「お祭りと記憶」

　地元のお祭りが終わって、やっぱり残るのは仕事の山。二日酔い気味の翌日は、出荷をこなすのが精いっぱいだった。翌々日、さあて仕事を片付けるぞ、と出荷を勢い込んで片付けようとすると、なんだか胸が痛い。いつもの半分持病のような気管支炎が飲み過ぎの疲れで再発したのかと思ったが、翌日になっても痛みは抜けない。しかも、何やら痛む場所が違うというか、骨が痛む。胸のあたりのあばら骨が痛むのだ。

　昨夜は、まだ気管支炎を疑っていて、酒も飲まずに早く寝た。今朝起きても、だるさはない。今日は雨の前だから、葉もの類の植え付けが山のようにある。早目に出荷を終えて、トラクターに乗り、葉ものの植え付けを急いだ。何をするにも右の胸が痛い。ひと通り植え付けて、植え付けた葉ものにネットをかけようとしても痛い。鍬でネットに土を寄せることもできなかった。熱を測ってみる。３６度弱の平熱。脈も早くない。いつもの気管支炎なら、とっくに熱があがって、脈も早くなっているところだ。

　おそらく、お祭りで山車を引いて練った時に、どこかで打撲したのだろう。酔っぱらっていたから、よく覚えていない。それほど長い時間を練り歩いた覚えもない。鏡を見てみると、いつの間にか頬にも傷が付いていた。我ながら、困ったもんだ。確かに、台風被害のあとの作業で疲れ果てていた。でも、体調は悪くなかったはずだ。飲み過ぎたが、酒はおいしかった。同級生たちと飲んだ焼酎のロックはうまかった。自治会のちょっとした役回りで詰めた公民館の、生ビールは格別にうまかった。いつも行く友達の家のお母さんたちとも、よく話したような気がする。

　今日、ショッピングモールへ野菜を出荷しに行った帰りに、ふと、公民館で話した内容を思い出した。高校の同級生が税務署で働いていることを、誰か年上の人と話した記憶がよみがえった。その話した相手が誰だかわからない。結局、思い出すのに３０分くらいかかってしまった。飲んで記憶が飛ぶのは、それだけ発散できているということかもしれない。しかし、けがをした記憶がないというのは、対処に苦慮してしまうからよくない。そういえば、お祭り２日目の夜、異常に疲れを感じて、そそくさと家に帰ってきてしまった。この時すでに、打撲していたのだろう。

　近年、お祭りは、半分、同窓会化している。お祭り自体が、近所や身内で盛り上がる性質を持っている。普段は、日常生活で忙しく、顔を見ることもない同じ町の人たち（あるいは町の出身者）が、ほとんど１年に一度という感じで顔を合わせるような性質だ。そして、それがそのまま同級生と会う機会ともなっている。家族や子供たちが参加している山車の群れが街をにぎわしている、という記憶が毎年積み重ねられて、翌年もまた人々を呼び寄せるのかもしれない。

　お祭り初日、中学の同級生が記憶をひも解いてくれた。中学一年の時、担任の英語の先生が、英語の時間に僕以外の生徒に英語の問題をさせておいて、その担任と僕は教室の後ろで将棋を指していた、というのだ。確かに、将棋に夢中になっていた時期だが、いくらなんでも授業中というのは驚愕の出来事だ。今の時代なら、即、大問題になるだろう。大らかな時代であった。記憶をなくすことと記憶を取り戻すことが入り乱れたお祭りだ。

2011年10月13日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る