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週刊てーて ひらく農園から

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「いい年だったといえるのだろうか?」

 瞬く間に今年も暮れようとしていると感じるのは、年齢以外に何か理由があるのだろうか?もう四月だ、もう五月だ、もう八月だ、もう十月だと常に月日に急かされてきたのは、天候不順のせいであることは間違いない。極端な天候に、畑の作業は後手後手で、開き直っても何も変わらないどころか、いつまでもおかしな天気に振り回されてきた。一月、二月と先手先手と打ってきたつもりの畑作業であったが、百姓というものは受身でどれだけ持ちこたえることができるかということに生命線があるものだということを教えられた一年でもあった。我慢だけは身についてきたのかもしれない。

 イラク戦争に代表される国を挙げての殺戮は、二十一世紀になっても平然と行われているし、子供や幼児を殺傷するニュースが、またかまたかと流れてくる。経済の落ち込みとは別の何か得体の知れない妖怪の影に、どうも明るく振舞えない要因があるんじゃないかと他を詮索したい気分だ。しかし、僕が落ち込んでいるとすれば、それは紛れもなく僕自身のまいた種であるし、人の何かが気になるとすれば、やはり僕自身の因果であることに変わりはない。

 僕の体調の復調や、恭さんの妊娠、子供たちの成長など、身近なところにはいい年であったといえる要素がたくさんある。それは素直にうれしいことだと思うし、子供たちとの時間はとても大切なものであるから大事にした一年でもあるといえる。音楽の制作、録音、編集の時間が取れたときは至福であるし、草一本も生えない荒れた畑が野菜の成長できるまでにこぎつけた感慨はひとしおだ。にわか造りの鶏舎であったが、はじめて飼った鶏が一年無事卵を産んでくれた。八十九歳になる祖母のおかげでまきのお風呂に入ることもできるし、納屋のまきストーブのおかげで子供たちも含めて木に触る時間が増えたことにも満足している。今年も僕の洋服は一着も増えなかったが、子供たちの服は皆さんが古着をどこまでも恵んでくれる。お米も充分収穫できたし、水窪で手入れしたお茶も毎日飲める分を確保できた。

 それでも、やはり落ち込んでいるような空気が支配している。世の中の暗い出来事に対して、何も出来ないことへの自分自身への苛立ちであろうか?自分の生活を精一杯送ることが自分のすべきことで、それ以外は何も出来ないはずなのだが、それでもただ単に忙殺されているに過ぎないような気がするのだ。自給自足に近いような生活は、やることがありすぎることも事実だ。僕たちの子供たちのほかに畑の子供たちがワンサカいるのだから、それだけでも忙しいに決まっている。それとも忙殺されたふりをしているだけなのか?

 どんなにデジタルの発信をしても、アナログの交流がなければ思いは伝わらない、という気持ちが強まっている。野菜はアナログそのものだが、その一つ一つの細胞はデジタルみたいなものかもしれない。化学物質でその細胞を拡大しても、実態は変わっていないはずだ。細胞を増やすことが思いを伝えることになるのかな?デジタルつまり記憶をたくさん集めてアナログとして表現することが思いを伝えるということか。思いを伝えてもいい年にはならない。思いが伝わり殺戮が減ることがいい年につながるのだ。

2003年12月25日 寺田潤史

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