「同じことの繰り返し」

　余震は続いている。まだまだ大きな余震が懸念されてもいる。この落ち着きのなさに、そのまま人間世界もまた落着きを失っている。原発事故で、日本人は変わる、と考えたのは一部の人だけだろうか？原発事故によるあれだけの被害で、人々を、農水産業界を、苦しめているにもかかわらず、変わらない人、懲りない人が少なからずいることには驚きを感じる。原発事故の余震もまた続くのだ。

　東芝という企業が、これからまだ原発受注で莫大な利益を上げようと考えているようだ。福島第１原発の廃炉が短く見積もって十年で可能だ、という「たった１０年」を強調しているようだが、周辺住民にとっては「１０年も！」というのが偽らざる気持ちであろう。鉄の仮面をかぶった人は、まだまだ存在する。東芝で働く方々、鉄の仮面をかぶったトップをいただいて働くこともまた大変でしょうから、人民の心が届くようなトップに刷新してください、と祈りたくなる。

　原発というのは、突き詰めると企業の論理に行きつく。経済活動には多大な電力が必要だから、クリーンエネルギーである原発がなくてはならない、そういう呪文である。原発は安全、という過去の呪文と似ている。クリーンエネルギーという言葉が皮肉そのものだが、本気でそう思っているらしい。失敗や事故がなければクリーンエネルギー、ということなのだが、失敗や事故がない事象を人間は体験したことがあるだろうか？失敗を積み重ねることが成功の秘訣であるとすれば、失敗の中に放射能汚染が含まれたものは成功とはならないはずだ。

　今回の原発事故で、日本人は放射能漏れに右往左往している。そのくらいに放射能汚染に対して敏感な国民が（世界中の人がそうだとも言えるが）、今後の原発に対しての安全対策で納得するのだろうか？企業で働く方々は、企業に対してはっきりとノーと言えないけれど、放射能汚染に対してははっきりとノーと言っている。あれだけの被害を出した地震や津波に対してはノーと言えない人間が、放射能汚染に対してははっきりとノーと言っている。津波や放射能汚染から身を守る手段は、逃げることだけである。ただし、放射能汚染は人間の造りだしたものであるから、人間が造り出さなければ、放射能汚染は起こらない。

　今までも反原発運動はあった。原発は安全という呪文に周辺住民が乗っかって、反原発運動は主流とはならなかった。今回は、周辺住民どころか世界中の人に、原発事故の現場を押さえられてしまった。そして、まだ解決されていない。その中で、さらに原発推進の意向を示す、鉄の仮面をかぶった人々がいる。ここは、声をあげなければ、大変なことになる。そしてまた、科学者たちは、新しいエネルギー開発に力を入れるだろう。人々は節電を余儀なくされるだろう。

　僕たちは、相変わらずに野菜を栽培する。野菜の種をまき、苗を育て、苗を植えて寄り添い、収穫へと至る、その過程を繰り返す。暑い日も寒い日も、雨の日も風の日も、同じことを繰り返すのだ。露地栽培という形で、旬の野菜だけしか育たないけれど、食べることが幸福の一歩だと信じて、そのほんの一部を担うべく、同じことを繰り返す。失敗してもやり直しがきくし、すべては自分たちの責任として、同じことを繰り返すのだ。

2011年4月14日　寺田潤史

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