「今年の桜は美しくない」

　入学式に何とか間に合った桜の花。例年ならば、入学式まで桜よ散るな、という気持ちの方が強いのだ。この春は寒かった。いつの間にか咲いた桜が、あまり美しく感じない。

　桜は、日本の風土によく似合う花で、年度の切り替わりや、寒い冬から暖かい春への解放感、未来への前向きな気持ち、それらをはらはらと淡いピンクに収めて咲く。静かに咲く花が、一斉に満開となると、収められた心が、爛漫へと変わる。咲き始めが初恋の味ならば、咲き乱れる爛漫はベッドシーンというところか。その桜が、どうも今年は美しく感じない。あの地震と津波の影響だ。美しさは、心の鏡なのだろうか？

　首筋から背中にかけて、どうもすっきりしない。これは注文集中による疲れのせいだけではなくて、あの地震と津波がどうしても心のどこかに引っ掛かってくるからだろう。映像中心の世の中になってしまったから、あれほどの大地震と大津波は、世界中に発信されたのは当然だ。付録として原発事故がまた、その原発自身の特異な性質上、これまた別の角度の危機感を醸し出しているし、東電のあの対応ぶりと馬鹿げた安全という思い込みに怒りを覚えない日はないのだ。それゆえ、映像は、奇妙な数字と奇妙な原発内部の構造を織り交ぜて、さらに怪しいものになっている。その映像を見たから、その残像は、想像力と合体して、強烈に心に引っ掛かってくるのだ。その強烈さが、桜すら美しく感じさせなくなってしまったのか？

　次女が、中学に入学した。見慣れぬセーラー服姿と中学のジャージ服姿は、もうそういう年になったんだな、という感慨をひそかに生む。桜が美しく感じなくとも、新しい世界へと飛び込む前向きな角度はやはりいいものだ。娘たちにとっては、新しいクラスと新しい担任がどんな変化をもたらすか、とても大きなことだ。木々の新芽、花々や野菜、それらと同じように一心不乱に前を向く(おひさまを向く)、そんな姿は応援したいと思わせる。

　ここにきて、急に春らしくなってきた。異常なまでの乾燥状態も、明日の雨で一息つくだろう。サヤエンドウの花が、井戸水を吸い、気温が少し上がったおかげで、赤く咲き乱れてきた。こちらの花が美しく感じるのは、収穫と直結している花だからであろうか？赤い花を見ながら、その横に、インゲンと胡瓜の植え付けをした。葉ねぎの畝の横には、ズッキーニを植えた。今収穫中の小松菜やチンゲンサイなどの葉ものの、次の次のアブラナ科の葉ものを植え付けた。新しくホウレンソウの種を播き、ラディッシュや人参、ゴボウの種も播いた。雨の前に小カブの種も播きたい。夜には、ようやくトマトの鉢上げをした（密集して発芽したものを、もう少し広いスペースに移し替えること）。

　寒かった春は、ジャガイモの芽も遅らせた。２月１０日ごろに種いもを植え付けて、マルチフィルムを張っておいたのに、発芽が４月にずれ込むなんて、これもはじめてのことだ。やはり、秋のように春も短く、夏と冬の長い、二季的状況になっていくのだろうか？こういう状況も、桜に影響を与えていくのだろうな。原爆事故の融けだした炉心を撤去工事着手までに１０年かかると言われているが、桜の花は早く美しさを取り戻して欲しい。

2011年4月7日　寺田潤史

サヤエンドウの花は美しい

写真は撮っていないが、花としての桜はやはり美しい

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