「子猫狂想曲　その後」

　相変わらず、震災後の原発事故処理はもたついているようで、ニュースでは連日トップニュースに近い感じで伝えられている。ここから東へ３０�q前後のところにある浜岡原発は、管首相の起死回生の浜岡原発一時停止発表、いわゆる浜岡ショックで、本当に発電を停めてしまった。これには驚いた。今まで、反原発の流れは、まったくもって政治にまでは到達しなかった。そして、僕が喜んだように、国民の多くもまた浜岡停止をよしとしているようだ。政治の世界では、自民党も、民主党内の小沢さん周辺も、誰もができなかったことを（やろうともしていなかったことを）、起死回生の切り札として管さんが成し遂げたことに、唖然としているのであろうか？管さんの株が上がるかどうか、僕には興味がないが、浜岡停止後数年の情勢と、福島第一原発の大変な数十年は、とても注意深く見守る必要がある。

　震災後の被災者の皆さんの大変さは、想像を絶するものがあると思う。復興への足がかりをという思いはあるにせよ、流れはまだそんなに変わっていないような気がする。こちらのインターネットでの野菜の通販も、そのままの流れを見せている。初めてうちの野菜を買われる方も、何度目かのリピーターの方も、興味本位で野菜を注文していただいているわけではないような感触を持っている。ちょっと贅沢をして有機野菜でも、といった感じではなく、切実なこととして、安心できる野菜を買いに来てくださっている、そんな印象を受ける。僕たちも、地元磐田、浜松、袋井市内から外に出ることもほとんどなく、ほぼ畑と納屋と家の中でだけ生活をしている。ひたすらに、受注、収穫、調整、出荷を繰り返し、残った時間で畑作業をするといった具合だ。時間が止まっているわけではなく、気がつけば、震災後から２カ月を休みなく働いて、時は流れた。

　その中に、子猫狂想曲は組み込まれた。僕たちは、多忙のあまり、子猫に真剣に向き合うことはなかった。三女には向きあったが、子猫に対して真剣に向き合ったのは三女である。そして、それは終わった。三女以外は元の生活に戻った。三女は、少し変化を見せた。番犬の「ムーン」に対して、ただかわいがるだけではなくて、向き合うことを始めたのだ。

　きっかけは、ひょんなことだった。三女が、友達のＳちゃんを家に連れてきた時、ムーンの散歩に行くと言い出した。それまで、ムーンの力の強さに負けていて、散歩に連れ出すことができなかった三女だが、Ｓちゃんといっしょにロープを持って散歩に行くという。ちょうどその場に居合わせた僕は、ロープ二本を首輪につけてそれぞれ一人ずつロープを持って散歩に行けばいいよ、と言った。散歩から帰った三女は、開口一番、Ｓちゃんのロープはほとんど役に立っていなくて私一人でロープを持っていたようなもんだにー（「だに」は「だよ」の訴え系の方言）、と。

　ちょうど、三女も体が大きくなる気配を見せ始めている時だ。一人で散歩に行くことができる、と嬉しくなった三女は、次の日から早起きして散歩に行くようになった。餌も水も、三女が与え始めた。ウンチの処理もやるようになってきた。今朝などは、ムーンの力に負けて擦り傷を負い、泣きべそをかきそうな気配で家に戻ったようだ。それでも、夕方にはまた散歩に連れ出した。このようにして、人間力は少しずつ付いていくのだろうか？

2011年5月19日　寺田潤史

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