「寒い季節には」

　先週の土曜日、百ミリを超す雨が降った。十一月とは思えないような雨だったが、暖かさも十一月とは思えないほどだった。一転して、翌日曜日の午後から、冬の風が吹き始めた。翌朝から、寒い十一月の気候に戻った。それまでが暖か過ぎたから、通常に戻っただけだが、かなり冷え込んだ印象だ。

　寒さがやってきたので、子供たちのリクエストに応える形で、納屋の薪ストーブに火を入れた。本当のところは、納屋のサツマイモを守るためなのだが、人間も貯蔵サツマイモも同じような気候を好むということだろう。薪ストーブを使いはじめるにあたって、毎年気をつけること。まずは、納屋の周囲を掃除する。松の大木から落ちた松葉が、薪ストーブの煙突周辺に存在しないように掃除をするのだ。煙突も掃除して、納屋の断熱材も点検する。

　薪ストーブに実際に火を入れてみれば、まだまだそれほど寒くはないことを肌で感じることができる。ストーブを焚くことで暖かさを実感するが、すぐに暑く感じるようになる。ただ、急に冷たくなった北風を受けての畑作業を終えて戻ってくると、その暖かさはとてもありがたい。そして、遠赤効果でからだが少し暖まると、外での作業がまた楽になる。

　薪ストーブを焚くと、子供たちも集まってくる。次女や四女は、薪ストーブに木を継ぎ足すことが好きだ。また、次女は薪割りも好んでやってくれる。斧を振りおろして太い木を割る作業だ。運動神経が皆無のような次女で、卓球をやらせても信じがたいほどの運動音痴を披露してくれるのだが、薪割りはできる。次女が中学の部活を終わって家に戻ったところで、すぐに薪割りをやってくれと頼むと、喜んでやってくる。薪割りを好むところは、母親譲りであろう。次女も四女も、薪集めも積極的にやってくれる。物事を好きになるということは、周辺作業にも波及して、からだの動くよい循環ができる。

　昨日の夕方は、雨が降り出した。納屋では、興味深い光景を見ることができた。僕は葉ものの種をまき、次女はテスト勉強、三女はキーボードでピアノを弾き、連れ合いの恭さんはパソコンで夕飯のレシピを検索。四人四様で、狭い納屋で別々のことをしている。薪ストーブの上では、お湯が沸かされ、胡麻がフライパンで炒られている。胡麻が焦げないように見守るのは三女の仕事で、ピアノに熱中すると胡麻がこげる。これだけのことだが、僕にはとても興味深い光景に映った。寒さという気候が、人を暖かい場所へと導くのだが、その暖かい場所は、何かをするところである。その暖かさも、樹を継ぎ足さないと維持できない。暖かさにも動きがあるのだ。

　恭さんは、夕飯の支度をする。見ていて、通常よりもいきいきと支度をしていることが分かる。薪ストーブに鍋を載せ、火力を強めるために枯れ葉のついた枝を集めてストーブに入れる。一連の作業は、通常のガスコンロで行うよりも手間がかかるし、第一に納屋まで鍋などを持ってこなければいけない。それでも、恭さんはいきいきとしている。火を焚くということと食事の支度が結び付くということが好きなのだ。寒い季節の外仕事は辛いが、火を焚くということが別の世界を作り出してくれる。人間は火を扱う生き物なのだ。

2011年11月24日　寺田潤史

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