「人前で話すこと」

　今週は、地元の小学校で話をしてきた。苦情を伝えに行ってきたのではない。頼まれて、小学校六年生の児童の前で、自分のことを話しに行ってきたのだ。一週間前に、知っている先生から電話があり、六年生の授業で総合的な学習の時間があり、そこで話をしてほしいということだった。たまたま、僕の時間の取れる時が一週間後の今週しかなく、急きょ引き受けることになった。きっと、話をする方のどなたかが、何らかの事情で欠員が出たのだろう。複数のお世話になっている先生の名前を聞いては、断るわけにはいかない。

　とはいえ、話をするのは大の苦手である。２００４年にも、野菜を買ってくれている方からボランティア講座で話をするように言われて話したことがあるが、話がどうも滑らかでなかった記憶がある。対話形式であればなんとかなると思うけれど、一人で話をするのは経験が少ないからまったくだめだ。もう２０年以上も前のことだが、友達の結婚式でスピーチを頼まれて、軽く返事をしたのだけれど、いざ話す段階になると緊張してうまく話すことができなかった経験がある。その時は、ロックバンドでライブ演奏をたくさんしていたから、人前で話すことなど何でもないだろう、と思っていたのだ。人前で演奏することと話すことは全く別のことだと認識したのが、その結婚式であった。

　お酒を飲んで人と話すのは大歓迎である。ゆっくりと間合いを取って、相手の話を聞きながら、少しだけ自分の話もする、そういうスタンスは大好きなのだ。ところが今回は、制限時間が２０分ほどということで、どこまで話したら２０分に到達するのか、あるいはオーバーするのか、その時間の見当が全くつかない。しかも、自分の経験を中心に話すわけで、それをまた一方的に僕のほうから話すわけだ。仕方がないから、話す内容を、前日の夜大雑把に書いて、アンチョコとして印刷した。当日は、時間ぎりぎりまで出荷の準備で忙しい。

　そして本番。六年生全員が座って、ノートと鉛筆を持って床に座っている。あー、こういう感じかー、と感心してみたりする。知っている先生の顔がいくつかあって気は楽だが、どうも話す雰囲気がうまくつかめない。これがギターであるならばギターの音に集中すればいいのだけれど、当然ギターはない。用意したアンチョコを見てみるが、話しはじめると、アンチョコをちらっと見ながら話をするなんてうまくできない。話をするか、ごくたまに話をやめてアンチョコに見入るかのどちらかである。こういうのも経験なんだなー、と思う。

　結果は、なんだか堅い話で終わっちゃったな、という感じだ。小さな声で聞こえないのもよくないと思うと、演説口調になってしまうような、普段の僕とはえらい違いだ。専門的な言葉はできるだけ使わないで話したつもりだが、それでもどこか内容は大人向けのような、そんなこともあとで思った。どこか一箇所だけでも、子供たちの誰かに伝わったらいいな、と思う。話の内容は、だいたいいつも書いていること。農業のことを中心に、音楽とのつながりを説明した。頭で考えるだけでなく現場に行って、その手と目で確かめることが大事。生かされていることを感じつつ好きなことを精いっぱいやってほしい、そんな感じかな。

2011年10月20日　寺田潤史

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