「野菜を届けるだけではない　その２」

　沖縄に台風１５号が停滞している間、雨の日を縫って、小学校の運動会は行われた。開催不可能と思われた運動会は、僕たち親の心配をよそに、ほとんど雨も降らないで滞りなく終了した。車関係の会社に勤める人は、この３カ月ほどを木曜日金曜日休みにタイムシフトし、土曜日の運動会に合わせて、仕事を休んだ人も多いだろう。僕たちも、出荷を休んで運動会に朝から出掛けたので、無事に運動会が済んだことにほっとしていた。

　あの運動会を開催させてくれた停滞した台風１５号は、そのあと突如として動き出す。そして、あれよあれよという間に、進路は僕たちの住む地域を目指し、一直線にしかも速度を上げて進んできた。前日まで台風の気配を感じないくらいで、ただ蒸し暑さだけが台風の予感として漂っていた。昨日２１日、朝から暴風警報は発令され、小学校も中学校も休校になった。僕たちは、台風の前触れの強風によろめきながら、その日の出荷用の野菜の収穫を急いだ。

　納屋の周りのいろいろなものが飛び、松の枝が飛んでくる中、強風は暴風に変わった。午後２時ごろ、停電した。子供たちは、勉強部屋の窓辺にあつまり、シャッターを少し開けて灯りをとり、床にへばりついて本を読んだりしていた。僕たちが暗い納屋で宅配便出荷の野菜を段ボールに入れて、出荷用の印刷物はあきらめたところへ、運送会社から携帯電話に連絡が入った。今日の集荷はとりやめになりました、とのこと。静岡県西部地方からの出荷ができない状態になった、というわけだ。運送会社の西部地域の本部がある浜松との間にある天竜川も、通行止めになっているそうだ。

　午後４時過ぎて、台風が通過してしまった頃に、となりの街まで野菜の配送に行ってきた。トラックが道路に反対向きで止められて渋滞していたが、フロントガラスがなくなっていた。信号も停電で止まっているから、通行がとても危険だった。家庭用の物置がいくつも田んぼに投げ出され、つぶれかけていた。樹の折れたものは無数にあった。

　うちには、住んでいる家と２メートルほどの距離に松の樹がある。大木と呼んでもいいくらいの大きさだが、ここ何年か台風が来るとその松の木が揺れて、根元に少し空洞ができていた。今回の台風では、さらに揺れて、少し松の樹は斜めになった。家の屋根めがけて倒れるのじゃないか、と心配した。松の木の根の上には、排水用のどぶがあり、どぶは割れて２０センチメートルほど浮き上がってしまった。おふくろの住んでいる海沿いの家では、サッシの窓ガラスが割れた。

　停電は次の日の朝方まで続き、夕方外で食事を摂り、暗くなったと同時にみんな布団に入った。津波の被害に比べたら、大したことのない被害だが、停電が長引くだけで何もできなくなる人間のことを誰もが考えただろう。特にパソコンがないと、何もできない状態になる。出荷用の書類も、顧客情報もすべてパソコンの中である。こういう時こそ、デジタルデータは何の役にも立たない。あの小学校の運動会ののんびりとした空気は何だったのだろう？そう思うくらいに自然災害は、あっという間にやってきてあっという間に去っていく。僕たちは、野菜を届けるだけでなく、自然力に対する心情も届けていることになるのかな？

2011年9月22日　寺田潤史

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