「人間の仕業」

　年度末だ。東北地方の地震、津波の被害、原発事故の影響で、年度の切り替わりにも異変が起きているようだ。関東の大学に合格したばかりの新１年生は、入学式も取りやめになり、５月からの授業となった学校も多いという。野菜農家に年度末は関係ないけれど、二女が今度中学に入学するし、小学生２人、中学生も２人となると、年度の切り替わりは大いに関係がある。入学式や卒業式が１０年程度は毎年続くわが家では（何年続くかは、もう考えたくもないくらいである）、年度の切り替わりは大きなことで、出費のかさむ時期でもある。

　この春休みは、子供たちにとっては、地震にはあまり関係なく、普通の春休みのようである。テレビのニュースを子供たちが見ても、被害状況は他人事のように映っている。大人にとっては、かの被害続く中での、何とも心情的にマイナス要因が大きい、そんな春である。長引く被害に合わせるかのように、桜の開花も遅い。今週は、３度も霜が降りたくらいで、相当に寒い春でもある。どうも、明るい話題は、子供たちが独占している感じである。５番目の長男なんかは、テレビアニメの「ゴーカイジャー」の録画したものを毎日見ていて、どんなにすねていてもそれさえ見ればご機嫌になる。娘たちはアイドルの話題だけでハイになっている。だからこそ、生きていけるんだ、ということもあるのだが…。

　去年の春も寒かった。過去の野菜の出荷データを見ると、それを理解できる。２年前の今頃と、去年今年の野菜の単価が明らかに違う。寒くて葉ものの成長が鈍いと、単価は跳ね上がる。暖かければ、野菜は目を見張る生育を見せ、結果として単価も下がる。春の端境期でもあるので、ほかの農家には野菜が少ない。だから、この時期注文も多くなる。今年は、地震の影響で、インターネットからの注文がとても多い。でも、葉ものの生育速度は遅い。ほかの産地の動向が単価となって跳ね返る市場と違って、自家農園内の野菜の生育状況と注文状況によって単価は変わる。

　野菜には、当然ながら正月も年度の切り替わりも関係がない。野菜にとって重要なことは、天気と人間の仕業だけである。特に、ビニールハウスを使わないうちのような露地野菜にとっては、天気の与える影響は大きい。春は暖かくてはじめて春である。１度前後の気温が毎朝続くようでは、野菜の生育が遅いし、夏野菜も植え付けられない。今朝は、最低気温が６度と暖かかった。せめてこのくらいの気温が欲しい。しかし、雨がない。カラカラに畑は乾いている。

　２日前から、また井戸水を出している。これは、人間の仕業である。人間の野菜を欲しいという要求によって、人間はお天気を待つことができないで井戸水を出す。ビニールハウスを使うこともまた人間の仕業である。雨を遮断し、温度を確保する。うちでは、その仕業を選択しない。野菜の赤ちゃん、つまり苗の時だけ、水と温度を管理して育てている。人それぞれの選択方法がある。今回の地震や津波は、お天気のようなものである。辛い状況を、人間は受け入れるほかはない。しかし、原発や原発事故は人間の仕業である。人間の仕業であるから、改善の余地がある。電気が欲しいという人間の要求に対して、原発でなければいけない理由は、もうない。自然界の劇的な変化は、人間にも「変われ」と言っているようだ。

2011年3月31日　寺田潤史

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