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「瓦」


 この夏の、危ういほどの熱を帯びた暑気のふくらみに、たじろぐばかりの日一日です。トマトやオクラに入り込む虫たちにすら「大変やもんなあ」と同情したくなるほどです。こんな時には、生きていくこと自体が人も虫も大変であるという、根源的な共通土壌に立つことから連想が廻って、「同情」の真の意味を見出した気にさせられます。でも実際には、「大変やもんなあ」と口で言いながら、虫を平気でひねりつぶしています。


 この夏の熱を帯びた暑気のふくらみには、樹木と家屋をもって対処していくのが長い間の人間の知恵でした。家屋は決して住宅ではなく、木材に多くをゆだねた木の家のことです。今僕たちの住んでいるこの家屋も、明治末期に建てられた木の家です。アルミサッシでないのでガラス戸の隙間から蚊が入ってくるし、暑いので雨戸を閉めきるわけにはいかずに網戸用の網を二箇所に張って風を通している有様です。この夏の危ういほどの熱を、体を張って受け止めているのが屋根の瓦です。もう、少しずり落ち始めていて、何年も前から死んだ親父と「なんとかしなきゃ」と気にかけてはいました。先日、たまたま来たリフォームの業者が、見積もりを出してくれました。約14000枚の瓦を整備して瓦を落ちないように留める工事でざっと四百万円ということです。恐れ入りました。


 直射日光で表面温度はおそらく百度以上になるでしょう。この家屋はあの分厚い瓦を支え、新品を手に入れることすらできないという古い瓦が、百年以上も太陽熱を一手に引き受けてくれていたのです。そのことに恐れ入ったのでした。今工事をすれば数十年は大丈夫とのことで、長い目で考えれば決して高くないのかもしれません。大袈裟でなく人を死へと追いやるほどのこの夏の暑気から、僕らを守ってくれているのです。この家屋や瓦の知恵をその時代に受け継いだ人たちが、僕らを守ってくれているのです。経験や知恵を紡いでひとつひとつかたちづくっていくことが、結局は次の世代その次の世代へとエネルギーを残していくことになるのだと、瓦をながめてしみじみと思い至る夏です。 

2001年8月2日 寺田潤史

鬼瓦と避雷針

鬼瓦と避雷針

約14000枚の瓦

約14000枚の瓦



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