「高校受験」

　長女が高校受験の年になった。同級生の子供では、大学を卒業して就職をした子もいる。うちでは、高校受験は初体験だ。自分の成績に見合った希望の高校へ行ってくれればいい、と思う。ただし、お金はないから、できれば公立高校がよい、そう親は考えている。

　ところが、長女の成績はよくない。いつかは上がるだろう、とタカをくくっていたが、一向に上がらない。長女が小さい時に頭でもどこかにぶつけたかな？と思うくらいに上がらない。軽トラックの荷台から頭から落ちたのは二女の方で、今のところ二女は進学校にいけるくらいの位置にいる。長女は、性格的におっとりで、外面（そとづら）も愛想の良い方ではなく、友達とのけんかも好まないタイプだ。マイペースなんだが、納得のしないことはなかなか受け入れることができないようだ。数学などで、公式を暗記して応用すれば簡単な問題も、どうしてその公式が必要なのかを考えてしまって、先に進まない。よく言えば、スイッチが入れば急に走り出すが、スイッチが入るまでに数年を要する、そういう感じである。現代社会にはマッチしにくいのかな？

　長女と、どこか行くことのできる高校はないかな？と、ネットを検索していた。芸術科のある学校の、授業内容を見たときに、「これ面白そう」と反応した。長女は、吹奏楽部でホルンを吹いている。そのホルンで受験する、という発想をこれまで考えたこともなかった。それがこの５月になって、突然降って湧いたように一つの光明を見つけた気になったのである。

　遅い。第一に、ホルンという楽器すら所有していない。学校のものを借りて、吹奏楽で吹いてきた。僕が音楽をライフワークとしているとしても、ホルンという楽器については全く知らない。吹奏楽部でも、運悪く、ホルンの先生を呼んで指導を受けたことが一度もない。トランペットの先生に指導を受けたくらいである。折しも、二女も吹奏楽部に入り、コントラバスを専攻したので、僕の音楽の相棒の中古楽器屋にあったコントラバスを譲り受けることになっていた。そこへ、ホルンが入ったよ、という連絡が…。ホルトンというアメリカのメーカーのもので、悪いものではなさそうなので、一緒に譲り受けた。まだ、お金は支払っていないけれど…。

　ホルンが手に入ったので、ホルンの先生をさがしはじめた。これまた、この地方にはほとんどいない。いろいろ調べると、連れ合いの高校の同級生が、ホルン奏者になって活躍している。でも、習うには横浜まで行かないと…。子供たちのピアノの先生のＫさんは、ずっと野菜を買ってくれている。そのＫさんに頼んで、楽器屋さんで探してもらうことになった。見つかった。

　急きょ先の日曜日に、掛川の楽器屋さんまでレッスンを受けに行った。出荷を大慌てで終え、午前中の吹奏楽部の練習が終わった長女と連れ立って出かけた。思ったよりも早く着いたので、楽器屋の裏の駐車場で、連れ合いに持たせてもらったバジルスパゲッティを食べた。駐車場には、子供のレッスンの終わるのを待っているのか、女性が車で待機していた。レッスンの時間になると、スタジオに入ってきたのは、駐車場にいた女性である。「食事されるのを見ておりました」と言われ、すぐに打ち解けた。レッスンの途中、「このホルンは、私が最初に持っていたホルンと同じです」と言われ、ラッキーは加速したのである。

2011年6月30日　寺田潤史

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