「２０１２年に向けて」

　年々、一年が短くなっていくように感じるのだが、今年ほど短いと強く感じた年は初めてだ。何もできないままに終わってしまった、という思いと、何とか年を越すことができることが不思議な感覚、の両方を感じる。ただただ、思うことは、具体性、具現性こそがすべてである、ということだ。

　震災を例にとってみる。地震は起きた。地震によって津波がもたらされた。地震と津波によって原発事故は起きた。これが、地球と人間の関係に置いて変化のあったことである。地震による建物倒壊、津波による信じがたい被害、これだけでも特筆に値するほどの出来事である。しかし、世界が注目したのは、原発事故である。これは、ただ単に事故が起きたということではない。起こるべくして起きたという、人災の部分が大きい。このことは、しっかりと過去を見極めなければいけない。問題は、今後のこと、未来である。

　過去を見極めることは大事だが、すべてのことは未来に向いていってほしい。未来に一足飛びで向かうことは、ご存じのようにできない。少しずつ変えていくことが必要だ。少しずつ変えていくということは、君が間違いだから、君のやり方をすべて変えなければいけない、というような総論はよくない。感情論に発展するからである。君の描いたここをこうしてほしい、という具体性が必要なのである。具体性は、修正を意味する。具体性には、内実をよく理解できる当事者の意見が重要になることはいうまでもないだろう。

　世の中には、さまざまな専門分野があって、それぞれにその分野を得意としている人が存在する。専門性というものは、時に断片的になるという欠点がある。そこを補うのが、総合的に物事を考える立場の人、プロデューサーなどといった人々で、総理大臣などもその役割であろう。専門性を唱える人の中には、こうでなければいけない、という半分宗教にも似たことを話す人もいる。その場合、大抵、人に自分のやり方を強要する。そのやり方が絶対だと思っているからである。プロデューサーは、そういった部分をうまくまとめていく仕事で、お金や立場が関わってくるととてもややこしくなる。

　震災を例にとりながら、話がそれた。地震に対して絶対大丈夫はありえない。絶対大丈夫だと思っていた原子力関連の人たちの盲信ぶりは、やはり宗教的だ。宗教自体が悪いのではない。盲信することがよくないのである。盲信は、自分自身に対してだけならいいが、大抵他者に強要する。夢のような世界と引き換えに。夢のような世界は、幻だ。僕たちは、現実世界に生きている。

　２０１１年があまりに大変な年だったから、２０１２年こそはと期待する向きが多いかもしれないが、大変であったからこそ、地道に一つずつ変えていく年にしたい。世の中には変えられないことも多く存在する。自分の中でうまく折り合いをつけることも小さな満足を積み重ねることになる。僕がやることは、やはり種を播き、苗を育て、大地に植え付けていくことである。この具体性を繰り返して、大きな成果はないかもしれないが、小さな満足はいくつも積み上げることができるかもしれない。これを家族にも音楽にも、と思う。

2011年12月30日　寺田潤史

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