「家事」

　四女が嘔吐下痢のような、風のような症状で、高熱が出たわけではないけれど、数日寝込んだ。もう回復して元気に学校に行っているが、今度は恭さんが寝込んだ。やはり高熱が出るわけでもないし、咳や鼻水が出るわけでもない。寒気がするらしいから、風邪だとは思うんだが、インフルエンザでもなさそうだし、とりあえず近所のお医者さんで抗生剤を出してくれた。恭さんが寝込むとなると、僕が家事も引き受けることになるのである。

　２０年以上前までの東京での一人暮らしは、家事も当然こなす生活だったのだが、帰農して結婚してからは、炊事とお風呂の薪当番をほとんどしたことがない。たまに食器洗いをするくらいだし、お風呂の薪当番もごくたまにやる程度だ。洗濯物も時々干す程度だし、洗濯物を畳むなんてことはしない。男は僕と長男だけだから、女物の服、特に子供の服はどれが誰のものなんだかさっぱり分からない。僕が通常やる家事は、掃除の類くらいのもので、子供の勉強とかもろもろの世話が多い。

　恭さんが寝込んで、苗の世話や収穫、出荷という作業に加えて家事を一手に引き受ける。子供たち５人が生まれた時のそれぞれ１カ月と同じ状態になるわけで、何となくその時のことを振り返りながら、できるだけ無理はしないようにことを進める。夕飯の支度をしながら風呂を沸かす。その前に薪を電気鋸で切っておくのは、いつも通りだ。松葉を新聞紙でくるんで着火剤替わりとし、笹竹の古いものと樹の枝を仕込む。これもいつものこと。しかし、一年で一番寒い時期だから、風呂はなかなか沸かない。灯油やガス、あるいは電気の給湯器と違って、天然の材料ではこの時期２時間近くかかる。食事の支度をしながらだから、時間のかかることが苦にはなるわけではないが…。

　この頃は、娘が少し成長したので、食事の支度を手伝ってくれる。じゃがいもの皮をむいてくれ、と言えば三女がやってくれた。人参を切ってくれと言えば、二女がやってくれた。配膳とつまみ食い、そして四女の計算カードは長女がやってくれた。そして、四女は台所に来て、本読みの宿題をする。この頃保育園で昼寝をしなくなった長男は、眠いので甘えてくる。長男を抱っこして、フライパンの中の調理を見せる。食事ができたところで、子供たちだけで食事をはじめるように伝え、僕はちょっと配達に出かける。

　配達の帰りに、スーパーでウルメイワシを買ってくる。僕の食べるものがないので、早速ウルメイワシを焼く。一方、フライパンで人参を切って炒め、塩と酒を加え、茹でてあった大豆の残りを入れ、買い置きのあったエノキを入れ、豆腐であえて、醤油を入れて味を調えて出来上がり。妙な食べ物だが、食事の終わったはずの次女がおいしいと言って食べ始めた。魚の好きな三女は、ウルメイワシを頭から食べる。

　滅多に料理をしない僕に加えて、子供たちを叱ることの多い恭さんが寝ているので、子供たちはいつになくご機嫌である。恭さんは、３日も寝込んだので、日頃の疲れが取れてよかったと思う。家事ばかりしていると、仕事がさっぱり進まないが、初心に帰るような心持で、忘れていた何かを思い出したような気になるものだ。

2011年2月3日　寺田潤史

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