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「鶏舎の鶏糞」

 鶏の暮らす小屋の床が、限度を超えて高くなった。籾殻やおがくず、雑草や野菜くずに混じった鶏糞が、一年で一m三十pくらいにうずたかく鶏舎を圧迫してきたのである。そこで、こぼれ種の会の仲間の浜松市河輪町の鈴木康夫君にアルバイトに来てもらうことにした。十日ほど前に疲れがたまって腰に来てしまったばかりなので、久しぶりにアルバイトに来てもらうことにした。

 暖かい時期には雨が多くて、鶏舎の中にも雨水が入り込んで、鶏糞が水分を持ってしまう。床が高いので水浸しになることはありえないけれど、鶏糞を運び出すには始末が悪い。そこで冬の寒い時期まで、鶏糞を運び出すのを待っていた。ダンプ式の運搬車を鶏舎の入り口に横付けし、鶏舎の扉を開け放し、ざるの大きいものに三本ぐわで掻きだした鶏糞を乗せて運搬車に載せる作業を、鈴木康夫君にやってもらっている。もうすでに半分くらいの鶏糞がなくなっているので、鶏舎の中は、平地に崖が迫っている、という様相だ。平地の部分にばかりいる鶏、崖の上にばかりいる鶏、鶏舎の中なんて嫌だといわんばかりの鶏は鶏舎の外に出てのびのびとしている、まったく好き勝手にやっている状態だ。それでも、どの鶏も鶏舎のそばからは離れない。行こうと思えばいくらでも畑のほうへいける状況ではあるが、絶対に鶏舎からは離れないのだ。群れを成す習性とは不思議なものだ。

 運搬車に一杯になると、「とーと畑」の中央付近に移動して、積み上げていく。おがくずという木質が入った堆肥となるので、三年は置いておくつもりだ。きっとよい堆肥になるだろう。何といっても鶏糞となる過程の餌の素性をよくわかっているから、間違いがない。輸入のとうもろこしは一度も与えてないし、ほとんどが畑から取れた草や野菜くずと米ぬか、籾殻であるのだから。あとは圧搾の大豆粕、家の食卓に上った魚のあらなどだ。畑の虫も好んで食べている。仕込んだ餌には、木酢液を入れて発酵を助長しているから、鶏自身の免疫力も高まっているであろうし、堆肥としても消臭効果と発酵助長の効果がある。目に見える過程というものが、どんなに安心感を生むか、消費者としてでなく生産者として実感できるのである。畑においても同じ事で、全国の農家のほとんどの家庭で自家用の野菜には農薬をかけないらしいが、消費者としての立場と生産者としての立場を同じところにおいた上で、目に見える過程を大事にしていくことが、目に見えない信頼関係を生んでいくのではないだろうか?

 それにしても、鶏たちはやはり自由が好きなんだな、と眺めていて強く感じる。暗くなってくれば抵抗無く鶏舎に入る鶏がほとんどであることは、猫などの天敵にやられるのを恐れているからであろう。目の効く日中は、猫が来たとしても逃げ切れる自信があるということなのだろうか?そう考えると、小さな檻の中に一羽ずつ入れられたケージ飼いの鶏たちは、いったいどのような思いを感じているのだろう、とついつい心配してしまう。うちのように平飼いの鶏ですら、外に行きたくてしょうがない鶏がいるのだから。鶏を飼い始めて一年、いろいろなことに思いを広げてくれる鶏舎の周辺である。

2004年2月5日 寺田潤史

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↑積もった堆肥の床(端のほうは90cmくらいの高さ)
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