借りた記憶があります。
・東宝、東京、宝塚時代の川島映画は、
レンタル禁止の通販ビデオ(1本\9000くらいした)に何本かがありました。
レンタルショップには置いてなかったので観ることはできませんでした。
その後私が集中して川島映画を多く観たのは
・2001年の「千石 三百人劇場」 川島雄三レトロスペクティブ
です。
このときはビデオ化、DVD化されていないものを中心に未見の川島映画、
特に松竹、東京映画、東宝のものを10本くらい観ました。
期間中は川島監督と親しかった西河克己監督他ゆかりの方たちの
シンポジウムもありました。それも観ました。
契約したばかりのCS放送では
・日本映画専門チャンネル
:1998年頃「24時間まるごと川島雄三」」(東京映画、東宝、宝塚映画が多かった)
・衛星劇場
:2006年頃「若き日のKAWASHIMA」(ビデオ、DVD化されていない松竹映画)
・チャンネルNECO :日活映画の他東京映画、東宝なども放送
などが放送されていて、これは当時ビデオ録画、その後DVD録画しました。
日本映画専門チャンネルではここ数年の間に、
『箱根山』『赤坂の姉妹より 夜の肌』『暖簾』『喜劇 とんかつ一代』
『青べか物語』『グラマ島の誘惑』『わが町』『洲崎パラダイス 赤信号』
などがハイビジョンの綺麗な映像で放送されていました。
NHKBSプレミアムでも『幕末太陽傳』『とんかつ大将』『真実一路』
などがやはりハイビジョン映像で放送されました。
さて、明日からの新文芸座での特集ですが、
初日の5/12(月)から
デビュー作で傑作の『還って来た男』(1944)と
個人的に川島映画の最高傑作と評価したい『人も歩けば』(1960)
と充実した2本です。
『初めて観た映画 東宝怪獣映画』
2014.5.9 NEW
NHKラジオ第一で月に1回放送されている
「みうらじゅんのサントラくん」はタイトル通り
懐かしい邦画、洋画両方の映画音楽のレコード(CD?)をかける、
とても楽しい番組なのですが、
なんといっても、1曲目に東宝怪獣映画
のテーマ音楽がかかるのがたまらなく好きです。
私はみうら氏と同じ1958年生まれなので、彼が熱く語る
東宝怪獣映画についてはすべて理解し共感できます。
成瀬映画と同じ東宝ということで今回は怪獣映画について書いてみます。
みうら氏が最初に観た記憶のある映画は、キングギドラが初登場した
『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)だとラジオで話していました。
そこで、「私が最初に観た記憶のある映画は何だったか」と考えたのですが
それより数ヶ月前の『モスラ対ゴジラ』(1964)だったかと。
最初に観た映画かどうかは記憶が曖昧ですが、
最初のほうに海岸で尻尾から出てくるゴジラの映像ははっきり
覚えていますし、その迫力は当時6歳の私にとって衝撃でした。
ちなみに成瀬映画で最初に観たのは『めし』(1951)でした。
当時、東京の銭湯の脱衣所には映画のポスターがよく貼ってあったのですが、
子供心に怪獣映画のポスターはとても怖かったのを覚えています。
→映画のタイトルで画像検索すると当時のポスターがたくさんアップされています。
『モスラ対ゴジラ』以降は、
上記の『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)も含めて、
東宝の怪獣映画は1969年あたりまではすべて観ていると
思います。
『ゴジラ』(1954)、『ラドン』(1956)、『モスラ』(1961)など
それ以前のものもテレビ放送で観たり、映画館の怪獣映画特集
などでほとんどすべて観ました。
大映映画ですが『ガメラ』シリーズ、『大魔神』シリーズ
などももちろん観ました。
これは私だけでなく、同世代の小学生の男の子は
ほとんど一緒ではないかと。
当然テレビの『ウルトラQ』『ウルトラマン』も放送時に
リアルタイムで観ています。
東宝怪獣映画の中でも特に怖かったのは、
『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』(1965)
→ネットで調べると2本立てのもう一本は『海の若大将』というのが凄い
『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)
の2本です。
これは今レンタルDVDで観ても結構怖いので、7-8歳のときに
相当怖かったのは当然でしょう。
東宝怪獣映画の多くは監督・本多猪四郎、特撮監督・円谷英二のコンビですが、
音楽は当然、伊福部昭です。
これは比較的最近知ったことですが、本多監督は成瀬映画『鶴八鶴次郎』(1938)
の助監督だったそうです。
伊福部昭も、成瀬映画『コタンの口笛』(1959)を担当してます。
それからこれは有名ですが、
記念すべき最初の『ゴジラ』の本編のスタッフは、
玉井正夫(撮影)、中古智(美術)、石井長四郎(照明)
という、成瀬映画のスタッフが担当しています。
時期的には『浮雲』(1955)の直前ということになるのでしょうか。
俳優で言えば、成瀬映画、東宝怪獣映画の両方に出演されているのは
宝田明、星由里子、夏木陽介、志村喬、香川京子、若林映子、
白川由美、小泉博、水野久美、上原謙、佐原健二、浜美枝、土屋嘉男、
小林桂樹(1984年版の『ゴジラ』)などが主な方でしょうか。
渋いところでは、成瀬映画『禍福』(1937)、『まごころ』(1939)などに
出演した高田稔が、『三大怪獣 地球最大の決戦』などに
出演しています。
東宝の怪獣映画はどれも好きなので甲乙つけがたいのですが
個人的にベスト3本を挙げると
@『ゴジラ』(1954)
A『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)
B『モスラ対ゴジラ』(1964)
です。
ラジオでみうら氏も話していますが、
Aのストーリーは、『ローマの休日』が少し入っている
のは私も大人になって気づきました。
今年の7月に公開されるハリウッド版の新作『ゴジラ』
はどうなんでしょうか。
『ウォルト・ディズニーの約束』
2014.4.23 NEW
私は映画館、DVD、テレビとも邦画を観る比率が高いのですが、
1本気になる洋画があり、久々に映画館で観てきました。
『ウォルト・ディズニーの約束』(原題 Saving Mr.Banks)です。
とても素晴らしい映画でした。
もともとアニメーション映画をほとんど観ないので、
ディズニー映画にもあまり思い入れは無いのですが、
この映画には心打たれました。
私は、洋画でも邦画でも、CGを多用した映画が苦手ですが、
本作品のように、よく練られたシナリオ、ユーモラスで味わい深い台詞、
名優の演技、テンポのいい演出や編集などの要素がいい映画を形作ると
思っていますし、それをこの映画は実証しています。
CGを多用したおこちゃま向けのSFやアクション映画が多い
洋画・邦画の中で、これは大人の鑑賞に堪える映画と言えます。
この映画は『メリー・ポピンズ』の制作秘話ということだったので、
映画を観に行く前に予習として『メリー・ポピンズ』のブルーレイを
レンタルして観ました。
『メリー・ポピンズ』というのは子供向けの映画だと思っていたのですが、
ストーリー、演技、音楽、歌詞、アニメーションのどれもが素晴らしく、
これも感動してしまいました。
私は初めて観たのですが、もし今回の映画が無ければ、
おそらく一生観る機会が無かったと思います。
『メリー・ポピンズ』がこんなに素晴らしく、また深い内容だと
は思ってもいませんでした。
そしてやはり『メリー・ポピンズ』を観たばかりだったので、
この『ウォルト・ディズニーの約束』にちりばめられている
いくつかの台詞や楽曲の制作過程もよく理解することができました。
本作を観られる場合は事前に『メリー・ポピンズ』をブルーレイまたは
DVDで観ていくと2倍楽しめます。
原題の意味もまさに『メリー・ポピンズ』から来ていて、とても深い意味があります。
原作者のパメラ・L・トラヴァース(エマ・トンプソン)が、ロンドンからカリフォルニア
へ来たときに、カリフォルニアのスタイルにいちいち反発するところが
面白かったです。
そして、『メリー・ポピンズ』は実写であり、アニメーションは絶対に入れるな
という要求も強烈でした。
ホテルの部屋に置かれたディズニーのキャラクターのめいぐるみを
エマ・トンプソンが文句を言いながら片付けるところなどは、
ディズニー映画でありながらなかなか懐が深いというか大人だな
と思った次第。
ウォルト・ディズニーを演じるトム・ハンクスも名演技です。
この二人のオスカー俳優の演技だけでも見ごたえがあります。
『メリー・ポピンズ』のブルーレイの特典映像の中に
メリーポピンズを演じたジュリー・アンドリュースの面白いエピソード
が紹介されていました。(DVDにも特典映像ははいっているとは思いますが)
映画ファンには有名なエピソードなのかもしれませんが、私は初めて知りました。
ブロードウェイのミュージカルで『マイ・フェア・レディ』の主役イライザを
演じていたアンドリュースは、映画化の時に「映画出演経験がない」
との理由から、製作者ジャック・ワーナーはイライザにオードリー・ヘップバーンを起用。
その結果、アンドリュースは『メリー・ポピンズ』に出演することになり、結果として
1964年のアカデミー主演女優賞とゴールデン・グローブ主演女優賞
を受賞しました。
そして、ジャック・ワーナーも出席しているゴールデン・グローブ賞の
受賞式の会場で、以下のようにスピーチしました。
以下はジュリー・アンドリュースのウィキペディアより引用。
アンドリュースはゴールデン・グローブ賞の受賞スピーチで
「最後に、これを現実にしてくださったジャック・ワーナーさんに感謝したいと思います。
(And, finally, my thanks to a man who made a wonderful movie
and who made all this possible in the first place, Mr. Jack Warner.)」
このときの実際のモノクロ映像が特典映像に入っていて、
そのときに苦笑まじりに高笑いしているジャック・ワーナー本人も映っています。
こういうエピソードはお洒落でとても素敵です。
『ウォルト・ディズニーの約束』は映画が終わってのエンドクレジットにも
なかなか味わい深い演出があり、本当にいい映画でした。
祝 ! 5月の成瀬映画と川島映画の上映
2014.4.19 NEW
トップページで紹介しましたが、5月に東京の2つの名画座で
成瀬映画と川島映画(特集)があります。素晴らしいことです!
まずは、神保町シアターでの『秀子の車掌さん』『まごころ』。
2本とも山梨県・甲府(『秀子の車掌さん』は甲府の手前の
現山梨市)を舞台にした、昭和10年代の映画です。
2本とも今から10年くらい前に、
当時録画ビデオの画面写真を参考にして、
ロケ地写真を撮影に行ったので、思い出深い映画であり、
2本とも1時間ちょっとの小品ですが、2本とも傑作です。
1か月ほど前、評価の高い最近の日本映画で
前田敦子主演の『もらとりあむタマ子』を観ましたが、
甲府市が舞台で、途中に出てくる川と橋は、
本HPのロケ地紹介ページ内の『まごころ』に掲載した、
荒川と荒川橋ではないかと感じました。
この2本とも、以前ビデオは発売されていましたが(現在は廃盤)、
DVDは無いので、未見の方にはいい機会でしょう。
続いて、川島ファンが待ち望んでいた新文芸座の「川島雄三」特集。
私は長年かけて川島映画の全51作品を観ることができたのですが、
スカパーの放送でしか観る機会の無かった作品も何本かあり
それはこの特集上映にスクリーンで観たいと思っています。
こういう特集はめったにないので、誰でも同じだと思いますが、
観に行ったほうがいい作品の優先順位としては
・DVD化、ビデオ化されていないもの
・あまり上映、放送(スカパー、BSなど)の機会がないもの
・作品の出来がいいもの
が選ぶポイントではないでしょうか。
私なりに今回の上映作品で貴重なものを
上記のポイントで優先順位順に10本挙げると、
(1)『特急にっぽん』 5/13(火) 上映
(2)『女であること』 5/19(月) 上映
(3)『人も歩けば』 5/12(月) 上映
(4)『イチかバチか』 5/22(木) 上映
(5)『接吻泥棒』 5/15(木) 上映
(6)『青べか物語』 5/21(水) 上映
(7)『縞の背広の親分衆』 5/21(水) 上映
(8)『花影』 5/20(火) 上映
(9)『赤坂の姉妹より 夜の肌』 5/20(火) 上映
(10)『明日は月給日』 5/15 上映
になります。
松竹の『明日は月給日』以外はすべて、東京・東宝作品かと。
松竹時代の作品が少ないのと、日活時代では『わが町』『飢える魂』「続・飢える魂』
あたり、東宝時代では『貸間あり』『箱根山』もラインナップしてほしかったところです。
→DVDもあり、上映、放送の機会も多い「日活時代」「大映時代」の作品は外してほしかった!
私は上記の10本はすべてスカパー日本映画専門チャンネル、衛星劇場などで
以前放送された録画DVDを持っていて、同じ作品を何度も観ているのですが
それでもまたスクリーンで観てみたいと思わさせられます。
川島映画(特に、東京・東宝・宝塚時代が最高!)が、いかに面白く、傑作ばかりか
ということにつきます。
ビリー・ワイルダー
2014.4.16 NEW
先日行った図書館にあった映画本で、そのタイトルに惹かれて
『ビリー・ワイルダーの映画作法』(瀬川裕司著 明治大学リバティブックス)
という本を借りて読みました。
書籍紹介HP
私が外国映画で好きな映画監督のベスト3は
@ビリー・ワイルダー
Aシドニー・ルメット
Bアルフレッド・ヒッチコック
なのですが、何といってビリー・ワイルダーが圧倒的に好きです。
彼の作品はおそらく2-3本を除いてすべて観ていると思います。
この本は、タイトルの通り、ワイルダー作品に見られる
映画術を詳細に解説したもので、ある程度の映画マニア向け
の本ですが、私が見逃していた内容もあり、個人的には
とても面白い本でした。
特に、一般的にはあまり有名ではない
『少佐と少女』(1942)
『ワン・ツー・スリー』(1961)
の2本が取り上げられていたのが嬉しかったです。
もちろん大傑作の『情婦』(1958)や『麗しのサブリナ』(1954)
なども興味深く読みました。
ワイルダーは優れたシナリオライターでもあるので、
ストーリーの省略の仕方、小道具の使い方、伏線の張り方
など、すばらしい職人技という感じがします。
どの作品にもドラマの重要なアクセントとして小道具が
登場しますが、著者の瀬川氏がワイルダー作品の中の
小道具の演出で最も気に入っているという
『少佐と少女』の中の「おたまじゃくしと蛙」の使い方は、
私は一度DVD(代官山ツタヤでレンタルしました)で観ただけで
あまり意識していなかったのですが、「そういう意味か」と
改めて気づかされました。
この意味を説明するには長くなるのと野暮なのでやめますが、
ユーモラスでお洒落な表現がとても素敵です。
前に本エッセイで書いたことがあるかもしれませんが、
私は成瀬監督(そして川島監督も)が外国の監督の誰に
似ているかといえば、ワイルダー、ヒッチコックではないかと
思っています。
もちろん映画の題材はまったく違うのですが、映画として
共通する要素がいくつかあります。
それは
・説明的な台詞が少ない
・映像表現の素晴らしさ
・小道具の使い方、伏線の張り方の巧みさ
→同じ作品を何回か観て初めて気づくことが多い
・直接的なバイオレンスシーンが少ない
→これは個人的な好き嫌いでしかないですが、
私はバイオレンスに満ちた映画が生理的にだめなのです。
従って『ゴッドファーザー』や『タクシードライバー』なども苦手で。
ルメット作品は警察の腐敗などを描いた社会派作品も
多いので銃も登場するのですが、あまり気にはなりません。
『ダーティハリー』や『フレンチコネクション』なども大好きなので
こればかりは好き嫌いとしかいいようがないです。
・都会的なお洒落なセンスに満ちている
・抑制されたユーモア
など。
つまり
「映画のプロフェッショナルが作った、安心して観られる、よくできた映画」
とまとめられるかと。
私のいい映画(TVドラマなども)の定義とは
「何度観ても面白く、新たな発見もある映画」
なのですが、ここに挙げた監督の映画は
その点が全員共通してます。
故小林桂樹さんの対談を聞いたことがありますが、
成瀬監督は小林さんが少し説明的な演技をすると
(小林さんご本人はほとんど演技していないとの認識だった
とのことでしたが)、笑った後に「オーバー」と駄目だしが出て、
その後に「アメリカ映画みたい」とかおっしゃったそうです(笑)。
成瀬監督もワイルダーやヒッチコックの映画を観ていたとは
思うのですが、どう評価していたのか気になるところです。
最近観た日本映画について
2014.2.23 NEW
キネマ旬報ベストテン、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞
など2013年公開の映画賞がすでに発表されています。
その情報も参考に最近の日本映画を何本かDVD等で観ました。
最近は洋画よりも邦画、日本映画の方に秀作が多いように感じます。
私が昨年映画館で観た洋画は、アカデミー賞の『アルゴ』(公開は2012年秋)と
『ヒッチコック』くらいで、とにかく映画館に行って観たいと思うような洋画は
ほとんどありませんでした。
日本映画であれば公開中の『小さいおうち』『もらとりあむタマ子』
などは観に行きたいのですが。
最近観た日本映画で久しぶりに感動したのは『横道世之助』です。
公式サイト
人気作家・吉田修一原作で、監督は沖田修一、脚本は沖田修一・前田司郎。
主人公の世之助に高良健吾、ヒロインの与謝野祥子に吉高由里子。
1980年代後半に東京の大学へ入学した世之助の大学生活(実名で法政大学)
を中心に描いた「青春」+「ラブコメディ」映画ですが、
個人的には最近の日本映画では『モテキ』『僕達急行 A列車で行こう』以来の
心に残る大好きな映画になりました。
この映画は160分というかなりの長編なのですが、演出と編集のテンポ
が良く、もちろん俳優陣も魅力的で、そんなに長い映画だと感じませんでした。
私が大学生の時期はこの映画の舞台の約10年前で、
1987年の頃はすでに社会人でしたが、当時の東京の雰囲気はよく覚えています。
この映画の魅力の一つは、1980年代の東京の雰囲気を再現している点です。
冒頭、長崎から上京した世之助(高良健吾)が新宿の東口
を歩くシーンには、CG合成なのでしょうが、当時の斉藤由貴の広告の
看板(確かカセットテープ)があり、歩いている人たち、そして高良健吾
のファッションも正に1980年代そのものです。
前半に登場する下北沢駅前(これはオープンセットで再現したとのこと)
の雰囲気も、一瞬1980年代の当時の日本映画を観ているような
錯覚に陥りました。
携帯電話やスマホも無い時代なので、公衆電話がよく登場します。
映画はまだ子供っぽさを残した高良健吾とその友人たち(東京・長崎)
そして恋人になる超お嬢様の与謝野祥子(吉高由里子)
(手を振り「ごきげんよう」と「わたくし」というのが口癖)
との交流をユーモラスに描いた楽しい映画なのですが、
随所に短く、現在の彼らが世之助のことを懐かしそうに語る
シーンがはさまり、この編集(原作とほぼ同じ)はとても自然で
違和感がありません。
ともかくこの映画での高良健吾と吉高由里子の演技は
生き生きとして素晴らしいです。
原作にもありますが、応接間のカーテンに隠れて高良健吾から
愛の告白を受ける吉高由里子は本当にキュートです。
(予告編にも出てきます)
また、高良健吾と同じ大学の友人役の池松壮亮、綾野剛との
会話は、どうでもいいことを真面目に話していたり、その話し方
も含めて、18歳・大学1年生の頼りない感じがよく表現されています。
特に好きなのは、サンバクラブ(!)の合宿の風呂場で
高良健吾と池松壮亮がシャンプーしながらする会話シーン。
爆笑しました。
全体的に会話のリズムに変な間があり、(その間の感じも1980年代っぽい)
笑わせてくれます。
この映画を観て、あらためて1980年代はいい時代だったと
再認識しました。
もう1本は評価の高い『舟を編む』です。
公式サイト
三浦しをん原作、監督は石井裕也、脚本は渡辺謙作。
松田龍平、宮崎あおい、小林薫、オダギリジョー、加藤剛、
八千草薫などの他、最近ベルリン映画祭で賞をとった
黒木華も出ています。
この映画もとても素晴らしい作品なのですが、
私自身は『横道世之助』の方が好きですし、映画としても
評価をします。
理由としては、『舟を編む』の面白さは、出版社の辞書編集部を舞台に
辞書作りの気の遠くなるような地道な作業について
初めて知る情報の要素が半分くらいではないかと感じたからです。
辞書作りについては、例えばNHKスペシャルのようなドキュメンタリー
や池上彰さんの情報番組などで取り上げても興味が惹かれる
のではないかと。
比較すると、『横道世之助』は大学生の青春を描くという
これまで数多くあった、極めて平凡な題材を描いているのに対し、
『舟を編む』はまずその題材自体にインパクトがあったように思います。
成瀬映画、小津映画、川島映画を愛する者としては
『横道世之助』の方が好みということなのかもしれません。
別の言い方をすれば『横道世之助』では、ジーンとして涙ぐむ
個所がありましたが、『舟を編む』にはそういう個所がありませんでした。
あくまで私個人の感じ方ですが。
『舟を編む』はタイトルが素晴らしく、またさらっと終わるラストシーンは
とてもいいです。
また、日本料理の女料理人という珍しい役を演じる宮崎あおい
が光ります。
最後に、もう1本。
これは昔の日本映画ですが、木下恵介監督『今年の恋』(1962)。
木下恵介監督公式サイト(松竹)
製作ニュース・予告編(You Tube)
昨年は未見の木下作品のDVDを数多く観ましたが、
この映画が最も気に入りました。
岡田茉莉子と吉田輝雄の恋を駆け引き描いた
軽いタッチの都会的なラブコメディですが、
木下作品の中では、一番好きな『お嬢さん乾杯』に
通じる雰囲気があります。
ストーリー展開も極めて平凡なものですが、こういう題材も
演出のテンポがいいと楽しめます。
吉田輝雄の弟役の能天気な高校生を演じているのは
若き日の田村正和ですが、現在の田村正和しか知らない
人には興味深いでしょう。
早口でまくしたてる銀座の小料理屋の娘役の岡田茉莉子
は綺麗でとにかく魅力的。
この映画で毎日映画コンクール女優主演賞をとったのも
うなづけます。
私が好きな三木のり平も高校教師役で出ています。
女優・淡路恵子さんが1月11日にお亡くなりになりました
2014.1.12 NEW
年末年始と訃報が続きますが、
報道されているように昨日の1月11日、女優・淡路恵子さんが
病気でお亡くなりになりました。
80歳。
淡路さんは、成瀬映画には以下の5本に出演されています。
・『女が階段を上る時』(1960)
・『娘・妻・母』(1960)
→明日1/13 AM10:30 東京・江東区の「古石場文化センター」で上映
・『妻として女として』(1961)
・『女の座』(1962)
・『女の歴史』(1963)
この中で私が特に好きなのは『娘・妻・母』の宝田明の妻役と
『女の座』の三橋達也の妻役の2本です。
私は「大家族もの」と名づけている2本ですが、
作品自体も1960年代の成瀬映画の傑作の2本です。
2本とも東宝の俳優を中心としたオールスターキャスト
ですが、その中で淡路さんは、家族から少し距離を
置いて、クールな視点を持つ役柄を活き活きと演じています。
『娘・妻・母』では年下の夫・宝田明に対して、
また『女の座』でもダメ男の夫・三橋達也に対して
完全に主導権を握っており、夫の発言、行動に対して
ずけずけと意見を述べますが
淡路さんが演じるとまったく厭味が無く、小気味よさにとても好感が持てます。
3年ほどの間に5本の作品に集中的に起用されたのは
成瀬監督が淡路さんの「大人の女の演技」を気に入ってたからでしょう。
淡路さんといえば、タバコの吸い方が一番かっこいいと評された
女優としても有名です。
ネットの映画データベースを見ると、淡路さんは
デビュー作の『野良犬』(1949)から約160本の映画に
出演されているようですが、
私が観ている映画のうち、成瀬映画以外で好きな淡路さんの出演作は
・『新東京行進曲』 川島雄三監督
・『グラマ島の誘惑』 川島雄三監督
☆『人も歩けば』 川島雄三監督
・『三十六人の乗客』杉江敏男監督
☆『切られ与三郎』 伊藤大輔監督
☆『男嫌い』 木下亮監督
・『男はつらいよ 知床慕情』山田洋次監督
です。
☆は特にお気に入りのもの。
晩年TVのバラエティ番組に出演されていましたが
その中でご自身の出演作品の中で、
上記の映画『男嫌い』(1964 東宝)
がとても好きな作品だと話していました。
ご冥福をお祈りいたします
すでに報道されていますが、昨日12月30日に
音楽家の大瀧詠一さんが病気でお亡くなりになったとのことです。
65歳。
成瀬映画と直接の関係は無いのですが、
大瀧さんは(割と最近になって?)成瀬映画や小津映画のファンだったようで
雑誌「東京人」の274号(2009年11月号)の
特集「映画の中の東京」の
:『銀座化粧』『秋立ちぬ』
大瀧詠一の「映画カラオケ」のすすめ。(P28〜P39)
の中で、2本の成瀬映画の舞台である銀座、築地、新富町界隈の
ロケーションを徹底的に調査、分析されています。
(聞き手は川本三郎さん)
『秋立ちぬ』の当時の助監督で、私が親しくさせていただいていた
故石田勝心監督にもお会いしていろいろと取材をされたようです。
(文中にも石田監督の話が出てきます)
私は2009年当時、石田監督とはパソコンメールのやり取りをしていたのですが
石田監督から「先日、雑誌の取材で成瀬ページと同じようなロケーション探しを
されている歌手の大滝さんという方とお会いしました」
とメールをいただいたのですが、まさか大瀧詠一さんとは思わず
雑誌「東京人」の特集を読んでびっくりしました。
私も本ページで成瀬映画のロケーション地探しを幅広くやってきましたが
『秋立ちぬ』『銀座化粧』の2本を徹底的に調べられていて凄いと思いました。
特に、『秋立ちぬ』で未だにどこなのか曖昧なのですが
銀座の街中の空き地で子供たちが野球をする場所も大瀧さんは特定されていました。
(文中でも現在の場所がはっきりとは書かれていないのでどこだかよくわからないのですが)
タイトルの「映画カラオケ」について文中を引用すると、
〜カラオケに歌手がいないように、映画の場面から役者を抜いて
バーチャルな世界を作り、登場人物の視線でその世界を歩く〜
とおっしゃってます。(同誌 P28)
また
〜この二作品は約十年という時間を経て、レコードでいうならば
A面とB面、続編でもあり姉妹編であるということがわかりました。
「母ひとり子ひとり」という同じ設定のほか、さまざまなところで
シンメトリックな構造になっています。〜
と、いかにもミュージシャンらしい表現をされています。
大瀧さんのことをネットで調べたら、大瀧さん自身も
「母子家庭」だったようで、母と子のドラマであるこの二作品のロケ分析には
そのようなご自身の体験も投影されていたのかもしれません。
これは私の勝手な推測ですが。
ネット上のどなたかのブログだったか、大瀧さんが
本成瀬ページの中の『秋立ちぬ』のロケ写真(映画冒頭に登場する京橋公園)
を検索して見ていただいたようなことが書かれていました。
大瀧詠一さんといえば、私が大学生の頃に
大ヒットアルバム「A LONG VACATION」が発売され
何度も聴きましたし、
サイダーなどのCMや、松田聖子、薬師丸ひろ子など
数多くの歌手の作曲者として、ものすごい活躍でした。
個人的には一番好きなのはやはり「夢で逢えたら」(吉田美奈子)
です。
大瀧さんの作られる曲はどれも素敵なメロディでしたが、ボーカリストしての
大瀧さんの声も大好きでした。
♪ご冥福をお祈りいたします♪。
今回も小津監督関連の内容です。
ブルータスの特集号を読み終わり、久しぶりに小津映画を
観たくなりました。
そこで、私が一番好きな『東京暮色』(1957)のDVDを再見しました。
スクリーンでも観たことがあり、今回で7−8回目でしょうか。
映画は最初観た時はどうしてもストーリーを追いがちなので、
よっぽど注意して観ないと演出や台詞や映像表現などの細かい点には
なかなか気づかないのが普通です。
今回も『東京暮色』を観直して、一つ発見したことがありました。
大筋には関係ない非常にマニアックな部分でありますが。
映画の中盤で、杉山周吉(笠智衆)の妹・竹内重子(杉村春子)が、
笠智衆の次女・明子(有馬稲子)の縁談写真を持って笠智衆の家を訪ねるシーン。
写真は二人あるのですが、二人目の写真を笠智衆と長女の沼田孝子(原節子)に
見せる時にの杉村春子の台詞
「うちの取引先のね、〜(略)〜 いい男よ(と鼻の両側を手で示し)この辺錦之助に似てて」
錦之助とは云うまでもなく、当時の東映の時代劇の人気スター 中村錦之助
のことでしょう。
そうです。
まったく偶然でしょうが、脚本の小津安二郎・野田高梧は、
この映画の4年後、1961年の有馬稲子と中村錦之助の結婚を予言したことになります。
杉村春子が例によって、リズミカルに台詞を早口でまくしたてるので、これまで
気づきませんでした。
それだけでなく、今回『東京暮色』を再見して、いくつか新たに感じたことがありました。
一言でいえば、「最も成瀬映画っぽい雰囲気の小津映画ではないか」ということです。
(1)笠智衆、原節子の演技
私は笠智衆、原節子とも、小津映画の中ではこの映画での演技と台詞が一番好みです。
一言でいうと二人が出演した数多い小津映画の中で、最も「自然な演技、台詞」
だと感じるからです。
この映画の原節子は夫と不仲で、赤ん坊の娘を連れて実家に帰ってきているという
役なのですが、演技や台詞の雰囲気が、最も成瀬映画の原節子に近いように思います。
小津映画では観ていて不自然に感じる(その奇妙な感覚が小津映画の魅力ですが)
台詞の発声やリズムが、この映画の原節子にはあまり感じないのです。
もちろん綺麗さという点では『晩春』「麦秋』『東京物語』の代表3部作の
原節子には負けますが、原節子の落ち着いた、大人の女性の魅力が全開しています。
後年の『秋日和』『小早川家の秋』になると、大きな娘のいる未亡人だったりして、
私はあまり魅力を感じません。
笠智衆も、いわゆる小津調の台詞の言い回しから少し解放されたような印象を受けます。
特に、室内で原節子と有馬稲子をねちねちと叱るシーンなど。
小津監督が意識的に、俳優への演出を少し変えてみようと思ったのかもしれません。
よく言われる『浮雲』への意識があったのでしょうか。
(2)山田五十鈴、藤原釜足の起用
この映画は何といっても、山田五十鈴が唯一出演した小津映画というだけで
価値があります。山田五十鈴は、成瀬映画でも『流れる』『鶴八鶴次郎』『歌行燈』
などの名演がありますが、『東京暮色』も圧倒的な存在感のある演技に唸ってしまいます。
それから中華料理屋の店主の役の藤原釜足。成瀬映画、黒澤映画常連の藤原釜足も
これが唯一の小津映画だったと記憶しています。
藤原釜足のひょうひょうとした自然な演技も、小津映画には珍しい独特な感じを与えて
くれます。
対比として、麻雀シーンに多く登場する、高橋貞二、須賀不二男、長谷部朋香といった
若者たちの演技、台詞の言い回しは、いつもの小津調のリズムなので、余計にそのように
感じます。冒頭の飲み屋のカウンターでの浦辺粂子、笠智衆、田中春子や
須賀不二男がバーテンをしているバーでの客との台詞も、いつもの小津調です。
(3)映像
前にも書いたかもしれませんが、この映画には映像表現して素晴らしい演出が一つあります。
これは小津監督の助監督でもあった作家の高橋治氏の『絢爛たる影絵』(文春文庫)の
P283に指摘されています。
笠智衆の家は、東京・雑司が谷の高台にあります。
ロケページ写真参照
映画では有馬稲子、笠智衆、原節子、杉村春子(自動車で)などが坂道を歩いて
くるほぼ同じアングルのショットが昼間、夜間あわせて4-5回出てきます。
ラスト前、別れを言いに来た山田五十鈴も坂道を登ってきますが、玄関で原節子に
家に上ることを拒絶され、その後映画の中で初めて、坂をゆっくりと下りて行く山田五十鈴の
姿が映し出されます。ラストも笠智衆が出勤のため坂道を下りて行くショットです。
登場人物の心理状態を象徴的に使った(であろう)この坂の映像演出には唸ります。
また、深夜の喫茶店に張り込んで、有馬稲子を補導する刑事・宮口精二の登場シーンは
まるで「フィルム・ノアール」調ですが、マスク姿の宮口精二がなかなか不気味でいいです。
有名ですが、有馬稲子を引き取りに来るマスク姿の原節子がまたいいです。
生誕110周年の特集としてGyao!では日替わりで小津映画の無料配信
をやっています。『東京暮色』は11/29に限定無料配信とのこと。
以下のHP参照
Gyao!小津特集
久しぶりに雑誌を購入しました。
タイトルにあるブルータスの特集号2013 12/1号、¥630です。
下記参照
ブルータス最新号
表紙はモノクロ写真に黒文字で「小津の入り口。」とあり、
男女のモデルが座っているのは『東京物語』のポスター
へのオマージュですね。
小津安二郎監督は今年生誕110周年、没50年ということで
今後特集上映やフィルムセンターでの展示などのイベントが続きます。
→同じく没50年の川島雄三監督とは扱いが異なりますね!
ブルータスは以前にも何度か映画の特集号はあり、その中にはフランスの映画監督の
レオス・カラックスの成瀬巳喜男論なども掲載されていて、当時興味深く読みました。
しかし、ブルータスに限って云えば今回のような一人の映画監督の特集号は初めて
ではないかと。
(雑誌「東京人」や「ユリイカ」ではありましたが)
これまですでに相当の小津映画を観て、小津関連の書籍を何冊も読んでいる
小津マニア、小津ファンは、この特集号をどのように感じるのか興味があります。
小津マニアの一人である私個人としては、この特集号をとても面白く読みました。
タイトルにあるように、これから小津映画を観る人に向けた
入門編と位置付けられています。
「テレビドラマ」(山田太一さんが語っています)「料理」「おじさん」「男と女」「笑い」「ファッション」
「女優」「着物」などのテーマ別に分けられていてとても読みやすい構成になっています。
写真やイラストが豊富に掲載されていてこれがともかく素晴らしい。
また、入門編といっても内容的に結構深い部分もあり、読み応えがあります。
一番びっくりしたのは「画作り」という、小津の映画のワンカットを切り取ったような
写真ページ。
『東京物語』『彼岸花』『東京暮色』に登場するシーンの中のワンカットを題材にしています。
モデルは現代の若いモデルです。
ページ下にモデルが着ているワンピースやブラウスの値段などのクレジットが出ていて、
ファッション誌なら当たり前ですが小津特集号なので驚いてしまいました。
とにかく新鮮な感覚です。
『東京暮色』の有馬稲子のスカーフを巻いたカットを再現したモノクロ写真は
モデルの娘の表情も含めてとても素敵です。
最終ページに近いところに「ヒレカツの味。」という
男性モデルのファッション写真ページがあり、
そのロケ舞台が小津監督ゆかりの
とんかつ屋・御徒町「蓬莱屋」なのですが、
ページには何の説明も無いのに
ちゃんと小津特集とリンクしていて微笑ましい。
これまで本HPでも書いてきましたが、私は成瀬監督マニアになる前は小津監督
マニアでした。
私だけでなく私の知人も小津監督→成瀬監督が多いというか、
成瀬監督→小津監督はこれまで聞いたことがありません。
それはやはり上映の機会の多さ、DVD(小津監督は全作品のDVDあり)での
鑑賞の手軽さ、一般的な知名度の高さ、書籍の多さ(成瀬本の2倍か3倍?)
など様々な理由が考えられます。
ともかく昔の日本映画に興味の無い方に聞いても、小津安二郎は知っていて、
成瀬巳喜男は知らないという方が多いのは残念です。
もちろん若い世代の成瀬映画ファンが増えていることはとても嬉しいことなのですが。
最後に、年齢を重ねるに従って、好きな作品の順位は異なってきますが
現段階での私の小津映画ベスト5は
(1)『東京暮色』
(2)『東京物語』
(3)『小早川家の秋』
(4)『早春』
(5)『お早よう』
です。
成瀬監督の生誕110周年は再来年の2015年ですね。
現在京橋のフィルムセンターで上映中の「よみがえる日本映画Vol6 東宝篇」
には、
『女優と詩人』(1935)
『サーカス五人組』(1935)、
『浦島太郎の後裔』(1946)=超異色作
『くちづけ』(1955 筧正典監督、鈴木英夫監督とのオムニバス)
と4本の成瀬映画がラインナップされていて、
さらに原作が成瀬監督の『化粧雪』(石田民三監督 1940)もあります。
フィルムセンターの映画チラシやホームページの内容を読んでいて
気になる記述個所がありました。
それは『女優と詩人』について、
「略〜最後の、エンド・クレジットが消える直前にかすかに入る
男性の声に注意してほしい。」という個所です。
下記URL参照(次回の上映は11/16(土)16:00)
フィルムセンターのHPの解説
そこで、以前スカパー日本映画専門チャンネルで放送された
成瀬巳喜男劇場の時に録画した『女優と詩人』のラストを注意して
観てみました。
ラストの楽団の音楽が鳴っているエンド・クレジットで
音楽が終わり、画面がフェイドアウトして暗くなる直前に、
確かにほんの一瞬「カット」という男性の声が聞えます。
凄く小さい声で、それも一瞬なのでこれまで何度も観ていましたが
まったく気づきませんでした。驚きました。
今回の上映用のニュープリント作成の過程でフィルムセンターの
研究員のどなたかが見つけたものと推察しますが、よく見つけた
ものと感心します。
「カット」という声なので、この声は間違いなく当時30歳の
成瀬監督の声でしょう。
松竹からP・C・Lに移籍し、『乙女ごころ三人姉妹』(1935)
に続いて二本目のトーキー映画なので、
最後にご自分の声で「カット」と遊び心で入れたという
ことなのでしょう。
成瀬監督はよく「ヤルセナキオ」という渾名で作風を
語られますが、それは成瀬映画の一部の作品しか観ていない人の言う事で、
成瀬映画を数多く観ると、成瀬映画には古典落語のような、
さらっとした、粋で上質なユーモアが沢山あることがわかります。
松竹蒲田の出身の影響もあるのでしょう。
この「カット」も成瀬監督のユーモア精神を感じます。
さて、声といってもほとんど聞き取れない声なのですが、
私は成瀬監督の声を聞いたことがないのでその点でも
非常に貴重です。
若き成瀬監督の動く姿は、五所平之助監督の撮った
プライベートの8mm映像で観た事があります。
確か、フィルムセンターの展示室の常設コーナーのところに
このフィルムがあったかと。
小津監督、溝口監督はラジオ出演の時の声を聞いたことが
ありますし、小津監督は『秋刀魚の味』の予告編では
演出している姿も映っています。
もちろん黒澤監督や木下監督はテレビに多数登場しています。
私の調査不足かもしれませんが、成瀬監督がラジオやテレビ
に出演されたというのは聞いたことがありません。
例えば『浮雲』などの時に、ラジオ出演依頼くらいはあったと
推察しますが、どうだったんでしょうか?
マスコミ報道にあったように、8月18日に梶田興治さんが
お亡くなりになりました。89歳。
梶田さんは、『ゴジラ』(1954)他、本多猪四郎監督の東宝の怪獣映画
の多くにチーフ助監督で付いていて、その後テレビの『ウルトラQ』(1966)では
何本か監督をされています。
私は怪獣映画世代のど真ん中で、『ウルトラQ』も小学生の時にリアルタイムで
見ているので、梶田さんには非常に親近感を覚えています。
後年知ったことですが、東宝の助監督時代には成瀬映画3本で
チーフ助監督に付かれています。
『くちづけ=オムニバス 第3話』(1955)、『妻の心』(1956)、
『コタンの口笛』(1959)の3本。
成瀬映画の中ではあまり語られない渋い3本ですが、私はどれも好きな作品です。
数年前に、成瀬監督関連の会で一度お目にかかったことがあり、
思わず『ウルトラQ』や映画『モスラ対ゴジラ』(1964)などの話を振ってしまいました。
非常におだやかな話し方で、昔の映画人らしいダンディなお年寄りでした。
成瀬映画でのエピソードをもっと聞いておけばよかった。
『ウルトラQ』はDVDで今見てもとてもよく出来ていて、
すべて名作だと思いますが、
梶田さんが演出された「悪魔ッ子」は、
子供心にとても怖い映像だったことを記憶しています。
中年になって再見しても怖かったのですが!
今回の報道で、零戦のパイロットだったことは初めて知りました。
ご冥福をお祈りいたします。
「夏」の映画
2013.8.5 NEW
BS日本映画専門チャンネルで毎月テーマを変えて放送している
「ザ・ベスト」ですが、8月のテーマは「夏」でした。
日本映画専門チャンネルHP ザ・ベスト紹介ページ
4人のゲストの選んだ作品はわりかし最近の日本映画
でしたので、番組を見ながら「夏の映画」を考えてみました。
私が推薦する夏の日本映画ベスト1は
・「愛人」(1953 東宝) 市川崑監督
です。
この作品は私がかなり多く観ている市川作品の中で
のベスト1でもあるのですが、正に夏に起こるドラマを描いた
傑作映画です。
映画の冒頭は夏の避暑地(志賀高原)で、二組の家族
(舞踊家の越路吹雪と娘の岡田茉莉子、
映画監督の菅井一郎と息子の尾棹一浩、娘の有馬稲子)
が登場します。
冒頭は、テニスコートで菅井と有馬がテニスを
しているシーン、そこに霧がかかり雨も降ってきてホテルに
走って引き上げる。(略)
湖で一人でボートに乗っている岡田、同じく湖に
兄弟でボートに乗っている尾棹と有馬。
岡田のことが気になっているんでしょうと妹の有馬にひやかされている
尾棹は、岡田のボートとすれ違うときに会釈をし、岡田も笑顔でそれに応える。
この避暑地で二人の恋の予感を感じさせる余韻でこのシーンは終わります。
次は雪の舞う東京の結婚式場(東京會舘)。
入り口にお互いの苗字である「井上家・神家結婚披露宴会場」
尾棹と岡田が一緒になったのかと思うと、親同士の菅井と越路が
結婚(二人とも再婚)するというシニカルな展開。
冬の結婚披露宴のシークエンスが終わると、続いて
東京郊外(多摩川近辺)の夏のシーンになります。
庭のひまわりのショット、映画監督の菅井の弟子の助監督・三國連太郎と
有馬が、草のぼうぼうとした整備されていないテニスコートでテニスをしています。
ここから映画のラスト(夕立)まで、ドラマの中に夏(おそらく8月の後半くらいの晩夏でしょう)
の季節感が一杯描かれます。
・三國連太郎が多摩川で泳ぐシーン
・菅井が多摩川で帽子を被って釣りをしているシーン
・並木道を岡田、有馬の二人が歩くシーン
→東京の郊外とは思えないほどののどかな雰囲気。
そして成瀬組のキャメラマン玉井正夫の得意な「人物の服
を移動する木漏れ日の影」撮影が美しい
・和服を着ている越路以外は皆シャツやブラウスを腕まくりして半袖
にしている。有馬はショートパンツをはいている
・メイン舞台となる洋館の差し込む、いかにも夏を感じさせる光線
など
ともかくこの作品は映画自体も傑作ですが、昭和28年当時のまだ車の少ない
東京の郊外(世田谷あたり)の晩夏の雰囲気がとても素晴らしい効果をあげています。
残念ながらDVD化されていません。
以前日本映画専門チャンネルでは放送されています。
この作品については書籍「光と嘘、真実と影」(和田誠、森遊机著 河出書房新社)
の中で、お二人が詳しくその魅力について語っています。
最近の日本映画では「サマータイムマシン・ブルース」(本広克行監督 2005)
でしょうか。
四国の大学の「SF研究会」を舞台にしたとても面白い作品ですが、
これは大学の夏休みに起こるドラマです。
ドラマの重要な要素が、部室のクーラーが壊れてしまうことから
始まるということで、これも正に夏の映画です。
この映画はタイムマシン(セコイ!)が登場するコメディタッチの映画ですが
ラストのさらっとした終わり方がとても素敵で、また上野樹里の魅力も
一杯の素敵な映画です。DVDはあります。
さて、「成瀬映画で夏というと何があるか」と考えてすぐに、
「秋立ちぬ」を連想しました。
「秋立ちぬ」も正に少年と少女のひと夏の出会いと別れの物語です。
・夏木陽介が多摩川で泳ぐシーン
・重要な要素のカブトムシ
・東京湾での水遊び
など、この映画にも夏の雰囲気が満ちています。
映画としても成瀬映画の傑作の1本です。
残念ながらこの作品はDVD化(ビデオにもなったことがない)
されていません。
1本は選べませんが、小津映画も夏の季節の映画
が多いですね。(冬の「東京暮色」は異色作)
個人的には、CGがどうしたという映画よりも、季節感を魅力的に
描いた映画の方が観たいです。
成瀬映画「娘・妻・母」について
2013.7.30 NEW
<追加>
「娘・妻・母」をBS日本映画専門チャンネルの綺麗なハイビジョン映像で
久しぶりに観ました。
『成瀬映画は観るたびに新たな発見がある』というのが私の持論ですが、
下記に書いたようにこれまで10回以上は観ている作品なので
さすがに新たな発見は無いかと思っていたら、
見落としていた点がありました。映像表現に関連したことですが。
映画の中ほどで、三益愛子が孫の男の子(森・高峰の子供)
を近くの公園で遊ばせているシーン。
近所のおじいさん・笠智衆と世間話していると
公園のプランコで、孫の男の子がブランコに乗っている
女の子のブランコをゆすって「かわってよ」としつこく言い、
女の子は「いやよ」と拒否します。
公園での子供たちの微笑ましい描写ですが、
場面転換して次のシーンは、
宝田明と淡路恵子のアパートです。
淡路恵子がスーツケースに荷物をまとめて
アパートを出ようしていて、宝田明が一生懸命
なだめている夫婦喧嘩の描写なのですが、
「二人の(くだらない)言い争いは、公園の子供たちの喧嘩とほとんど変わらない」
という成瀬監督のシニカルな表現ではないかと感じました。
シナリオライター(井手俊郎・松山善三)の意図かもしれませんが
成瀬監督は説明的な台詞や芝居は削除してしまうと、
多くの俳優、スタッフの証言にあるので、残しているのは成瀬監督の意図が
あったということでしょう。シナリオに書かれているかは不明ですが。
淡路恵子の台詞には「子供の喧嘩じゃないのよ」もあり、ますますその感を強くしました。
これは前に観た時はまったく意識しませんでしたが、
この場面転換の編集を見ると、そういう意図があったのだと推察します。
ロケ地について、ラスト前、家に届いた封筒を高峰秀子が
見るシーンがあります。
老人ホームから三益愛子(坂西あき)宛てに届いた封筒です。
成瀬監督は住所の書かれた手紙・郵便や名刺をそのままアップで映す
ということをよくやりますが(「妻よ薔薇のやうに」「女優と詩人」「妻」など)
この作品でも家族の住む家は「世田谷区北沢(実際の番地も書かれていますが
現在は町名、番地とも変更になっているでしょう)、封筒の裏の老人ホームの住所は
「東村山」と書かれているのが画面でわかります。
この後、台所での原節子と高峰秀子との会話シーンがあり、
その後場面転換し、三益愛子が公園のベンチに座っているシーンになります。
この編集の流れも映画のタイトルを表現(原=娘、高峰=妻、三益=母)
しているのかなと感じました。
ラストシーンの公園は、ロケ地紹介に写真を載せた「女の歴史」のラスト
の世田谷の公園に似ているのですが、公園に再び登場する笠智衆が
「この公園はもうすぐ取り壊されて、どこかの銀行のアパートが建つそうですなぁ」
と三益愛子に話しかけるのでなんとも言えません。
この作品での笠智衆は近所のおじいさん役で公園シーンしか
登場しませせんが、この作品の2年後の同じく「大家族もの」の秀作、
「女の座」では大家族の老いた父親役を演じています。
それにしても成瀬映画は奥が深いです。
2013.7.28 NEW
久しぶりに成瀬映画について語ります。
トップページに紹介したように、7/29−8/2まで
日本映画専門チャンネルで放送されます。
この作品はDVDも出ているので、すでにご覧になった方も多いかもしれません。
成瀬映画には「大家族もの」とでも名づけられる作品があります。
本作とそして1962年の「女の座」の2本です。
2作品とも、「おかあさん」「めし」「浮雲」「乱れる」「乱れ雲」といった
ベストテン何位といった評価を受けている作品ではなく、
当時の東宝の豪華スター共演というヒット作であり、映画の賞とは
無縁のような作品です。
これぞホームドラマという感じで、ストーリーもいたって平凡。
傑作の多い成瀬映画の中では当時の評論家の評価は低かったようです。
ところが、こういう平凡なホームドラマ題材の時にこそ、
成瀬監督は「では演出で工夫してみよう」と思われたと推察しますが、
実に映画的なお洒落な演出、表現に満ちていて素晴らしいです。
キネマ旬報から出ているロバート・アルトマン監督のインタビュー本
を先日読みましたが、その中に「観客はある映画を最初に観る時は
どうしてもストーリー中心で観るので、監督が工夫した映画の表現
まで読み解くことは難しい。何度か観ないと気づかないだろう」
といった趣旨の発言をされてました。(表記は正確ではないです)
この趣旨はまさに成瀬映画に当てはまります。
「娘・妻・母」には平凡なホームドラマの展開の中に、成瀬監督の仕掛けた
お洒落で、かっこいい演出表現が満載です。
「娘・妻・母」については私の著書の「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)
の作品分析で詳細に記述していますが、その中から2つだけ紹介します。
(1)「おかあさん」という台詞つながりの場面転換
・小泉博と草笛光子夫婦が仲のいいことに嫉妬した小泉の母・杉村春子は
「おかあさんがじゃまなんだろ。家を出て行く」と怒って外に出て行く。
小泉の「おかあさん」の台詞
(場面転換)
「おかあさん」と母に呼びかける宝田明。妻の淡路恵子と夫婦喧嘩して
実家に来ている宝田明が、母・三益愛子にいい年をして甘えているシーン。
妹の団令子に「兄さんは昔から甘えん坊なのよ」などと皮肉を言われる。
成瀬映画にはこういう同じ台詞での場面転換が多くありますが、このシーンも
その一つです。編集のリズムの素晴らしさ
(2)原節子と仲代達矢の2回のデートシーンに見られる映像の遊び心
・夫の事故死(交通事故!)によって実家に戻って来た長女の原節子は、
妹・団令子の食品会社のワイン醸造技師の仲代達矢と知り合い
2回デートシーンが出てきます。
1回目は、通りの店の前で待っている原節子(最初は足のみ映す)。
そこに通りの向こうから笑顔で歩いてくる仲代達矢。
2回目は、1回目とまったく同じ店の前で、同じアングルで足から
映すが、今度は待っているのが仲代達矢で、向こうから道路を
渡ってくるのが原節子
こういう細かい映像表現は、映画を1回観ただけではなかなか気づきません。
二人が食事に行く店での座り位置も、上記と同様の表現だったと記憶しています。
この映画の見所は、成瀬映画では唯一の高峰秀子と原節子の共演、
そしてなんといっても原節子と仲代達矢のキスシーンです。
以前、やはり日本映画専門チャンネルで放送された仲代達矢ロングインタビュー
で、仲代さんがこの時のエピソードを語っていました。
キスシーンの撮影の前、成瀬監督が「仲代くん」と手招きし、
仲代さんに「本物でやってね」と指示したそうです。
仲代さんは原さんの大ファンだったので、「まいったなあ」と思っていたところ
原さんの付き人(だったか?)が、「原はキスシーンではこれまで唇をつけないように
お願いしています」と言ったので仲代さんは「そうだよな」と納得していた。
その時に近くでそれを聞いていた原が「何言っているのよ、(本当に)どうぞ」と
仲代さんにおっしゃったそうです。
実際の映像だと、カメラアングルの工夫で実際に唇が合わさっているかは
よくわかりませんが、いずれにしてもそのようなやり取りがあったとの仲代達矢さんの
証言でした。
このエピソードを聞いて、私はますます原節子ファンになりました。
いま大人気のNHKドラマ「あまちゃん」のヒロイン・アキの台詞風にいえば
「原節子、かっけぇ」になるでしょう。
私も久々にハイビジョンの綺麗な映像で「娘・妻・母」を
(おそらく10回目くらい)観たいと思います。
私も見落としている「お洒落な映像表現」があるかもしれません。
成瀬映画は観るたびに発見があるのです。
6/5より京橋・フィルムセンターで「清水宏特集」が始まりました。
私はまだ行っていませんが、期間中に何本か観たいと思っています。
フィルムアート社の清水宏本のフィルモグラフィ資料によると
デビュー作=1924年の松竹蒲田「峠の彼方」(この時清水宏は21歳)から
遺作=1959年の大映東京「母のおもかげ」まで、なんと163本撮っているんですね。
凄い数です。松竹蒲田時代にサイレント、トーキーあわせて104本撮っているようです。
おそらく清水宏の作品をすべて観ている人というのはいないのではないかと。
今回フィルムセンターではそのうちの50作品を上映しています。
同じ清水宏本の資料によると、清水宏が亡くなった1966年に、大変珍しいことに
成瀬監督が朝日新聞に「清水宏監督をしのんで・成瀬巳喜男の追想」という
追悼文を寄稿しています。(朝日新聞1966年6月25日夕刊)
私は一度図書館の縮刷版でこの文章を読んだことがあります。
これまで清水作品を何本観たか数えてみたら、代表作を中心に13本
くらいでした。
清水宏監督といえば
・子供
・伊豆やひなびた温泉地の屋外ロケーション
・ほのぼの系のドラマ
・人物を真正面にとらえて真後ろにいく移動撮影
などの特徴が思い起こされます。
「小原庄助さん」(1949)、「簪」(1941)、「花形選手」(1937)、
「信子」(1940)、「暁の合唱」(1941)あたりが私のお気に入りですが、
これらは上記の清水作品の特徴が入っていると思います。
ところが、松竹大船時代の清水作品には
・東京などの都市が舞台
・モダンな作風
・繊細な恋愛心理劇
があります。
この種の清水作品がまたとてもいいのです。
私がこれまで観ている清水作品で最高傑作と思っているのが
正に都会的な恋愛心理劇である「家庭日記」(1938)です。
吉屋信子の原作で、佐分利信、高杉早苗、上原謙、それから私の大好きな
桑野通子、三宅邦子などのそうそうたる俳優が出演しています。
一度それもビデオでしか観たことがないので、フィルムセンターの上映
に行こうと思います。
今回のフィルムセンターでも上映される遺作の「母のおもかげ」(1959)。
淡島千景、根上淳の出演している母物の一つで、とてもいい映画ですが
この映画には一つ成瀬ファンには興味深いロケーションシーンがあります。
以前にも書いたことがあると記憶していますが、この映画には成瀬監督作品
「噂の娘」(1935)で千葉早智子、梅園龍子、藤原釜足の3人が歩いて
会話する屋外シーンに登場する深川界隈にあった「一本橋」「丸太橋」
が登場します。つまり1959年にはまだ現存していたということになります。
現在は埋め立てられてありません。
今回のフィルムセンターでは上映されませんが、
「花ある雑草」(1939松竹大船)という作品には
川島雄三監督が助監督についていたとのこと。
トップページに告知紹介しましたが、川島雄三監督没後50年
を記念したトークショーに行ってきました。
(6/15土 16:00-18:00 下北沢書店B&B)
聞き手は映画ライターで「川島雄三乱調の美学」(ワイズ出版)の
編者でもある磯田勉氏。
当日の参加者の方たちがすでにツィッターでつぶやかれているのですが、
私はツィッターやっていないものでここに書きます。
とても面白いトークショーでした。
横山道代さん(旧芸名で書きます)はご高齢なのですが、
見た目も若々しく、ともかく約50年前の川島映画の時と
同じく、早口で流暢な言葉にびっくりしました。
あの年代であれだけ早口なのは、NHKで同期だった
黒柳徹子くらいではないかと。
頭の回転が速いということなのでしょう。
横山さんはもともと文芸映画にあこがれていたので
(タイトルが2文字の映画「暖流」「浮雲」他)
最初は少しアチャラカの要素のある風俗映画
のイメージだった川島作品には出たくなかったそうです。
特に、最初に撮影見学したのが「グラマ島の誘惑」だった
そうで、それはよくわかります。
ところが、川島監督の美少年風のルックスと撮影現場で
スーツと緑色ネクタイのお洒落でダンディなファッション
を見て、好きになってしまったとのこと。
川島監督も横山さんの独特の個性を気に入られたようで
横山さんは川島作品6本に出ています。
・人も歩けば(主役のフランキー堺の妻=銀座の質屋の娘)
・夜の流れ(成瀬監督の共同監督 芸者役)
・赤坂の姉妹・夜の肌(赤坂の芸者役)
・特急にっぽん(特急の1等車のスチュワーデス=現在のCA)
・とんかつ一代(フランキー堺と見合いする活発な娘)
・イチかバチか(芸者)
ご本人も話していましたが芸者役が多い。
この中で一番出番の多い代表作は「人も歩けば」でしょう。
母親の沢村貞子との東京下町のべらんめえ調に近いマシンガントークは絶品です。
たくさんの映画に出ているのと50年くらい前の映画なので
どんな役だったのかよく覚えていないとのこと。それはそうでしょうね。
川島監督は細かい演技指導などはほとんどしなかったそうで
(それと対照的に細かい演技指導するが市川崑監督だったとのこと)
のびのびと演技できたようです。
川島監督は声も小さくよく聞き取れなかったようで、
また肩を下げながら「くっくっくっ」という笑い方が特徴だったと
懐かしげに語っていました。
横山さんが川島監督について述べられた考えはなかなか深いものでした。
(1)川島監督は表面的に「分けの分からないアチャラカ」や「通俗的な風俗」
を描いていたが、実は心の底には純粋で深い考えがあったのではないか
(2)川島監督はともかく映画のテクニックが素晴らしかった。演出、台詞、モンタージュなど
当日参加者のツィッターでは(1)は様々な言葉でより正確に紹介されていたのですが
(2)については触れられていないようです。
私は、本HPにも川島映画の映画自体のテクニカルな面に最大の興味を持って
作品評を書いていたので、横山さんから「モンタージュ」という言葉を聞いたときは
深くうなづいてしまいました。いいぞいいぞという感じで。
途中に休憩があり、その時に少しお話させていただきました。
横山さんは成瀬監督「女が階段を上る時」の冒頭にも出演されて
いるので(藤木悠と結婚して静岡に行くホステス役)
成瀬監督の本を出していることも伝えました。本HPのことは伝え忘れ。
磯田さんも「成瀬巳喜男を観る」(ワイズ出版)でフィルモグラフィ作成にご協力
いただいたのでご挨拶をしました。
横山さんには、私が川島監督の現存50本を全部観た中で、
一番好きな作品が「人も歩けば」だと伝えたら、結構感動していただいたようで
トークショー後半の時にその話をされていました。
(横山さんから「どなたでしたか」と言われ手を挙げたのが私です(笑))
ご本人が詳細を記憶していないとおっしゃっていたので仕方ないのかも
ですが、川島監督についてのトークショーとして最初は「人も歩けば」から
1本1本インタビューしていたのが
結局「特急にっぽん」と「とんかつ一代」の話にまったく触れられて
いなかったのだけが残念でした。
この2本の横山さんの個性的な演技もとても好きです。
書店の一部をパーテーションで区切った小さいスペースでしたが
満席という盛況ぶりで、最後に横山さんに皆で大きな拍手
(話を聞いた後では全員がリスペクトの拍手だったよう)
をした時に、横山さんが思わず涙ぐまれて、その光景も非常に
感動的でした。
川島映画の当時のスタッフや俳優では数少ない貴重な証言を
していただける方なので、横山さんにはこれからもお元気で
と祈るばかりです。
そういえば伊丹十三監督の話の中で、横山さんから
「ロラン・バルト」の本」という話題が出た時も、
びっくり+嬉しかったです。
私は大学生時代に演習でロラン・バルトのあるエッセイを
原書で習ったことがあるので、とても懐かしい名前でした。
「構造主義」ですね
横山さんは知性に溢れる女優さんで本当に素敵です。
以上、トークショーのレポートまで
上映中の「はじまりのみち」を観てきました。
昔の日本映画を彷彿とさせる、しっとりとした実にいい映画でした。
私はとても気に入りました。
映画「陸軍」のラストをめぐっての対立から松竹に辞表
を出した若き木下恵介(加瀬亮)が、空襲の激しくなった
町から山間の家に病気の母親を疎開させる。
主なストーリーはこれだけです。
母親・たま(田中裕子)をリヤカーに乗せて、兄・敏三(ユースケ・サンタマリア)と
荷物運びに雇った便利屋(濱田岳)とともに山道をリヤカーを引いて歩き、
やっと宿泊できる旅館に着いたときに、加瀬亮は井戸の水でタオルを濡らし
泥のはねが付いた母親・田中裕子の顔と首を拭いてあげ、その後櫛で髪を
整えます。脳溢血で倒れた母親は何も言葉を発せずに、息子の行為を
無言で受けます。
これは同じ状況なら息子が母親にしてあげるだろう普通の行為だと
思うのですが、ともかくこのシーンが最も感動的でした。
木下恵介監督の大ファンでこの作品の監督・脚本を手がけた原恵一監督は
「クレヨンしんちゃん」などのアニメ作品で有名で、これが初実写映画らしいのですが
抑えた演出や構図の美しさはなかなかのものです。
映画の中には「陸軍」のラストの有名な田中絹代の出征息子を
追い続けるシーンが引用されたり、ラストではその後の木下監督の
作品(全作品ではないですが)のダイジェストが引用されたりと、
普通の映画とは少し異なる展開ですが、私は特に気になりませんでした。
ダイジェストでも引用されるシーンやショットにこだわりが感じられました。
特に、「香華」では雨の中、岡田茉莉子が歩くシーンはとても素晴らしい
シーンだと思っていたので、それが使用されていて共感を覚えました。
回想シーンで紹介されるデビュー作の「花咲く港」の撮影の時の
家族エピソードも興味深かったし、
上下白い服装の加瀬亮が撮影の舞台である静岡の海岸を
歩くシーンも、木下監督のお洒落な面を表現したのでしょう。
「花咲く港」には確か川島雄三監督が助監督でついていたはずなので
洒落で川島雄三役も出してほしかった。「川島くん」とか一言でも。
原監督のインタビューは新聞で読んだり、ネットの動画で見たり、
本作のパンフレットの対談も読みましたが
「木下恵介監督は『二十四の瞳』のイメージが強すぎるが実は
過激な映画を沢山とっていていわばロックやパンクの映画監督なのだ」
といった主張が語られています。
原監督が大好きらしい「永遠の人」は私も今年DVDで観たので
その言いたいことはわかります。あの映画の高峰秀子と仲代達矢の
憎みあう夫婦のドラマは、雰囲気もストーリーも陰湿で
(フラメンコのギターの音楽が対位法的に決まっている)
確かに「二十四の瞳」のイメージとはかなり違います。
喜劇から悲劇まで、これだけ作風の異なる(+撮影方法などの変化)
作品を作り続けたのは日本映画では木下恵介監督が一番のように思います。
一人の映画監督を代表作の作風のイメージで捉えるのは
私も嫌いですので、原監督が木下恵介監督作品への思いを
語るのはよくわかります。
「二十四の瞳はもちろんいい映画だけども、それ以外にもたくさん
名作があり、そのいくつかは非常に過激で驚かされるのだ」
と言いたいのでしょう。
成瀬監督「浮雲」、小津監督「東京物語」、川島監督「幕末太陽傳」
が代表的ですが、名監督と言われる監督の作品を数多く観ていくと
代表作がいかに一面でしかないかを痛感させられます。
「はじまりのみち」は木下監督のエピソードが感動的だから
生誕100年記念映画になりえたのでしょう。
その点、成瀬監督はともかくエピソードが少ない。
当時の助監督やスタッフや俳優の皆さんに直接お会いして質問しても、
なかなか無いのです。
いつか成瀬監督や川島監督が登場する映画やドラマを観たいものです。
この2−3か月、最近の日本映画を劇場やDVD等でいろいろと観ました。
気に入った映画について少し書きます。
最近最も気に入った日本映画はDVDで観た
「僕達急行 A列車で行こう」(森田芳光監督)
です。
2011年に61歳で亡くなられた森田監督の遺作
になってしまった映画ですが、これがとても素晴らしい出来でした。
タイトル通り、鉄道マニアの会社員・小町圭(松山ケンイチ)とその友人で
同じく鉄道マニアの鉄工所の2代目・小玉健太(瑛太)の2人が主人公で、
当然ながら鉄道の話と映像がたくさん出てくるコメディタッチの映画です。
2人の役名もそうですが、この映画の主要キャストの役名は
すべて日本の鉄道の特急や急行の名前というのもお洒落です。
不動産会社の企画係の松山ケンイチが東京本社から九州支社
へ転勤を命じられるので、東京(瑛太の鉄工所は京浜急行の蒲田あたり)
と博多が主な舞台になります。
松山ケンイチがともかく笑わしてくれます。鉄道にしか興味のない
真面目なサラリーマンなのですが、その生真面目なところが
笑いのツボになっていて、くすくすと笑えるシーンが沢山あります。
面白い台詞も多くて、森田監督のシナリオも冴えています。
ストーリーの中心は松山ケンイチの勤める不動産会社を取り巻く
もので、「こんなにうまくいくわけないだろう」という能天気な展開も
あり、もしかしたら森田監督は「社長シリーズ」を意識していたのでは
ないかと感じました。
不動産会社の女社長=松坂慶子(北斗みのり!)。
個人的に森田作品としては「ハル」以来の傑作でした。
ともかく観終わってなんとも言えない幸福感につつまれた映画でした。
知人から薦められた内田けんじ監督の映画は
・「鍵泥棒のメソッド」(新文芸座で鑑賞)
・「アフタースクール」(ブルーレイ)
・「運命じゃない人」(DVD)
の3本を続けて観ました。
この若い監督は自身でオリジナルシナリオも手がけていて、
「映画はシナリオが命」とあらためて感じました。
ストーリーは先が読めなくて、少しミステリータッチなのですが
後半にかけて「そうだったのか」という驚きが待っています。
しかし、あざとい感じはなく、ほのぼのとしているところが好きです。
ともかくシナリオの構造が緻密で素晴らしい。
内田監督のインタビューを読むとビリー・ワイルダー監督が好き
らしく、いい影響を受けているのでしょう。
3本の中では最初に観た「アフタースクール」が一番面白かった
ですが、5月にDVDが出る「鍵泥棒のメソッド」も相当面白いです。
評価の高い
・「桐島、部活やめるってよ」(吉田大八監督)DVD
も堪能しました。特に吹奏学部のワーグナーの曲の演奏と
ラスト前の屋上のシーンがとてもマッチしていて素敵でした。
突然終わるようなラストも、説明的なくどいラストが多い
最近の映画(日本映画、外国映画を問わず)と違い
センスがいいです。
・「終の信託」(周防正行監督)DVD
は前半は少し説明的な回想シーンが続き、
あまりいいとは思いませんでした。
また役所広司演ずる重度の喘息患者の
病室での治療シーンは映画とはいえとてもリアルで
観ていて気が滅入りました
しかし、後半からラストにかけての検察庁の取調室での
被疑者の女医役=草刈民代と検事役=大沢たかおのやりとりは
緊張感に満ちていて、その迫力と演技に圧倒されます。
さすがに周防監督(シナリオも)の演出です。
その他観た主な映画は
・「八日目の蝉」(成島出監督)DVD
・「苦役列車」(山下敦弘監督)DVD
・「マイバックページ」(〃)DVD
・「黄金を抱いて翔べ」(井筒和幸監督)ブルーレイ
などで、それぞれ面白い箇所も不満な箇所もありました。
次回は同じく最近観た洋画(クラシック+新作)について書こうと思います。
成瀬作品、黒澤作品、川島作品はほぼ全作品、小津作品、市川作品もかなり
の本数を観ていますが、何故か木下恵介監督作品は代表作「二十四の瞳」「お嬢さん 乾杯」
などこれまで10本に満たなかったので、少し集中して木下作品をDVDで鑑賞しました。
今年にはいってDVD(レンタルや以前スカパー放送録画)で観たものは
・「海の花火」(1951)
・「遠い雲」(1955)
・「夕焼け雲」(1956)
・「この天の虹」(1958)
・「風花」(1959)
・「永遠の人」(1961)
・「香華」(1964)
です。
これらは木下作品の代表作とは言えないでしょうが
どれもなかなかの作品でした。
「遠い雲」「風花」「永遠の人」の3本は、地方の旧家の因習
との葛藤が描かれていて、木下作品の別の面を発見し
興味深かったです。
「風花」には岸恵子、久我美子、有馬稲子の3人が
勢ぞろいして映っているショットがあり、思わず「にんじんくらぶだ」
とつぶやいてしまいました。
ここでは共通する映像表現について書きます。
木下恵介ファンには有名なことかもしれませんが
木下作品には、必ずといっていいほど
屋外シーンで人物の歩く、走るの横移動シーンが
出てきます。
アクションシーンでも何でも無いのですが、この横移動シーンが
作品の中で重要な位置を占めていて、とても迫力がありました。
主人公が「何かを決断する」といった決定的な場面に合わせて
横移動が登場します。
屋外での人物の歩き、走りのシーンでは、成瀬監督は
人物(二人が多い)の斜め前方からのアングルでの移動、
清水宏監督は、ロングでの人物の真正面からの移動
(人物が手前に向かって歩いてくる)が特徴ですが、
木下監督は真横の移動をカット無しに延々と撮影していきます。
あの有名な「陸軍」(1944)でのラストシーンの、母親・田中絹代
が出征兵士の息子を街中で延々と追いかけるシーンにもその
片鱗が見られます。
一人の人物の横移動がわりと多いのも特徴でしょう。
木下監督は本当に多くのジャンルの映画を撮っていて、
かつ映像スタイルもバラエティに富んでいて
(「カルメン純情す」の斜め映像、「野菊の如き君なりき」の卵形の映像など)
特徴がつかめなかったのですが、集中的に見て「屋外シーンの人物の横移動」
を体感しました。
以前、木下作品をやはり観ようと思って
「カルメン純情す」(1952)、「日本の悲劇」(1953)、「女の園」(1954)、
「楢山節考」(1958)、「笛吹川」(1960)などの木下作品の代表作と
呼ばれている諸作品をビデオやDVDで観ようとトライしたのですが、
当時の私にはあまり響かなかったようで途中で観るのを挫折した経験が
あり、「木下作品は合っていないのかな」と思っていました。
成瀬作品ではそんなことは一度も無いのですが。
上記の作品にも再チャレンジしようと思っています。
松竹の「木下恵介生誕100年プロジェクト」のHP
は、内容もわかりやすく、デザインも綺麗で、
コンテンツも充実しているなど
日本の映画監督の公式ページとしてはナンバーワンでは
ないかと思います。
私も作品を観る際に参考にしました。
トップページに紹介している銀座シネパトスの3月末までの特集「銀幕の銀座」
ですが、よく見るとラスト上映3/28−3/31は「銀座化粧」「女が階段を上る時」。
成瀬作品2本なんですね。
偶然だとは思いますが、名画座が閉館する時のラスト上映は
成瀬作品が多い。
1998年に閉館した有名な銀座・並木座ですが、あの時もラストの特集は
「成瀬巳喜男特集」で、閉館の最終日は「晩菊」「おかあさん」でした。
並木座の閉館を紹介しているHP
また、その前年1997年に閉館した池袋の文芸座地下(日本映画専門)も
ラスト上映は成瀬作品「歌行燈」でした。私は確か観に行った記憶があります。
文芸座はその後「新文芸座」として復活していますが。
名画座業界のルールではないのでしょうが、偶然にしても多いと思います。
ラスト上映には成瀬作品が似合うということなのでしょうか。
また図書館で借りた映画本に出ていた「成瀬監督に関する記述」を紹介します。
本は、「誰かが行かねば、道はできない:木村大作と映画の映像」
(木村大作、金澤誠著 キネマ旬報社)です。
東宝出身の撮影監督で、最近では「剱岳 点の記」で映画監督デビューした
木村大作氏へのロングインタビュー本です。
木村さんの話は本職の撮影技術以外でも、過去に仕事をした監督のエピソードが
多数紹介され面白かったのですが、その中に成瀬監督に関する記述
が4つほどありました。以下紹介します。
@木村さんが東宝入社された時の、東宝の映画監督の印象として
「成瀬さんは物静かな哲学者のようで」(P16)とあります。
A木村さんは黒澤組で撮影助手を多くつとめていて、その話は
インタビュー映像や本で知っていたのですが(「用心棒」でのピント送りの話は有名)、
成瀬作品にも1本撮影助手としてついていたというのは初めて知りました。
「遺作の『乱れ雲』(67年)、1本だけ就いている。成瀬さんは怒ることはない人
〜(中略)黒澤さんも成瀬さんを尊敬していたよね」(P24)
B「八甲田山」などの多くの映画でコンビを組まれた森谷司郎監督の「海峡」撮影時
の中で、
「〜森谷さんは『一番尊敬する監督は成瀬巳喜男だ』と言っていたけど、
黒澤組の助監督をやっていれば、長廻しの良さというのが身についている
ところがある〜」(P122)
とあります。
森谷監督は黒澤監督の「悪い奴ほどよく眠る」から「赤ひげ」までのチーフ
助監督でしたが、その前に成瀬監督作品の監督助手にも就いています。
助監督の名前はチーフくらいしかタイトルクレジットされないので確実な
ことは言えませんが、ウィキペディアで検索すると
「流れる」「杏っ子」「鰯雲」「コタンの口笛」の4本で監督助手だったようです。
「杏っ子」は、当時やはり監督助手で昨年2月に亡くなられた石田勝心監督から
見せていただいた撮影時の写真にも監督助手時代の森谷監督の姿が映っている
ものがあり、また「鰯雲」はチーフ助監督だった須川栄三監督のインタビュー
記事で名前を見ていたので知ってはいました。
森谷監督が成瀬監督を尊敬していたというのは初めて知り、少し驚きました。
ちなみに、本多猪四郎監督は成瀬監督「鶴八鶴次郎」の監督助手だったようです。
C「火宅の人」などでやはり多くコンビを組まれた深作欣二監督との
「おもちゃ」撮影時の中で、
「〜黒澤明さんは『映画は記憶だ』と言っていた。深作さんもクランクインする
前には、参考になる映画を見まくる。『おもちゃ』のときには、成瀬巳喜男さん
の『浮雲』(55)だった。〜」(P248)
とあります。
私は暴力シーンが苦手なので、深作作品はあまり得意では無いのですが
この「おもちゃ」という作品は未見なので観てみたいと思っていた作品でした。
深作監督のワイズ出版のロングインタビュー本の中で、成瀬作品「おかあさん」
を褒めていらしたので、深作監督の作風と対極にある成瀬作品への思いに
意外性を感じたことを記憶しています。
大島渚監督がお亡くなりになりました。
大島作品は10本くらいしか観ていないと思いますが
その中での個人的なベスト3は
@「絞死刑」(1968)
A「新宿泥棒日記」(1969)
B『白昼の通り魔」(1966)
です。
前にビデオで観た「帰って来たヨッパライ」(1968)は
私がこれまで観た映画の中で、難解さでは一番だった
かも。フォーククルセダーズのオリジナルメンバーが
見られるのは貴重です。
上記の@−Bも高校生か大学生時代の若いときに
観たのですが、同じくかなり難解でした。
「愛のコリーダ」は大学生の時に、ドイツのフランクフルト
でノーカット版というのも観ましたが、なんと「ドイツ語吹き替え」
バージョンだったので、物凄く不思議な感覚でした。
藤竜也がドイツ語を話すのですから!
名作と評価の高い「少年」(1969)とデビュー作の
「愛と希望の街」(1959)はDVDでも観てみたいと
思ってます。
ご冥福をお祈りいたします。
報道でご存知のとおり新藤兼人監督がお亡くなりになりました。
100歳というのは凄い。
といっても監督作品をあまり多くは観ていません。
私が映画館やビデオ、DVD、TV等で観ているのは
・原爆の子
・裸の島
・裸の19歳
・ある映画監督の生涯 溝口健二の記録
・竹山ひとり旅
・午後の遺言状
・三文役者
これぐらいです。
作品の印象は一言でいえば「重い、暗い」社会派の作品が
多く、正直言って苦手なタイプの監督でした。
私は、どちらかといえば軽い、洒脱な都会的な作風の映画を好むので。
溝口健二監督の生涯を俳優・スタッフのインタビューにより
ドキュメンタリータッチで描いた「ある映画監督の生涯」が
一番印象に残っています。
田中絹代のインタビューなどは迫力がありました。
新藤監督はシナリオライターというイメージの方が強いです。
というのは様々な映画の中で、「こんな映画のシナリオも新藤兼人なんだ」
と感じたことが何度もあるからです。
ネットで調べると、ご自身の監督作品も含めて200本を超えるシナリオ作品
があるのには驚きます。
私は映画監督よりもシナリオライターとしての新藤兼人さんの方を
評価します。
成瀬映画は1本だけですが、川端康成原作の「舞姫」(1951)があります。
以前作品評にも書きましたが、「舞姫」は観念的な台詞も多くて、成瀬調
とは言えず、シナリオにもその原因があるように感じました。
書籍やインタビューなどで溝口健二監督、小津安二郎監督(もちろん吉村公三郎監督も)
とはお付き合いのあったようですが、成瀬監督とのエピソードは読んだことがありません。
シナリオが1本あるのだから会話くらいはしているのでしょうけれども。
数多い新藤兼人シナリオ作品で、私が観ている映画の中での
ベスト5の映画を挙げれば
(1)「お嬢さん 乾杯!」(木下恵介監督 1949)
→この映画のシナリオは上記に述べた私の好きな
軽く、洒脱で都会的なラブコメディで、木下恵介作品の
中でも3本にはいる好きな映画です。
このシナリオは本当に素晴らしい。ラストもいいです。
(2)「青べか物語」(川島雄三監督 1962)
→大好きな川島映画の中でも傑作の1本です。
冒頭の森繁久弥のモノローグによるアバンタイトル
の展開は、川島演出なのか、新藤脚本に忠実なのか
不明ですが、奇抜という言葉がびったり。
(3)「しとやかな獣」(川島雄三監督 1962)
→私は実はそれほど好きではないですが、川島ファンでは
評価の高い1本です。
ほとんど団地の1室に限定された室内劇のような映画ですが
これはシナリオの力が大きい1本ですね
(4)「華岡青洲の妻」(増村保造監督 1967)
→市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子という豪華俳優の
傑作です。
姑の高峰秀子が息子の雷蔵が修行から戻ってきた後に
嫁の若尾文子を見る目つきが明らかに変わっていて
怖いです。
確か鏡を使った表現だったと記憶していますが
これもシナリオの意図なんでしょうね。
増村作品には新藤脚本が多く、「氷壁」「不敵な男」
「刺青」「清作の妻」「妻二人」なども。
(5)「映画女優」(市川崑監督 1987)
→この映画は、新藤兼人は原作で、脚本は市川崑、日高真也との
共作です。
田中絹代の生涯を吉永小百合が演じた映画ですが、
溝口映画(映画の中では溝内監督=菅原文太演じる)「西鶴一代女」
の撮影のシーンで、唐突に終わるラストシーンが最高に好きなのですが
あれは新藤兼人もからんだシナリオなのか、市川崑演出なのか
不明です。他の映画の傾向からいって、市川崑演出だと推測しますが。
その他にも新藤兼人シナリオの映画は結構多く観ています。
観ていない映画で是非観てみたいのは
かなりマニアックですが、
「殺したのは誰だ」(中平康監督 1957)
「倖せは俺等のねがい」(宇野重吉監督 1957)
「おもちゃ」(深作欣二監督 1999)
です。
事務所とご自宅が東京・赤坂にあったようなので
赤坂で何度かお姿を見かけたことがありました。
ご冥福をお祈りいたします。
最近、日本映画専門チャンネルやNHKBSプレミアムで
何本かの小津映画を放送していました。
「浮草」「お早よう」「小早川家の秋」「秋刀魚の味」
などです。共通するのはすべてカラー映画ということです。
放送の機会に久しぶりにカラーの小津映画を何本か観ましたが
これまで小津映画の色彩についてそれほど興味を持って観ていたことは
無いのですが、
今回カラー映画を連続して観て気づいたのは
アクセントとして「赤」と「緑」を強調している点です。
特に、大映の宮川一夫が撮影監督の「浮草」はそれが顕著
でした。
また、「お早よう」では、笠智衆や佐田啓二などのセーター、
カーディガン等の服装がグレー系で色が目立たないので
余計に小道具で登場する赤や緑(ヤカンが強烈)の色
が目立ちます。
これは間近い無く、小津監督の意図した色彩表現なんでしょう。
色にも小津調または小津ごのみと呼ばれる特長があることに気づきました。
それにしても小津映画は「変な映画」です。
今回カラーの小津映画を連続して観て、あらためてそのように感じました。
映像や俳優の台詞だけでなく、美術関連のセットや小道具の一種人工的な感じも
それを増大させていると思います。
もっとも「変な映画」であると同時に、とても魅力的な映画なんですが。
久しぶりに観ましたが「浮草」も「お早よう」も「小早川家の秋」も
どれも傑作です。「秋刀魚の味」は個人的にあまり好きではありません。
さて、成瀬映画を観て、「変な映画」と感じたことは一度もないです。
成瀬映画にも小津映画とは異なる、成瀬調という独特の映像表現や
演出があるわけですが、
カラーの成瀬映画を観ても、これまで「強調している色」があると感じたことは
ありません。成瀬映画での色彩は、ある色を意識的に強調することはなく
ごく自然体で処理されていると思います。
一般的には、日常生活の機微を淡々と描いている点で共通していると
思われている小津映画と成瀬映画ですが、
それぞれのカラー映画の色彩表現一つを比較しても、かなり異なる印象があります。
なお、前回書いた「地方記者」(丸山誠治監督)もとてもいい映画でした。
撮影は成瀬組の玉井正夫でしたね。