「５１歳」

　先月末に、僕は５１歳になった。子供の頃には、想像できなかったような年齢である。嘘やろ？と思うことが時々ある。畑を駆けまわってもいるし、ギター最高！なんて一人合点する夜もある。まだ、２０歳や３０歳の頃の感覚である。時には単なるわがままな少年だったりする。自分の味覚を信じて疑わないし、突然下痢になったりすると食べ物のあらを探しまくる。テレビでサッカーを見ていると、家族をも寄せ付けない。まったく、馬鹿げた５１歳だ。

　自営業という自由を得ることができる農業を２０年以上しているが、好きなことを何でもかんでももちろんできるわけではない。ここ数年は、ほとんど畑にいる。野菜の配達には出かけるが、街へ繰り出すことはしない。単に好きなこと、はほとんど捨てている。たとえば、車で知らない街を走ることとそれに付随する人や街の観察、安い居酒屋や焼き鳥屋で一人飲みながら本を読むこと、喫茶店に入って本を読んだり詩作に耽ること、そういったことを今ほとんど捨てている。

　なければ生きていけないもの、それだけを好きにさせてもらっている。野菜であり、音楽であり、家族である。このような５１歳になるとは、想像していなかった。５１歳と言えば、まず浮かぶのが体力的な衰えである。確かに、体力は衰えた部分もあるかもしれないが、畑のおかげで、基礎的な体力はむしろ向上してきていると感じているくらいだ。ここ１〜２年は、無理をしないようになった。無理をしないというのは、休みの日を増やす、ということではない。休みなく働いても、倒れないようにその日の生活リズムを自重することである。４０代前半は、倒れることが多かった。きっと、からだの変化に自分がついていけなくなる年代であったのだろう。今、連れ合いの恭さんがその年代で、やはり初めて経験するからだの故障に戸惑っている。

　どんな職業をしていても、ストレスというものは少なからずあると思う。現代社会においては、人間関係と社会生活が入り組み過ぎているから、ストレスは増すばかりだ。自営業は、仕事全般を引き受ける性質がある。会社という人の多いと職場では、部署が分かれて仕事も別なことが多いが、自営業は、金銭的な工面や、営業、生産管理、出荷などを多面的に見なければいけない。どんな仕事だって、よい時もあれば悪い時もある。毎日多面的な仕事をこなしていくのは、時間的な制約もありストレスは当然出てくる。そこをどう乗り切るか、である。頭が飽和状態になった時、僕はギターを弾く。たった１０分か１５分の間、ギターを弾いただけで、気持ちはぐんと前のめりになる。指や腕の筋肉を使うことと、右脳を使うことで、何かが活性化されるのだろう。問題は、忙しい時に、その１０分や１５分をひねり出すことができないことである。

　家族の中では、父親として、楽しみながらやっている。５人の子供、一人一人の個性が違うから、ややこしいことも多いし、整合性を気にしない子供に怒れることも少なくない。向きあう時には真剣だが、好きなようにやらせている。高校にだって行かなくてもいい、と思っているくらいだし、勉強が好きならやればいい。ただ、自分の行きたい方向に行くためにはどのようにしたらいいか、そこは一緒に考えなければいけない、と思っている。ダメ親を見て、反面教師と思えばいいのだが、ダメ親を真似されても、困惑する５１歳である。

2011年6月2日　寺田潤史

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