「長女のうた」

　暦の上では霜降を過ぎ、来週はもう立冬である。早い、もう１１月、と思うのは、東日本大震災、津波、原発事故と続く流れが、時の経つ時空を凌駕したからかもしれない。何事が起きようとも、何とか四季の形態を保っているこの国の風土の、なんと大らかなこと。厳しいけれど大らか、僕たちはまだまだ自然の摂理から学ぶことだらけである。

　昨日は、長女と次女の通う中学校の、校内合唱コンクールがあった。連れ合いの恭さんが、学校の文化部（ＰＴＡ）のメンバーであるために、学校行事の写真を撮らなければいけない、そんな事情があって、代わりに僕がビデオと写真を撮ってきた。僕がこの中学を卒業したのは３５年も前のことだが、あの頃の合唱と言えば、「翼をください」が定番だったような気がする。今では、一年生から３年生まで、各組皆違う曲を選択していた。音楽の先生が一人で、すべてのクラスの合唱指導も受け持っているということが、曲目選びにも反映しているのかもしれない。曲目選びだけでも大変だと思う。この音楽の先生、吹奏楽部の顧問もしていて、指揮もとっても上手だ。バイタリティにあふれていて、音楽が好きなんだなということがよくわかる先生でもある。

　一年生の次女は、小学校４年生からピアノを習い始めたが、今回はピアノ伴奏で出場した。即席ラーメンのような演奏で、あからさまなミスも数回、ピアノを弾くことができない人から見たら、まあそれなりに、というところだろう。三年生の長女は、合唱コンクールの実行委員の一人で、クラスの合唱でも先導役の一人として引っ張ってきたらしい。あの、歌の下手だった長女が先導役となるところに、吹奏楽部での三年間が長女を変化させたことを物語る。結果的に、長女のクラスは一位になった。男子の声がよく出ていたことが効いたと思う。長女の喜びようは相当なもので、体育館の二階からビデオ画面越しに見ていて、ここまで喜んでいる長女を見たのは初めてのような気がする。

　長女は穏やかな性格だが、小学校までは友達をうまく作ることが苦手だった。中学生になって、ようやく友達がたくさんできるようになった。それでも、人前で友達を引っ張るタイプではない。ホルンで高校受験をすると言い出してからも、音の聞き取りや歌うことには時間を取ろうとしなかった。この１０月に入って、ホルンの先生から、「ホルンは大丈夫そうだけど、ソルフェージュやばいかも？」と言われた（ソルフェージュは、音の聞き取り写譜、はじめて見た楽譜をその場で歌う新曲視唱などのこと）。そこで、また僕の出番である。毎日、新曲視唱につき合っている。不思議なことに、毎日歌っていると、歌えなかった音がだんだんと歌えるようになってくる。まだまだだが、音を取ることができるようになってきた。ある種のスイッチが入ると、間違えずに音を拾える時があるのだ。そして、ホルンの先生がおっしゃる通り、ホルンの音程までよくなってくる。親の前でも歌を歌わなかったような長女が、毎日歌っているのである。

　中学でやっている合唱曲を家で歌わせてみると、ソルフェージュの練習よりもよほど大きな声で歌う。覚えたメロディだから自信を持って発声するのだろうけれど、あんな大きな声で歌えるようになったということも驚きだった。変化とはいいものだ。

2011年10月27日　寺田潤史

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