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「旬を食べる、旬を育てる その六」

 梅雨のさなかであるはずだが、盛夏さながらの酷暑である。昨日には、静岡市のほうで記録的な集中豪雨があった。今年の雨の特徴は、強い雨が降り続くことであるようだ。降らなければ、酷暑。鶏たちもいささかばて気味で、鶏舎から放たれるとすぐに木陰で土を浴びて涼んでいる。こうなってくると、僕たちの農作業も逃げ腰及び腰で、暑気からの退避が第一となる。

畑では、胡瓜が最盛期となっている。地を這う地這胡瓜だ。畝は裸地のままで、草がはびこるので、畝の半ばまで米ぬかが入っていた紙袋を株間に敷いてある。草が一年中で一番伸びるといってよい時期なので、胡瓜のつるや葉の陰に隠れて見つけにくい胡瓜を草がより一層見つけにくいものとしている。草を取ると、今度はカラスが胡瓜をつつきにやってくる。今、胡瓜の収穫担当の恭さんは、暑さの中を収穫に行ってカラスに食べられているとがっかりしている。つつかれたものは鶏の餌だ。

 恭さんが農業雑誌の影響を受けて、胡瓜の追肥に米ぬかをふった。ところが、草をとって米ぬかをふって何もかぶせなかったので、実の大きくなった胡瓜がそこに横たわると、米ぬかが自然発酵して胡瓜の実にまで発酵が移ってしまう事態が起きた。収穫したばかりの胡瓜をよく見分けないで仕分けて、新聞紙に包んでお客さんに渡し、お客さんがあとで気付いてみると胡瓜にカビが生えていた、ということになる。一つの落とし穴だ。米ぬかをふったら、米袋か何かを敷いておかないと、微生物の豊富な畑では発酵も早い。こういうことを防ぐ意味でも、立ち栽培つまり誘引パイプとネットを使うことが普及している。でも、省力という意味では地這がよいので、よく胡瓜を見分け、一晩冷蔵庫で予冷しておくと見分けやすいし、胡瓜の持ちもよい。

 こう暑いと、冷えた胡瓜の塩味あるいは味噌味が体に穏やかにしみわたる。塩や味噌を日本人はどんな季節もうまく使いこなしてきたと思うが、湿気を伴った夏の暑さを乗り切るには塩味は欠かせない。子供たちも大好きだ。僕の少年時代の記憶に、ボーイスカウトでキャンプに行って飯ごう炊飯をやったときのことが強く残っているのだが、食事の支度が出来るまでの間に塩や味噌をなめていたことを思い出す。塩や味噌がよく似合うものは、子供たちもよく食べる。子供のときはよくわからなかったが、胡瓜の水分はどれだけ食べても大丈夫な水分であるような気がしている。夏の水分の取りすぎは、体のバランスを崩す原因の一つだが、胡瓜をたくさん食べてもそうはならない。大地の表層で、土や風や雨、そして茎を通って浄化された水分なのであろうか?今年は作付けられなかったが、スイカなどもそうであろう。大地の表層には、とてつもないエネルギーが充満している。空気である父さんが、大地である母さんと交わるところ、それは、生命の源泉だ。そう考えると、少し暑さも和らいだ感じとなる。乳飲み子を愛する気持ちで抱きしめるように、大地を抱きしめよう。胡瓜は夏の人間を癒してくれる。暑気から逃げていては、大地を愛せない。人間が大地を癒さなければ大いなる循環の一員になれない。木陰で涼むことも、大地への愛である。旬に添うことは、大地の草を刈り、大地に草をはやすことである。木の精、植物の精とともにあることが、大地の表層に住む証である。 

2004年7月1日 寺田潤史


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