「２０１１年今年の総括　その一」

　ようやく寒くなりはじめて、気がつけば、もう一年を総括する時期に来ている。何と言っても、今年は東日本大震災と言われる地震と津波と原発事故、これが衝撃的に大きな出来事だったことは、誰もが語ることだ。この静岡でも感じたあの揺れと、その後のテレビ映像が映し出す惨状、そして徐々に明らかになっていく原発事故の深刻さ、それは、一瞬の出来事であるのに、長い年月を感じさせる連続夢のようでもある。

　キーワードは「絆」なのかもしれないが、大手を振って独り歩きする絆は好きでない。もっと言えば、口にするような言葉でもないと思う。目に見えないものだが、感じたり意識させられたりするものであろう。辛い惨状を切り抜けていく時に自然と生まれる連帯感のようなもの、それは災害でなくとも家族や友人の中からも見つけ出すことはできる。個人の中で問題となるのは、このメディアの時代に、映像で見た惨状と、被害に伴うそれぞれの地域での連鎖、それらのものからこれからの自分の生活をどのように変えることができるか？ということである。

　僕自身も、この震災には衝撃を受けたし、価値観を変えるほどの出来事である、と感じた。でも、９か月経過して、冷静に自己診断すれば、価値観はそれほど変わっていないことに気付く。変わったとすれば、自分の考えてきたことをより強固に推し進めるようになったこと、そのくらいである。一番の具体例として、長女の進路に対する態度を明確にして、それを推し進めたことが挙げられる。

　５月に、長女が高校のオープンスクールの日程表を持ってきて、どこの学校へ行けばいいのか相談に来た。震災後の野菜の注文が殺到して、子供の進学どころではないような雰囲気のあった頃だ。長女の行きたい高校があるわけでもなく、成績もよいとは言えない状況であったから、初めてみる今の高校の科目を少しずつ見ていった。公立高校しか頭になかった。唯一、芸術科音楽専攻のある高校があった。早速長女と高校のホームページを見た。「私、この高校へ行きたい」と、はじめて意思を口にした。行きたい、と言ったって、準備も何もしていないのだから、非現実的である。恥ずかしながら、自分が音楽をライフワークにしていながら、子供が高校で音楽を専攻することなど考えたことがなかったのである。その公立高校、僕らの時代にはなかった。そこから、意思貫徹路線の日々が始まる。そのことは、何回かに分けて書いてきた。

　長女が音楽専攻という選択肢を強く持ってしまったので、ホルンの先生を見つけるなど奔走するなかで、今回の震災で強く感じたことがそれらを後押しした。海のそばに住む僕たちのところに津波がやってくれば、死の可能性は低くない。震災後の映像で、子供を亡くした親の姿も垣間見たが、ここへ津波が来れば自分の子供を失う可能性も大いにあることを想像できる。ならば、無謀でも子供の好きな道へ向かう道筋をつけるべきだ、という思いが強く出てきたのである。震災を教訓とするのは、災害対策ばかりではない。出来るときに自分の意志を強く押し出すこともまた、僕たちが頂いたものである。僕にとって震災後のキーワードは、「一度しかない人生」ということになる。小さな満足を積み重ねる努力が必要だ。

2011年12月15日　寺田潤史

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