「高校受験　その５」

　長女の高校受験は、もはや受験勉強ではなくなっている。ホルンの技術一直線である。ホルンの練習だけで一日が終わってしまう、というわけではなく、そこはお年頃プラス怠け者ならではの、意味の不明な時間の数々が存在する。すでに、ホルンの技術的なことは、ホルンの師匠におまかせしているので、僕はもっぱら意味の不明な時間を叱咤激励する形となる。が、子供は長女だけではないので、小学生以上の４人の娘に、飴と鞭をふるう形だ。

　昨日は、芸術系のオープンスクール、同じ学校の２度目の参加で、車で２０分の送り迎えをした。もし、この学校へ通うならば、道中の景色は、既定の景色となる。車で２０分で走り抜けるところでも、自転車なら１時間を要するかもしれない。そういったことも考えながらの送迎だが、なんとも今日は暑い一日で、積極的に畑仕事をすることがよいとは考えにくい日であったので、送迎もまたよしというところだ。

　ホルンの技術的なところや、長女の苦手なソルフェージュ（音を聞き分けたり、初めての楽譜を唄う新曲視唱など）にばかり注目してしまうのだが、今日は、ホルン専門の先生でない方に、貴重なお言葉をいただいてきた。娘のホルンを聴いて「やらされている感じ」だと言ったそうだ。これは、盲点であった。というか、親ばかを絵に描いて、通常の自分を忘れていたというべきか？

　音楽をライフワークとしてきた僕は、人の演奏や歌を聴いて、二つのことに気をかけてきたはずだった。基礎と独自性の二つである。それは今でも変わらない。でも、受験という形と娘という関係が、基礎固めばかりを気にし、個性を伸ばすことを後回しにしていた、そのことに気付かせてくれた言葉が「やらされている感じ」であった。その言葉を裏返してみると、師匠の個性がはっきりと存在することに気付く。師匠は、自分の意思を強力に発揮して、現在にたどりついているのである。だからこそ、教えを請うた娘の音が、師匠の音に似てくるのだ。

　で、長女が言う。「私の音って何だろう？」これは、難しい。言葉で言うのはさらに難しい。基礎を学んでいる段階で、個性を前面に出す、これが求められることなのか？昨夜の、サッカーの日本代表対韓国戦を見ても、個性と実力を発揮できることの強みは明確だ。それは、基礎を学んだあとから個性が付いてくるのでは遅い、ということを意味しているのか？アカデミックな世界は、特にそうなのか？いろいろと考えが浮かんでくる。個性を発揮しつつ基礎を積み上げる、言葉で言うのは簡単だが、実際は簡単ではない。

　そこへ、二女が登場した。長女たち中学３年生の吹奏楽部員が引退して、一年生の次女がコントラバスを本格的に練習し出したのである。昨夜は、コントラバスとホルンの合奏音が納屋に響いていた。合奏という原点から、自分の音をもう一度見直してみるのもいいかもしれない。僕の中学生時代とは大層違う夏休みだ。僕の中学３年の夏休みを思い出してみる。音楽にのめり込み始めた時で、ギターを弾きはじめていた。新しく聴く音楽が、すべて新鮮で未知の世界だった。長女のような未来への具体性は存在しなかった。窓一つない倉庫に住んでいた暑い夏だった。受験勉強をほとんどしないことだけは、共通しているかな？

2011年8月11日　寺田潤史

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