野菜の仕事で、機械を多用する僕は、体が大変だから、あるいは自分が年老いてからのためという明確な理由がある。そこには、除草剤を使わない畑作というものの道理が横たわってもいるし、殺虫剤も使わないから虫を大量発生させない手法との絡みもある。が、あくまで体のことが原点だ。それでも手仕事、手作業は数限りなくある。一方、一般的な田んぼでの手作業の代表であった田植えが機械植えになり、除草剤の普及で田植え後の田んぼに人が入るのは農薬と化学肥料の散布くらいになった。化学的なものは子供たちに触らせたくないものの代表格だから、当然子供たちも田んぼから遠ざかった。実った稲も天日に干すということをやめて、コンバインで刈り取ると同時に籾も取り除き、玄米だけを機械乾燥することになったので、ますます子供たちは稲作の現場から遠ざかった。言ってみれば田んぼは毛嫌いされているようなものだ。田んぼを所有するいわゆる長男の家では、次男以下が独立するのに田んぼを埋め立てるということはよく見る光景だが、要するに田んぼは毛嫌いされているからどんどん減っていくのだ。機械化したことが、人間を田んぼから離していく要因の一つになっているのではないかとさえ思えるくらいだ。

　農薬を使わない畑や田んぼ、化学肥料を使わない畑や田んぼから、機械化することによって人が離れていかないように注意していかないと、足元をすくわれかねない。といっても、僕たちの子供が僕たちのやり方を継がなければならない、とは思っていない。子供たちが畑をやるかどうかは未知のことであるし、子供たちの意思によるものだ。そうでなくても確実に畑をやりたい若い人も増えている。その方々のためにも、機械化したらこうなるということを身をもって体験して伝えることも一つの仕事だと考えている。土と草のある畑の風景を原風景の一つとして遺伝子を喚起し、子供たちが好きな泥んこ遊びや水遊びを好きなだけやらせてあげる環境を残していけたらと願う。自分の心のうちにある風景を思い出すことが、昔への回帰ではなく、遺伝子の目覚めのきっかけとなるように祈りたい。たいていの人は、子供のときのことを覚えているものだ。感受性の豊かな頃のことだから覚えているのかもしれないが、そのことは間違いなく僕のあるいはあなたの一生を支配していくことと思う。そして、田んぼという文化は、この国に住む僕たちの心の中を、彩りある風景に染めてくれるだろう。

2005年5月26日　寺田潤史

植え付け前の稲の苗。今年は畑苗だ。

田植え一日前に根切りして、プールに移す。

とうもろこしも大きくなってきた。

左の雑草を抜きながらの収穫だから手間がかかるし、からだも疲労する。