週刊てーて　ひらく農園から

「僕には子供がたくさんいる」

僕には子供がたくさんいる。
人間の世界に子供がたくさんいる。
僕と恭さんを親とする、妃袈里、朱里、穂乃香。
僕は何もしないのに、湧き上がる生の力で彼女たちは育っている。

僕には子供がたくさんいる。
人間の世界に子供がたくさんいる。
僕が土に種をまいて、芽を出した野菜の子供たち。
大根、小松菜、法蓮草、玉葱、トマト、とうもろこし、胡瓜、西瓜に茄子、ピーマン、オクラ・・・挙げればきりがないほどの多くの種類、品種の子供たちが、種の数に近いほど限りなく育っている。
大地を母とし、父は空（くう）である。
お日様や雨や風が父だと思えば、それは違う。
父は何もしないのである。
草とともに育ち、いつの間にか草に駆逐されてしまう子がいる。
虫とともに育ち、虫に食べられてしまう子も多い。
人間の世界に住む野菜の子供たちは、湧き上がる生の力のままにお日様や雨や風の力をいともたやすく自分のものとしている。

僕には子供がたくさんいる。
人間の世界に住んではいないといえる子供もたくさんいる。
野菜を駆逐する草たちも僕の子供である。
野菜を食べてしまう虫たちも僕の子供である。
僕が草をとり、野菜についていた虫を集めて、草や虫を鶏にあげてしまうこともあるが、草を征服できるはずもなく、虫を皆無にさせようとも思わない。
彼らは、湧き上がる生の力のままに生きているだけなのだ。
僕は何もしていないといえるが、子供がたくさんいるので歩き回っているだけともいえる。
幸いなことに、子供たちは僕を気にかけてくれているように思えるのだ。
彼らの湧き上がる生の力が、この初夏の草の道を歩くようにと導いている。

2003年5月8日　寺田潤史