「神ながらの農 その七」
まだまだ寒い日が続く。雨の後、モアッと春のぽかぽか陽気が来るかと思えば、強烈な北西の風が熱を奪っていった。風の日が続く。その風が冷たい。しかし、日差しそのものは痛いような熱を持っている。その日差しも強烈な風の前に、季節感を奪われたような格好だ。夜明けの気温が下がっても、風があるから霜は降りない。そのことは幸運だ。だが、不思議な春に違いはないから、安心感にはほど遠い。
「とーと畑」に枝豆を植え終えた。千二百粒の種を播いてあったから、千百本以上は植えたであろう。今年は手植えだ。枝豆は、通常であれば汎用移植機が使える種類の野菜だ。しかし、今年は耕す場所と時間に巡りあえなかった。その時点で不耕起畝に植えよう、と考えていた。不耕起とは、文字通り土を起こさないで耕さないままに作物を植えることである。農民としては、トラクターや耕運機で土を動かしてしまわないということになる。もっと言えば、一度作付けた畝をそのままの形に次の作物を植えるということにもなる。
うちのメイン畑となった「とーと畑」には、極端に排水の悪い部分があって、トラクターで耕すことのできる時が非常に限られている場所でもある。その場所に、去年は一大決意をして、一月の乾いた時期にトラクターで耕し、ビニールマルチフィルムを張って、春に夏野菜を植えつけた。もちろん、排水路もしっかり確保してのことだった。比較的水害に強い野菜を植えつけ、耕さないことで、自然にできる根穴も壊さないで排水を良くしようという狙いだ。そこそこに野菜も収穫できて、通路からはびこる草にさえ埋もれてしまわなければ、何とか畑として使えることを実証できた。その場所がそのままビニールマルチを張ったままにしてあるのだ。実は、二年目三年目もそのまま耕さないで畝を使って排水を良くし、少しずつ耕しても使える畑にしていく、という構想からビニールマルチやむなし、と考えを練ったのである。
枝豆は、多少排水が悪くても育つ部類の野菜だ。ビニールマルチを使って育てたことはない。しかし、マルチのない状態では虫のつきやすい野菜であるし、雨がはねて枝豆に泥が付着してしまうことも毎年経験している。マルチでその弊害を少なくすることができたなら、生分解マルチフィルムで作付けしていくということも視野に入れられる。枝豆を手植えして思うことは、ここまでやってもほんの一瞬で収穫が終わってしまう野菜の一つであるから、労力の甲斐が充分にあるのかどうか疑問であるということだ。ただ苗を植え付けるだけと違い、生えた草を取りながらの植え付けで時間がかかる。やはり、できるならば機械植えにしたほうがよいだろう。長期作物であればマルチフィルムを張る価値を見出すことができるが、枝豆のような比較的短期の作物ではどうであろうかと天秤にかけて考えなければならない。こう考えることは、とても神ながらとは言えないような気がするが、不耕起で排水の悪い畑を良くしていくということは、そう外れてもいないのじゃないかとも思う。大変な思いをして作付け、長い時間をかけて収穫することを思うと、とても自分のために作付ける気にならない枝豆だが、子供たちや野菜を買ってくれている方々に食べてもらえると思えばこそ、の作付けである。
2005年3月31日 寺田潤史
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