「高校受験　その３」

　娘のホルンの先生が見つかって、レッスンを受けたことを、その１に書いた。その２では、具体を書かずに、状況とか想いを書いた。ホルンに戻る。見つかったホルンの先生が、思いがけずよい先生で、娘に買い与えた中古のホルンが、その先生の最初に所有したホルンと同一であることをラッキーとも書いたが、よい先生であることはさらにラッキーである。

　たった一度レッスンを受けただけで、よい先生だと言い切るのは早計かもしれない。でも、そう素直に思うのは、音楽に素直に身をゆだねてきたであろうことが伝わるからである。音楽だけでなく、どんな世界にもその世界の持つ素直さというものがある。素直さを持ち合わせていないと、その人はその世界の中で伸びないものだ。業界の中で、ということではない。対価を得る、ということは、素直さだけではできないものだ。また話がそれた。

　ホルンの先生に、練習する曲を提示してもらって、楽譜を取り寄せ、娘の練習に付き合っている。高校のオープンスクールまで時間がないので、毎日付き合っている。夕方、野菜の仕分けをしながら練習に付き合うことも多い。娘が一人で練習できればいいけれど、間違ったことを覚えても時間の無駄だし、こういう機会は、この先あるかどうかわからないので、楽しんでいる。モーツアルトの曲なんぞを、詳しく反復するのは初めてだ。これが意外にポップなフレーズ（メロディのワンセンテンス）で驚いている。僕のやっている音楽の世界とはリズムが違うので、からだが受け付けない場所へフレーズが置かれていることに違和感も感じるが、よい勉強にもなる。

　娘は、一言で言えば下手だ。こんなんでよいのか？と思う。よい部分もある。練習を楽しむことができている。これは最重要なことで、どんなに音感がよくても、練習をしなければ宝の持ち腐れであり、努力を続けることもまた一つの才能なのである。ほかには、２年間ホルンを吹いてきているので、単音というものに慣れている。これは、和音を奏でることのできるピアノやギター、木琴のような楽器と違って、単音をつなげることしかできない楽器であるから、余分なことに時間を費やす必要がなく、単純に楽譜を追いかける癖が付いている、ということでもある。そのほかの良い部分もあるが、今は下手であることが大いに上回っている状態だ。

　娘の練習に付き合いながら、受験に失敗するかもしれないことも娘に伝えている。落ちたら、働け。そう言っている。高校へ行かないと世間体が悪い、なんてことは僕も連れ合いも全く気にしていない。働く、ということが最重要だと思っているからだ。音楽は、働くもののためにある、と言ってもいいくらいに思っている。音楽を演奏することは、筋肉運動を伴うということでもある。机の上だけのことではないのだ。しかしながら、社会性のない音楽というものが存在しないのではないか、ということも併せて思っているから、働くことから生まれる発想も大事なのだ。

　高校受験という形を通して、社会の入り口に長女は立っているのかもしれない。生活に大きな変化ができたし、あとのない切迫感もほんの少しは感じているかもしれない。これがなかったら、しょうもない時間を費やし続けていただろうな。これを見て、下の妹達も何かを感じてくれたらラッキーだが、焼餅を焼く子もフォローしなくちゃ、だ。

2011年7月14日　寺田潤史

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