「高校受験　その八」

　長女の高校受験、入学試験が終わった。合格発表は来週末だが、やれやれと一息ついた。入学試験当日、受験の付き添いという形も受け持ったけれど、外出してお葬式に出席したりで、ほとんど送り迎えのような感じだった。家に着いて、着替えて、畑に出ると、からだが軽い。あー、どこかで気持ちが楽になっている、そんな自分を発見して、一人苦笑いしてしまった。

　子供の高校受験が初めての経験で、しかも降って湧いたような音楽高校（音楽専門の科のある学校のことで通称、音高というらしい）受験。だから、たくさん、このことを書いてきた。普通高校に進学希望していたなら、書くことも少なかっただろう。受験の合否はともかくとして、この数カ月の流れの中で、親として一番良かったと思うのは、長女との対話が必要不可欠のものであった、という点だ。通常、高校受験の年代は、親と子供の関係が微妙になる年代だと思う。実際に、長女は、中学生になってから、いわゆる現代っ子の洗礼を受けているような、そして、親を少しずつ敬遠するような、よくある娘になりつつあった。

　ところが、突然の「ホルンで受験」宣言から、音楽をやっている僕の力を借りなければどうしようもない事態となった。何から何まで専門家についてレッスンを受ける、という金銭的余裕がないことは長女もよく知っていたし、毎日の積み重ねを自力だけで全うすることが不可能であることも知っていた。だから、僕に頼るほかはなかった。そうであれば、僕を邪険にできない。また、態度が悪ければ、僕が思いっきり怒る。長女の高校生活はホルンにかかっているのだから、長女は生活態度を変えるほかはなかった。そんな変化を、自分で選択せざるを得なかったのだ。

　現代の利点と言えば、情報の早さにある。必要な時にあっという間に情報が手に入る、そのスピードを生かさない手はない。長女の進路選択の遅さゆえに、クラシック音楽という世界での今後の展開を、インターネットで調べて推測することは早かった。高校進学が目的だったのに、その先を意識することになった。つまり、大学受験まで考えて、何が必要で、何を高校生活で手に入れることができるかをシミュレーションするのである。そして、当然、大学卒業後までイメージする。それは、最悪の事態も含めて、いろいろなことをイメージすることになるから、長女といろいろな話をする中で、長女もイメージを膨らませていった。それまで、まったく未来のことが予想できなかった長女が、何が必要かを考えだすようになった、そんな変化へと繋がったのだ。

　しかしながら、芸術の鍛錬の積み重ねは、本当に目に見えない小さなものの積み重ねである。鍛錬をいかに日常に組み入れ楽しむことができるか、と言ってもいい。その資質と覚悟を、長女は備えていた。それがなければ、音高受験なんて無理だ。そして、何よりも、音高受験を決めてから、ホルンの先生をはじめとして、大人の皆さんのサポートを多く受けることができたという、運の良さがあった。運は、何もしていない人のところには存在しない。運が良かったとはいえ、鍛練の積み重ねを人の世界で形にしていくことは、やはり大変なことである。しかも、数か月という短い期間で、アピールしなければいけない。そこのところが、我ながら心配だったのだろう。これで、僕の役割もひと段落だ。あとは、見守るだけだ。

2012年2月10日　寺田潤史

真上から見たつらら。真中だけ穴があいている。

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