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「四人娘を風呂に入れる」

 農繁期と出産後の家事負担が重なり、高揚した日々が続いている。よくもまあこんなに動けるものだとあきれながら、体の調子が今ひとつであった二,三年前の自分のからだと比している。現場にいるものにとっては、やはり体が動くということが幸せの源になるということを体感しているようなもので、恭さんの産後の養生を全面的に応援して、何年たっても畑で動く恭さんでいてもらいたいと切に思う。

 昨日も六時過ぎに長女を起こして、アサリの味噌汁を仕上げ、次女三女を起こして、保育所の準備をさせた。ああ、二十四時過ぎまでアサリの味噌汁の準備をし、あまりの忙しさに焼酎のお湯割とともに饒舌となり、恭さん相手に二十五時過ぎまでしゃべっていたことを思い出す‥‥。八時には保育所に二人を送り届け、洗濯、鶏の世話、収穫、洗濯物干し、収穫調整と昼前まで休みなく働いた。午後は畑の葉もの類やとうもろこしに追肥し久しぶりに農作業らしいことをできたので満足だが、確実に家事が農作業を圧迫している。家事自体が大変なのではなく、農繁を家事が追い越していくのである。どんなに農作業が重要であっても、人間にとっては人間のことが最重要であるのだ。自然界のことは何もしなくてもそのまま循環しているが、人間界のことはやはり人が具体を持って動いていかなければ日々が遅滞する。

 そんな産後の特別な環境にあって、夜の配達のない水曜日は、僕が子供たちの入浴を確実にさせることのできる日だ。夕方煙突掃除をし、祖母にお風呂を沸かしてもらっている間に夕飯のチャーハンの準備をし、いざ四人を風呂に入れてみるとこれまた体力勝負だ。長女は小学校の二年生になったから自分の体を自分で洗うことができるが残る三人はまだできないに等しい。まさか、四人も子供を風呂に入れることになろうとは、考えもしなかったことだ。四人を風呂から上げて湯船に浸かりながら、今は目の前にあることを一つ一つ片付けていくだけの日々だなあとしみじみし、十五年前に百姓を志した時の感覚と似ていると気付く。あの時は、先のことを考えられる下地もなく、農に従事する環境に自分を追い込んでみることが最重要であったのだろう。新しい環境というものは、その状況になってみないと実感がわかないという側面がある。どんなに準備をしてみても、出たとこ勝負の感は否めない。百姓という周期の短くない仕事に従事するというのに、予定も何もなく入っていったのだから若さ以外の何物でもなかったのだと思う。今回の出産は三月下旬に生まれるだろう、ということはわかっていて畑の準備をそれなりにしてきたのであるが、生まれてみなければやはり体が反応しないし、出たとこ勝負と大して変わりない状況だ。

実際に四女の顔を見て相好を崩し、掌に四女をのせて風呂に入れてみると、こんな体験がまた出来たんだと驚く。そして夕べ四人娘とともに風呂に入ってみてはじめて体力勝負を実感し、四人の子供を持つことについてはまったくの初心者であるなあとあらためて気付いた。その年齢に起こりうることはいつでも初心者に違いない。それならば、毎日がハプニングの連続であると誇張もできる。こうなれば、この状況を徹底的に楽しむほかはないなと、湯船に浸かって腑に落としてみたのである。

2004年4月8日 寺田潤史



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