「子猫狂想曲　その２」

　親猫が、鳴いて納屋の前で、子猫を探している。大人は、返してあげれば、と思うし、三女にもそう伝える。親猫は、子猫を見捨てたわけではなかった。とりあえず、一匹の子猫を親猫に返した。親猫は、すぐに子猫の首を加えて、草むらの方角へ消えた。そして、しばらくしてもう一度親猫は現れた。もう一匹をまた返した。親猫は、やはりすぐに子猫の首を加えて立ち去ったが、今度は僕と三女があとをつけた。猫親子は、昼間の草むらの下のトタン板の下にいた。

　三女は、残った一匹だけは、絶対に返さない、と言った。だってただの野良猫になっちゃうでしょ？とも言った。次の日まで、三女はスプーンで猫用ミルクをせっせとあげた。親猫の体温の代わりのお湯を入れたペットボトルは、すぐに冷めてしまう。だから、二時間ごとの授乳の際に、ペットボトルのお湯も換えた。ちょうど、小学校の家庭訪問のある時期で、学校からは早く戻ってくる。三女の友達もやってきた。猫好きの友達である。

　猫好きの友達は、親猫のいない隙を狙って、子猫二匹を連れてきてしまった。ところが、それを見た三女は叫んだ。太ってるー！親猫の母乳の威力は絶大である。そして、またもや親猫が子猫を探して現れた時に、三女が育てていた子猫を親猫に渡した。この子も太らせて！と言いながら。さらに翌日の土曜日、三女は次女と連れだって、街中のペットショップまで、自転車を４０分も走らせた。子猫用の哺乳瓶を買ってきたのである。

　その日から、哺乳瓶でミルクをあげたが、二匹のうちの雌の子猫は、あまり大きな口をあかなかった。ミルクの飲みっぷりも悪い。親猫も、もとから貧弱な猫で、子供を産む前に、僕たちは、とろい猫、と呼んでいた。そして、その日の夜には、親猫が育てていた子猫が別の場所の竹やぶに置き去りにされていた。子猫の鳴き声を聞いて長女と三女が見つけ出したのである。春にしては寒い夜だった。一度は、元の草むらのトタン板の下に子猫を戻してあげたのだが、しばらくするとまた竹やぶのほうから子猫の鳴き声が聞こえた。自分で歩いてこれるような距離ではないから、親猫が加えてきたに違いない。だが、今度は、暗くて子猫を見つけることができなかった。

翌朝、親猫が育てていた子猫の鳴き声は聞こえなかった。親猫も子猫を探しているようだったが、竹やぶにもトタン板の下にも子猫はいなかった。そして、それっきり親猫は僕たちの前から姿を消した。三女が育てている二匹の子猫のうち、口を大きく開かない雌猫が、翌日死んだ。子供たちは、猫を埋葬した。それから、５日ほどたった。最後の一匹、「たーちゃん」と名付けられた雄猫を、三女は育てている。排便させてミルクをやって保温して、とよくやっている。

　親猫から奪ったような形、これはよくないことである。親猫がそのまま育てていたら、三匹とも死んでしまった確率は高いが、それでも猫泥棒には違いない。この先、三女がそのことをどのように感じてどのように変化していくのだろう？今は、猫がかわいくて仕方がないのである。これほどの執念をもって猫を育てようとする、そこには一つの学びもあるだろう。今回は、親の価値観を三女に強要することを抑えている。お試し期間と考えた一週間が過ぎ、お試し期間はライセンス契約へと変わった、とは言えない微妙な時期だ。

2011年5月6日　寺田潤史

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