「無農薬無化学肥料で多品目野菜を育てることとは?その六」
多品目野菜を育てることを述べていて、徐々に専門的な記述になってきてしまったことに気付いたが、具体性を要求されることが多いのでこのまま進めたい。化学の専門性とは異なり、例えば苗をどのような場所に置くかというような専門性であるので許していただく。多品目であるから、その苗だけを見て最良の環境を作り出すということはありえない。多種の苗を混在しながら、天候不順に耐えうる苗を育てることが省力につながるのだ。
種を播いて数日後にトレーの土を新芽が持ち上げかけた時に、直ちにトレーを苗床に移す。土中緑化といって、発芽の瞬間には太陽光線を浴びている状態を作りたいのであれば、芽の出る前に苗床に移さなければならない。苗床については、多くの方がビニールハウスを使われていると思うが、僕は頑なにビニールトンネルを貫いてきた。サイズが僕に合っているという感触が一番強く、非常に細やかな温度管理ができるところが好きだ。中側にサンサンネットで防虫し、上側を厚手のビニール、下はグランドシートという布陣だ。ビニールとグランドシートを洗濯バサミで留めていくところが独自の発想だと自負している。これが細かな温度管理のできる要因だ。多品目の苗がビニールトンネルに並んでいるところを想像してほしい。ナスのような高温性の苗が、三十度以上では発芽しにくいレタスと一緒に並んでいるならば、少し苗の置き方を考えなければならないし、春の曇天の時に、急に太陽が出てきた場合などでは、ところどころの洗濯バサミをはずして温度のあがりすぎに注意しなければならない。
苗床のトンネルの中には、ブロックで浮かした鉄のアングルを二本、レール状に置いている。そのレールの上にトレーを置く。トレーは網状の受け皿に置いてあり、それをレールの上に置くことで、十分な空気がトレーの下を流れるようにしている。寒い時期は、アングルのレールの下に電熱線(動力)を入れて夜間の低温に対処している。苗が浮いたような状態で過ごす理由は、乾燥を苗の時期に経験させることが主な理由だ。一日に一度の水遣りで乾湿を繰り返して過酷な環境に慣れさせるのだ。そして、トンネルを夕暮れ前には密閉することで湿度を確保して夜の間に成長してもらうのだ。夏季は、トンネルを取り外して、サンサンネットだけの苗床になるという具合だ。水遣りは手であげなければならない。苗の具合を見ながらその日の水遣り量を決める。これは機械ではできない。ブームスプレイヤー(動力噴霧器)で行った時期が僕にもあるが、一定量の均一な水遣りを実践できても、苗によって微妙に水加減を変えることはできなかった。やはり、苗には気持ちを伝えていかなければならない。
こうして、葉ものの苗は温度状態がよければ播種後十四日で畑に植え付けられる。キャベツやレタスなどは、苗を引っ張って苗がトレーから引き抜けるような状態であればできるだけ早く植えつけたほうが個の能力を発揮できる。胡瓜や南瓜などのダイレクトセル育苗(鉢上げしないで畑に直接植える)も同じだ。とすると、苗を植え付ける畑は種播きの時期には用意されていなければならないことになる。有機物は、畑の中での養生期間を最低二週間は必要とするからだ。次回は収穫について述べたい。
2004年3月25日 寺田潤史