「無農薬無化学肥料で多品目野菜を育てることとは?その三」
この三月は、多品目野菜を育てるものにとって、重要な時期になる。静岡県という温暖な地域の遠州地域最南端という亜熱帯に近く湿度が高い気候は、無農薬栽培では虫が多発しやすいというリスクがある。こんな気候であるから、「無農薬で野菜はできない」と豪語する農家あるいは熱心な家庭菜園家の言うことは、それなりの経験の裏打ちがあると推察できる。この三月が虫の発生数が少ない割に暖かな日が多いという、たくさんの種類の苗を育てるには絶好の季節なのだ。
慣行農家はひとつの種類の野菜を大量に作付けるために満足な輪作体系をできる状態ではないし、家庭菜園家は、そのスペースの割に多品目過ぎるという事情がある。このことは重要である。経験上、無農薬野菜の専業農家は、五反以上の面積を作付けていかなければ、周年にわたって野菜を供給することができない。五反という面積は5000uであるから簡単に説明すれば、1m50p幅の畝が50mあるとして六十本の畝ができる計算になる(通路を500uと仮定した場合)。その六十本の畝の一つ一つを輪作してどのように循環させていくかが虫や病気を呼ばない基本になるのである。それは小松菜、大根、白菜、キャベツなどのアブラナ科の野菜と、夏のナスやトマト、ピーマン、ジャガイモなどのナス科野菜をいかにして連作しないように作付けていくかに集約されるといってもいいかもしれない。ここで一つ断っておかなければならないが、良質の堆肥だけで育てた場合には同じ野菜を続けて作付ける「連作」も可能であるが(不耕起栽培は連作可能な最もよい形態であるが、ここでは触れないことにする)、虫の多発を回避するという意味でも、「輪作」を根本とした上で書き進めることにする。
50mの畝が六〇本といっても、玉葱のように消費頻度が高く栽培期間の長い野菜を作付ければそれだけで十本の畝が半年間ふさがれてしまうことになる。ジャガイモ、人参、サトイモ、さつまいも、大根などの根の野菜や、ナス、ピーマン、トマト、オクラ、南瓜などの夏野菜、白菜、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、レタスのような冬の結球野菜も四ヶ月から半年以上もの間、畑をふさぐし、今挙げたものだけをそれぞれ二畝ずつ作付けて三十本の畝が使われることになる。そして何といっても最も需要の多いのが葉もの類である。ねぎ、にら、ほうれんそう、小松菜、チンゲンサイ、春菊が主要なものだが、ひらく農園ではそのほかに水菜、壬生菜、サニーレタス、フリルレタス、しろな、べかな、ロケット(ルッコラ)といった葉ものを周年作付けている(真夏を除いて)。ねぎ、にらを除いた葉もの類二畝を月に一度作付けたとして年間二十四本の畝が必要になる計算だ。そのほかにもここに書ききれない野菜がたくさんあるが、野菜工場ではないので、一つの作物が終わってすぐに次の作物になるわけではないし、草や堆肥を土中にすきこんだなら最低二週間はねかしておく期間が必要だ。実際のところはひらく農園の野菜の作付面積は一町歩近くあり、玉葱も二十本分の畝を作付けている(ひらく農園の畑の畝は70mが多い)。年間五十品目以上の野菜を野菜で分けるのではなく、その野菜の属する「科」で分けてみると十六の種類に分類される。それらが続けて作付されないように畝を用意しなければならない。次回「その四」では、そこのところを詳しく述べたい。
2004年3月4日 寺田潤史